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対IS 軍事作戦の誤算[NHK]
8月21日 17時39分
イラクとシリアにまたがる地域を支配下に置く過激派組織IS=イスラミックステート。忠誠を誓う組織がリビアやエジプトなどの国々でも活動を活発化させ、脅威が広がっています。アメリカがISに対する空爆を開始して1年がたっても、勢力拡大を止められないのはなぜなのか。カイロ支局の森健一記者が解説します。
IS支配続く
「ISが裁きを受け罰せられるまで、われわれは戦い続ける」。今月3日、イラク北部クルド人自治区のドホークで開かれた追悼式典で、自治政府のバルザニ議長は決意を表明しました。ちょうど1年前のこの日、ISが少数派のヤジディ教徒の迫害を始め、これをきっかけに、アメリカはISへの空爆に乗り出しました。
ヨーロッパの同盟国や中東の周辺国と共に、この1年間、イラクとシリアで実施した空爆は6000回を超えます。しかし、ISはイラクとシリアの広い地域をおさえ、住民を公開で処刑するなど恐怖による支配を続けています。世界一の軍事大国・アメリカが率いる有志連合が束になっても、ISをいっこうに壊滅できないという現実。作戦開始から1年がたち、誤算が浮き彫りになっています。
市民犠牲 高まる反米感情
ことし4月、エイマン・ハゼムさん(39)は知り合いから「実家が空爆で破壊された」と連絡を受けました。ISが支配するイラク北部・モスル近郊のファーダリーヤ村には、エイマンさんの両親と兄夫婦、その娘の9歳のめいの5人が暮らしていました。全員が即死だったと聞きました。
自分たちを守ってくれるはずだった有志連合の空爆によって大切な家族を奪われたエイマンさんは、気持ちの整理がつかないまま、モスクで5人を弔いました。モスクの壁に掲げた横断幕に、エイマンさんはこう書き記しました。「ファーダリーヤ村のハゼム、ナディア、レイス、ハナ、ダニヤの5人は、有志連合の空爆によって死亡した」。モスクを訪れる人たちに、家族の命を奪ったのは有志連合だと知ってもらいたかったのだと言います。
イラクの混乱を招いたのはあくまでISで、空爆の必要性は理解していると語るエイマンさんに、最も訴えたいことは何かと尋ねると、ひと言、こう答えました。「有志連合は、市民を攻撃しないでほしい」。
アメリカ政府は、空爆でISの戦闘員1万人以上を殺害したとしています。一方、市民の犠牲として認めているのは2人のみです。アメリカの民間団体は、少なくとも489人、多ければ1247人の市民が犠牲になったと試算しています。
空爆の被害状況を調べている、モスルのあるニナワ県人権委員会のガズワン・ダオーディ氏は、アメリカが発表している数よりはるかに多くの市民が犠牲になっていると指摘しています。そして、「同じ間違いが繰り返されると、イラク国民の不満は高まり、あまりにも続くようなら、われわれも対応を変えざるを得なくなる」と警鐘を鳴らしています。
ISの戦闘員の多くは、移動を繰り返し、住宅地などに潜伏しているとみられています。有志連合は市民の巻き添えを避けながら空爆を行うとしていても、現実には多数の市民が犠牲になっているとみられ、やり場のない怒りが静かに広がっています。ISの壊滅に向けて協力が欠かせない地元住民の間で反米感情が高まれば、ISを利することにもつながりかねません。
訓練進まない地上部隊
もう一つの誤算が、地上部隊の訓練の行き詰まりです。ISの壊滅には地上部隊の展開が欠かせません。オバマ大統領はアメリカ軍の大規模な地上部隊の派遣はないと強調していて、イラク政府軍やクルド部隊、それにシリアの反政府勢力などが地上戦を担うことになります。しかし、そのための訓練が思うように進んでいないのです。
イラクでは、アメリカ軍の兵士3000人余りがイラク軍の訓練を行っていますが、新兵の不足などから、当初の計画よりも大幅に遅れが出ています。またシリアでは、アメリカが日本円で600億円もの予算をつぎ込み、年間で5000人規模の反政府勢力の戦闘員を訓練する計画でしたが、先月の時点で訓練を終えたのは60人程度。さらに、その一部が過激派組織に拘束される事態まで起きました。
なぜ、ここまで大きな誤算が生じたのか。最近、アメリカ軍の訓練キャンプにメンバーを派遣した反政府勢力「自由シリア軍」のムハンナド・タラ司令官は、その理由をNHKに明らかにしました。
アメリカ軍は訓練に当たって、厳しい審査を設け、「ISやほかの過激派組織に所属したことがない」ことを条件に、うそを見破るための心理テストも導入しています。ISに寝返ったり、渡した武器を売りさばいたりするような人物を確実に排除する必要があるからです。訓練の対象は「穏健な勢力」ですが、反政府勢力の中には、ISの思想には共鳴しないまでも、反米思想を持つイスラム勢力や過激派が大勢いるのが実態です。この審査の段階で、多くの人がはじかれ、信頼に足る戦闘員を見つけるのは簡単ではありません。
さらに大きな問題となっているのが、アメリカと反政府勢力の間にある思惑の違いです。反政府勢力側は、訓練を受けた戦闘員を、ISとの戦闘だけでなく、より重要な敵と位置づけるアサド政権との戦闘にも参加させたいと要望しています。しかし、アサド政権との決定的な対決を避けたいアメリカは、訓練した戦闘員が攻撃の対象とするのはあくまでISであって、アサド政権ではないと、要求をはねつけています。このため、アメリカの計画から離脱する動きも相次ぐようになっています。
反政府勢力幹部のムスタファ・セジャリ氏は、こう語っています。「アメリカ側は、われわれがアサド政権とは戦ってはいけないと確約させようとしました.しかし、われわれはアサド政権打倒という革命を諦めるわけにはいかないのです.アサド政権の抑圧を4年間も放置してきたアメリカは信用できないと実感しています」。こうした反応は、国際社会がISの勢力拡大の背景にあるシリア内戦という大問題を放置してきたつけと言えます。ISとの戦いに犠牲を払ったとしても、アサド政権との戦いでは何の支援の確約も得られないとなると、アメリカに代わって戦おうという人が続々と集まってくることはないでしょう。
軍事作戦は長期化
対IS包囲網は確実に強化されています。ISとの戦闘に消極的だったトルコは、ISとつながりがある男によるトルコ国内での爆弾テロ事件をきっかけに、アメリカと軍事的な協力を深め、隣国シリアで空爆を開始しました。
しかし、ISの勢力は衰えていません。イラクでは、政府軍が西部アンバール県の奪還作戦を展開していますが、都市部の攻略は難航し、ISが拠点とするモスルの奪還に向けた見通しもまったく立っていません。シリアでは、反政府勢力、IS、アサド政権、クルド人勢力などが入り乱れて、戦闘を続けています。
アメリカが誤算に直面して足踏みしている間にも、ISの恐怖による支配が少しずつ定着しつつあるのが現実です。抑圧された市民の解放に向けた軍事作戦は、長期化を余儀なくされています。
http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2015_0821.html
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