2. 2015年9月04日 00:28:58
: jXbiWWJBCA
ヨーロッパ 中東・アフリカ 欧州での新生活の夢が一転、悪夢に ブダペストの駅で足止めを食らったシリア難民たち 2015.9.4(金) Financial Times (2015年9月3日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)ブダペスト東駅で退去命令、駅を出た難民らデモ ハンガリー ハンガリーのブダペスト東駅に集まった移民ら。手前に並んでいるのは警察官〔AFPBB News〕 平時であれば、エンジニアのマナルさんと弁護士の夫、イブラヒムさんのようなカップルは、イスタンブールからブダペストへ2時間で飛ぶ航空券を200ユーロ足らずで買うことができる。ところが、専門職の若いシリア人夫婦は、1カ月かかる徒歩と船の旅のために密航業者に3000ユーロ払うことを余儀なくされた。 城や美術館を見に行く途中でブダペスト東駅の外にひしめく観光客とは異なり、マナルさんの家族は、40度の暑さの中、駅の階段の下に敷かれたぼろぼろの毛布の上に茫然と横たわるおよそ2000人の移住者に混ざって座っていた。 マナルさんとイブラヒムさんが小さな子供2人を連れてこの危険な旅に出ることにしたのは、戦争のせいでも電力、水の不足のせいでもなければ、仕事を失ったからでさえなかった。子供たちは今、夜中に森を歩いたせいで、擦り傷だらけになっている。 シリア難民を象徴する若い家族の物語 「あのいわゆるイスラム国のテロリストたちが子供たちを特別な基地へ連れて行き始め、想像できる限り最悪のこと、斬首さえをも教えていた」と夫妻は言う。2人はこの駅に押し寄せた多くの人と同様に、無学の労働者ではなく、専門職だ。「自分の子供たちが洗脳の餌食になることは許さない」 フルネームを明かすことを拒んだ夫妻は、「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」の支配下にあるシリア東部のデリゾール県の出身だ。夫妻は仕事を失ったため、地域のルーツである農業に目を向けた。 日に焼けたドレスを着たマナルさんの話では、彼女の顔や手の皮膚が荒れているのは、トルコから小型船で地中海を渡り、ギリシャからハンガリーへ歩いてきた旅のせいではない。昨年までは人生で1度もやったことのなかった畑仕事と家畜の飼育で肌が荒れたのだという。 最初はバシャル・アル・アサド大統領に対する抗議として始まったが、複数の勢力が入り混じる複雑な戦争に発展し、以来、ジハード(聖戦)主義者たちが国の大部分を制圧することを許してしまった紛争によって、2200万人のシリア国民の半分以上が住まいを失った。 大半の人はそもそも国から逃げ出すお金がないか、さもなければ、隣国から出口を塞がれてしまった。さらに数百万人のシリア人がヨルダン、レバノン、トルコにいて、ぎりぎり生計を立てている。 マナルさんとイブラヒムさんがここまでたどり着くお金をかき集めることができたという事実は――夫妻によると、ハンガリーの国境からこの駅まで連れてきてもらうのに、運転手に別途250ユーロ払ったという――、彼らが難民エリートに属することを物語っている。 だが、ブダペスト東駅までたどり着いた人たちは、突如、運が尽きたことを知った。ハンガリーが、移住者たちが西へ向かう電車に乗ることを禁じた時のことだ。 駅で足止めを食らった人は大半がシリア人で、アフガニスタン人、スーダン人、イラク人も多少いる。大部分の人はドイツかスウェーデンまで行きたいと思っていた。 今では、駅の外の日陰になった階段の下に集まり、2つの公共トイレと1つの水飲み場を共有している。子供たちが遊ぶ傍らで、白髪交じりの女性たちが成人した息子の肩を抱く。中には、失意のうちに涙を流す人もいる。 ハンガリーは、亡命希望者は最初に到着した国で登録しなければならないと定めた欧州法を執行していると話しており、先週、シリア難民を送還しないと表明したドイツがさらに移住を促したと批判している。だが、マナルさんとイブラヒムさんは東駅で身動きが取れなくなっている大方の人と同様に、そんな宣言がなされるずっと前に計画を立てていた。 欧州政治の泥沼にはまり、途方に暮れる人々 首都ブダペストの駅が難民キャンプに、ハンガリー まるで難民キャンプのようになっているブダペスト東駅〔AFPBB News〕 大半の人はすでに乗車券を買っており、これから何をすべきか、どこに行くべきか困惑している。 人々は互いに声を掛け合い、ほかに試してみる国や密航業者を見つける場所についての助言や、ただ単に何が起きているのかについて情報を得ようとしている。 自分たちが欧州政治のどんな泥沼にはまり込んでしまったのか、はっきり分かっている人は誰もいない。 ブダペスト東駅の難民の大半を占めるシリア人は、自分たちが後に残してきた蜂起で得た経験を利用している。背後にそびえる駅に難民が入るのを阻止する警備員の壁と対峙し、若い男性の群衆は、かつてアサド大統領の退陣を要求した際に駆使した抗議モデルを即席で組み立てる。 先頭では、1人の若者が数人の肩に担がれて、群衆の合唱をリードする。群衆はアラビア語で「恥を知れ、恥を知れ」と叫び声を上げる。 「我々シリア人はこれについて、かなり訓練を積んだ」。アレッポ出身の若者、アハメドさんはこう言い、「いざとなったら、空爆にだって対処できますよ」と冗談を飛ばす。 休憩して歌を歌った後、群衆は再び治安部隊と見物人の壁に向かい、彼らに通じることが分かっている英語でスローガンを叫ぶ。「我々は人間だ。我々は人間だ」 近くでは、マナルさんとイブラヒムさんが、次はどうすればいいのか迷っている。2人は恥じ入るあまり、近くの店に入って携帯電話を充電し、インターネットを使わせてもらえるよう頼むことができず、シリアにいる親戚に連絡もしていない。先週、オーストリアで1台の冷凍貨物トラックで同胞のシリア人70人以上が陰惨な死を迎えたにもかかわらず、夫妻はトラックでドイツまで密航する選択肢を検討している。 失われていく尊厳 トラックに移民遺体の山、強烈な死臭& オーストリア警察が見た「おぞましい光景」 オーストリアのノイジードル・アム・ゼー近くの高速道路で発見された、多数の移民の遺体を乗せたトラックのそばに立つ警察の鑑識班〔AFPBB News〕 夫妻によると、9月1日の朝、通りがかりの人が横たわっている女性に唾を吐いたそうだ。2人は、また尊厳のかけらが失われるのを感じたという。 「子供たちのために自分たちの将来をあきらめることになることは分かっていた」とイブラヒムさんは言う。 「けれども、あまりにもひどい屈辱を受けた。私たちは、彼らにお金をくれと頼んでいるわけじゃない。とにかく、人間らしい扱いを受けたいだけだ。ただ、私たちが前に進むのを認めてほしいだけなんです」 By Erika Solomon in Budapest http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/44712 |