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撤退するアメリカと「無秩序」の世紀
【第4回】 2015年5月1日 ブレット・スティーブンズ [WSJ外交問題コラムニスト・論説欄副編集長],藤原朝子 [学習院女子大学]
衰退するアメリカ軍と増長する中国を比べてみた
アメリカ軍がどんどん衰退している。米国の軍縮の一方で尖閣諸島をはじめ、南シナ海での領有権の拡大を目論む中国。アメリカの衰退と中国の台頭がもたらす混乱を『撤退するアメリカと「無秩序」の世紀』の著者でもあり、ピューリッツァー賞受賞・WSJコラムニストが分析する。
軍縮を続けるアメリカ
実際、アメリカ軍の軍事支出のトレンドを見ると、懸念は一段と深まってくる。チャック・ヘーゲル国防長官が軍事費の大幅な削減を発表する前から、ペンタゴンの戦力は支出と反比例していた。
二〇〇一年九月一一日、アメリカ海軍は三一六隻の艦艇を保有していた。それから一〇年で海軍の予算は約一三〇〇億ドルから一八〇〇億ドル超に増えたが、保有艦艇数は二八五隻に減った。
二〇〇一年、アメリカ空軍保有機の平均運用年数は二二年だったが、一〇年後はパイロットとほぼ同年齢の二六年に伸びた。これは主に、国防総省が転換機を十分に配備できなかったからだ。
史上最高の単発機ともいわれるF16戦闘機は、一九七四年の初飛行を経て一九七八年までに空軍に配備された。これに対してやはり単発機のF35戦闘機は、二〇〇六年に初飛行をしたものの、早くとも二〇一五年まで配備の予定はない。
現在、アメリカがワンシーターの次世代ジェット機を開発するのには、人間を月面に送るよりも長い時間がかかる。開発コストが安い無人機プレデターを除くと、過去一〇年間、最新鋭のステルス戦闘機F35から次期空中給油機KC‐X、さらには沿海域戦闘艦まで、ペンタゴンの主な調達計画のほぼすべてが大失敗に終わった。
超ハイテク兵器を配備するための技術的条件が厳しくなっていることや、軍需業者に対する政治的要求や事務的要求が高まっていることなど理由はいろいろある。いずれにしろその影響は懸念すべきものだ。アメリカ軍の調達面における「費用対効果」が低下する一方で、アメリカを倒すテクノロジーやテクニックのコストはどんどん下がっている。
現代の戦争は、「武力か非武力か、軍事的か非軍事的か、あるいは致死的か非致死的かを問わず、あらゆる手段を駆使して、敵にこちらの利益を受け入れさせること」だ。外交、スパイ活動、破壊工作、プロパガンダ、経済的圧力など国力を駆使した手段はみな、戦争を別の手段によって継続しているにすぎない。
南シナ海で
フィリピン、日本を脅かす中国
中国が南シナ海の領有権を主張してきた背景にもこうした考え方がある。その歴史的根拠は、一九四七年に国民党政府が公布した地図に描かれた破線(九段線)だが、中国は国連海洋法条約に基づく二〇〇海里の「排他的経済水域」も中国の排他的軍事権があると主張する。
明らかに同条約の意図的な読み誤りだが、国連は政治的にそれに反駁する立場にない。さらに中国は、政治的賄賂などを使ってカンボジアのような従属国家を手なづけ、東南アジア諸国連合(ASEAN)が共通の海洋ルールを策定するのを阻止してきた。
また漁船や沿岸警備隊の艦艇(多くは武器を隠し持っている)を使って外国の軍艦に嫌がらせをしたり、外国の海域に侵入させたりしている。南シナ海の一部環礁とバリアリーフを占拠して、そこに常駐の前哨基地も築いた。
「どこまでやれば『これで十分』と言うのか」と、フィリピンのベニグノ・アキノ大統領は二〇一四年二月、中国の南シナ海進出に声を荒らげた。「世界じゅうが声を挙げる必要がある。ズデーテン割譲は、ヒトラーをなだめて第二次世界大戦を防ぐためだったが、逆効果だったことを思い出すべきだ」
通常、「これでは一九三八年の繰り返しだ」と警告するのはイスラエルと決まっている。だが、アメリカの撤退後、フィリピンのように意外な場所からミュンヘン協定を引き合いに出す声が挙がっている。われわれは世界的無秩序の瀬戸際にいるのだ。
http://diamond.jp/articles/-/70766
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