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スンニ派とシーア派の両方を支援する米国の苦悩
2015.3.31(火) Financial Times
(2015年3月30日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
イエメン大統領派の軍部隊、アデンの空港を奪還
米国はイエメンでのサウジアラビア主導の軍事作戦を支持し、イランの利益を抑制している(写真はイエメン南部アデン近郊の空軍基地で戦車に乗る、イスラム教シーア派系の武装組織フーシ派に反対する地元部族などの戦闘員からなる連合部隊のメンバー)〔AFPBB News〕
米国とイランの核協議が合意に近づきつつあり、数十年に及ぶイランと西側諸国との疎遠な関係に終止符が打たれる可能性が出てきている中、米国のオバマ政権は中東におけるイランの影響力を大慌てで抑制しようとしている。
この矛盾した行動は、中東全域に広がったカオス(混沌)の産物だ。
米国はスンニ派とシーア派に分断された中東で、あっけにとられてしまうほど複雑に入り組んだ危機に直面しており、一方の国ではスンニ派を支持しながら他方の国ではシーア派を支援するという状況に置かれているのだ。
この1週間、米国はイエメンでのサウジアラビア主導の軍事作戦を支持し、イランのティクリートを巡る戦いでは戦闘に自ら介入した。スイスに集まった外交官たちが核協議で詰めの交渉を行っているまさにその時に、イランの利益を抑制する行動に出た格好だ。
イランに対するこの新たな圧力は大きな戦略の一環なのか、それとも急展開した危機への対応でしかなかったのかは、まだ定かでない。ただ、交渉の背後に隠れた1つの力学を反映した動きではある。
もし核協議で合意が成立すれば、この核外交がイランによる中東支配の先駆けになることを恐れる中東諸国から、米国はイランに立ち向かえという強い圧力を受けることになるのだ。
イランとの核協議を進める傍らで対抗姿勢
米国は、深刻化するイエメンの内戦ではイランに対抗する立場を取っているものの、イラクと「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」との戦いではイランとともにイラク政府を支持して戦っている。
さらにややこしいことに、米国と中東における最も親しい同盟国――イスラエルとエジプト――との関係はかなり緊迫したものになっている。アフガニスタンについてもバラク・オバマ大統領は先週、同国の安定維持に資するためには駐留する兵士の数を向こう18カ月間、これまでの想定より増やす必要があることを認めざるを得なかった。
米国の対応は危機管理の域を出ておらず、総合的な戦略目標がほとんどないという批判もある。しかし、米国の直近の動きからは、イランに対抗しようという姿勢がこれまでよりも強く感じられる。
イランの支援を得てイエメンで勢力を伸ばしている武装組織「フーシ」にサウジアラビアが空爆を始めた後、米国はこの攻撃への支持を表明し、サウジアラビアと「合同作戦司令室」を設けることを明らかにした。
この作戦がどう展開するかによるが、米国は空中給油などの兵站支援や空爆のための情報提供などを行う可能性がある。
イエメンで長らく続いている内戦に介入するというサウジアラビアの判断は多方面で疑問視されているものの、イエメンでイランがあからさまに影響力を強めていくのを座視するわけにはいかないというサウジアラビアの心情には西側諸国も理解を示している。
「サウジアラビアとしては、イランの支持する勢力がイエメンを支配することは受け入れられない。だからこそ、あのような形で介入しないわけにはいかないと彼らは考えたのだ」。英国のフィリップ・ハモンド外相はこう語った。
アブドラ前国王時代の最後の数カ月間に米国は大っぴらに批判されたが、前国王が死去してからはオバマ政権がサルマン新国王との関係修復を試みており、新国王即位の数日後にオバマ大統領がサウジアラビアを急遽訪問したりしている。
ティクリート奪還作戦に見る複雑な構図
米国が25日に始めたティクリートへの空爆からは、さらに複雑な構図がうかがえる。イランの支援を得ている民兵が始めた作戦を、米国が空軍力を使って支援していることになるからだ。ただこの米国の関与は、作戦の主導権をイランに握らせないための取り組みの1つであるように見える。
これについて米政府高官らは、イラン主導の作戦が行き詰まってからイラク政府が支援を要請してきたと話している。
ブルッキングス研究所のケネス・ポラック氏によれば、最初に行われた作戦は「イラクの唯一本当の同盟国はイランだというナラティブ(物語)」を強化するためにイランとシーア派民兵が練ったものだったという。「もしティクリートがいま解放されたら、イラクの人々はきっと、イランは失敗したが米国は成功したと口をそろえて言うだろう」
米国のアプローチに批判的な人々は、もしイランとの核協議が合意に至れば、米国はイランの影響力に対抗しながら同盟国の利益を守らなければならなくなるだろうと語っている。そうしなければ、拡大するイランの影響力から我が身を守ろうと中東のほかの国々も独自の核兵器開発に乗り出す、というわけだ。
「イランとの核協議の合意は、ペルシャ湾岸からエジプトに至る中東地域の同盟関係を再構築して米国は仲間だと確信してもらう戦略の一環として行われなければならない」
米フォーリン・ポリシー誌の主筆兼最高経営責任者(CEO)で、かつてクリントン政権の高官でもあったデビッド・ロスコフ氏はこう指摘する。「いま(イランとの)和睦に動くのは大きな誤りだろう」
ペンタゴン(米国防総省)の元高官、ダブ・ザックハイム氏は、核協議により米国はイランの利益を尊重することになった、米国が同盟国からの信頼を回復するとしたらそれは中東の紛争に直接介入した場合に限られるだろうと話している。「何らかの形で地上部隊を投入しなければ、影響力の行使は望めない」と同氏は言う。
イランとの外交に期待する声も
しかし、イランとの外交を支持する向きからは、核協議がまとまればイラン政府の内部で全く異なる力学が働き始め、穏健派の発言力が強硬派のそれを上回り始める可能性があるとの指摘も出ている。
かつてロシアやイスラエル、国連の米国大使を務めたトーマス・ピカリング氏は、協議で合意すればイランとの間に「これまでとは違う関係」が生まれるかもしれないと語っている。それは「米国が花嫁をイスラエルやサウジアラビアからイランに換えるという関係ではなく、責任ある構造を構築し始めることが可能になるかもしれない関係だ」と言う。
By Geoff Dyer in Washington
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43357
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