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「核の傘」はもう日本を守ってくれないのか?
揺らぎ始めた米国の拡大抑止、国防総省シンクタンクが警告
2015.4.8(水) 古森 義久
北朝鮮の核兵器、2020年までに100発保有も 米専門家
核開発を進める北朝鮮。北朝鮮の朝鮮中央通信が公開した、同国内で行われた軍事演習で発射される地対空ミサイル(2013年3月20日公開、資料写真)〔AFPBB News〕
中国や北朝鮮の核攻撃から日本を守る「核の傘」が揺らぎ始めた――。こんな警告が米国の国防総省機関から発せられた。
日本における最近の安全保障論議ではまったく触れられない重要な問題である。国防総省のシンクタンクとも言える米国防大学の国家戦略研究所(INSS)が、この3月に作成した調査報告書のなかでの指摘だった。
核抑止を他国にも拡大して提供する「拡大抑止」
「核の傘」とは核抑止のことである。いまの世界の現実の安全保障では、大多数の国は自国を守り戦争を防ぐ手段として、程度の差こそあれ「抑止」戦略に依存している。
抑止とは、ある国が自国に対して武力攻撃を仕掛けてきそうな場合、「武力で断固として反撃し、侵略を砕く、あるいは相手に重大な損害を与える」という意図と能力を明確にしておくことで、潜在敵国の武力攻撃を未然に抑えるメカニズムの戦略である。
戦争のための戦争を行いたいと考える国はない。政治や経済あるいは領土上の目的があるからこそ軍事行動をとるのである。だから、その軍事行動をとった場合のマイナスがプラスよりも大きいと予想されれば、普通の国ならばその行動を抑制する。攻撃を受けそうな側の国からすれば、「相手が攻めてきたら必ず大打撃を与えるぞ」という態勢を明示しておけば、相手の軍事行動を未然に防げる。こうした思考が抑止論なのだ。
その抑止には通常戦力と核戦力があり、想定される事態が核の場合が「核抑止」である。
日本は周知のように非核の政策を掲げる国である。だが、すぐ隣には核兵器の開発を進める北朝鮮が存在する。さらに核兵器の大量保有を公式に認められた中国がある。日本はその両国と利害を衝突させるケースが多い。もしも中国や北朝鮮が日本に対し核攻撃の威嚇によって不当な要求を突きつけてきた場合、どうするのか。日本は自力では屈服するほかない。
そのため日本は、米国の核抑止力を自国の核抑止として引き込んできた。全世界で圧倒的に強い核戦力を持つ米国は、単に自国だけでなく、日本のような同盟諸国にも核抑止を提供するというわけだ。
その場合の米国の核抑止は、他国にも拡大されて提供されるという意味で「拡大抑止」と呼ばれる。日本は「防衛計画の大綱」でも「核兵器の脅威に対する基本姿勢として核抑止力を中心とする米国の拡大抑止は不可欠である」と明記してきた。
核の拡大抑止は次のように機能する。例えば、中国が日本に対して尖閣諸島の放棄を迫ってくるとする。日本が応じないと、中国は核攻撃も辞さないと威嚇してくる。それに対して、「中国が万が一日本に核攻撃をすれば、米国が日本への拡大抑止の保証に基づき、中国に核攻撃の報復をすることになる」という姿勢を示す。中国はやむなく核の威嚇も攻撃も抑制することになる、という流れである。
中国、北朝鮮の米国への核攻撃能力が高まってきた
だが、米国防大学のINSSが3月にまとめた「米日同盟=防衛協力指針(ガイドライン)調査」という報告書によると、こうした年来の日本にとっての米国からの拡大核抑止が揺らいできたという。
「米日同盟=防衛協力指針(ガイドライン)調査」はINSSのジェームズ・プリシュタップ上級研究員が中心となって作成した、調査と提案の報告書である。プリシュタップ氏は米国の民主、共和両党歴代政権の国防総省や国務省の高官として日米同盟に関わってきた。
この報告書は、現在大詰めを迎えている「日米防衛協力のための指針」の改定作業にタイミングを合わせて作成された。日米同盟を強化し、日本の防衛をアジアの安全保障の新環境に適合させるこの改定作業は、4月末の安倍晋三首相の訪米に向けて完成させることが見込まれている。
同報告書は同指針の改定にあたって日米同盟の主要な課題として、「戦略的な収束」「日本の周辺事態」「拡大抑止」「グレーゾーン」「集団的自衛権」などを指摘した。なかでも特に重要性を強調したのが拡大抑止である。
拡大抑止が揺らぎ弱体化していることに関して、同報告書は次のような骨子を述べていた。
・北朝鮮が核兵器と弾道ミサイルの開発によって、米国に対する攻撃能力を高めつつある。それに伴い、米国が日本への拡大抑止を事実上機能させない、つまり自国への核抑止と同盟国への核抑止を切り離す「デカップリング」の可能性を、北朝鮮当局が信じ始めた気配がある。その場合、北朝鮮は、米国による核の報復や通常戦力での大規模報復を恐れることなく、日本への威嚇や攻撃を仕掛けることができる。米国としては、自国領土への破壊的な攻撃を受けることを覚悟してまで日本防衛のために北朝鮮に攻撃をかけることを、ためらうようになることが懸念される。
・中国も北朝鮮以上に米国本土への核攻撃能力を着実に高めている。その結果、中国当局者は日本と中国が軍事衝突した際に米軍がただちに大規模介入し、中国本土を攻撃する可能性は低くなったと見る。米国は、日本を防衛しようとする際に中国から米国本土に大規模攻撃を受けることを覚悟しなければならない。その覚悟へのためらいは、中国の核戦力がより強大であるだけに、北朝鮮から攻撃を受ける際よりもさらに大きくなり得る。その結果、中国は日本に対する領土拡張や海洋進出の冒険的な膨張主義の行動をますます強めることとなる。
INSSによるこれらの警告の背景には、中国が日本全土を射程におさめる中距離、准中距離の各種ミサイルを数百単位で保有し、なお核弾頭装備も含めて強化しつつあるという現実がある。北朝鮮も日本に照準を合わせたノドン・ミサイルを多数配備している。日本にとっての中国と北朝鮮の核の脅威はすでに存在しているのである。
日本はこの核の脅威を米国の拡大抑止によって抑えてきた。だが、その拡大抑止が揺らぎつつあるという深刻な事態がこの報告書で指摘されたのだ。
日本での議論は自衛力の「歯止め」論ばかり
こういう懸念すべき状況に対して、同報告書は、米国による拡大抑止の絆を日米両国が改めて確認し、強化することを提唱する。そのためには、日本国内でも核抑止や拡大抑止、さらには中国や北朝鮮の核の脅威について積極的に論議することが望まれると提案していた。
しかし肝心の日本国内での安全保障論議では、こうしたテーマはまったく提起も言及もされない。語られるのは敵の脅威への対処よりも、もっぱら自国側の防衛力をどう縛りつけるかという「歯止め」論ばかりなのだ。
日本の平和を崩すのは国外からの攻撃や脅威である。だが、国外で何が起きているかという状況をまったく見ず、語らず、日本の自衛力を自虐的に自縄自縛にしようとするのが現在の日本の安保論議のように映る。中国や北朝鮮の核ミサイルよりも自国の自衛隊をより危険視するというような異様な姿勢なのである。これでは砂に頭を突っこんで周囲を見ないダチョウの安全保障論議とも思えてくる。
今回の米国防大学国家戦略研究所の報告書は、日本の安全保障論のそんな国際的異端ぶりをまざまざと浮き彫りにしたと言えるのではないだろうか。
「核の傘」はもう日本を守ってくれないのか?
揺らぎ始めた米国の拡大抑止、国防総省シンクタンクが警告
2015.4.8(水) 古森 義久
北朝鮮の核兵器、2020年までに100発保有も 米専門家
核開発を進める北朝鮮。北朝鮮の朝鮮中央通信が公開した、同国内で行われた軍事演習で発射される地対空ミサイル(2013年3月20日公開、資料写真)〔AFPBB News〕
中国や北朝鮮の核攻撃から日本を守る「核の傘」が揺らぎ始めた――。こんな警告が米国の国防総省機関から発せられた。
日本における最近の安全保障論議ではまったく触れられない重要な問題である。国防総省のシンクタンクとも言える米国防大学の国家戦略研究所(INSS)が、この3月に作成した調査報告書のなかでの指摘だった。
核抑止を他国にも拡大して提供する「拡大抑止」
「核の傘」とは核抑止のことである。いまの世界の現実の安全保障では、大多数の国は自国を守り戦争を防ぐ手段として、程度の差こそあれ「抑止」戦略に依存している。
抑止とは、ある国が自国に対して武力攻撃を仕掛けてきそうな場合、「武力で断固として反撃し、侵略を砕く、あるいは相手に重大な損害を与える」という意図と能力を明確にしておくことで、潜在敵国の武力攻撃を未然に抑えるメカニズムの戦略である。
戦争のための戦争を行いたいと考える国はない。政治や経済あるいは領土上の目的があるからこそ軍事行動をとるのである。だから、その軍事行動をとった場合のマイナスがプラスよりも大きいと予想されれば、普通の国ならばその行動を抑制する。攻撃を受けそうな側の国からすれば、「相手が攻めてきたら必ず大打撃を与えるぞ」という態勢を明示しておけば、相手の軍事行動を未然に防げる。こうした思考が抑止論なのだ。
その抑止には通常戦力と核戦力があり、想定される事態が核の場合が「核抑止」である。
日本は周知のように非核の政策を掲げる国である。だが、すぐ隣には核兵器の開発を進める北朝鮮が存在する。さらに核兵器の大量保有を公式に認められた中国がある。日本はその両国と利害を衝突させるケースが多い。もしも中国や北朝鮮が日本に対し核攻撃の威嚇によって不当な要求を突きつけてきた場合、どうするのか。日本は自力では屈服するほかない。
そのため日本は、米国の核抑止力を自国の核抑止として引き込んできた。全世界で圧倒的に強い核戦力を持つ米国は、単に自国だけでなく、日本のような同盟諸国にも核抑止を提供するというわけだ。
その場合の米国の核抑止は、他国にも拡大されて提供されるという意味で「拡大抑止」と呼ばれる。日本は「防衛計画の大綱」でも「核兵器の脅威に対する基本姿勢として核抑止力を中心とする米国の拡大抑止は不可欠である」と明記してきた。
核の拡大抑止は次のように機能する。例えば、中国が日本に対して尖閣諸島の放棄を迫ってくるとする。日本が応じないと、中国は核攻撃も辞さないと威嚇してくる。それに対して、「中国が万が一日本に核攻撃をすれば、米国が日本への拡大抑止の保証に基づき、中国に核攻撃の報復をすることになる」という姿勢を示す。中国はやむなく核の威嚇も攻撃も抑制することになる、という流れである。
中国、北朝鮮の米国への核攻撃能力が高まってきた
だが、米国防大学のINSSが3月にまとめた「米日同盟=防衛協力指針(ガイドライン)調査」という報告書によると、こうした年来の日本にとっての米国からの拡大核抑止が揺らいできたという。
「米日同盟=防衛協力指針(ガイドライン)調査」はINSSのジェームズ・プリシュタップ上級研究員が中心となって作成した、調査と提案の報告書である。プリシュタップ氏は米国の民主、共和両党歴代政権の国防総省や国務省の高官として日米同盟に関わってきた。
この報告書は、現在大詰めを迎えている「日米防衛協力のための指針」の改定作業にタイミングを合わせて作成された。日米同盟を強化し、日本の防衛をアジアの安全保障の新環境に適合させるこの改定作業は、4月末の安倍晋三首相の訪米に向けて完成させることが見込まれている。
同報告書は同指針の改定にあたって日米同盟の主要な課題として、「戦略的な収束」「日本の周辺事態」「拡大抑止」「グレーゾーン」「集団的自衛権」などを指摘した。なかでも特に重要性を強調したのが拡大抑止である。
拡大抑止が揺らぎ弱体化していることに関して、同報告書は次のような骨子を述べていた。
・北朝鮮が核兵器と弾道ミサイルの開発によって、米国に対する攻撃能力を高めつつある。それに伴い、米国が日本への拡大抑止を事実上機能させない、つまり自国への核抑止と同盟国への核抑止を切り離す「デカップリング」の可能性を、北朝鮮当局が信じ始めた気配がある。その場合、北朝鮮は、米国による核の報復や通常戦力での大規模報復を恐れることなく、日本への威嚇や攻撃を仕掛けることができる。米国としては、自国領土への破壊的な攻撃を受けることを覚悟してまで日本防衛のために北朝鮮に攻撃をかけることを、ためらうようになることが懸念される。
・中国も北朝鮮以上に米国本土への核攻撃能力を着実に高めている。その結果、中国当局者は日本と中国が軍事衝突した際に米軍がただちに大規模介入し、中国本土を攻撃する可能性は低くなったと見る。米国は、日本を防衛しようとする際に中国から米国本土に大規模攻撃を受けることを覚悟しなければならない。その覚悟へのためらいは、中国の核戦力がより強大であるだけに、北朝鮮から攻撃を受ける際よりもさらに大きくなり得る。その結果、中国は日本に対する領土拡張や海洋進出の冒険的な膨張主義の行動をますます強めることとなる。
INSSによるこれらの警告の背景には、中国が日本全土を射程におさめる中距離、准中距離の各種ミサイルを数百単位で保有し、なお核弾頭装備も含めて強化しつつあるという現実がある。北朝鮮も日本に照準を合わせたノドン・ミサイルを多数配備している。日本にとっての中国と北朝鮮の核の脅威はすでに存在しているのである。
日本はこの核の脅威を米国の拡大抑止によって抑えてきた。だが、その拡大抑止が揺らぎつつあるという深刻な事態がこの報告書で指摘されたのだ。
日本での議論は自衛力の「歯止め」論ばかり
こういう懸念すべき状況に対して、同報告書は、米国による拡大抑止の絆を日米両国が改めて確認し、強化することを提唱する。そのためには、日本国内でも核抑止や拡大抑止、さらには中国や北朝鮮の核の脅威について積極的に論議することが望まれると提案していた。
しかし肝心の日本国内での安全保障論議では、こうしたテーマはまったく提起も言及もされない。語られるのは敵の脅威への対処よりも、もっぱら自国側の防衛力をどう縛りつけるかという「歯止め」論ばかりなのだ。
日本の平和を崩すのは国外からの攻撃や脅威である。だが、国外で何が起きているかという状況をまったく見ず、語らず、日本の自衛力を自虐的に自縄自縛にしようとするのが現在の日本の安保論議のように映る。中国や北朝鮮の核ミサイルよりも自国の自衛隊をより危険視するというような異様な姿勢なのである。これでは砂に頭を突っこんで周囲を見ないダチョウの安全保障論議とも思えてくる。
今回の米国防大学国家戦略研究所の報告書は、日本の安全保障論のそんな国際的異端ぶりをまざまざと浮き彫りにしたと言えるのではないだろうか。
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