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ロシアは昨年3月、ウクライナ南部のクリミア半島を一方的に編入した。大多数の国民はかつてロシア領だったクリミアが再び「わが領土、わが祖国」になったことに熱狂した。国内では「クリミアの春」という言葉まで流布するようになった。
それから1年。ロシアの国営テレビが先週末、8カ月かけて制作したという長編ドキュメンタリー番組「クリミア。祖国への道」を全国放映した。昨年2月のウクライナ政変からクリミア編入に至る過程を関係者の証言を交えて再現したものだ。
ロシアの政権は、親欧米派の市民らがヤヌコビッチ政権を追い落としたウクライナの政変を「過激な民族主義者による非合法クーデター」とみなす。この番組も当然、政変後にクリミアの住民の安全がいかに脅かされていたかに力点を置くが、最大の売り物は編入にまつわる“秘話”を次々と明かすプーチン大統領のインタビューだろう。
例えば、ウクライナで政変が起きた昨年2月22日。身の危険が迫った当時のヤヌコビッチ大統領の要請で、ロシアの特殊部隊が救出作戦を展開した。夜を徹した作戦が終了した翌朝、プーチン大統領は防衛担当幹部らに「我々はクリミアをロシア領に戻す作業を開始せざるを得なくなった」と述べていた。
クリミアでは事前に非公開の世論調査も実施し、「75%の住民がロシア編入を求めた」。ロシアは従来、昨年3月のクリミアの住民投票で大多数がロシア編入を望んだことを編入の根拠にしてきたが、その前から周到に準備を進めていたわけだ。
大統領は当時の軍事対応も明かした。ロシア軍の特殊部隊をクリミアに送り込むとともに、対艦ミサイルシステム「バスチオン」なども配備。クリミア編入に対する米欧の妨害に備えて、核戦力を戦闘態勢に置く検討まで進めていたという。
「クリミアは歴史的に我々の領土で、ロシアの人々が住む。彼らが危険にさらされたら見捨てることはできない」。昨年の出来事が繰り返されたら、同様に行動するかと聞かれた大統領は即答する。「もちろんだ」
視聴率は全土で40%近くに上ったという。メディア統制が厳しいロシアでは、国営テレビの情報に影響される国民が圧倒的に多い。特別番組の放映で当時の熱狂を想起させ、「ロシアの国益、国民の利益」のために行動する強い指導者を誇示し、プーチン人気を維持しようとする政権の思惑が見え隠れする。
クリミアの編入後、大統領は80%を超える高い支持率を誇っているが、全ロシア世論調査センターのワレリー・フョードロフ所長は「支持率が緩やかに低下していく可能性がある」とみる。その要因としてウクライナ危機への国民の関心の薄れと、国内の経済問題を挙げる。
とくに経済は深刻だ。原油安とウクライナ危機に伴う米欧の経済制裁の打撃で、今年は3%前後のマイナス成長が避けられない。インフレ率も昨年に続き今年も10%を超えるとみられ、国民生活を直撃し始めた。1、2期目のプーチン政権は原油高を背景に年平均で約7%の高い成長率を達成したが、もはや経済カードで国民の支持をつなぎとめるのは望み薄だろう。
では政権はどうやって求心力を保とうとするのか。人気ラジオ局「モスクワのこだま」のアレクセイ・ベネディクトフ編集長は「大国主義の鼓舞」を挙げる。クリミア編入に象徴されるようにロシアの土地をまとめ、ソ連崩壊で受けた国民の喪失感を癒やすことだという。そうであれば今後も、武力を背景にしたロシアの拡張主義が旧ソ連圏で広がる恐れは否定できない。
フョードロフ所長も「ロシアが大国でありたいという願望は国民の間で非常に強い」とし、とくに「米欧と対立する力を持ち、世界政治に影響力を及ぼしているというテーマは国民が最も関心を持つ」と語る。
大統領が特別番組で核の脅威を振りかざしたのも、大国の威厳を国民に誇示する思惑があったのだろう。何とも無責任な発言で国際社会の対ロ不信が強まるのは必至だ。しかし米欧との対立の深まりは、政権にとってむしろ好都合かもしれない。
大統領の任期は2018年までだが、ベネディクトフ編集長は「プーチン氏は次の選挙にも出馬し、有権者が影響されるテレビを利用して勝つだろう」と予測する。冷え込むロシアと米欧の関係。この先も「長い冬」が続くのだろうか。
3月22日 日経新聞朝刊より
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