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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43754
安易に売るべきではない日本の潜水艦「先端技術」
日本の国益に適する輸出先はどこか?
2015.5.14(木) 北村 淳
先端潜水艦技術は国家最高機密の1つである。海上自衛隊のそうりゅう型潜水艦「そうりゅう」SS501(写真:防衛省)
ゴールデンウィーク明けの5月7日、時を同じくして日本に“関係する”潜水艦の話題が浮上した。
まず韓国海軍は、214型攻撃潜水艦の6番艦である「柳寛順」を進水させた。韓国で「孫元一」級潜水艦と呼ばれている214型潜水艦は、ドイツのホヴァルツヴェルケ=ドイツ造船が開発した輸出用の潜水艦である。沿海域での運用を想定しているドイツ海軍用の212型潜水艦を遠洋での長期作戦行動にも適応するように大型化したもので、韓国内でライセンス生産されている。
この潜水艦は、朝鮮の女性独立運動家である柳寛順(1902〜1920年)にちなんで命名された(ちなみに、同型潜水艦の3番艦名は伊藤博文を殺害した「安重根」である)。韓国当局によると「日本の植民地支配に抵抗し、自由と独立を叫び祖国の闇を照らした柳寛順の民族愛の精神が、祖国の海を守る最新潜水艦として復活した」との触れ込みである。
命名はともかく、アメリカ海軍の東アジア戦略家の間では、韓国当局の潜水艦運用構想に関して、以下のような疑義が生じている。
「韓国当局は北朝鮮の脅威を封じるために潜水艦戦力を強化すると称しているが、大型の外洋型潜水艦を欲しているのは、他の目的があるということなのか?」
「比較的強力な214型潜水艦を用いれば、中国海軍北海艦隊の作戦行動を、ある程度は抑制することができる。しかしながら、韓国とともにアメリカの同盟国である日本に対して中国海軍が現実的脅威を加えた場合に、韓国政府がそのような行動に出る可能性は低いと考えざるをえない。何のための214型潜水艦なのだろうか?」
214型攻撃潜水艦(Wikipediaより)
オーストラリアの次期潜水艦選定に日本が参加
続いてオーストラリアの潜水艦選定に関する話題である。
かねてよりオーストラリア当局は、日本、ドイツ、フランスに対してオーストラリア海軍の次期潜水艦選定手続きに参加するよう要請していたが、韓国の「柳寛順」が進水したゴールデンウィーク明け、日本政府はオーストラリアへの最先端技術提供を前提とした選定手続きへの参加の意向を明らかにした。
現在、オーストラリア海軍は、スウェーデンのコックムス社が開発した6隻の「コリンズ級」攻撃潜水艦を運用している。周辺海域が広いという地理的理由と、敵の脅威を自身の海岸線からできるだけ遠方の海域(たとえばインドネシアやフィリピンなどの島嶼海域の海峡部)で除去するという戦略的理由から、オーストラリア海軍はできるだけ大型の潜水艦を欲している。
ただし、オーストラリア自身は潜水艦開発建造能力を保有していない。そのため、海外からの輸入あるいは共同開発に頼らざるをえない。
オーストラリアの潜水艦運用構想に適しているのは攻撃原子力潜水艦であるが、同盟国アメリカといえども国家最高機密の1つである原潜のオーストラリアへの輸出は不可能に近い。一方、原潜に代わる大型の高性能通常動力潜水艦ならば、輸入あるいは共同開発を見込める。そこで、そのような潜水艦建造能力を持つ友好国であるドイツ、フランス、そして日本に声をかけたのである。
先端潜水艦技術は国家最高機密の1つ
オーストラリア海軍の欲している通常動力潜水艦に最も適合しているのは、海上自衛隊が運用中の「そうりゅう」型攻撃潜水艦であることは異論を待たない。ただし、国際海軍常識にしたがうと、日本が現行の主力潜水艦技術を、いくら友好国に対してとはいえ、そうたやすく提供するとは考えにくい。
もっとも、オーストラリアが次期潜水艦選定を模索し始めた数年前には、日本は武器輸出三原則が存在していたため、「そうりゅう」型潜水艦の輸入あるいはその技術移転は望むべくもなかった。オーストラリア海軍にとっては、幸運にも安倍政権が武器輸出禁止三原則を転換し、兵器や軍事関連技術の輸出解禁政策に踏み切ったため、日本の潜水艦あるいは潜水艦技術を入手できる可能性が生じたのである。
しかし、上記のように、国家最高機密の1つである最先端潜水艦技術を積極的に外国に(この場合、当然のことながら同盟国や友好国に限られる)提供しようという国家が存在することは想定しにくい。おそらくオーストラリアにしても、すんなり日本政府が「そうりゅう」型潜水艦の先端技術を提供するとは考えてはいなかったと思われる。
しかし、日本政府は安倍政権が打ち出した「防衛装備移転三原則」の実施を急ぐためなのか、最先端潜水艦技術の提供という国際的には稀有な方針を積極的に推進しようとしている。
オーストラリア海軍はともかく、アメリカ海軍関係者には、このような日本政府の「潜水艦先端技術売り込み」方針に驚きを隠せないものが少なくない。「神以外はすべてを疑え」をモットーにする米海軍情報部の関係者などは次のように指摘している。
「いくらオーストラリアが友好国であるといっても、つい最近には親中派が政権を担ったこともあるオーストラリアに最先端潜水艦技術を提供することの危険性を、日本は考えるべきではなかろうか?」
「アメリカにとって日本は重要な同盟国ではあるものの、原子力潜水艦を日本に提供することは極めて困難だ。海自のAIP潜水艦(「そうりゅう」型潜水艦)技術は、日本にとってはアメリカの原潜技術に匹敵する。日本政府は最先端潜水艦技術の重大性を正しく認識しているのだろうか?」
東南アジア諸国に輸出するほうが日本の国益にかなう
米海軍関係者が指摘するまでもなく、日本の潜水艦技術陣が培ってきた、「日本国防技術の宝」とも言える最先端潜水艦技術を“気前よく”オーストラリアに提供するのは、海千山千の国際軍事社会においてはあまりにも“お人好し”に過ぎる、特異な風景と言わざるを得ない。
その最先端潜水艦技術は、一歩間違えば海上自衛隊の主力潜水艦を危殆(きたい)に瀕せしめかねない。そんな技術を他国に提供するくらいならば、同じ潜水艦分野でも一世代前の潜水艦や技術を輸出したほうが国防上安全であることは言うまでもない。
一世代前の海自潜水艦でも台湾や東南アジア諸国には強力な助っ人になる(おやしお型潜水艦「いそしお」SS594、写真:海上自衛隊)
もちろん、オーストラリアに「そうりゅう」型潜水艦関連技術を提供したり、共同開発を実施することにより得られる利益もある。その利益を日本自身の潜水艦調達に投入することで、海自の潜水艦戦力の強化が図れるかもしれない。しかし、オーストラリア海軍の調達予定数は6隻であり、上記のような危険性と利益衡量(こうりょう)すると、日本にとって決定的に“美味い話”ということにはならない。
このような経済的見返りに着目するならば、海自の一世代前の潜水艦をアメリカ経由で台湾に供与したり、シンガポール、インドネシア、マレーシアそれにベトナムなど東南アジア諸国に輸出したほうが、日本にとっての経済的効果は大きい。
(アメリカは台湾に通常動力潜水艦8隻を供与する約束をしているが、アメリカ自身が通常動力潜水艦を建造する技術を持っていないため、その約束が長らく実現できない状況が続いている)
戦略的に考えても、オーストラリア海軍の潜水艦戦力が強化されるよりは、台湾や南シナ海周辺の日本にとって友好国の潜水艦戦力が強化されるほうが、「南シナ海を縦貫するシーレーンの自由航行を中国海軍の魔手から防御する」という日本の国益により直結する。
日本政府は躍起になってオーストラリアに最先端潜水艦技術を売り込もうとしているのであるから、やや古い世代の潜水艦やその技術を輸出することに関しては、全く国内的な問題はないはずである。したがって、日本の防衛に“より直結”するとともに経済効果も大きい台湾や東南アジア諸国への潜水艦輸出を、オーストラリアへの技術移転より優先させたほうが、日本の国益に資することは明らかであろう。
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