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南シナ海で人工島の建設を加速させる中国
2015年5月8日(金) The Economist
中国は南シナ海における領有権の拡大を目指し、数カ月にわたって埋め立て作業を急ピッチで進めてきた。そして昨年11月、より巧妙な取り組みを新たに始めた。南シナ海北岸の常夏の島、海南島――この島は間違いなく中国領――にある中国南海研究院 の出先機関として、米バージニア州アーリントンにシンクタンクを開設したのだ。インスティチュート・フォー・チャイナ-アメリカ・スタディーズと名付けられたこの新しいシンクタンクの役割の1つは、戦略的な重要性を持つこの海域の大半は中国の領海だという根拠の薄い同国の主張(東南アジア諸国はこれに対抗する主張をしている)に、学術的な裏付けを与えることだ。
インスティチュート・フォー・チャイナ-アメリカ・スタディーズは4月16日、ワシントンのホテルで会議を開催した。同機関はこの場で中国政府と太いパイプを持つことを明らかにした。中国の指導者らが崇拝するヘンリー・キッシンジャー元国務長官が、ビデオ・スピーチの中で中米関係の重要性を訴えたのだ。同会議には駐米中国大使の崔天凱氏が出席した。崔氏は聴衆に向けて、南シナ海における中国の権益は断固として守るとしながらも、同地域で中国は「抑制を持って」行動すると語った。
中国の南シナ海での活動にASEAN諸国が共同で懸念を表明
南シナ海における領有権(中国の公式地図を見ると、極めて大雑把な破線でその地域が示されている)の主張に学術的な根拠を与えようと中国が努力しても、米国や東南アジアの人々の多くを説得できる公算は小さい。
中国は最近6カ所以上の岩礁で、滑走路をはじめとする様々な施設の建設を始めた。こうした建設活動の活発化は、ブルネイ、マレーシア、ベトナムなど、同様に南シナ海における領有権を主張する他の国々の警戒心を煽っている。米国の友好国であるフィリピンもそうした国の1つだ。ASEAN(東南アジア諸国連合)に加盟する10カ国の国家元首が4月28日、フィリピンに程近い海域を中心に中国が行っている人工島の建設活動について、「平和、安全、安定」に対する潜在的な脅威だと訴える声明を発表した。これはこれまでにないほど強い口調だった。
バラク・オバマ米大統領は安倍普三首相の訪米中、この建設活動に対する「懸念」を表明し、「力を誇示している」として中国を非難した。これに対し中国の外務省報道官は、中国の行動は誰も標的にしておらず、「非難されるべきものではない」と反論した。
岩礁上で建設が進む長さ3000メートルの滑走路
領有権を主張する国々は、どこも似たような行動をとっている。人工島の建設は昔から、領有権を主張するための常套手段だった(地図を参照)。だが、中国が進める建設活動のスピードと規模には瞠目すべきものがある。
コンサルタント会社のHISジェーンズは今月、ある衛星写真を公開した。中国が今年に入り、軍事目的にも使用可能な施設の建設を急ピッチで進めていることを示すものだった。こうした施設の1つがフィアリークロス礁(永暑礁) の滑走路だ。完成時には全長3キロメートルに達するとみられる。この岩礁の面積は今や南沙諸島にある最大の(自然の)島の3倍もある。HISジェーンズと米戦略国際問題研究所(CSIS) ――米国のシンクタンク――が公開した衛星写真には、同じく南沙諸島のミスチーフ礁で同様の活動が進められている様子が写っている。
強硬姿勢を強めてきた中国
注目すべきことに、南シナ海における中国の活動は、外交上生じている他の案件への対応と矛盾している。例えば昨年末以降、中国は尖閣諸島を巡って争ってきた日本との関係修復に動いている。また長い国境線を巡って敵対してきたインドにも接近を図りつつある。その試みの一環としてこの6月に、ナレンドラ・モディ首相を北京に招いて歓待する予定だ。
中国の当局者に言わせれば、中国は南シナ海において、他の国がしていたことをしているに過ぎないらしい。だが東南アジア諸国の当局者は、中国の建設活動は、2002年に合意した「行動宣言」 の精神を反故にするものだと怒りをにじませる――この宣言において中国は同地域での活動を「自制する」ことを謳っている。南シナ海での建設活動は、これまで米国が支配的な影響力を及ぼしてきたこの地域で、中国が権力を誇示する余地を広げるために行っている努力の一端だと分析する向きが多い。
中国が南シナ海で進める埋め立て作業は、同国がこの地域でこれまでに取ってきた強腰な行動パターンと軌を一にするものだ。2011年には南沙諸島近辺で、中国の巡視船がベトナムとフィリピンの石油探査船を威嚇した。2012年にはスカボロー礁の領有権を巡ってフィリピンとの対立を激化させた挙句、同礁を占拠した。
昨年はベトナムが領有権を主張している海域に中国国営石油会社が海洋石油リグを設置。これをきっかけにベトナムで反中デモが激化した。同社がリグを撤去したのは事態が始まってから数カ月経ってからのことだった。2013年には南シナ海の領有権を巡って、フィリピンが国連海洋法条約に基づき仲裁裁判所に提訴した。中国はこれに対して猛烈に抗議し、ヒアリングへの出席を拒否している。仮に中国が敗訴すれば――中国の専門家の中にはその可能性を認めている者もいる――中国は姿勢をなお一層硬化させるだろう。
狙いは「誰もが得をするが、中国が一番得をする」
しかしながら中国は、自らの行動がもたらす結果を受け入れる用意ができているようにもみえる。そうした結果の1つが、米国のいわゆるアジア「回帰」(現在は「リバランス」と呼ばれる)――同地域における米国の友好国はしばしば、この政策を絵に描いた餅と見なしている――が現実味を増すリスクだ。
昨年、フィリピンと米国は相互防衛協力協定を「強化」することに合意した。ちなみに両国は最近、過去15年間で最大規模の合同軍事演習を行っている。また安倍首相が訪米した際に、「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)の改定に合意した。これは日米双方が一層の軍事協力を行うことを可能にするものだ。米国はまた、かつての敵ベトナム(中国の敵でもあった)とも軍事関係の強化に動き出している。
中国国営メディアはネット上で長々と言を弄して反論を試みている。こうした対応は、ネット上で声を上げる感情的なナショナリストの歓心を買っているようだ。だが、先頃バージニア州に新たなシンクタンクを設立したのは、中国の主張を海外でより広く受け入れてもらうための取り組みの一部だ。
昨年9月、中国東部に位置する南京大学の中国南海研究協同創新センター が初めて、博士課程の学生を受け入れた。その目的の1つは恐らく、中国の主張(領有権の主張は中国共産党が権力を掌握する以前、1940年代に遡る)を支持する学術文書を探し出すことにある。同シンクタンクがワシントンで開催した会議に出席した上海・復旦大学の沈丁立 ・国際関係教授は、政府は南シナ海関連の研究にとりわけ積極的に費用を投じていると述べている。同教授によれば、「中国の主張を正しく人々に知らしめるために効果的に語りかける」ことをできるようにすることが目的だ。
だが、この試みはそう簡単にはいかないだろう。中国の学術関係者は、同国の軍部の秘密主義に直面しているからだ。中国では文民の指導者は状況を完全には把握していない、という事情があるとみられる。最近、南シナ海における埋め立て活動が明るみに出たのも、衛星写真が海外で公開されたからだ。インスティチュート・フォー・チャイナ-アメリカ・スタディーズの責任者、Hong Nong氏は、南沙諸島で建設活動が急速に進んでいることを示す最近の衛星写真を見て「驚いた」と認めた。
ちなみに同氏はこの衛星写真をCSISのウェブサイトで初めて見たという。同氏は中国の近隣諸国の懸念は理解できるとまで踏み込んだ発言をした上で、中国は近隣諸国と対話を重ね、「透明性を高めて」これらの国々の警戒感を解くべきだと述べた。
中国には、南シナ海の領有権に関する自らの主張の正しさ(自説によれば)を認めさせる以上に伝えたい、より幅広いメッセージがある。ニューサウスウェールズ大学のカーライル・サイヤー教授によれば、中国の戦略はこうだ――東アジアの秩序において中国が支配的な役割を担っていることを、ソフトパワーなどの手段を通じて、近隣諸国に「徐々に」受け入れさせる。先出の沈氏はこのことを基本的に認めている。彼によれば、中国の狙いは「誰もが得をするが、中国が一番得をする」ことにある。
©2015 The Economist Newspaper Limited.
May 2nd 2015 | BEIJING | From the print edition 2015 All rights reserved.
英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
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