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隊員ひとりひとりには志があっても、組織の闇は深い〔PHOTO〕gettyimages
どう考えても普通じゃない なんと自殺者54人! 自衛隊の「異常な仕事」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43700
2015年06月12日(金) 週刊現代 :現代ビジネス
■「米兵といたら、殺される」
5月27日の国会、安保法制をめぐる衆院の特別委員会。志位和夫・共産党委員長の質問に答えて政府が認めた、ある数字に衝撃が走った。
〈'03~'09年にイラクに派遣された自衛隊員のうち、在職中に自殺したと認定された隊員は29人。うち4人はイラク派遣が原因だった〉
〈'01~'07年のテロ特措法でインド洋での給油活動に参加した隊員のうち、同様に自殺と認定された隊員は25人〉
つまり、インド洋・イラクに派遣された自衛隊員のうち、合わせて54人もの隊員が、自ら命を絶ったというのだ。
イラクについてみると、派遣された陸海空の自衛隊員は計約9310人。うち29人が自殺したのだから、およそ321人に1人になる計算だ。
時間に注目してみれば、派遣開始から現在までの12年間に毎年平均2~3人が、自ら命を絶っていったことになる。
どう考えても普通ではない、海外派遣された自衛隊員の仕事。彼らの置かれた状況とはいったい、どういうものなのか。
「米兵と一緒にいたら、殺されてしまう」
これは'05年、札幌市内の山林で、車のなかに練炭を持ちこみ自殺した陸自3佐・A氏が死の前に漏らした言葉だ。
A氏は第2次イラク復興支援群の警備中隊長に抜擢され、'04年5月からの約4ヵ月間をイラクで過ごした。自衛隊が拠点としたイラク南部の都市サマワで126人の中隊を指揮し、給水や学校、道路の補修などを行う隊員たちを守る仕事だった。
だが、状況は過酷を極めた。'04年8月10日未明には、宿営地が迫撃砲による攻撃を受けた。
「翌朝の朝礼で支援群長が、『俺はめっぽう運が強い。全員を無事につれて帰るからな』と訓示するとみんな泣き出した。それほど緊張が高まっていたんです」(陸自幹部)
さらに恐ろしい事態がA氏を襲う。自らが指揮する警備中隊の隊員が、仲間であるはずの米軍から誤射されたのだ。
「米兵の乗った輸送車を護衛していた自衛隊の車両のなかに、イラク人の運転手が乗っていた車がありました。その車が輸送車を追い越そうとした際、運転手の顔を見た米兵が、ゲリラに攻撃されると勘違いして発砲。弾は外れて、他の自衛隊の車に飛んできたのです」(当時の隊員)
責任者であったA氏が報告を聞いて戦慄したことは想像に難くない。死の前にA氏が残した言葉も、この事件に関係があるとも思える。
このように、海外派遣された自衛隊員の自殺の大きな原因の一つとされるのが、危険地帯で恐怖感・緊張感に長くさらされたことによる心の傷。いわゆるPTSD(心的外傷後ストレス障害)だ。
30年以上自衛隊取材を重ねている半田滋・東京新聞論説委員は語る。
「防衛省はこれまで、イラク派遣からの帰国後の隊員の自殺について、派遣に起因するPTSDではないと否定してきましたが、今回、陸自3人、空自1人の計4人をイラク派遣によるストレスが原因と認めました。突然見解が変わった理由は明らかにしていません」
これについて、ある陸自関係者はこう話す。
「自衛隊内では、現在でも『イラク派遣部隊は米軍のように、仲間の兵士が自爆攻撃を受けて内臓が飛び出したのを見たわけではなく、PTSDなど存在しない』という言説がまかり通っています。今回4人の事案が突然、公表されたのは、政府が『これまでも自衛隊員に自殺者はいた。安保法制で状況が悪化するわけではない』とでも言いたいからではないですか」
さらに、自衛隊内では海外派遣を経験した隊員に心無い言葉が投げつけられ、いじめに発展するケースもあるという。
「ある陸自の隊員がイラクから帰国して、上官に『海外での経験を活かして頑張ります』と話すと、『ちょっとイラクに行ったからってデカい顔するな』と吐き捨てられたと聞きました」(陸自隊員)
イラクなど海外の危険地帯に派遣された隊員には1日2万~3万円の手当が出る。3ヵ月のイラク派遣では多くて300万円近い金額となり、それに対する嫉妬もいじめの原因になるようだ。
もちろん、自衛隊も海外派遣を巡る隊員の心のケアをまったく行ってこなかったわけではない。
イラク派遣では、陸自がメンタルヘルス対策として現地に専門のカウンセラーを帯同させるなどしている。だが、それでも54人の自殺者は出てしまった。結果から見れば、対策は不十分だったということになるだろう。
さらに前出の半田氏は、今回、政府が認めた数字もすぐには信用できないと指摘する。
「'06年、イラク特措法でクウェートに派遣された空自隊員が、基地内での米独立記念日のマラソン大会に参加した際、米民間軍事企業のバスにはねられ大ケガをした。
ところが当時は、空自による米兵輸送の開始直前の微妙な時期。彼は帰国も許されず、首にコルセットをハメられただけで2ヵ月も適切な治療が受けられなかったという。結果、口が1oしか開かなくなり、右手が震えるなど後遺症が残ったそうです。元隊員はいま国を相手取り裁判を起こしていますが、こうした前例がある以上、今回の発表も鵜呑みにはできません」
■「自殺率」は世間一般の10倍
危険な任務によるストレス、隊員間の人間関係の重圧、いじめ。それらに効果的な対策を講じることができず、自殺者は異常なまでに多い。
第一次安倍政権で内閣官房副長官補(安保・危機管理担当)をつとめた柳澤協二氏はこう話す。
「そもそも、自衛隊全体で隊員10万人あたりの自殺者数を計算すると30~40人となり、これは世間一般の1・5倍と多い。しかしイラク派遣部隊の数字は、さらにその約10倍になるのです。
にもかかわらず、自衛隊員の死について議論になると、安倍首相は『これまでも訓練や災害派遣で1800人が殉職している』と発言した。自衛隊から死者が出ることなど、首相にとっては議論の前提でしかないかのようですね」
自衛隊法第52条には隊員は「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努め、もって国民の負託にこたえる」とあり、自衛隊内ではこれを根拠に「命をかけろ」と部下に発破をかける上官もいるという。しかし自衛隊員も国民だ。決してその命を使い捨てにしてよいわけではない。
「国民の生命と財産を守る安保法制」とお題目のように繰り返す政府・与党は、目の前の自衛隊の仕事の過酷な現実を直視すべきではないか。
「週刊現代」2015年6月13日号より
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