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米国が方針大転換、防衛費倍増は国を守る最低線に 米国の軍事戦略中枢部門を訪問して見えた新事実
2015.7.3(金) 用田 和仁
米海軍などのイベント「フリートウイーク」開幕
米ニューヨークで開幕した毎年恒例のイベント「フリートウイーク」で海上をパレードする米海軍のドック型輸送揚陸艦サン・アントニオを見る人たち(2015年5月20日)〔AFPBB News〕
1 押し流される新大綱(25大綱)
日米防衛協力の指針(ガイドライン)が、1997年以来、18年ぶりに見直され、大きな進歩があったことは喜ばしいことである。
しかし、その中に米国の作戦・戦略の大変革によって突きつけられている我が国防衛政策の大胆な転換への要求があることに気づいているだろうか。
日米の新ガイドラインの中に繰り返し出てくる、日本が「防衛作戦を主体的に実施」し、米軍は「自衛隊の作戦を支援し、補完」するとしたところに重大な意味がある。
日本の防衛は日本が主体となって実施することは至極当然だが、この文脈は従来の延長線での防衛の概念ではなく、作ったばかりの防衛計画の大綱を早急に見直さなければならないほどの重大な意味が込められている。
中国は、2015年の国防白書で2021年までに中国の夢、すなわち、強軍の夢を実現することを明確にした。事実、中国軍は2020年を目標として宇宙ステーションを作り宇宙軍を創設するとし、35基の北斗により世界規模のGPSを展開する予定だ。
さらに、局地戦に勝てる装備を充実して、統合運用も2020年を目標とする等、強軍の実現に向かって確実に進んでいる。
日本国内で自衛隊を縛る不毛な議論が続いている間に、米中はこの5年間を勝負と見据え、中国は局地戦を戦って勝つための大軍拡を、米国は大変革を行おうとしているのである。
そして、絶対的と思われた米国の軍事力が揺らぐ中、もう一度日本の防衛力のあり方を洗いなおさなければならないだろう。次に述べる米国の大変革を読んで考えていただきたい。
2 米国における戦略対話
筆者をはじめとする日本戦略研究フォーラム(JFSS)に所属する陸海空の将官OBは、米国駐在の防衛駐在官や連絡官の支援を得て、2015年3月2日から9日にわたり、ワシントンの米国戦略予算評価センター(Center for Strategic &Budgetary Assessments:CSBA)、米国防大学国家戦略研究所(National Defense University,Institute for National Strategic Studies:NDU,INSS)、およびニューポートの米国海軍大学(Naval War College:NWC)を訪問し、我々が提案する発展型の南西諸島防衛の考え方を討議の基本として、率直な意見交換を行った。
その理由は、2010年5月にCSBAの所長であるクレピネビッチ氏が発表した、米国の中心的な作戦の考え方であるエアシーバトル(ASB)は、日本の南西諸島防衛構想とがっちりと噛み合っているものと思っていたが、どうも大きな不整合があるのではないかとの疑問が生じたからである。例えば、
●そもそも米空母や米空軍などが、短期間で日本や日本周辺に集結して攻勢に打って出ることを今も基本としているのか?
●中国本土への攻撃はやるのか?
●さらには、拡大核抑止は既に破綻しているのではないか?
などである。また、NDUのハメス氏が提唱しているオフショアコントロール(OC)は経済封鎖を強調する一方、第1列島線は第1列島線にある国々の責任で防衛をすることを前提とし、米国の関与は必要最小限にとどめることを基本とした戦略であることに大きな危惧を感じていた。
一方、NWCでは、ヨシハラ、ホームズ両教授の陸上戦力による影響力の拡大が中国海空軍に対する拒否力として有効であるという提言は、南西諸島防衛の考え方と合致するものだと考えられた。
さらに、ウオーアットシー-ストラテジー(War at Sea Strategy:WASS)という「中国本土への攻撃を局限しつつ、戦いを海洋に限定して中国海軍の中枢の水上艦と潜水艦に対して決定的な打撃を与えうる能力を持つことにより、効果的に戦争を抑止しよう」という考え方も、わが国の単独の防衛戦略としても大きな意味を持ち魅力的であった。
これらを踏まえ、いったい米国の向かう作戦・戦略の流れはどこにあるのかを掴み、これと日本の考え方を融合させ、日米一体の作戦・戦略へと発展させることが急務であると考え、米国の作戦・戦略を主導していると考えられる上記3機関に絞り意見交換を実施したものである。
これらの意見交換を通じて、米軍全体の改革をリードしているのはCSBAであることが確認できた。
先に述べたCSBAは、所長のクレピネビッチ氏を始め、副所長のジム・トーマス氏を中心として、必要に応じ国内外から識者などを集め、様々なウオーゲームを実施し、その成果を基にして約400のオプションを作成し、その組み合わせを検討するとともに、様々な反論・意見などを取り入れて着実に進化し続けている。
そして、軍事予算の縮減をきっかけとした軍の変革の必要性を政府や議会、軍内に発信することにより、米国政府や軍の中で建設的なアイデアが統一されつつある。それは単に構想にとどまらず、構想を実現するための装備の方向性まで提案しており、まさに国防省の外に位置しながら、米軍の変革の「源流」となっている。
3 オフセット・セミナー(第3次相殺戦略)について
本題に入る前に少し長くなるが、今回の意見交換の意味を理解して頂くために、2015年1月にCSBAで実施されたオフセットセミナー(第3次相殺戦略)について概要を紹介する。
2015年1月に、CSBAのマーテイネジ元海軍省次官が相殺戦略(Offset Strategy)を発表し、内外から識者を集めてセミナーが実施された。これは、国防省が検討を進めている国防イノベーション・イニシアチブ(Defense Innovation Initiative:DII,米国が長期的に優勢を維持する方策を追求する構想)の一環であると考えられる。
相殺戦略とは、「我の優位な技術分野を更に発展させることにより、ライバルの量的な優位性を相殺しようとする戦略」であり、1950年代、1970年代に続いて第3次相殺戦略と位置づけているが、従来と異なり圧倒的な経済力と軍事力に裏づけされていない限界のある戦略となっている。
この戦略は、敵のA2AD(接近阻止、領域拒否)能力に対抗して米国が戦力を展開するために、優越する5つの分野における能力を最大限に発揮しようとするものである。
簡単に言うと、今後の米国の勝ち目は、「無人機による長距離打撃力と潜水艦・機雷などによる水中作戦、そしてこれらを繋ぐ軍種の領域を超えた作戦を支えるシステム」ということになる。
長距離打撃力は、統合グローバル監視・打撃ネットワーク(GSS)として、今後米国が重点的に投資する分野の1つであり、宇宙からの打撃を含む、物理的・非物理的(電子的、電磁波的攻撃)手段による攻撃を実現しようとしている。
また、これに付随して、ミサイルなどの大量の弾を一挙に発射する飽和攻撃に対処するために、レーザ、敵のミサイルの方向を変えるマイクロウェーブ(電磁波)、高速発射ができるレールガン兵器の実用化に向けて明確に舵を切り始めた。
米国の認識では、中露の弾道ミサイルに対して、弾道ミサイル防衛(BMD)で迎撃することは容易ではないことを認識している。
日本は米国の先端技術に今こそジャンプして同一歩調をとらなければ、常に周回遅れの高い装備品を米国から輸入し続けなければならなくなる。この分野で日本には米国が一目置く技術があるが、日米は協力する一方で、日本は国家として切り札となる技術力を保護しなければならない。
相殺戦略のすべてをここに書くことはできないが、米国の現状認識を簡潔に述べると次のとおりである。
●米国の前方展開基地及び部隊、衛星に対して敵は先制攻撃を仕掛けようとする強い意志がある
●防衛的な地域ハブはコストが高く、敵に容易に攻撃される。(敵に近い港や空港が敵の攻撃に脆弱)
●米国の抑止の信頼と同盟国の自信の低下(同盟国は安全保障面での米国の関与の信頼性に疑問を持ち始めている)
●水上艦艇や空母は発見されやすく、追跡されやすく、長距離から攻撃されやすい
●非ステルス航空機は近代的な統合防空システムに脆弱である
●宇宙はもはや聖域ではない
これが世界最強を誇った米軍の率直かつ正確な自己分析であり、これを前提に国外の識者も入れてセミナーを実施したということは、米国が国内外に大きな変化を要求しているものと理解すべきであろう。
この際、CSBAの相殺戦略で示された脅威のスペクトラムを示す表には、明確に空母は地域的な、そして低・中強度(イラク戦争程度まで)の脅威下(図左下)で運用されることが明記されている。これはNWCも同様の意見であり、中国のA2ADによって米空母の来援を期待できないという大きな変化が現実のものとなっている。
一方、この表での陸軍の位置づけは、地域的・高強度下(図左上)で中国などの考えの逆の陸軍によるA2ADネットワークを構成するとなっている。
米国でも、ASBの下でこれまで軽視されてきた陸軍の役割の重要性が再認識され、日本型の陸上戦力構成が大きな役割を発揮するとの判断から、米陸軍を日本型の戦力構成に作り変えようと言う動きが生じている。
これらの考え方は、ASBを実現するための具体的な柱となるものであるが、今後は国防省の統合戦力開発部門(J7)に引き継がれ、統合軍や各軍種の変革に大きな役割を果たすことが予想される。我々は今回の訪問で、この進化するASBの最先端の考え方を捉え議論できたことは誠に幸運であった。
4 米国における戦略対話の概要とその評価(CSBAを中心として)
今回の訪米では、核戦略については概要を、グレーゾーン対処については今後の喫緊の課題であることを共通の認識としながら、主として通常戦力による日米の軍事コンセプトについて意見交換を実施したものである。
その基本となるASBは2010年に中国を対象として「西太平洋における通常戦力による軍事バランスを維持して紛争を抑止すること」を目的として公表されたものである。
当初の考え方は、核抑止が効いていることを前提として、エスカレーションの懸念があっても、中国本土や衛星への攻撃を実施するとともに、遠距離封鎖も同時に実施するとされた。
一方、「中国のミサイルによる第1撃の兆候」があった場合、米空母などの艦船、米空軍は第2列島線以遠に安全に避退することが戦勝のカギであるとされた。当然、大型揚陸艦も避退することになるだろう。この時期にゲーツ国防長官は空母打撃群を中心とした考えは既に有効ではないと述べている。
2012年に陸軍、海軍を入れた統合の考え方に整理された後、2013年には公式ASBとして公表された。この中では、対中国という表現を注意深く避け、米軍の戦力の展開を阻止・妨害するようなA2ADを排除することを目的とした限定的な作戦とされた。
敵本土への攻撃も、指揮、通信、情報などの弱点を破壊する限定的なものとなった。
一方、電子戦、電子妨害等の盲目化作戦(Blinding Campaign)を重視するとなった。このような流れの中で、核抑止はどうなっているのか、第1列島線の重要性は認識しているのか、そうならば、米軍は不利であっても第1列島線に踏みとどまるべきではないのか、中国の短期・高烈度の局地戦にどう決着をつけるのか、さらには、進化するASBの真の姿は何なのかなどを明らかにする必要があった。
そこで、議論の後、次のような結論を得ることができた。
(1)米国の核抑止力及び同盟国等に対する拡大核抑止力
3つの機関とも米国の中国に対する核抑止力は依然として効いているという認識であるが、中国が南シナ海に配備している大陸弾道弾搭載の潜水艦(SLBN)の脅威や、地上配備の核ミサイルが移動型になり、また、地下サイロは深深度にあり破壊が困難になっていることは認識している。
このための日米の対策の1つとして、南シナ海の日米共同哨戒の必要性については意見が一致した。日本にとっても南シナ海のシーレーンの防護は死活的な問題である。
米側の拡大核抑止の低下についての認識は十分ではないが、短・中距離の核ミサイル(戦域核ミサイル)については中国、北朝鮮などの一人勝ちであり、大きな不均衡が生じていることは十分に認識している。
端的に言うと、中国が米国に届かない短・中距離核ミサイルで日本を攻撃した場合、果たして米国が核戦争を決意して中国に打ち返すかという問題である。
冷戦時代のヨーロッパでも同じ問題が生起したことで、英国やフランスなどは自前で核兵器を装備することになった。拡大核抑止の低下については日本側から問題提起し、要求すべきものであるが、米国は米国の責任として受け止めなければならないというのがCSBAの意見であった。
NDUで議論したプリシュタップ上級研究員は、我々と議論した後に「米日同盟、ガイドライン調査」という報告書で、「拡大核抑止が揺らぎ、中国や北朝鮮の核とミサイルの日本への威嚇や攻撃に米国が報復しないという拡大抑止の分離を中朝側が信じるようになった」と述べている。
主語は違うものの、このような問いかけが日本に向かって投げかけられている事実は重く受け止めるべきであろう。
CSBAとNDUでは、米国の中距離ミサイルの配備を制限しているロシアとの中距離核・通常弾戦力全廃条約(INF条約)の通常弾の縛りをアジア正面に限って解除し、日本に中距離弾(現状は存在しない)を配置してもよいとの考えが示された。ただし、可能になるのは次の大統領だろうとの認識であった。
中国は、2010年に消滅し、2015年で復活した核の先制使用をしないというものは、米国に対しては核使用を抑制するが、第1列島線における局地戦では核の威嚇を含めてその使用の可能性を否定していないと理解すべきである。
注意すべきは、EMP効果を狙った空中核爆発であり、もし中国が西太平洋上でこの種の攻撃を実施した場合、日本をはじめ、太平洋に所在する米軍の電子機器は一挙に使用不能に陥ってしまうだろう。
直接、核攻撃される恐れだけでなく、戦域核ミサイルの不均衡の問題は、中国が米国からの核打撃の報復を恐れることなく、日本等の第1列島線の国々に対して「局地戦を挑みやすくなる」ということである。
日本は、非核三原則を絶対のものとして、これまで核の日米協議を積極的に行わず、共同作戦計画に反映することを黙殺してきたが、そのつけは最悪の事態となって跳ね返ってくる恐れが大きいだろう。
米国に全面的に依存している核抑止については、「非核三原則」を見直し、運用上の要求に応じて多数のトマホークを発射できる攻撃型潜水艦(SSGN)、戦略爆撃機、あるいは地上配備型ミサイルの運用による核兵器の持ち込みを認めるなど、日本が自ら答えを出さねばならない。手遅れになる前に日本は目を醒ますべきである。
(2)第1列島線の価値と同盟国の重要性の認識
今回の訪米で、米国が第1列島線の死活的な価値を本当に認識しているのかが焦点の1つであったが、CSBA、NDU、NWCともにその価値を十分に認識していたことに安堵した。
CSBAにおいては、先に述べたが、米陸軍を陸上自衛隊のような対艦ミサイル、防空ミサイル、機動戦闘車(MCV)などを装備し、さらに地上配備型の弾道ミサイルを保有する部隊に改編して、日本からASEAN(東南アジア諸国連合)に連なる第1列島線全般に防衛線を作るべきであるとの意見であった。
時を同じくしてクレピネビッチ所長が発表した「中国を抑止する島嶼防衛のあり方」という論文では、「米国および同盟国・友好国の最終目標は、中国側に武力による目的達成が出来ないと認識させる拒否的抑止(力を発揮させず封じ込める)を達成すべきである」とし、「米国とその同盟国・友好国はその陸上戦力の潜在力を強化することで一連のリンク防衛を実現できる」と提唱している。
日米ともに陸上戦力の早期展開が大きなカギとなることから、日米双方の輸送力を共同で活用することが必要となってくるであろう。まだ米陸軍はこの考え方の全てを受け入れていないが、A2ADネットワークにおける陸軍の役割を検討し始めたようだ。
また、将来、米陸軍の編成は太平洋正面においては陸自型、そして対ゲリラの中東型、重戦力の欧州型に変化するのではないかと考えられる。
米海軍についてNWCは、DF21Dなどの地上配備型兵器による脅威が増大したため、米海軍の空母や大型艦中心の考え方はもはや通用せず、これを修正しなければならないとの意見であった。
その中で米空母は、ミサイルの攻撃が続く間、第2列島線以遠に「再配置」されるが、無人遠距離偵察・攻撃機を装備することにより、第1列島線の防衛に関与すると言う。しかしここには、無人機と有人機の共同運用と言う難題が控えている。今後、米海軍全般の第1列島線に対する関与は議論になるであろう。
空軍は日本に残留して戦闘を継続することを追求しているが、これには、民間飛行場にも広く分散・移動を繰り返し、偽装し、あるいはデコイを使って、中国のミサイル攻撃を凌ぐことが前提となっている。
当然、民間の修復力を活用するとともに弾薬、燃料なども事前に分散配置する必要があるため、相当量の弾薬、燃料の備蓄が必要となる。
このように、米国は積極関与を打ち出しているが、要は日本が米陸軍を受け入れ、航空戦力の存続のために官民一体となって飛行場の運用、修復などを可能にすることが必須である。
さらには、一見無駄に見えるが、陸海空の弾薬、燃料などの予算を大きく増加させ、分散配置しなければ、米軍は第2列島線以遠に下がらざるを得なくなるだろう。米国の前方展開の関与の努力を引き出したものの、結局は日本の有事への取り組みの本気度が試されているのである。
(3)中国の短期・高強度(核を除くあらゆる手段での関与)の局地戦(Short Sharp War)における勝利追求に対する米国の対中長期戦の考え方の問題点
これは米国と日本をはじめとする同盟国・友好国にとって大きな問題点である。中国軍が短期・高烈度の局地戦において勝利を目指していることは日米共通の認識である。これに対し、ASBは長期戦に持ち込み、疲弊させて終戦へ繋げることを目標の1つとしている。
ここには大きな3つの問題が存在する。
1つは、米国はあくまでも米中戦争を主体に考えているが、実は中国の短期高烈度の局地戦とは、第1列島線の国々に対する直接攻撃であるということだ。
日本としてもよく考えなければならないことであるが、米中戦争の実態は、中対日、台、比などの戦いである。どうして日中戦争があり得るのかと米国でも質問を受けたが、第1列島線を中国が奪取する意味を考えれば議論の余地はない。
第1列島線は中国にとって列島線バリケードであり、ここに対艦ミサイルなどを保有する敵対勢力が存在する以上、このバリケードの突破なくして中国沿岸部の経済的核心地域の安全と、米国に対する海洋覇権の確立はできないからである。
さらに第1列島線上に存在する多くの空港は、太平洋における海上優勢獲得のために必要不可欠な航空優勢を獲得する上で、不沈空母としての意味がある。また、第1列島線を勢力下に置くことにより、米国をハワイ以東へと追いやり、東南アジアを勢力圏下に置くことができる。
米国による核報復の恐れが薄れている以上、中国は日本を核による恫喝で怯えさせ、在日米軍基地を攻撃しない巧妙な戦法により日米の分断を図ることが可能である。
中国の日本に対する「歴史戦」はやむことなく、戦後の秩序を壊しているのは日本であると主張している。これらを通じて日本に対して国連の「敵国条項」を発動できることも無視できない。
1979年に中国はベトナムに対して「懲罰」を目的として戦争を仕かけたことがある。中華民族の復興を唱える習近平国家主席にとって「東夷」である日本は屈服させたい敵であり、討伐することは中国の理に適う。
また、中国は論理的な脅威の積み上げではなく、国内事情という「非合理の合理」で動くことがある。中国の戦争判断は、我々の合理的判断の外にある。NDUのプレシュタップ氏はこれをよく理解していた。
2つ目は、中国軍の短期決戦といえども、数週間(4〜6週間)はかかるとの見方が有力である。この間、日本などは中国の攻撃に堪え、戦い続けなければならないが、果たして、第1列島線の国々でこの期間を堪え凌ぐ国はあるだろうか。
米国が長期戦に持ち込んでいる間に疲弊するのは中国ではなく我々ではないだろうか。日本は、本当に戦い続け、抗堪できるかを真剣にチェックし、自衛隊の人員、装備、弾薬などを含む防衛力を大幅に増強しなければ日米は共倒れになる危険性がある。このことを理解し、予算を投入して国の安全を守ることこそ、政治家の本来の仕事である。
時間的・空間的に懐が深い作戦・戦略が採れる米国と、国土に直接脅威を受ける形で、選択の余地がない日本の作戦・戦略との間にギャップが生じている。早急に両国間の意思の疎通を図ることが必要だ。
さらに、3つ目は米軍と時間的・空間的に溝が広がると、日米の海空作戦の隙を突いて、グレーゾーン事態から活動する海上民兵に先導され、経海、経空輸送される大量の歩兵や特殊部隊による島嶼への攻撃の可能性が高くなることに注目する必要がある。
漁船約200隻で1個師団(6000〜1万人程度)規模の輸送が可能であり、「数個師団」は1日を経ずして南西諸島のどこへでも到達できる。
昨年秋、父島、母島周辺で不法操業した約200隻の漁船群の行動は、いつでも第2列島線まで奪取できることを日米に見せつけたのだろう。ここまで戦域は広がっていると考えるべきだ。
これに中国国内のみならず、国外の旅行者、留学生も軍務に服さなければならないという、「国防動員法」によって動員された、特殊部隊を含む旅行者等が内部蜂起して、これらと連携するだろう。
米国では、クリミアで行動した階級章をつけていない「軍人」や民兵のことを「Little Green Menと」呼び、その行動を「忍び込む侵攻」(Creeping Aggression)と位置づけて注目している。
(4)最終的に確認したASBの基本概念
ASBの進化した基本概念は大きく3つの概念から成り立っており、今後名称の変更が予想されるものの、本質は以下の通りである。
●拒否し防御する(Deny & Defend):同盟国によるA2ADネットワークの構築、抗堪力、継戦力
●長引かせ疲弊させる(Protract & Exhaust):経済封鎖
●懲罰を科す(Punish):中国本土への攻撃、盲目化作戦
この際、CSBAの現在の問題意識は、「第1列島線および米軍の抗堪性向上による被害の最小化は可能か」「中国戦力に対する同盟国等のA2ADネットワークの構築は可能か」「中国軍の飽和攻撃への対応」「中国本土への攻撃」である。
中国本土への攻撃は主として米軍の役割であるが、残り3つは、まさに同盟国などへの期待であると同時に、同盟国の役割に依存しなければならないASBの限界を示している。
ASBの基本概念のうち、「盲目化作戦」と「拒否し防御するに含まれる潜水艦などによる水中の支配作戦」は、作戦当初から実施されることから、この作戦に日本が主体的役割を担って、積極的に日米共同作戦を実施する必要がある。
中国本土への攻撃は、「懲罰的抑止」と位置づけられ、中国にコストをかけさせるために戦略上不可欠であると考えられており、実行にあたっては、核攻撃と同じように米国大統領の決断に委ねられる。
また、米国は日本が独自の判断で中国本土を攻撃することは認めない。しかしながら、このことは日本の生存に直結する問題であり、その実施について意見が言えるような日米間の仕組みを作らなければならない。
南西諸島防衛は、日本にとって国土防衛であると同時に、米国にとっての対中作戦で死活的な意味を持っている。
また、単に中国軍を封鎖するだけではなく、NWCの言うとおり、海洋に作戦を限定して日米共同で中国海軍を撃滅できる能力を保持することは、戦争の拡大を抑制しつつ、具体的な目標を設定することで大きな抑止力を発揮するとともに、独善的な海洋国家たる中国は認めないという強い日米のメッセージを送れることで、日米相互にその効果が大きいことを確認した。
日本も、列島線沿いに対空の壁、対水上の壁、島嶼の壁のみならず、地上発射型の魚雷などを装備することで対水中の壁の補完をし、圧倒的に有利な対潜哨戒機(P3C、P1)と連携することで大きな抑止力を発揮することになろう。
さらに、東シナ海などの空母を含む水上艦隊を撃滅するための対艦弾道ミサイル(日本版DF21D)を持つことおよび原子力潜水艦(SSN)を含む潜水艦の増勢は不可欠である。
専守防衛といえども防御の中に打撃力を保持しなければならないことは軍事の常識である。対艦弾道ミサイルについて、これを排除するような考え方が日本のみならず米国にも存在することは不可解である。あくまで日米共同でコントロールすることに意義がある。
5 終わりに
南西諸島の防衛の考え方は、空母の来援が前提でなくとも、米国のASBという軍事コンセプトの主要な要素である「同盟国のA2ADネットワークの構築」として見事にかみ合うことが確認され、さらに、中国の海洋戦力を日米で殲滅することは大きな抑止力となることが確認されたが、実は日本側にボールが投げ返されていることを自覚しなければならない。
日本の主体的な防衛作戦は、単に国土防衛だけではなく、日米共同の対中作戦・戦略の「前提」となるものである。このため、日本は防衛政策の大転換は不可欠である。
そして、防衛費を少なくとも今後10年間で「倍増」する覚悟がなければ、中国が全力を挙げて挑む局地戦を抑止することはできない。
局地戦とは、尖閣だけに限らず、焦点は南西諸島全域を含む武力戦である。さらに米国の関与が薄くなる可能性がある以上、日本に残された道は防衛力の増強しかないのではないだろうか。
財政の厳しい欧州ですら、ロシアの軍事的脅威の台頭を感じ、独は4年間で2700億円、スウェーデンは5年間で1500億円の増額である。中国の大軍拡と米国の大変革の渦中にありながら、日本は中期計画の中で実質7000億円の削減であり、人も装備も弾なども絶対量が足りない。
防衛省と政治家が協力して主導しこの国の安全を保障すべきだ。自ら国を守る気概をなくした国民に未来はない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44181
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