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『坂の上の雲』に登場するマハンが唱えたシーパワー 陸の勢力と海の勢力の二項対立
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投稿者 rei 日時 2015 年 4 月 08 日 15:42:46: tW6yLih8JvEfw
 

『坂の上の雲』に登場するマハンが唱えたシーパワー

陸の勢力と海の勢力の二項対立

2015年4月8日(水)  奥山 真司

 マハンという人物の名前をご存じだろうか。

 司馬遼太郎の長編小説『坂の上の雲』の中で、主人公の一人である秋山真之がお世話になった人物と言えば、ピンとくる人がいるかもしれない。

 秋山真之は、日露戦争(1904〜05年)における海の決戦、日本海海戦で作戦担当の参謀を務めた英雄である。

 この秋山は、日露戦争前に戦術のヒントを得ようとして、当時できたばかりであった米国の海軍大学に留学して、アルフレッド・セイヤー・マハン(Alfred Thayer Mahan:1840〜1914年)に師事した。マハンは当時、この米国海軍大学で校長を務めていた。

 本稿では、このマハンが地政学に残した重要な3つの点を指摘したい。

シーパワー論の父

 第1に、マハンはシーパワー論を論じた。

 マハンは『海上権力史論』という本を1890年に発表している。一般的にはこの本を通じて、この頃から始まった米国の海外拡張の動きを支える思想的土台を作った人物だとされている。

 マハンの議論はいたってシンプルで、「海を制するものが世界を制する」というものだ。海(シー)の権力(パワー)を握ったものが世界を制してきたから、というのがその理由だ。一般的に、これは「シーパワー論」と呼ばれている。

 マハンは遠洋航海で幕末の日本に訪れたことがある。米国海軍の軍人として南北戦争にも従事した。ただし、軍人としてはそれほど優れた業績を残していない。実は船酔いがひどく、何度か船を衝突・座礁させかけたこともあって、現場よりも陸での勤務を好んでいたようである。

 そんなマハンが論文を書く過程で書きためた欧州の海軍史についての原稿をまとめたのが、上述した「海上権力史論」である。マハンはこの論文で優秀さを認められて海軍大学の教官となった。

 この本を発表したタイミングがなんとも劇的だった。というのも、1890年という年は、ちょうど、米国における「フロンティア」が消滅したと、米政府が国勢調査で宣言した年だったからだ。つまり米国が北米大陸という広大な土地をすべて支配下に収め、海外に目を向け始めた時に、マハンがこの本を発表したのである。

 しかもその主張は、「米国は英国の歴史に倣う形で海軍力を増強して、世界に権力を拡大していくべきだ」と受け取れるものだった。

 喜んだのは褒められた英国のエリートたちだけでなく、米国の海軍関係者を中心とする軍人や政治家たちであった。マハンがまるで、これからの米国のゆくべき道を教えていたよう見えたからだ。

 この功績を認められて、マハンはすぐに海軍大学校の第2代目の校長に就任し、国際的にも名声を博することになった。マハンのアイディアを喜んで受け取った国の一つが、当時世界有数の海軍を建造中だった明治の日本であったことは言うまでもない。

シーパワーとランドパワーの二項対立を定義

 第2は、マハンが大きな「世界観」を提示したことだ。

 マハンは1886年に海軍を退役して以降、非常に多くの著作や論文を書いている。地政学で重要なのは、この時にマハンが書いた、国際情勢の分析や、時事評論に関する記事である。確かにマハンは主著である『海上権力史論』で、地政学における重要な概念をいくつか著している。だが、より地政学的な議論が、このような時事評論の中にちりばめられているのだ。

 ではマハンは、具体的にどのような地政学の議論をしたのか。

 以下の地図を見てもらいたい。これはマハンが色々なところで論じていた当時の世界観を、マハンの研究者であるウィリアム・リベジー(William F. Livezy)という人物がまとめて地図化したものである。


 ここから分かるのは、1990年の頃のマハンが、世界の中心であるユーラシア大陸を舞台に2つの勢力が覇権争いをしている、とイメージしていたことだ。

 具体的には、ロシアと大英帝国である。陸の勢力「ランドパワー」であるロシアが、ユーラシア大陸の上から南下しつつある。それを反対に北上する形で下から上へ押し上げているのが、海の勢力である「シーパワー」の、大英帝国だというのだ。

 要するに、世界には「ランドパワー」と「シーパワー」という大きな対立がある――これは、本連載で紹介する古典地政学において、不可欠の前提となる考え方だ。

 話は少しそれるが、後に共産主義につながったマルクス主義は、「人類の歴史は(貧乏人対金持ちの)階級闘争の歴史である」と見ていた。これと同様に、古典地政学では一般的に「人類の歴史は、シーパワーとランドパワーの争いの歴史である」と見る。

 後に「地政学」としてまとまるこのような二項対立の考え方を提供したという意味で、マハンの存在意義は大きいのである。

ドイツ地政学の源流は米国にあった

 第3は、マハンが米国人であったことだ。

 前回、「古典地政学の源流はドイツにある」と説明した。これはこれで間違っていないのだが、そのドイツの地理学者たちに、実は米国が大きな影響を与えたことは付け加えておかなければならない。

 なぜ米国だったのか。19世紀の米国は、歴史上で最も急速に勢力を拡大した勢力の一つだったからである。その証拠に、米国がまだ東部13州からなる弱小の連合国であった1823年に、当時のジェームズ・モンロー(James Monroe)大統領は、いわゆる「モンロー宣言」を発表して、西方拡大を宣言している。それからわずか70年弱の間に、米国は英国のみならず、原住民やメキシコ人、それにフランス人たちを蹴散らしながら、北米を席巻していった。そして、マハンが『海上権力史論』を発表した1890年に至るのである。

 これを見て驚いたのはドイツの知識人たちである。その一人に、フリードリッヒ・ラッツェルがいた。後にドイツの地理学者や軍事地理の人間たちに影響を与えた人物だ。彼は地理学者として名を成す前後に調査旅行で米国を訪れて、その西方への領土拡大の勢いを目の当たりにして驚愕した。

 ラッツェルは、当時の米国と同様の動きを、祖国・ドイツも行えるはずだと確信した。ただし、進むべき方角は米国とは逆の、東方にあると見ていた。

 このラッツェルの考え方を受け継いだのが、本連載で後に紹介する「ドイツ地政学」の知識人たちであり、さらにはナチスを主導したあのアドルフ・ヒトラーであった。

 要するに、米国は悪名高き「ドイツ地政学」の手本になっていた、とも言えるのだ。

マハンは実は「メイハン」

 最後に、豆知識的な余談を一つ。

 ゴルフ好きな人は、ハンター・メイハン(Hunter Mahan)という名前の選手をご存じかもしれない。現在、世界ランキング30位前後で活躍している。トップ・プロの一人であり、世界最高峰のPGA主催ツアーに参戦している。

 実はこの人物のファミリーネームは、マハンと同じつづりのMahanである。Mahanというファミリーネームは米国に多いようで、ある研究者がマハンの子孫に取材して話を聞いた時に、「我々はマハンじゃないわ、メイハンよ」と教えられたというのだ。この研究者の友人である人物から直接聞いた話なので間違いない。

 つまり、シーパワーを論じたマハンの名前は、本当は「メイハン」と発音するのが正しいのだ。

このコラムについて
これを知らずにもうビジネスはできない! 「あなた」のための「地政学」講座

近年の国際政治や経済に関するニュースやコメントで「地政学的な視点」「地政学リスク」という言葉を聞く機会が増えた。ところで、この一見分かりやすそうであいまいな言葉の本当の意味を、われわれは知っているだろうか?

世界戦略でつまずく米国のバラク・オバマ政権の動き、ウクライナ危機、EUの財政危機、そしてシリアやイラクで揺れ動く中東情勢など、「地政学」というキーワードなしでは現代の国際政治を語れなくなってきた。

地政学と戦略学の専門家である奥山真司氏が現代の世界情勢を読み解くカギとなる、地政学の歴史と応用の仕方を解説する
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150403/279573  

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コメント
 
01. 2015年4月09日 01:19:04 : d4A4Bz3iVg
レーダーもジェット戦闘機も早期警戒機も、況や偵察衛星も衛星破壊兵器もない時代のノスタルジー。情報は電信か手旗信号。

02. 2015年4月10日 10:58:09 : Xq0vN9MRMA
政府の増税を止めさせずに

政府に軍装備を買わせ続ける、そのための

「理論」武装だったわけだね。

政府に浪費させ侵略させ、それで大儲けだわな〜


03. 2015年4月10日 11:12:41 : Xq0vN9MRMA
政府をして増税を止めさせず

政府に軍備としてあれやこれや買わせ侵略させ続ける

そのための「理論」武装だったんだわな

こんな昔から!


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