3. 2015年9月03日 08:26:58
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中国にとって危険な軍国主義の誘惑 下手をすれば、経済的成功の土台を破壊する恐れも 2015.9.2(水) Financial Times (2015年9月1日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)中国、抗日戦勝70年の記念日を休日に 2009年の中国の国慶節(建国記念日)に北京で行われた軍事パレード〔AFPBB News〕 9月3日に北京で行われる大規模な軍事パレードは過去に関する行事のはずだ。しかし、アジア太平洋地域の国々の多くは、必然的に、これを未来に関する不穏なメッセージととらえることになるだろう。 中国政府は「日本の侵略戦争での勝利(抗日戦争勝利)」の70周年を記念するためにパレードの実施を決めた。 だが、21世紀には、多くのアジア諸国が心配しているのは中国による侵略の可能性だ。 中国はいくつかの近隣諸国と未解決の領有権問題を抱えている。ベトナム、インド、日本、そしてフィリピンは、中国がその軍事力を背景に問題の領域に侵入してくるとの不満を表明してきた。 また中国は今年、南シナ海での「埋め立て」プロジェクトにも取り組んだ。滑走路や軍事施設を備えることになりそうな島をいくつか丸ごと作り出し、本土から何千マイルも離れた海域の領有権の主張を補強しようという試みだ。 こうしたあからさまな軍国主義は、リスクの大きな進路だ。何か間違いが起これば、過去40年間の中国の目覚ましい経済的成功の土台となった国際秩序を破壊する恐れもある。 習近平国家主席の指揮下で攻撃的になるアプローチ 1970年代後半以降、中国の歴代の指導者たちは、この国が経済の面で変化を遂げられるか否かはグローバル化次第であり、主要な貿易相手国との平和的な関係次第であることを理解していた。そのメッセージを伝えるために、「平和的台頭」とか「和諧世界(調和の取れた世界)」といったスローガンを繰り返し唱えていた。 しかし、習近平国家主席の指揮下で、中国は「核心的利益」の一部と見なす領有権問題について、より攻撃的なアプローチを取る方向に傾いているように見える。このことは強さと弱さの両方を反映している。 一方では、中国はいまや――いくつかの指標によれば――世界最大の経済大国だ。習近平氏と中国政府は、この国は以前よりも直接的に力を行使できるほど強くなったと感じているのかもしれない。実際、台湾や南シナ海を巡って中国と衝突するリスクを取るつもりは米国にはないと思うと公言する戦略家もこの国にはいる。 しかし、軍国主義の誘惑は、中国が現在直面している経済的過渡期の困難さによっても強まるかもしれない。 1年にわたって急上昇してきた株価はこの夏に突然終り、景気は減速しつつある。習近平氏の汚職撲滅キャンペーンには共産党のトップクラスの幹部も不満を抱いている。 天津の産業施設で先日起きたひどい事故と大爆発は、現代の中国に広がっている不満の最大級の原因を2つ浮き彫りにしてみせた。1つは環境対策のひどさであり、もう1つは、裕福な権力者たちが規制をないがしろにしているという感覚だ。 このような状況では、愛国的な軍事パレードはまさに、共産党とその指導者層への国民の支持を取りつける格好のイベントに見えるかもしれない。今回のパレードは、広く知られる1989年の学生運動弾圧の現場である天安門広場を通る。共産党はあの日からずっと、自らの正統性を2本の柱で支えてきた。1本目は力強い経済成長。2本目はナショナリズムで、習近平氏が言うところの「中華民族の偉大なる復興」だ。 経済成長が鈍化する中で、明らかに、もっとナショナリズムに依存しようとする強い衝動が存在している。 ナショナリズムのカードを切るリスク しかし、ナショナリズムのカードを使えば新たなリスクが生じる。その証拠は、アジア太平洋地域で緊張が明らかに高まっていることに求められる。 日本では安倍晋三首相が率いる政府が、自衛隊が外国で戦えるように平和主義憲法を改訂しようとする物議を醸すプロセスのさなかにある。米国海軍はつい先日、アジア太平洋地域に派遣する艦船を増やす計画を発表した。国防総省の高官は当てつけのように、「南シナ海での役割にぴったりの」艦船を選んだと強調してみせた。 オーストラリアは今週、防衛費の増額と米国との軍事協力強化を発表した。インドはすでに世界第2位の武器輸入国であり、やはり米国に接近しつつある。そして今年の初夏にはフィリピンのベニグノ・アキノ大統領が、南シナ海での中国政府の振る舞いに対する世界の反応を、かつてのナチス・ドイツへの宥和政策になぞらえた。 もちろん、中東各地の暴力的な混乱は言うまでもなく、ウクライナでの戦闘と比べても、アジア太平洋地域の状況は依然、うらやましいほど落ち着いている。 だが、アジアの緊張は中東より低いものの、利害はより大きい。アジアにおける軍事的な緊張は、中国、米国、日本という世界3大経済国がかかわっているからだ。 習氏と他の指導部は間違いなく、深刻な軍事衝突が中国にとって悲劇的なミスになることを知っているはずだ。本当のリスクは、中国が戦争を選ぶことではなく、中国の指導部が近隣諸国や米国の反応を読み誤り、領有権紛争や海上での予期せぬ軍事衝突が重大な国際問題に発展することだ。 たとえ、そうした危機がすぐに鎮静化されたとしても、政治的な影響は中国と世界経済の双方に長期的なダメージを与える恐れがある。 中国の「平和的台頭」を維持できるか 中国の成長モデルに関する危機が盛んに取り沙汰されているが、中国はこの先まだ何年も、ますます繁栄していく可能性が高い。 その見通しを脅かす最大のリスクは、株式市場の暴落でもなければ、信用バブルでもない。それは近隣諸国との紛争によって中国の「平和的台頭」が妨げられる事態だ。中国の指導者たちは、3日に敬礼する際に、その危険を見失ってはならない。 By Gideon Rachman http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44686
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