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米国のイスラム国掃討作戦に戦略なし 批判に応えようと必死のオバマ大統領だが、腰が引けて効果は期待薄
2015年02月17日(Tue) 堀田 佳男
アフガニスタンがISの「聖域」になる恐れも、元CIA高官
アフガニスタンがイスラム国の聖域になる恐れも(写真はアフガニスタンのジャララバードの元タリバン兵)〔AFPBB News〕
「明らかにバラク・オバマ大統領は(対イスラム国の)戦略を持ち合わせていません」
多くの人が感じていることを、ある人が明言した。ワシントン・ポスト紙編集主幹のボブ・ウッドワード氏だ。
2月11日に米ケーブル局MSNBCに出演し、バラク・オバマ大統領には対イスラム国の戦略が立案できていないと指摘した。
机上論を述べるコメンテーターの発言であれば受け流せるが、1970年代のウォーターゲート事件から調査報道を手がけている同氏の言葉である。
戦略がないのに指示を出したがる大統領
国防総省(ペンタゴン)の高官の話を引き合いに出しながら、オバマ氏にはイスラム国を掃討することは難しいと言い切った。しかも戦略がないにもかかわらず、オバマ氏はペンタゴンにしきりに指示を出したがるとも指摘した。
さらにオバマ氏はウッドワード氏がテレビ出演した日、イスラム国への対応を変えた。限定的な地上作戦を含む武力行使の承認決議案を米議会に提示したのだ。
これは大規模な地上軍は派遣しないが、「特殊部隊や情報収集を目的にした地上部隊を投入するので、国民の皆さん、議会の皆さん、承認してください」という意味である。
昨夏から継続されている空爆だけではイスラム国を壊滅できないことが証明されたことでもある。オバマ氏の本気度が少しばかり増したとも受け取れる。イスラム国に拘束された人質が次々に殺害されていく現状を見るに見かねてとの思いもあるかと思う。
様々な情報に触れると、米国がイスラム国を壊滅するには3万の兵力が必要になるとの具体的な数字も上がっている。そんななか、日本のメディアはイスラム国に対するオバマ大統領の立場をおおむね後押ししている。
米国の立場を後押しする日本の主要メディア
オバマ大統領、ノースカロライナ州のイスラム教徒学生殺害を非難
厳しい表情の米バラク・オバマ大統領〔AFPBB News〕
「(米国は)イスラム国の壊滅に向け、より強力な軍事作戦を展開する。米国の方針転換を前向きに評価したい」(読売新聞)
「米欧の主要国と日本は、改めて国連安全保障理事会などに呼びかけつつ、組織に対する包囲網の強化に動かねばならない」(朝日新聞)
日本は政府も含めて、イスラム国を掃討する手立てを持たないので米国に頼るしかない。だが米国内には、オバマ大統領の心変わりと対イスラム国への対応の優柔不断さが批判の的になっている。
まず、オバマ氏は2008年に大統領に当選以来、国際紛争やテロリズムに対しては消極的な態度をとり続けてきた。というより、積極的に出ていくべきではないとの考えだった。米国が世界の警察官の役割を担うことに、オバマ氏は毛嫌いしていた。
2013年9月、テレビ演説を行った時に国民に説いている。
「米国はもはや世界の警察官でいることはできません。ただシリア国内の子供たちは救えるかもしれません」
軍事力で紛争は解決できないので、人道支援をしていきたいとの意思である。ジョージ・ブッシュ前大統領がアフガニスタンとイラクで戦争を仕かけたことで、多大な犠牲が2国だけでなく米国にも及んだことへの反省である。多くの米市民は中東での戦争はもうこりごりとの思いを抱く。
しかし2014年9月、オバマ氏は態度を変えた。
ニューヨークの国連で、「警察官」という単語こそださなかったが、再び米国が世界で主導的な役割を担ってもいいとの意思表示をしたのだ。
ブッシュ前大統領に似てきたオバマ氏
外交専門誌『フォーリン・ポリシー』はオバマ氏の心変わりを見出しで、「オバマ大統領の国連演説・米国が世界の警察になることにオーケー」と打った。
そして2月に入っての限定的な地上軍派遣の「お願い」である。少しずつブッシュ氏に近づきつつあると言えるほど、場当たり的な態度の変更が見える。多くの専門家は、それではイスラム国との戦いで勝利を得られないと見立てる。
しかも民主党からも共和党からも批判が出ている。曖昧だとの指摘だ。
民主党議員からの批判は、限定的であっても地上軍の派遣はすべきではないというものだ。上院外交委員会のクリストファー・マーフィ議員は、「地上部隊の投入という考え方は曖昧。限定的と定義してもすぐに全面的な地上軍への展開につながる恐れがある」と憂慮する。リベラル派らしい意見だ。
一方、共和党の重鎮オリン・ハッチ議員は逆の立場から曖昧だと言う。
「米軍を派遣するときに期間や地域、部隊の種類など限定的な要素をつけてはいけない。イスラム国を負かす目的を自ら削ぐようなもの。自分で手を縛ってどうするのか」
こうした批判を耳にすると、オバマ氏は政治的にどちらにも寄り切れていないことが分かる。ウッドワード氏の言葉を借りなくとも、イスラム国を掃討する明確な戦略が立案されていないということだ。
ただ米国が指をくわえたまま何もしないと、イスラム国は中東から北アフリカに支配地域を拡大していく可能性がある。
決議案で、オバマ氏は有効期間を3年と定めた。ハッチ議員はそうした期間を限定することが勝てない理由につながるとする。しかもオバマ氏の任期は残り2年を切っている。
米国が本気になれば20日間で制圧が可能
となると、次期大統領にイスラム国掃討の任務を託すことになる。それはブッシュ前大統領がアフガニスタンとイラクでやり残したことをオバマ氏に受け継いだことと同じだ。
軍事的な観点からものを述べると、イスラム国の壊滅はさほど難しいことではないように思える。2003年に米軍がイラクに侵攻し思い時のことを思い出していただきたい。
3月20日に侵攻を始め、バグダッドが陥落したのは4月9日である。ほぼ20日間でイラクという国を落としている。
米国の陸海空軍が総力を結集すれば、おのずとそうした流れになる。しかしイラク戦争の代償は大き過ぎた。同戦争で亡くなったイラク市民は約65万人(英ランセット誌の調査)。米兵だけでも約4500人の死者が出た。
しかもイラクの国内政治は不安定であるばかりか、フセイン政権を牛耳ったバース党の残党がイスラム国を生み出すことにつながった。
「1人のテロリストを殺害すると10人が新たに生まれる」という言い伝えは誇張が含まれるとしても、オバマ氏は過去の教訓から、米国はもはや国外で戦争をすべきではないとの思いに至っていたはずだ。
ところが今になって心変わりをする。
本気でイスラム国を掃討したいのなら、ハッチ議員の言うとおり、限定的という枠を外し、総力を結集して短期決戦にでるべきなのかもしれない。
だが筆者には、オバマ氏が「嫌々ながら、自分の意志と反することをしなくてはいけなくなりました。ほかに選択肢はありません。何とかうまくいきますように」とのぼやきを胸中に宿しているような気がしてならない。
これではイスラム国の掃討など遠く及ばない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42928
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