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米国が警戒を強めるアジアからの核ミサイル 中国と北朝鮮が対米核戦力を強化
2015.3.26(木) 北村 淳
北朝鮮が日本海に向けミサイル発射、「情け容赦ない攻撃」誓う
北朝鮮の朝鮮中央通信(KCNA)が公開した砲撃訓練の様子(2015年2月21日公開、資料写真)〔AFPBB News〕
「中国はアジア太平洋地域での主権紛争において“目に見えない形での脅迫”を用いている」──。
アメリカ戦略軍司令官セシル・ハネイ提督が、先週、アメリカ連邦議会上院軍事委員会で証言した。
「中国は地上移動式発射装置から発射される新型大陸間弾道ミサイルを開発しており、アメリカとその同盟国に対する脅威はますます高まりつつある。また、北朝鮮も潜水艦発射型弾道ミサイルの開発を進めていることを確認した」
この種の情報はすでに数週間前からアメリカ軍事専門誌などで取り上げられていたが、アメリカ国防当局が公式に確認したことになった。
ICBM戦力を強化する中国
ハネイ提督の議会証言によると、中国戦略軍(第二砲兵)はサイロ発射式の大陸間弾道ミサイル(ICBM)から、新型地上移動式発射装置(TEL)から発射されるICBMへのシフトを加速させている。新型TELの開発と同時に、多弾頭搭載の新型ICBM、東風31B型(DF-31B)の開発にも成功したものと思われる。
TEL発射型ICBMの動向を把握するのは至難の業である。そのため、サイロ発射式からTEL発射式のICBM、それも多弾頭搭載ICBMが主流になることは、アメリカにとって中国の核戦力の脅威が飛躍的に高まることを意味している。
今回の議会証言では米戦略軍司令部としては公式には証言しなかったものの、これら第二砲兵が担当する地上から発射されるICBMに加えて、戦略原子力潜水艦から発射される報復核戦力も充実しつつある。中国がすでに昨年には新型戦略原潜のテスト航行を完了したことは確認済みであり、今年の2月には、渤海で巨浪2型(JL-2)弾道ミサイルの発射実験を成功させたことも非公式ながら確認されている。
北朝鮮が潜水艦発射型弾道ミサイルを開発
中国の対米核攻撃力の強化に加えて、北朝鮮が潜航中の潜水艦から発射する核弾頭搭載弾道ミサイルを開発している、という情報をハネイ提督は公式に確認した。
現在のところ、開発中とされている弾道ミサイルや新型潜水艦に関する詳細な情報まで確認されている段階ではないが、新型潜水艦(旧ソ連のゴルフII型潜水艦をベースにして建造されたと考えられている)と、潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM:米軍ではKN-11と呼称している)、それにSLBMに搭載可能な小型核弾頭の開発が進められていることは間違いがないようである。
ただし、北朝鮮戦略軍はいまだに地上の固定式発射装置から発射する伝統的なICBM開発においても、アメリカ本土を射程圏に収めるだけの射程距離を達成しておらず、また、核弾頭の小型化や多弾頭化といった技術力も確実に取得しているとは見なされていない。したがって、潜水艦に模した海上のテスト施設から開発中のKN-11の発射テストを成功させたとはいえ、潜航中の潜水艦からSLBMが発射されるまでには相当の時間を要するものと専門家たちは分析している。
ゴルフII型潜水艦が弾道ミサイルを発射する様子(想像図:FAS)
日本攻撃用ミサイルはすでにスタンバイ
以上のように、中国は、より脅威度の高い対米攻撃用核弾道ミサイルの開発に邁進しており、ならびに北朝鮮も、いまだにアメリカ本土を核攻撃する戦力を完成させてはいないが、そう遠くはない将来にはそのような能力を手にしようとしている。そのことに対して、アメリカ戦略軍司令部は深刻なる懸念を抱いていることが表明された。
ただし、現時点では、中国や北朝鮮に対するアメリカの報復核攻撃能力は、中国や北朝鮮によるアメリカに対する核攻撃能力を凌駕していることは間違いない。そのため、アメリカの核戦力による対中核抑止・対北朝鮮核抑止は“当面の間は”有効な状態が継続すると考えられている。したがって、自主的核武装の努力を放棄している日本も、アメリカの核の傘の庇護を“もうしばらくの間”は期待できると言えよう。
しかしながら、非核弾頭搭載長射程ミサイルとなると話は違ってくる。中国や北朝鮮が非核弾頭搭載弾道ミサイルでアメリカを攻撃することは考えられないため、ホワイトハウスもアメリカ軍関係者たちもさほど深刻にこの種のミサイルの脅威を口にしない。しかし、日本はじめ中国や北朝鮮の周辺諸国にとっては、非核弾頭搭載長射程ミサイルのほうが核搭載ミサイルよりもはるかに脅威度が高いのだ。
本コラムでも度々指摘しているように(JBpress「マスコミが伝えない中国の対日攻撃ミサイル」「中国軍ミサイルの『第一波飽和攻撃』で日本は壊滅」「アメリカは日本のためにミサイルを撃つか?」ならびに拙著『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』など参照)、中国も北朝鮮もともに日本全土あるいは一部を攻撃することができる非核弾頭搭載弾道ミサイルを多数配備しており、さらに中国はそれらの弾道ミサイルに加えて極めて大量の長距離巡航ミサイルで日本各地の戦略目標を精確に破壊する能力を保有し強化し続けている。
現時点において中国は多種多様の長射程ミサイルで対日攻撃を実施できる
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もし、中国や北朝鮮が何らかの理由で(あるいは指導部や過激勢力が暴走したり精神に異常をきたしたりして)、日本の戦略目標(各種発電所、石油関連施設、浄水施設など)に向けて大量の非核弾頭搭載長射程ミサイルを発射した場合には日本が壊滅状態に瀕するであろうことは、東日本大震災を身をもって経験した日本国民ならば容易に想像がつくところである。
概念論争に終始している場合ではない
アメリカにとっては自国本土を射程圏に収めている核弾頭搭載ミサイルが最も警戒すべき深刻な軍事的脅威である。したがって、北朝鮮の潜水艦建造能力や核弾頭小型化技術力それに弾道ミサイル開発能力などの現状レベルから判断すると、北朝鮮のSLBM開発は目前の脅威にはなっていない。しかし、近い将来には中国のICBMやSLBM同様に深刻な脅威となりかねないため、連邦議会でも取り上げられているわけである。
一方、日本を破滅させることができる中国や北朝鮮の非核弾頭搭載長射程ミサイルは、アメリカ本土を直接攻撃することはできず、せいぜい日本国内の米軍施設を攻撃できるだけである。要するに、それらのミサイルはアメリカにとっての深刻な脅威とは見なされていない。
そのため、アメリカとしてはとりあえず日本にあるアメリカ軍施設を防御可能なように、日本に対して弾道ミサイル防衛システム(イージス駆逐艦、PAC-3など)の配備を進めさせているわけである。
もちろん日本に対して向けられている軍事的脅威に対して対抗策を打ち立てるのは日本自身であり、アメリカではない。したがって、アメリカ当局としては、とりあえずは日本国内のアメリカ軍施設やアメリカ市民の安全を確保するための努力をすればよい。日本そのものを中国や北朝鮮の長射程ミサイルから防御する努力までしゃしゃり出る必要もなければ余裕もないのである。
ところが、現に中国や北朝鮮の非核弾頭搭載長射程ミサイルの脅威に直面している当事国の日本では、防衛力の強化が叫ばれているにもかかわらず、一刻も早く開始しなければならないそれらのミサイルに対する対抗態勢の整備は等閑視されている。
せっかく安倍政権が中国や北朝鮮はじめグローバルな軍事的脅威の深刻化に対応すべく防衛力強化の方向性を打ち出しているものの、結局は、集団的自衛権や後方支援などに関する概念規定の法理学的議論(とそれに付随する枝葉末節な論争)に終始しているのが現状である。
もちろんそれらの議論は必要ではあるが、それのみに拘泥していたのでは、対日軍事的脅威の深化とそれに対する日本の防衛力の間に存在しているギャップがますます広がる一方である。この種の議論に酔っている政治家たちが気がついた時には「完全に手遅れ」な状況となってしまう、という事態に陥ることだけは避けなければならない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43296
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