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ウクライナ東部ドネツク、ルガンスク両州での政府軍と親ロシア派武装勢力との紛争は、最終的な解決が見通せないまま、4月で勃発から1年となった。今年2月の新たな停戦合意によって重火器の撤去や捕虜の一部交換は実現したが、「親露派支配地域の地位をどうするか」という最大の難問は今も宙に浮いている。親露派側の最大都市ドネツクへ半年ぶりに入った記者が見たのは、肩で風を切る戦闘員と、人道支援で命をつなぐ貧しい市民の対照的な姿だった。
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3月中旬のある夜、ミラーボールがゆっくりと回る薄暗いレストランバーで、派手な女性を連れた迷彩服姿の男たちがくつろいでいた。腰には拳銃、傍らには自動小銃。見回せば3、4グループいる。水タバコをふかしたり、バックギャモンに興じたり、ひそひそ会話を続けるテーブルも。カウンターには手持ちぶさたな様子のミニスカートの金髪女性が座っていた。
「銃器持ち込みお断り」。レストランやホテル、カフェの入り口にはイラスト付きのステッカーが貼られているが、あまり守られていない。駐車場に武器を搭載した戦闘車両が止まっていることも珍しくない。親露派活動家たちが1年前に創設を宣言した「ドネツク人民共和国」の「首都」、百万人都市ドネツクの現在の姿だ。
ウクライナ最大のドンバス炭鉱を擁し、工業地帯として発展してきたエリアは今、荒れた姿に変わっている。幹線道路を彩った広告の大看板は風雨ではがれ落ち、指導者ザハルチェンコ氏ら親露派勢力をたたえるものだけが真新しい。猛スピードで走る車は戦闘員が乗っているとみて間違いない。事故を起こしても何の弁償もなく走り去るので、市民からは恐れられている。
「義勇兵は金のためにドネツクへ来ているのではない。平和に貢献したいから来ているのだ」。親露派幹部の警備を担当する戦闘員の男性(40)は言い張った。本名は明かさず、「エレクトリック(電気技術者)」のあだ名で通している。「本業は物理教師で、隣のザポロージエ州から来た」と話す一方、「ロシア南部チェチェンや中米ニカラグアでの戦闘経験もある」と語った。実際には軍務経験の豊富なロシア人とみられる。「ここでの給料はお茶とタバコに足りるぐらいの最低限のものだ」
だが、地元記者の情報によると、親露派戦闘員には最低でも月300ドルの給与が支払われている。紛争前の地域の平均月給に相当する額だ。親露派の副司令官を名乗るバスリン氏は取材に対して「戦闘には多額の資金が必要だが、世界中から寄付が集まっている」と主張し、ロシアからの支援は言下に否定した。いずれにしても、ロシアなど各地から集まった戦闘員を養うのに十分な資金を得ている模様だ。
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対する市民の暮らしはどうか。
「年金がもらえないので助かる」「仕事がないので感謝している」。ドネツク中心部にボランティアが開設した慈善食堂には、無料の温かいスープやパンを目当てに高齢者ら約200人が列を作っていた。ロシアの人道支援物資や寄付を元に食堂を運営するタチアナ・フィルカロさん(48)は「小麦粉も肉も砂糖もみんな紛争前の4倍に値上がりしてしまった。市民の3分の1は困窮している」と話す。
スーパーなどには食料品は豊富にあるが、運送トラックが前線の「検問」を通過する際、手数料を取られ、大幅な値上がりが起きているという。同様の食堂は市内に数十カ所ある。サッカーの欧州選手権も開かれたガラス張りのスタジアムの一角も、子供向け支援物資の配給所に姿を変えた。
慈善食堂から出てきた1人の高齢男性は「(親露派指導者の)ザハルチェンコは年金を払わない。私腹を肥やしているに違いない」と憤りをあらわにした。市民の不満は水面下で蓄積されている。戦闘ではウクライナ政府軍に対して優位を保った親露派側にとって、最大のネックは経済問題だ。特に、昨秋にウクライナ政府が親露派地域の住民に対する年金や各種手当の支給を停止したことが響いている。
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ドネツクの親露派指導部は将来展望をどう考えているのか。行政部門の幹部として「ドネツク市長」を務めるマルティノフ氏(45)に尋ねると、「我々には石炭、鉄鋼、化学工業がある。戦争が終われば独立国家として何の問題もなく自活できる」と強気な姿勢を示した。ただその後、「もちろんロシアが政治経済における戦略的パートナーだ」と付け加えた。ロシアの支援がなければ「独立」を維持しがたいのは自明だ。
2月の停戦合意では、親露派支配地域はウクライナの中で「特別自治区」にすると決められたが、親露派を「分離主義のテロリスト」とみなしてきたウクライナ政府の腰は重い。今のままでは、国際社会に認められない未承認国家である「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」による実効支配が続く可能性が高い。ヨーロッパの東に、「銃を持つ者が偉い」という荒涼とした世界が立ち現れている。【真野森作】
http://mainichi.jp/feature/news/20150408mog00m030007000c.html
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