米国防長官、中国軍制服組トップに埋め立て中止求める

米国防総省前で、中国国歌の演奏を聴くアシュトン・カーター米国防長官(右)と中国の范長龍・中央軍事委員会副主席(2015年6月11日撮影)。(c)AFP/PAUL J. RICHARDS〔AFPBB News

 中国による南沙諸島での人工島建設状況と、アメリカ海軍哨戒機に対する中国軍による高圧的な警告状況がCNNで実況中継されてしまったため、さすがに弱腰のオバマ政権も、中国に対して強い姿勢を示さなければならなくなった。

アメリカが見せる“強硬”ポーズ

 まずはカーター国防長官が「南シナ海での領域紛争は平和的に解決されなければならず、全ての紛争当事国は人工島建設作業を直ちにかつ永続的に中断するべきである」「とりわけ中国は過去1年半で2000エーカー以上の埋め立てを実施しており、紛争当時諸国に不安をもたらしている」とのメッセージを発した。

 それとともに、横須賀を本拠地にする第7艦隊からイージス巡洋艦シャイローをフィリピンのスービック海軍基地に“立ち寄らせ”、南沙諸島方面のパトロールを実施させた。

スービック湾に到着した巡洋艦シャイロー(写真:米海軍)

 というのは、南沙諸島方面海域近くに常駐しているアメリカ海軍軍艦は、現在シンガポールに派遣されている沿岸戦闘艦(LCS)フォートワースしかない。南沙諸島周辺海域をパトロールしている中国海軍フリゲートや駆逐艦などから見ると、南沙諸島海域に存在しているのが物の数にも入らない小型軍艦のLCS程度では、アメリカは全く「やる気」がない、と判断されかねないためである。

中国側は情報収集艦をハワイ沖に派遣

 しかしながら、いくら強力な軍艦とはいえ、ミサイル巡洋艦を1隻追加派遣した程度では、中国側をけん制する効果など生ずるはずもない。中国海軍はアメリカの動きに対抗して情報収集艦をハワイ沖に派遣し、太平洋艦隊の動きを密着監視する姿勢を示している。

 引き続き6月10日には、バシー海峡(台湾とフィリピンの間のルソン海峡の台湾側)において中国海軍と中国空軍が合同演習を実施した。バシー海峡に派遣された中国海軍艦隊と連携する形でH-6K爆撃機とJ-11B戦闘機が参加して遠洋爆撃機動訓練が行われた。中国海軍当局によると、この種の訓練は今後も定期的に実施するとのことである。

(ちなみに、5月下旬には、やはり中国空軍のH-6K爆撃機が沖縄本島と宮古島の間の宮古海峡上空を通過し、西太平洋上空での長距離爆撃機動訓練を実施している。)

宮古海峡上空を通過するH-6K爆撃機(航空自衛隊撮影)

 中国空軍のH-6K爆撃機の作戦行動半径は3500キロメートルと言われており、強力な対地攻撃用長距離巡航ミサイル(射程距離2000キロメートル)をはじめ精密誘導爆弾や各種ミサイルが搭載可能である。そのため、アメリカ軍ではH-6Kが宮古海峡やバシー海峡を越えて西太平洋に進出する動きに対して極めて神経質になっている。というのは、それらの海峡部から500キロメートルほど西太平洋に進出した上空からは、H-6K に搭載した対地攻撃ミサイルによってグアムの米軍基地が攻撃射程圏に入ってしまうからだ。

警戒を強めるオーストラリア

 もちろんグアムの米軍以上にH-6Kの脅威に曝されているのは、日本、台湾、フィリピンであるが、オーストラリアも警戒を強めている。なぜならば、南沙諸島人工島に近々誕生するであろう人民解放軍航空基地から発進するH-6K爆撃機の攻撃圏内には、オーストラリア北部のダーウィンがすっぽり収まってしまうからである。そのため、オーストラリア政府は、中国の南シナ海進出とりわけ人工島建設に対して強い反対を唱えている(オーストラリア政府と違って、日本政府はH-6Kの脅威などにはビクともしていないようである)。

 そのようなオーストラリア政府の姿勢に対して、中国政府は「南沙諸島での領有権をめぐるトラブルに直接関係していないオーストラリアは干渉する権利が全くない」と強く反駁している。中国側の“警告”はオーストラリアやニュージーランドそれにG-7諸国などに対しても開始された。

しょせんオバマ政権は“腰抜け”と見ている中国

 このような、アメリカやオーストラリアなどに対する中国側の傲慢な姿勢は、中国側が「シリア情勢でも、ウクライナ情勢でも、IS攻撃でも、いずれも中途半端な腰が引けた外交的軍事的対処しかできないオバマ政権は、南シナ海問題に対しても“本気”で軍事オプションを発動する恐れはほとんどない」と見ているからである。

 なぜならば、中国が南沙諸島での人工島建設を開始したのが確認され、アメリカ軍や専門家たちから警告が発せられてから1年以上も経過しているにもかかわらず、オバマ政権は軍事的な対処は“何もしていない”状態だからである。

 例えば、アメリカが本気で人工島に関心を示していたのならば、アメリカ海軍空母任務部隊を南沙諸島周辺海域に展開させて中国政府に無言の圧力を加えるというのがこれまでの常道であった。しかし、オバマ政権にそのよう動きは全くなかった。

 また、強襲揚陸艦を中心とする海軍水陸両用戦隊に、アメリカ軍の先鋒部隊と位置づけられている海兵隊遠征部隊を乗り込ませて、アメリカが警告的圧力を加えたい地域の沖合に出動させて、示威行動を実施する「水陸両用作戦」(demonstration of intent)も、中国人工島に対しては行われていない。

 さらに、フィリピンにアメリカ軍軍事拠点を確保する具体的努力にも取りかかってはいない。確かに、ポーズとしては、2014年4月に米比新軍事協定が締結されて、米軍がフィリピン国内の基地を使用することや事前集積(軍事作戦に先立って兵器弾薬補給物資などを貯蔵しておく)が可能になった。しかし、1990年代初頭まで米軍が展開していたフィリピンのスービック海軍基地やクラーク航空基地に近接する南沙諸島に人民解放軍基地群が誕生しつつあるのに、米軍によるフィリピンの基地整備は進んでいないのが現状だ。

 このようなアメリカ側の対応から、中国側がオバマ政権の南シナ海政策を“腰抜け”と見なし、ますます傲慢になっているものと思われる。

海軍少将が発する日本への警告

 そして、中国の「南シナ海領域紛争の直接当事者でない第三国」に対する“警告”はアメリカやオーストラリアに留まらず、“G-7で反中的声明を盛り込ませた張本人”の日本に対しても向けられ始めた。

 日米防衛協力ガイドラインの改定や安倍政権による安保法制の抜本的修正を含んだ防衛政策の大転換に伴い、アメリカ軍が南シナ海で何らかの軍事行動を実施した場合に、自衛隊艦艇や航空機がアメリカ軍に対する補給活動を実施するなど、南シナ海での監視警戒活動に従事するのは何ら不思議ではない状況に向かいつつある。

 また、自らは矢面に立ちたくないオバマ政権が日本政府やオーストラリア政府に働きかけて海洋哨戒機や軍艦を南シナ海に派遣させ、哨戒活動を実施させようと画策している動きも出てきている。

 それに対して人民解放軍幹部の尹卓海軍少将は、次のように脅しとも取れる警告を発する。

「日本自衛隊にとって、南沙諸島海域にP-3C対潜哨戒機やE-2C、E-767警戒機などを派遣することは朝飯前だ。またKC-767J空中給油機を持っている航空自衛隊は、F-15JやF-2といった戦闘機を南シナ海に送り込むことだって可能だ。もちろん『いずも』のような大型戦闘艦を有する海上自衛隊が軍艦を展開させることには技術的には何の問題もない」

「しかし、日本の政治家たちは、自衛隊機や艦艇を南シナ海に派遣することについてはじっくりと再考しなければならない。なぜならば、中国軍艦は中国領内への侵入者を撃破する権利を有しているからだ」

 このように、日本もすでに南シナ海での国際的紛争に巻き込まれているのが現状である。

 安全保障法制や集団的自衛権に関する日本での議論は、賛成側も反対側も共に日本が直面する軍事情勢から乖離した「言葉の遊び」や「揚げ足取り」に終始しているようだ。だが、「気がついた時には手遅れになっていた」では取り返しがつかなくなることを肝に銘じてほしい。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44040  

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コメント
 
1. 2015年6月18日 16:04:40 : 8k72QNYymI
日本だけ突撃W。

2. 正義男2 2015年6月18日 17:01:15 : HZ4o973aX3/V6 : EWIoUQUUR6
安保法制の真の狙いはホルムズ海峡ではなく、この海域だ。
石原慎太郎以来、対中国が二本会議の仮想敵国になっていると感じている。

3. 2015年6月18日 18:50:07 : nJF6kGWndY

>オーストラリア政府と違って、日本政府はH-6Kの脅威などにはビクともしていない

違うだろ

政権内部では、かなり神経質になっているから、あれだけ焦っているのだが

国民が何も感じないということだろう

まあ、その方が、当面の戦略的には悪くないかもしれないなw


4. 2015年6月18日 21:23:55 : G9pRncd5P6
だって北村淳さんだもんな。
アメリカのネオコン仕込みのあの人の言うことはみんなこんな感じ。

5. 2015年6月19日 12:47:46 : xAQCJA1WS6
表題と本文がまるで違っている。

>海軍少将が発する日本への警告

領海に勝手に侵入する軍機や軍艦があれば撃退すると言っているだけ。あまりに当たり前のこと。

>北村 淳

危機を煽って商売する戦争ゴロ、デマゴーグの典型らしいな。


6. 2015年6月19日 16:10:16 : yIslIB7gp2
アメリカの軍事予算が頭打ち、実質減額になってコルト社倒産と軍産複合体はどっかで戦争が起こってくれないと維持できないところまで追いつめられてる。
噛ませ犬として日本が選ばれた。

7. 2015年6月19日 19:49:45 : N4qwxcBMP6
志位流に言えば、自衛隊員はポツダム宣言を読んだことがあるのかってなるのかな。

敗戦国が尖閣の領有権を主張する権利はないって、中国代表が国連で発言してるよ。

日本人の多くもサンフランシスコ講和条約で敗戦国から独立国家に昇格したことを知らないからどうしようもないか。
でも、この条約に中露は参加してないので今だ敗戦国扱いっていうのも一理あり。


8. 2015年6月20日 00:46:39 : hdNY6z2Xpc

日本は敗戦により自衛権を喪失し、国連憲章にある他の国と同じ固有の自衛権がなかった。

それを戦後何年か何十年してから集団的自衛権はあるが使えないと狂った。迷走の始まりだ。

熱さ喉元過ぎれば米国産の兵器を預けられて大喜びの国防カルト連中は個別的自衛権に飽き足らず集団的自衛権が欲しくて欲しくて寝ても覚めても抑止力カルトになったとさ〜

目を覚ましやがれ! 逆賊の国賊カルトども! 一機二百億円のオスプレイで国が守れるか!

hahahahahahahahabaka



[32削除理由]:削除人:連続コメント

9. 2015年6月20日 12:00:12 : hdNY6z2Xpc

おい! 他人のコメントを不当な理由で削除するな!


[32削除理由]:削除人:カルト
10. 2015年6月20日 13:39:58 : RMIURFIskg
まだアメリカにすがる勘違い男が何か書いている。

それともアメリカが本当に日本の味方がどうかを考えたら。


11. 2015年6月20日 14:21:29 : hdNY6z2Xpc

アメリカを救うことができるのは日本だから。内道の法力が外道のそれより優れるから。

そこのところを勘違いした上に、正法誹謗の謗法が横行しているのが現実だからな。

どんだけ真面目なふりして日本人毎日をいい気になったり不安になったり。気の毒。

いずれ生きているうちに分かるだろう。心配するな。だが安心には早すぎるだろう。気の毒だ。



[32削除理由]:削除人:カルト

12. 2015年6月20日 18:48:20 : V8ALKaJfjY
自衛隊しか存在しない日本に

軍艦は無いわけだが?

何に体当たりするのか?

[32削除理由]:削除人:アラシ

13. 2015年6月21日 16:39:33 : Cur0RCSFcE
>南シナ海で「日本軍艦に体当りするぞ」と息巻く中国
 日本も巻き込まれ始めた南沙諸島紛争

 シナが紛争や戦争を起こして体当たりで来るなら、たちどころに日米両軍のミサイルに消される。子供の喧嘩ではあるまい、幼稚な発想で体当たりなどできるわけない。
戦いで必要なものは武器だけでなく「物資」が補給されること。大ボラを吹いているうちはまだしも、「戦力不足と水不足のシナ」が、アメリカや日本と戦うことは無理。
それとも「特攻精神」で来るか!


14. 2015年6月22日 20:32:27 : EbeogkRmJO
>>13
と言いつつアメリカは日本だけ鉄砲玉になってほしいんだがW。
それも分からず息巻くジジィW。

15. 2015年6月23日 21:13:00 : 2JEd7R8MIs
ビビった日本がアメリカからべらぼうな値段でアメリカ製の兵器を買わされてお終いとなるだろう。中国はアメリカの最大の貿易相手国。

ところで南シナ海とシナの名前がついているのが気に入らないので南沙諸島のことをいつでも英語名スプラトリーと書いているのが笑えるな。英米と遠く離れているのに。

韓国が日本海のことを東海と呼ぶのと同じか。


16. 2015年7月19日 04:42:12 : v1gbxz7HNs
ビビる必要はない。
国民にとっては、日本の支配権を東京が持っていようと北京が持っていようと、税金をどこに納めるかの差でしかない。
しかし支配層にとっては利権を失うことになる。
だから国民を使って自分の利権を死守させようとする。
いえなる場合も民にとって第一の敵は支配者だ。


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