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日米共同で南シナ海へ、新「ガイドライン」で可能に
改定「日米ガイドライン」の意義と課題(前篇)
2015.5.20(水) 部谷 直亮
日米首脳会談、同盟関係の活性化を表明 中国の脅威に対抗
米ホワイトハウスで開かれた共同記者会見中に握手する安倍晋三首相(左)とバラク・オバマ米大統領(2015年4月28日撮影)。(c)AFP/SAUL LOEB〔AFPBB News〕
4月27日、日米両政府は、両国軍の防衛協力の枠組みを示した、日米防衛協力のための指針(日米ガイドライン)の改定に合意しました。
今回の改定は大きな意義と若干の課題を伴うものでしたが、前後編に分けて具体的にいくつかご紹介していきたいと思います。今回は、ガイドライン改定における意義について論じるものです。
大成功だった安倍首相の演説
米報道の多く、それも賛否の双方が「歴史的」と評価した安倍首相の米議会演説は、高らかに外交における自由主義の尊重、すなわち日本外交が戦後に果たしてきた役割の重要性を肯定的に謳いあげたという意味で、素晴らしいものでした。
これは、一部を除けば、演説に対する多くの批判が揚げ足取り的な「因縁」か、ポジショントークに終始し、その本質的な批判ができないでいることからも明らかでしょう。何より、上院議長たるバイデン副大統領、共和党のベイナー下院議長の好意的な反応を引き出したことだけでも、今後の「地球儀外交」における歴史的な資産となるでしょう。
そして、ほぼ同時期に改定された日米ガイドラインも、多くの論者が指摘するように、より高いレベルへと日米同盟のステージを進めるものであり、日本の抑止力を向上させる意義深いものでした。以下では、その意義について、3点ほど指摘したいと思います。
米軍の強襲揚陸艦ペリリューにて訓練を行う陸上自衛隊員の様子
(米海軍HPより)
【第1の意義】自衛隊が南シナ海へ踏み込む道を切り開いた
今回のガイドラインの改定では、大きく3つの意義があったと指摘できます。
第1に、南シナ海への日米共同の哨戒活動、将来的なフィリピン空軍基地への自衛隊展開の道を開いたということです。既に複数の米紙は、今回のガイドライン改定は、日本周辺の防衛から、南シナ海での平時における哨戒活動、有事にはフィリピンへ展開する米軍への後方支援を射程に収めたものだと報道しています。また、匿名の米軍筋は、今後の自衛隊哨戒機のフィリピン空軍基地への展開を示唆するコメントをしています。
今回のガイドライン改定により、これまでは日本周辺に限定されていた後方支援を、地理的な制約なしに自衛隊が行っていく方向性が示されました。これらの報道は、その具体的な地域がこれまでの日本周辺から南シナ海に広がるということを指摘しています。
実は、安倍首相もこうした傾向を示唆する発言を就任直後から繰り返してきました。彼は国内での演説ではどちらかと言えば朝鮮半島有事のためというような説明をしていますが、海外における演説や発言では、かなり率直に南シナ海への進出を示唆しています。具体例をいくつか挙げましょう。
「東シナ海および南シナ海で継続進行中の対立は、国家の戦略的地平を拡大することを日本外交の戦略的優先課題としなければならないことを意味しています。 日本は成熟した海洋民主主義国家であり、その親しいパートナーもこの事実を反映しなければなりません。私が構想する戦略は、オーストラリア、インド、日本、米領ハワイによって、インド洋地域から西太平洋に広がる海洋公共財を保護するダイアモンドを形成するというものです」(2012年12月、セキュリティダイアモンド論文)
「南シナ海においては、一方的な主張に基づく行動が相次ぎ、地域の国々の間では緊張感が高まっています。日本にとって、アジア太平洋地域の平和と繁栄の実現は最優先課題です。そのために建設的役割を果たそうとするいかなる国とも協力していきます」(2014年5月、NATO理事会での講演)
「日本は、ASEAN各国の、海や、空の安全を保ち、航行の自由、飛行の自由をよく保全しようとする努力に対し、支援を惜しみません。アジアと世界の平和を確かなものとしていくうえで、日本は、これまでにも増した、積極的な役割を果たす覚悟があります」(2014年5月、第13回アジア安全保障会議にての基調講演)
しかも、今年の1月には、第7艦隊司令官のロバート・トーマス司令官がより踏み込んだ発言を行っています。彼は朝日新聞のインタビューに対し、「将来的に自衛隊が南シナ海で活動することは理にかなっている」と率直な期待感を示しており、日米双方での合意があることを伺わせます。
こうしたことから、今回のガイドライン改定による自衛隊の後方支援における地域指定の撤廃とは、南シナ海での平時における展開、有事の後方支援を見据えた措置なのです。
その意味で、今回のガイドライン改定は、自衛隊が米軍とともに南シナ海の哨戒活動や警戒監視等の平時の活動に踏み込んでいく方向性を象徴しているのです。これは東シナ海での離島防衛を南シナ海とリンクさせるもので、大きな有意性をもったものだと言えるでしょう。
なお、今回の改定による地域指定の撤廃は南シナ海だけではないとのご指摘もあると思います。確かに中東なども射程に収めた内容だとは思いますが、やはり前述の状況証拠や政府の政策としての重きの置き方を見ても、メインは南シナ海が射程でしょう。
【第2の意義】豪・ASEAN諸国も含めネットワーク型の同盟へ
第2は、豪州やASEAN諸国などを加えて、「直線からネットワーク型の同盟」へと日米同盟を変質させたことです。
ガイドラインと合わせて発表された「2+2」共同会合の共同声明が、「沿岸巡視船の提供及びその他の海洋安全保障能力の構築のための取組によるものを含め、特に東南アジアでのパートナーに対する能力構築における継続的かつ緊密な連携」「特に韓国及び豪州並びに東南アジア諸国連合等の主要なパートナーとの3カ国及び多国間協力の拡大」といった最近の動きを強調したように、今回のガイドライン改定により、日米同盟は東南アジア諸国や豪州をも取り込んでいくとの方向性を内外に示しました。
実際、今回の改定を受けての一連の安保法制では、米軍以外の外国軍との協力を前提とする改正項目が非常に目立ちます。
これは日本が米国との直線的な同盟に、緩やかではあるものの豪州やASEAN諸国といったパートナー国との防衛協力を加えることで、ネットワーク型の同盟へと変化させていくことを意味しています。つまり、日米同盟が基軸でありながらも、そこにフィリピンや豪州などとの防衛協力関係を追加していくことで、全体の軍事力と抑止力を強化するという意味を持っています。
しかも、この構造は日本側が米国を引きずり込みやすくなるという効果があります。米国の同盟国同士が一致して、米国に防衛義務を順守するように要求する構造になるからです。同盟国と米国が個別に協力するより、同盟諸国がまとめて米国と協力した方が対米交渉力が上がるということです。要するに日本単独で米国の関与を要請するよりも、豪州・フィリピン・韓国等を巻き込んで米国に要請する方が実現可能性が高いということです。その意味で、日本の抑止力は米軍の来援可能性を上げておくという意味では向上するでしょう。
余談ですが、90年代の米国は、こうした構図に警戒感があり、日米韓協力の枠組みには後ろ向きだったと言われますが、今回、米自身が積極的な姿勢を見せ、受け入れたことは米中間のパワーシフトを感じさせます。
今後は先述のように、日本、米国+フィリピンや豪州等といった形での平時における能力構築、演習、地域での展開が行われると思われます。ただし、そうした活動は、将来的にはともかく、当面は「平時」の活動が中心(それも少しずつの展開)となると思われます。
なぜならば、日本国民のコンセンサスが、中国の脅威のためにフィリピンに対して集団的自衛権を行使するということまではさすがに許容しないからです。実際、こうした動向をほとんどの国民にとっては想定の埒外であるにもかかわらず、共同通信社が4月30日に発表した調査では、半数に近い47.9%がガイドライン改定に反対しています。
そもそも、次回指摘するように平時の展開でさえ自衛隊の能力を超えています。自衛隊の装備体系や戦力配置は、地域外での活動を前提としていませんし、過去のインド洋派遣の際にも大きな負担となりました。また、ジプチのように自衛隊の哨戒機をフィリピン基地での補給・修理を可能とさせるには、米国と同様のフィリピンとの協定を締結しなければなりません。
ただし、先述のように将来的には有事における後方支援も射程に入っているのは間違いなく、将来的な方向性として目指していると思われます。
【第3の意義】日米の軍事同盟を制度的に強化
第3は、日米の軍事同盟の制度的な強化です。
今回のガイドラインでは、「日米両政府は、新たな、平時から利用可能な同盟調整メカニズムを設置し、運用面の調整を強化し、共同計画の策定を強化する」との内容が盛り込まれました。
1997年のガイドラインでも、「日米両国政府は、緊急事態において関係機関の関与を得て運用される日米間の調整メカニズムを平素から構築しておく」との一文が入っていたのですが、有事における立ち上げが前提となっていました。また、災害時に立ち上げるとの規定もありませんでした。東日本大震災では、急きょ、ガイドラインに準じる形で、日米共同調整所を設置しましたが、防衛省の検討会議でも指摘されているように、急ごしらえ故の様々な運用上の課題を残しました。
今回は、こうした課題を解決するために、新たに常設形式の同盟調整メカニズムが設置されることとなりました。その意味で、日米の軍事面での調整機構が平時から設置されることで、より制度的な強化が図られたと指摘できます。ただし、これをもって同盟調整メカニズムはNATOや米韓同盟のような連合指令部のような役割を果たすとするのは、将来的にはともかく、これまでの経緯からも組織論からも時期尚早な見方かもしれません。
また、その他の制度的な面での進展は「領域横断的な作戦(cross-domain operation)」という新しい概念が盛り込まれましたことでも明らかです。日米共同で、日本に対する武力攻撃を排除し及び更なる攻撃を抑止するために「領域横断的な作戦」を行うというのです。
耳慣れない言葉ですが、「領域横断的な作戦」とは、陸上、海洋、空、宇宙、サイバー空間の5つの空間の内、2つ以上の空間を組み合わせた作戦を意味します。この作戦は、中国の「A2/AD能力」のような非対称戦略に対抗するものです。
A2/AD能力とは、航空兵力、ロケット、火砲、巡航ミサイル、弾道ミサイル、潜水艦、小型攻撃艇、スマート機雷による直接打撃と、サイバー攻撃や衛星攻撃等による間接打撃を併用して、米国が中国周辺に接近できず、またそこで行動できないように追い込む能力です。
米軍は、2011年頃より、こうした米国に対抗しようとする諸勢力(テロリストから国家まで)が増強するA2/ADを突破して、あらゆる地域に米軍の戦力を確実に投入する「作戦アクセス(operational access)」を成し遂げられるかに米国の国益がかかっていると国防総省の文書などで説明しております。
そして、その中核となるのが、「領域横断的な作戦」だと言うのです。つまり、A2/AD能力で米軍のどこかの空間の戦力を破壊しようとしても、米軍は別の空間の優位性を生かして、逆転し、行動の自由を確保するのが、「領域横断的な作戦」なのです。
米軍の過去の文書では、「領域横断的な作戦」には、2つの「統合(integration)(注1)」が必須とされています。それは、陸・海・空・宇宙・サイバーといった複数の戦闘空間を柔軟に結ぶ「統合」と、戦術レベルのような従来よりも低い階層における「統合」です。
つまり、自衛隊の陸・海・空・宇宙・サイバー空間におけるそれぞれの戦力が、米軍と一体化するということを意味しているのです。これは、日米共同作戦がこれまで以上に一体化して行われることを意味しており、この意味でも、日米の軍事同盟の側面はより強固になると言えるでしょう。
また、米軍の新しい作戦コンセプトを受け入れたことで、我が国の防衛における自主性の問題は残りますが、中国のA2/ADという日本列島が丸々おさまってしまう脅威に日米共同で対処する方向性が示されたことは肯定的に評価すべきでしょう。なにしろ、中国のA2/AD戦力に我が国一国での対抗はもはや難しいのですから。
(注1)この場合、「領域横断的な作戦」における「統合」は、必ずしも "joint" の意味での統合ではないことに注意が必要です。"joint"とは「軍種間の統合」を指します。一方、軍種を問わず、陸・海・空・宇宙・サイバー空間 における戦力を2つ以上「統合(integrate)」するのが「領域横断的な作戦」です。
全般的には成功と言える改定
以上、今回のガイドライン改定における3点の意義を指摘しました。
これらは、米軍と自衛隊が制度的な面でかなり密接化することを意味し、抑止力と対処力を向上させます。併せて日本周辺から南シナ海へと米軍とともに展開し、豪州やASEAN諸国との軍事的な協力関係を深めていく方向性を象徴するものとなりました。特に、離島防衛は、東シナ海と南シナ海がリンクすることになり、フィリピンとの同盟も将来的に予想されます。
無論、次回指摘するような課題や問題もありますが、それ以上に離島防衛の抑止力と対処力を増加させることは間違いなく、全般的には素晴らしい成果だったと言えます。まず成功だと言えるのではないでしょうか。
日米の一体化を自主性の面から批判する向きもありますが、残念ながら中国は地域大国からグローバルな大国へと脱皮しつつあります。我が国はせいぜい地域大国かミドルパワーです。経済成長が2%近くになったと歓喜する国家が、6%になりそうだと嘆いている国と正面から対抗するのは不可能です。軍事的には、中国のA2/AD戦力を中心とする軍拡には、日本一国では対抗するのは難しいでしょう。
であるならば、米国などを引きずり込んだ上で「保険」を確保し、軍事的なつり合いを確保した上で、日中関係を平和的に進展させ、日中間の経済や技術協力などを進捗させるしかないでしょう。
その意味で、今回のガイドラインで示された方向性は、まず評価されてもよいのではないかと思います。
しかし、何事にも残された課題はあります。そして、比類なき効果の高さとは、それに応じたコストとリスクをしばしば要求するものです。次回は、米国の対日防衛の曖昧化、我が国の能力的な限界性、本格的な武力紛争への備え、国民の理解等の残された課題や問題を中心に指摘したく思います。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43784
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