中国がすでに736億元を投入して建設を推し進めている南沙諸島のファイアリークロス礁人工島で、3000メートル級滑走路の本格的な建設がいよいよ始まった。
本コラムでもたびたび取り上げているように、この他にもクアテロン礁、ジョンソンサウス礁、ヒューズ礁、ガベン礁、スービ礁が“人工島”として生まれ変わりつつあり、ミスチーフ礁も中国がコントロールしている(参考:「中国のサラミ・スライス戦略、キャベツ戦術の脅威」「人工島建設で南シナ海は中国の庭に」「結局アジアは後回し?中国の人工島建設を放置するアメリカ」など)。
このような動きを受けて、先週ドイツで開かれたG7外相会合で発せられた声明には、南シナ海や東シナ海での中国による軍事力を背景にした拡張主義的海洋戦略に対する“強い懸念”が盛り込まれた。当然のことながら、中国外務省はじめ中国共産党政府はこの声明に対して反発し、とりわけ日本とアメリカに対して強い不満を表明している。
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中国に自制を求めたG7外相会合
G7外相会合声明では、以下のように南シナ海と東シナ海での領域紛争に関連する懸念が書き込まれている。
「G7(アメリカ、日本、カナダ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア + EU)は、領域あるいは海洋(における権益)に関する紛議を威嚇、強制、軍事力を用いて解決しようとする試みには断固として反対する。関係諸国には、国際法や国際調停システムを利用するなど平和的な紛争解決を図ることを呼びかける。G7は、永続的な地形の変化を海洋環境に加えてしまうような一方的行動に対する沿岸諸国の反対意思を尊重する」
こうした原則的表明に加えて、次のように具体的な“名指し”に近い表現で中国に強く自制を求めた。
「G7は、東シナ海と南シナ海における、大規模な埋め立て作業のような、現状維持を崩して緊張を高める一方的行動を憂慮し観察を続ける」
アメリカに対する中国の反駁
このG7外相声明が発せられる直前にも、アメリカのオバマ大統領やケリー国務長官らが、南シナ海での中国による軍事力を背景にした威圧的政策を批判した。それらの批判に対して、中国外務省や共産党系メディアは下記のように強く反駁していた。
「南シナ海での領域紛争では、中国こそが被害者なのだ。中国の領域である南シナ海のいくつかの島嶼をフィリピンやベトナムは占領しており、飛行場まで設置している島嶼もある。ところが、これら諸国はあたかも中国の圧迫を受けているかのように見せかけることにより国際社会にアピールしている。そして、その見せかけを百も承知でアメリカ政府は南シナ海の領域紛争に干渉しようとしている。アメリカ政府は、第三国間の領土紛争には関与しないとしているにもかかわらず、南シナ海だけでなく東シナ海でも日本と中国の領域紛争に口出ししている」
「このようにアメリカ政府が干渉する真意は、南シナ海や東シナ海での紛争をあおり立てて、アジア太平洋地域におけるアメリカの影響力を確保しようという魂胆からであることは誰の目にも明らかである。アメリカの政治的指導者たちによる無責任な主張は、南シナ海での領域紛争をさらに引っ掻き回して地域の平和と安定に打撃を加え緊張を高める以外のなにものでもない」
日本に対しても強烈に非難
G7外相会合声明が発せられると、中国共産党系英文メディアは上記のようなアメリカへの反駁に加えて、日本に対する強烈な非難を展開している。
「G7外相会合声明に、わざわざ南シナ海における領域紛争が取り上げられたのは、日本がこの問題を書き込むように執拗に根回しをした結果である。日本はG7外相会合という多国籍枠組みを利用して、南シナ海で中国が周辺諸国を脅かしているかのごとき印象を国際社会に宣伝することによって、東シナ海でも日本が圧迫されているかのごとき演出をなそうとしているのだ」
「このような動機に加えて、日本は、安倍首相による第2次世界大戦降伏70年声明や、戦時の残虐行為に対して懺悔をしないという方針から国際社会の関心を薄れさせる、という意図もある。日本政府が自己中心的な利益と目的のためにG7という国際的舞台を利用したことは、まさに恥ずべき行為と言えよう」
「このような日本の動きは、中国が最近、ASEAN諸国、とりわけベトナムと平和的に領域紛争を解決しようとしている努力に水を指すものである。日本による南シナ海問題への介入は地域の安定と平和の維持を危殆(きたい)に瀕せさせようとするものである。・・・日本は、再び、誤ったタイミングで誤った地域に口出しするという愚かな過ちを犯しているのだ」
「人工島には民間施設を設置する」と説明
上記のような日本やアメリカに対する反論・非難と同時に、中国共産党政府は「南シナ海に建設中の人工島には数多くの民間用施設が設置されることになり、中国のみならず南シナ海周辺諸国や南シナ海を利用する国際社会にとり大きな貢献をなす」という説明も公表した。
中国当局による人工島建設に関する公式発表は極めて珍しい。中国外務省によると、南シナ海のいくつかの環礁での埋め立て作業によって誕生する人工島では、科学的研究活動、気象観測、環境保護活動、漁業活動などが許可されることになるという。
そして、それら非軍事的諸活動のために、航海用設備や施設、緊急避難施設、捜索救難用施設なども建設されることになることが明らかにされた。
中国海警や公船を配して「中国の海」を拡大
もちろん、南シナ海に続々と誕生する中国人工島が、中国海軍を中心とする軍事拠点として利用されることは当然である。ただし、それらの人工島に非軍事的な民間施設が多数建設されることにより、人工島は単なる軍事施設ではなくなることになる。したがって人工島には海軍施設が存在することになるものの、人工島周辺海域の警備は第一義的には人民解放軍ではなく「中国海警(China Coast Guard)」が任じることになる。
中国海警は法執行機関であるとはいうものの“第2海軍”として位置づけられている。実際に中国海警の巡視船は質量ともに強化され続けており、第5軍と位置づけられている「アメリカ沿岸警備隊」を凌駕して“世界最強”の沿岸警備隊になりつつあるとアメリカ海軍では警戒を強めている。
しかしながら、中国海警はあくまで法執行機関である以上、中国海警の公船に米海軍や自衛隊の軍艦が先制的にアクションを起こすことは絶対に避けねばならない(たとえ防御的攻撃をなしても、軍艦による“非軍艦”に対する先制攻撃となってしまう)。
したがって、人工島の“運用”が開始され、中国海警による警戒活動が実施されると、たとえ人民解放軍艦艇や航空機が人工島を本拠地にしていても、南シナ海周辺諸国やアメリカなどの軍艦は、中国人工島周辺海域に接近することをためらわなければならない状況となってしまうのである。
そして、尖閣周辺海域のように人工島周辺海域にも中国海警その他の中国公船や民間船が常時姿を見せつつある状況を続けることにより、名実ともに「中国の海」は拡大していくのである。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43589
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