中国による南沙諸島での人工島建設状況と、アメリカ海軍哨戒機に対する中国軍による高圧的な警告状況がCNNで実況中継されてしまったため、さすがに弱腰のオバマ政権も、中国に対して強い姿勢を示さなければならなくなった。
アメリカが見せる“強硬”ポーズ
まずはカーター国防長官が「南シナ海での領域紛争は平和的に解決されなければならず、全ての紛争当事国は人工島建設作業を直ちにかつ永続的に中断するべきである」「とりわけ中国は過去1年半で2000エーカー以上の埋め立てを実施しており、紛争当時諸国に不安をもたらしている」とのメッセージを発した。
それとともに、横須賀を本拠地にする第7艦隊からイージス巡洋艦シャイローをフィリピンのスービック海軍基地に“立ち寄らせ”、南沙諸島方面のパトロールを実施させた。
というのは、南沙諸島方面海域近くに常駐しているアメリカ海軍軍艦は、現在シンガポールに派遣されている沿岸戦闘艦(LCS)フォートワースしかない。南沙諸島周辺海域をパトロールしている中国海軍フリゲートや駆逐艦などから見ると、南沙諸島海域に存在しているのが物の数にも入らない小型軍艦のLCS程度では、アメリカは全く「やる気」がない、と判断されかねないためである。
中国側は情報収集艦をハワイ沖に派遣
しかしながら、いくら強力な軍艦とはいえ、ミサイル巡洋艦を1隻追加派遣した程度では、中国側をけん制する効果など生ずるはずもない。中国海軍はアメリカの動きに対抗して情報収集艦をハワイ沖に派遣し、太平洋艦隊の動きを密着監視する姿勢を示している。
引き続き6月10日には、バシー海峡(台湾とフィリピンの間のルソン海峡の台湾側)において中国海軍と中国空軍が合同演習を実施した。バシー海峡に派遣された中国海軍艦隊と連携する形でH-6K爆撃機とJ-11B戦闘機が参加して遠洋爆撃機動訓練が行われた。中国海軍当局によると、この種の訓練は今後も定期的に実施するとのことである。
(ちなみに、5月下旬には、やはり中国空軍のH-6K爆撃機が沖縄本島と宮古島の間の宮古海峡上空を通過し、西太平洋上空での長距離爆撃機動訓練を実施している。)
中国空軍のH-6K爆撃機の作戦行動半径は3500キロメートルと言われており、強力な対地攻撃用長距離巡航ミサイル(射程距離2000キロメートル)をはじめ精密誘導爆弾や各種ミサイルが搭載可能である。そのため、アメリカ軍ではH-6Kが宮古海峡やバシー海峡を越えて西太平洋に進出する動きに対して極めて神経質になっている。というのは、それらの海峡部から500キロメートルほど西太平洋に進出した上空からは、H-6K に搭載した対地攻撃ミサイルによってグアムの米軍基地が攻撃射程圏に入ってしまうからだ。
警戒を強めるオーストラリア
もちろんグアムの米軍以上にH-6Kの脅威に曝されているのは、日本、台湾、フィリピンであるが、オーストラリアも警戒を強めている。なぜならば、南沙諸島人工島に近々誕生するであろう人民解放軍航空基地から発進するH-6K爆撃機の攻撃圏内には、オーストラリア北部のダーウィンがすっぽり収まってしまうからである。そのため、オーストラリア政府は、中国の南シナ海進出とりわけ人工島建設に対して強い反対を唱えている(オーストラリア政府と違って、日本政府はH-6Kの脅威などにはビクともしていないようである)。
そのようなオーストラリア政府の姿勢に対して、中国政府は「南沙諸島での領有権をめぐるトラブルに直接関係していないオーストラリアは干渉する権利が全くない」と強く反駁している。中国側の“警告”はオーストラリアやニュージーランドそれにG-7諸国などに対しても開始された。
しょせんオバマ政権は“腰抜け”と見ている中国
このような、アメリカやオーストラリアなどに対する中国側の傲慢な姿勢は、中国側が「シリア情勢でも、ウクライナ情勢でも、IS攻撃でも、いずれも中途半端な腰が引けた外交的軍事的対処しかできないオバマ政権は、南シナ海問題に対しても“本気”で軍事オプションを発動する恐れはほとんどない」と見ているからである。
なぜならば、中国が南沙諸島での人工島建設を開始したのが確認され、アメリカ軍や専門家たちから警告が発せられてから1年以上も経過しているにもかかわらず、オバマ政権は軍事的な対処は“何もしていない”状態だからである。
例えば、アメリカが本気で人工島に関心を示していたのならば、アメリカ海軍空母任務部隊を南沙諸島周辺海域に展開させて中国政府に無言の圧力を加えるというのがこれまでの常道であった。しかし、オバマ政権にそのよう動きは全くなかった。
また、強襲揚陸艦を中心とする海軍水陸両用戦隊に、アメリカ軍の先鋒部隊と位置づけられている海兵隊遠征部隊を乗り込ませて、アメリカが警告的圧力を加えたい地域の沖合に出動させて、示威行動を実施する「水陸両用作戦」(demonstration of intent)も、中国人工島に対しては行われていない。
さらに、フィリピンにアメリカ軍軍事拠点を確保する具体的努力にも取りかかってはいない。確かに、ポーズとしては、2014年4月に米比新軍事協定が締結されて、米軍がフィリピン国内の基地を使用することや事前集積(軍事作戦に先立って兵器弾薬補給物資などを貯蔵しておく)が可能になった。しかし、1990年代初頭まで米軍が展開していたフィリピンのスービック海軍基地やクラーク航空基地に近接する南沙諸島に人民解放軍基地群が誕生しつつあるのに、米軍によるフィリピンの基地整備は進んでいないのが現状だ。
このようなアメリカ側の対応から、中国側がオバマ政権の南シナ海政策を“腰抜け”と見なし、ますます傲慢になっているものと思われる。
海軍少将が発する日本への警告
そして、中国の「南シナ海領域紛争の直接当事者でない第三国」に対する“警告”はアメリカやオーストラリアに留まらず、“G-7で反中的声明を盛り込ませた張本人”の日本に対しても向けられ始めた。
日米防衛協力ガイドラインの改定や安倍政権による安保法制の抜本的修正を含んだ防衛政策の大転換に伴い、アメリカ軍が南シナ海で何らかの軍事行動を実施した場合に、自衛隊艦艇や航空機がアメリカ軍に対する補給活動を実施するなど、南シナ海での監視警戒活動に従事するのは何ら不思議ではない状況に向かいつつある。
また、自らは矢面に立ちたくないオバマ政権が日本政府やオーストラリア政府に働きかけて海洋哨戒機や軍艦を南シナ海に派遣させ、哨戒活動を実施させようと画策している動きも出てきている。
それに対して人民解放軍幹部の尹卓海軍少将は、次のように脅しとも取れる警告を発する。
「日本自衛隊にとって、南沙諸島海域にP-3C対潜哨戒機やE-2C、E-767警戒機などを派遣することは朝飯前だ。またKC-767J空中給油機を持っている航空自衛隊は、F-15JやF-2といった戦闘機を南シナ海に送り込むことだって可能だ。もちろん『いずも』のような大型戦闘艦を有する海上自衛隊が軍艦を展開させることには技術的には何の問題もない」
「しかし、日本の政治家たちは、自衛隊機や艦艇を南シナ海に派遣することについてはじっくりと再考しなければならない。なぜならば、中国軍艦は中国領内への侵入者を撃破する権利を有しているからだ」
このように、日本もすでに南シナ海での国際的紛争に巻き込まれているのが現状である。
安全保障法制や集団的自衛権に関する日本での議論は、賛成側も反対側も共に日本が直面する軍事情勢から乖離した「言葉の遊び」や「揚げ足取り」に終始しているようだ。だが、「気がついた時には手遅れになっていた」では取り返しがつかなくなることを肝に銘じてほしい。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44040
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