01. 2015年2月20日 20:52:17
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コストパフォーマンスも考えないとねhttp://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42947 地上軍をISIL掃討に投入せざるを得ない アメリカの“経済的”事情 カネをドブに捨ててきた有志連合軍のISIL空爆 2015年02月19日(Thu) 北村 淳 紅海上のアメリカ駆逐艦からISILに向け発射されたトマホーク巡航ミサイル(写真:米海軍) オバマ大統領は、ISIL(いわゆるイスラム国)を壊滅させるための軍事作戦に、限定的ながらもアメリカ地上部隊を投入することを盛り込んだ軍隊使用権限(AUMF)承認申請を連邦議会に提出した。このようなホワイトハウスの動きに対して日本政府は支持する意向を表明した。 ただし、「日本はアメリカを含む国際社会のISILに対抗する取り組みを一貫して支持してきている・・・今日まで積み重ねてきた人道支援は中東諸国から大きな評価を得ており、しっかり支援していきたい」という声明は、いまだに日本は有志連合国とは一線を画した“戦争とは無縁”の第三者的存在であるといった姿勢を日本国民向けに示している。 しかしながら、日本は軍事作戦には参加していないものの、すでに昨年夏より有志連合国の一員であることは本コラム(「イスラム国と戦う『有志連合』、まぎれもなく日本は一員である」)で指摘した通りである。したがって、いよいよアメリカ軍地上部隊の投入が秒読みとなった現在、日本政府も国民も対岸の出来事のような程度の関心ではなく、地上部隊投入の意味合いを明確に認識しておかねばならない。 なんといっても、日本が多額の人道支援資金を提供することで有志連合国は軍事作戦の戦費を捻出することができるのであるから、日本も立派な有志連合国の一員なのである。 これまでの空爆状況 オバマ大統領はなぜ限定的とはいえアメリカ地上作戦部隊の投入をも盛り込んだ最長3年の対ISIL戦争に踏み切ることになったのか。それは、これまで半年にわたってアメリカ主導の有志連合国により実施してきた空爆攻撃だけでは、ISILの壊滅はおろか勢力弱体化すら不可能と判断せざるを得なくなってきたからである。 イラク領内のISIL支配地域に対する空爆は、アメリカ、フランス、イギリス、オーストラリア、カナダ、オランダ、ベルギー、モロッコの8カ国によって実施されている。また、シリア領内のISIL支配地域に対する空爆はアメリカ、ヨルダン、バーレーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、モロッコの7カ国軍によって実施されている。これら13カ国以外にもドイツ、デンマーク、ノルウェイ、ポルトガル、スペイン、ニュージーランド、トルコが、武器弾薬の供給や軍事顧問団による地上軍の訓練などの空爆以外の軍事支援を実施している。 これらの有志連合国軍による空爆状況は、アメリカ国防総省による2014年末までの公式集計によると下記の通りである。 ・作戦機出撃任務数:6981回 ・爆弾等発射数:5886発 ・偵察機出撃任務数:2164回 ・輸送機出動任務数:1992回 ・空輸物資総量:1万4555トン ・空中給油機出動任務数:4828回 ・空中給油回数:2万8956回 空爆に要する莫大な費用 ところで、このようなISIL支配領域に対する空爆にかかる費用は1日あたりどのくらいかかっているのであろうか? もちろん、日によって出撃する航空機の機数や投下する爆弾の数は異なるため一定ではないが、平均するとおよそ840万ドル(10億円以上)と言われている。 この巨額に上る戦費は、出撃する戦闘機や爆撃機それに管制機や空中給油機などのランニングコストや、航空機から投下される爆弾の費用、艦艇から発射される巡航ミサイルの費用、それに航空母艦をはじめとして作戦に参加している艦艇の燃料費などが含まれている。 長距離爆撃のため戦闘機は空中給油が必要(写真:米空軍) ちなみに、空爆作戦に参加しているアメリカ軍航空機が1時間作戦飛行を実施するのにかかる費用は下記の通りである。
・F-16戦闘機:9000ドル ・FA-18戦闘機:1万1000ドル ・AV-8B戦闘攻撃機:1万3400ドル ・F-22戦闘機:2万1500ドル ・E-3早期警戒管制機:1万4200ドル ・E-8対地攻撃管制機:2万2800ドル ・RC-135電子偵察機:2万3200ドル ・KC-10A空中給油輸送機:1万5400ドル ・B-1B爆撃機:4万6500ドル ISIL空爆の出撃基地はクウェート、バーレーン、それにペルシャ湾上の空母などのため片道900キロメートルから1500キロメートルと長距離であるため、作戦行動時間は数時間に及ぶ。当然空中給油も必要になる場合が多い。したがって、航空機を飛ばすだけで巨額の費用がかかってしまうことは容易に理解できよう。 投下する爆弾やミサイルももちろん安くはない。最も安価なGBU-31 JDAMといわれる誘導爆弾は1発あたり3万ドルであるが、民間人などへの攻撃を避けるためにより精密なピンポイント攻撃を可能にしたGBU-39精密誘導爆弾の場合は1発あたり21万4000ドルとされている。AGM-114ヘルファイアという対戦車ミサイルは1基あたり11万ドルであり、ペルシャ湾や紅海海上の米海軍艦艇から発射されるBGM-109トマホーク長距離巡航ミサイルは1基あたり100万ドルである。 もちろん、空爆作戦に参加しているアメリカ軍以外の有志連合国も米軍ほど多数の航空機は参加させていないものの、参加している戦闘機や投下している爆弾はアメリカ軍と共通であるため、空爆のランニングコストそのものはアメリカ軍と大差はない。 以上のように空爆作戦に参加している有志連合国の軍事支出は巨額にのぼっている。 必要なのは“まとも”な地上部隊の投入 それでは、多数の航空機と莫大な費用をかけて継続されている対ISIL空爆作戦は目覚ましい成果を上げているのであろうか? アメリカ軍のISIL攻撃を統括しているアメリカ中央軍司令部によると、2月4日までの空爆で破壊あるいは損害を与えたISILの攻撃目標は4817カ所(または輌)であり、その内訳は下記の通り。 ・戦車、装甲車、トラックなどの車輌:1240 ・重火器類、車載型簡易爆弾など:198 ・部隊集結地、検問所、掩蓋陣地など 1423 ・武器集積所:33 ・通信施設をはじめとする諸設備:144 ・トレーニングキャンプ:21 ・司令部、戦闘用、補給活動用建造物:899 ・その他の建造物:621 ・ボート:39 ・石油関連施設:130 ・ISILがコントロールする橋・道路:69 確かに2月上旬までで5000近くもの目標を攻撃し、ISILの勢力拡大をスローダウンさせてはいる。だが、その内容を軍事的に解釈すると「1日あたり平均840万ドルもかけて実施している空爆作戦としてはコストパフォーマンスが低すぎる」という声が専門家や政治家の間からあがっている。 要するに専門家たちはこう指摘しているのである。 「航空戦力による本格的な空爆作戦の目的は、敵の戦略要地を破壊して戦争継続能力に痛撃を与えることにある。だが半年近くに及ぶ空爆で破壊したISILの戦略要地は石油関連施設が130カ所、橋や道路が69カ所と全体のわずか4%にすぎない。攻撃の6割以上が各種車輌や前進拠点それにISIL部隊などに対するものであって、味方地上戦闘部隊に対する支援攻撃を実施しているような結果しか得られていない」 その「味方地上戦闘部隊」とは、現在のところアメリカ軍をはじめとする有志連合国軍の地上部隊ではなく、以前よりISILとの地上戦を展開しているイラク政府軍部隊、クルド人部隊、シリア反アサド政権勢力の部隊である。そして、イラク政府軍はそれなりの武器弾薬は保有しているものの極めて士気が低く、クルド人部隊は士気旺盛であるものの武器弾薬は欠乏しており、もともと烏合の衆であるシリア反アサド政権勢力には武器弾薬と士気の両者が欠落している、といった状況である。 「このようになんとも心もとない状態の味方地上戦闘部隊に対してこれまでのように空爆による支援を実施しても、ISILに決定的な打撃を与え続けることは不可能であると判断せざるを得ない。言葉は悪いが“まとも”な地上部隊を投入しなければ、有志連合軍による空爆は“ドブにカネを捨てる”結果になりかねない」 これが、アメリカで地上部隊を投入しなければならないと考える人々に共有されている基本的論理である。 マケイン上院議員は「中途半端で姑息な投入」と批判 これまでも、ISIL壊滅のためのアメリカ地上部隊投入という意見は繰り返されてきたものの、上記のような空爆のパフォーマンスの悪さというデータをつきつけられて、ようやくオバマ大統領も地上軍投入へと踏み切らざるを得なくなった。 ただし、オバマ大統領としてはアフガニスタン戦争やイラク戦争のような大規模地上戦への発展だけは何としてでも避けたい。そこで、アメリカ軍地上部隊の作戦は「捜索救出作戦」「特殊作戦」に限定して、主たる地上戦は有志連合軍の教育訓練を受けたイラク政府軍やクルド人部隊に実施させることにより、アメリカ軍が本格的地上戦に参加するのを避けようとしている。 しかし、ジョン・マケイン上院議員をはじめとする少なからぬ政治家たちは、そのような姑息な地上部隊投入方針では対ISIL戦が好転することは望めない、と反駁している。 そしてマケイン上院議員は、「当初から地上軍に対して大幅な制限を加えているオバマ大統領の中途半端な方針は軍事戦略とはいえない。本当にISILを壊滅させるためには、ある程度強力なアメリカ地上軍の投入が必要であることは、残念ながら“忌まわしい事実”であると認めなければならない」と主張している。 このように、アメリカ地上軍の対ISIL地上戦への投入は間違いないものの、どの程度の規模と役割が与えられるかに関しては、ホワイトハウスと連邦議会で激しい戦略論争が展開されることになる。
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