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南シナ海に潜る中国の核を日米で抑える!新日米防衛ガイドラインの肝は「一体化」
2015年5月1日(金) 森 永輔
日米両国の政府は4月27日、「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)を改定した。日本国際問題研究所の小谷哲男主任研究員は今回の改定のポイントを「対中抑止の強化」と見る。具体的には、自衛隊と米軍の一層の一体化、それを担保するための調整メカニズムの常設化、地理的制約の撤廃に注目する。小谷氏は新ガイドラインを「90点。現行憲法の下では、これが限界」というレベルまで日米安全保障協力のレベルを高めたと評価する。
日米両国の政府が1997年以来18年ぶりに「日米防衛協力のための指針」(以下、ガイドライン)を改定しました。新ガイドラインに対する評価と課題をお伺いしたいと思います。まず、評価できる点は何でしょう。
小谷:共同で作戦を行う自衛隊と米軍がこれまで以上に一体性を高められるようになることと、日米協力に地理的制約がなくなることです。
小谷哲男(こたに・てつお)
日本国際問題研究所主任研究員/法政大学兼任講師/平和・安全保障研究所研究委員
2008年同志社大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。その間、米ヴァンダービルト大学日米センターでアジアの安全保障問題、特に日米関係と海洋安全保障に関して在外研究に従事する。その後、海洋政策研究財団、岡崎研究所を経て現職。現在は、中国の海軍力や尖閣諸島を巡る日中対立を中心に研究・発信するとともに、「海の国際政治学」を学問として確立すべく奮闘中。
一体性については、例えば平時においても自衛隊が、共に行動している米艦船を防護することができるようになります。従来は「周辺事態」*1が起きた時であっても自衛隊は、共同作戦の下で共に行動している米艦船が攻撃された場合に、これを防護することはできませんでした。自衛隊に許されているのは後方支援だけだからです。
*1: 周辺事態法は「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等、我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」と定義している。
一体性を高める上で欠かせないのは、日米で情報を共有し、情勢認識を一致させることです。これを実行するため、「同盟調整メカニズム」を平時から設置することを決めました。これまで、同盟調整メカニズムを平時に設置することはできませんでした。NATO(北大西洋条約機構)や米韓同盟には連合指令部があります。同盟調整メカニズムは連合指令部に近い役割を果たすことができるでしょう。
同盟調整メカニズムというのは、東日本大震災の時にトモダチ作戦を遂行するに当たって自衛隊と米軍との間に設置した「連絡調整所」のようなものでしょうか(関連記事「トモダチ作戦、米兵はシャワーすら浴びなかった」)。
小谷:その通りです。震災の時に連絡調整所が有効に機能したのを受けて、今回の決定がなされたのだと思います。
今や、平時においてこそこのメカニズムが必要になっています。日米の軍事力の方が勝っていることを認識する中国は、武力攻撃に至らないグレーゾーンにおいて政治的目標を達成しようと考えるからです。平時においても同盟調整メカニズムを設置できれば、グレーゾーン事態において日米の強い意志を示すことができるようになります。
例えば、1996年に台湾で総統選挙が行われた時、台湾独立を唱える李登輝が優勢だったため、中国軍が台湾に向けてミサイルを発射し介入しました。この時、米国は空母2隻を派遣し台湾を防衛する意思を明確にすることで、事態が悪化するのを防ぎました。今後は、同盟調整メカニズムを通じて固めた日米共同の意思を、同じように示すことができるようになるでしょう。
海上自衛隊(海自)で自衛艦隊司令官を務められ香田洋二さんにお話しをうかがったことがあります(関連記事「尖閣占拠より恐い南西諸島・食の道の遮断」)。香田さんは「現代の軍隊の活動の95%は平時の情報収集だと言っても過言ではありません」とおっしゃっていました。情報の収集と共有は重要ですよね。
この時、香田さんは「(日本は)集団的自衛権の行使を認めてこなかったため、(自衛隊は)収集した情報のうち、米軍の攻撃に直接結びつく情報は提供することができませんでした」とも言われていました。新ガイドラインの下では、この制約が外れるのでしょうか。
小谷:外れます。これは、集団的自衛権の行使を限定容認した昨年7月の閣議決定が新しいガイドラインに反映された顕著な例です。この閣議決定まで、「日本は集団的自衛権を行使できない」としていたので、自衛隊の現場部隊が「米軍の攻撃に直接結びつく情報」を米軍に提供することに制約を課していました。武力行使に相当すると捉えていたのです。
国のレベルで集団的自衛権が行使できるかどうかという問題と、現場の部隊同士が情報を共有できるかどうかは本来、別の問題なのですが、日本ではこのように運用されてきました。他の国の部隊運用規定を見ると、自衛隊の部隊に課されてきたこの制約は異例です。部隊の司令官は、その部隊を守る権利と義務を持っています。部隊を守るために、共に行動する部隊同士で情報を共有するのは当然のことなのです。昨年7月の閣議決定によって、国レベルで集団的自衛権を限定行使できるようになったので、現場部隊の運用に対する規制も緩和されることになりました。
ペルシャ湾における機雷掃海も視野に
第2の評価ポイントである地理的制約がはずれると、具体的に何ができるようになるのでしょう。
小谷:例えば中東で紛争が起き、ホルムズ海峡が機雷で封鎖されたとします。これが「存立危機事態」と見なされれば、機雷を掃海することができるようになります。これまでは、戦争が終わるまで自衛隊は機雷掃海をすることができませんでした。
「存立危機事態」というのは集団的自衛権の行使が認められる事態ですね。
小谷:おっしゃる通りです。
「存立危機事態」とみなされなくても、「重要影響事態」とみなされれば、自衛隊は武器弾薬の提供も含めて米軍の後方支援を中東で行うこともできるようになります。これまでの「周辺事態」は「中東やインド洋で起こることは想定されない」という小渕恵三首相(当時)の国会答弁を踏まえて、これらの地域は自衛隊による後方支援の対象外とされてきました。
米国は地理的制約をはずすことをとても重視していたようですね。カーター米国防長官が「新ガイドラインには地理的な制約がない。これはとても大きなチャンスだ」と発言しています。それはなぜでしょう。中東情勢を非常に不安視しているということでしょうか。
小谷:そうですね。機雷によってペルシャ湾が封鎖される事態は絵空事ではありません。イラン・イラク戦争において実際に発生しました。この時、近海を航行する各国のタンカーがミサイルで攻撃を受けることもありました。湾岸戦争でもイラクがペルシャ湾に機雷を敷設しました。
核交渉が進展しているものの、イランとの関係がどう転ぶかは不透明です。「イスラム国」の問題もあります。サウジアラビアとイエメンの情勢もきな臭さが増しています。インド洋では、インド=パキスタン関係がいつ悪化してもおかしくありません。
南シナ海において対中抑止力を高める
小谷さんは、自衛隊が南シナ海で行う活動に注目されていますね。
小谷:はい。新ガイドラインが念頭に置くのは対中抑止です。ガイドラインの改定に伴って実施した日米の外相・防衛相の記者会見で尖閣諸島の防衛に言及されましたが、尖閣諸島よりも南シナ海の問題の方が日米全体の安全に重要な意義を持っています。中東と日本をつなぐシーレーンの維持にかかわりますし、何と言っても、中国の軍事戦略の核は南シナ海ですから。
海上自衛隊が南シナ海で、中国が運用する長距離核ミサイル搭載潜水艦の警戒・監視に参加することも想定されていますね。これも新ガイドラインに基づいてできるようになることですか。
小谷:いえ、これはこれまでもやろうと思えばできたことです。警戒・監視は平時でも可能。例えば、アデン湾周辺における海賊の活動を監視するため、海自のP-3Cが派遣されています。しかし、先ほど森さんが指摘されたように、米軍との間でこれまで以上の情報を共有できるようになります。これによって、米軍と協力して、中国の戦略核を抑止することが可能になります。
中国が南シナ海で周辺国と戦争になれば、機雷を敷設して米軍の接近を阻止しようとするでしょう。これが存立危機事態と見なされれば、海上自衛隊が掃海に取り組むことができるようになります。警戒・監視も機雷掃海も中国に対する抑止力を高めることにつながるでしょう。
「日米安保条約を逸脱」との批判
新ガイドラインに対して、「日米安全保障条約の枠を逸脱するもの」との批判があります。安保条約の第6条は「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される」とし、地域を日本を含む極東に限定する表現になっています。これに対して新ガイドラインは重要影響事態が起きる範囲を「地理的に定めることはできない」として地理的制約を外しています。
小谷:「極東における国際の平和及び安全の維持に寄与する」という文言は、極東地域で起きた紛争にだけ対処するということではなく、極東の域外で起きた出来事であっても、極東の平和を害するものであるならば対処するという意味。政府はこのように解釈しています。日米安保条約の条文を改める必要はないでしょう。
2005年に「日米同盟:未来のための変革と再編」が合意された時にも同様の批判がありました。「地域及び世界における共通の戦略目標を達成するため、国際的な安全保障環境を改善する上での二国間協力は、同盟の重要な要素となった」との表現が問題視されたのです。しかし、この点は、現在は受け入れられています。解決済みと考えてよいのではないでしょうか。
新ガイドラインは、与党協議や国会での議論を軽視するものとの批判もあります。連休明けから国会で議論が始まる新安保法制案が成立することが前提になっているからです。
小谷:その点については大きな問題とは考えていません。日本の安全保障に対する大きな考えは昨年7月の閣議決定で示されています。また新ガイドラインは冒頭で「指針は、いずれの政府にも法的権利又は義務を生じさせるものではない」と明記しています。
ちなみに米国がガイドラインの改定に応じるに当たって、この閣議決定が大きな役割を果しました。それまで米国はあまり乗り気ではありませんでした。ガイドライン改定の話が出たのは民主党政権の末期。尖閣諸島を巡って中国との緊張が高まったため、民主党政権は米国の一層のコミットを求めました。しかし、米国には改定する理由がありませんでした。むしろ、日中の紛争に巻き込まれる可能性が高まることを懸念していた。
しかし安倍政権は閣議決定をし、日本が主体的に従来以上の役割を果す姿勢を示しました。これが米政権を動かしたのです。加えて、中国が東シナ海に防空識別圏を設定したことも作用しました。米国で対中懸念が高まったのです。こうした一連の流れの中で米国は「日本を支援した方が対中抑止を強化できる」と判断を改めました。
日米同盟を柱に、日米豪の協力を推進
今回のガイドライン改定は、中国の軍事的台頭を念頭に、アジアにおいて多国間防衛体制を築くための布石である、との見方があります。これをどう見ますか。
小谷:同じ考えです。中国の台頭と米国の力の相対的低下が背景にあります。ただ、正確に言えば、アジアに複数存在する3カ国関係をそれぞれ強化することへの布石でしょう。
現在のアジアの安全保障体制はハブ&スポークスと言われます。米国を核(ハブ)に、日米、米韓、米豪などの2カ国間同盟がいくつもある状態です。米国はこの状態を改め、日米オーストラリア、日米インド、日米韓といった3カ国による安全保障体制をそれぞれ強化しようと考えています。いずれの3カ国体制も、強化された日米同盟をドライバーに進めていくことになるでしょう。現在の情勢だと、日米韓の協力強化は難しいかもしれませんが。
日米豪と日米印を地図上で示すと、その中にASEAN(東南アジア諸国連合)諸国と南シナ海が入ります。これも重要な点です。
最後の質問です。新ガイドラインを採点すると何点が付けられますか。
小谷:90点を付けられると思います。現行の憲法の範囲内では、これ以上は望めないでしょう。
満点に足りない10点は何でしょう。
小谷:残りの10点は、存立危機事態と重要影響事態を区別することなく、日米が後方支援から共同防衛まで協力できるようになることだと思います。もちろん、これには憲法改正が必要となります。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20150430/280640
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