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兵士は麻薬で恐怖を薄める 「イスラム国」処刑法の痛苦〈週刊新潮〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150216-00010002-shincho-int
「週刊新潮」2015年2月12日号
兵士が後藤健二さんの首にナイフをあてがう。後藤さんは堪(こら)えるようにグッと目を閉じる。そして映像が切り替わると、既に首は斬り落とされていた――。あまりに惨(むご)たらしい殺害動画に、見る者は息を呑むしかない。せめて後藤さんと、同様に斬首された湯川遥菜さんの最期の苦しみが、少しでも軽いものであったならばと思いを馳せるばかりである。
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「イスラム法では、処刑は斬首が原則でしたが、人権上の問題が指摘され、現在ではイランなど3、4カ国でしか行われていません」
と、東京外語大の飯塚正人教授は解説する。イスラム国でも斬首が行われているわけだが、
「彼らは神の教えに厳格であると主張しています。そのため、今でも昔ながらの斬首を続けているのでしょう。もちろん、自分たちの恐ろしさを世界に向けて宣伝する意味も多分に含まれていると思われます」(同)
こうして今なおイスラム国が続けている、「旧弊」である斬首刑がもたらす痛苦について、杏林大医学部法医学教室の高木徹也准教授はこう説明する。
「後藤さん殺害の動画を見ると、兵士が喉元(のどもと)にナイフを当て、首を横に掻(か)き切ろうとしている様子が映っています。ここから推測される流れは、次に頸動脈が切断されて、驚くほど大量の血が噴き出し、本来は脳に届けられるはずの血液が枯渇して酸素が行き渡らず、ほどなく意識が失われる――。したがって、強烈な痛みを感じる前に失血死、ほぼ即死した可能性が充分に考えられます」
「首斬り」という残虐な言葉が喚起するイメージほどには、苦しまずに済んだのではないかというのだ。しかし、元東京都監察医務院長の上野正彦氏は、別のケースもあり得るとして、こう付言する。
「頸動脈の手前には頸静脈があり、まずそこだけが浅く切られた場合、切断部分から空気が入り、気泡が心臓を通じて脳に到達するため、脳梗塞を引き起こします。それから脳細胞が死んでいき、絶命に至りますが、2、3分はかかるので、その間、尋常ならざる苦しみを味わったはずです」
■「子どもにも投与」
いずれにせよ、喉元にナイフが迫ってくる際の戦(おのの)きは想像を絶するものがある。だが、動画には後藤さんが抵抗したり、暴れる姿は映っていない。そこで、処刑前に何らかの薬物が投与され、強制的に無抵抗な状態にさせられていたとの疑念が湧き上がってくるのだ。
「イスラム国の兵士の立場で考えると、動画を世界中に配信するのが目的ですから、人質に抵抗される姿は見せたくない。また、人質が暴れれば殺害に手間取ってしまいます。それを避けるために、鎮静剤や睡眠導入剤、あるいは麻酔を投与していた可能性があります。例えば麻酔を筋肉注射すると、意識はじわじわと混濁していく。そうやって抵抗する力を奪った上で、後藤さんを殺害したのかもしれません」(前出の高木氏)
そしてイスラム国の兵士の間では、「ダウナー系」だけではなく「アッパー系」のクスリも使用されているのだという。
シリアでの取材経験がある「アジアプレス」の坂本卓氏の証言。
「貧しさのために、やむを得ず、僅(わず)かではあるものの給料がもらえるイスラム国の兵士になったり、イスラム国に部族が制圧され、心ならずも兵士として差し出される子どもたちがいます。彼らは『普通の子ども』ですから、戦場に送り出されるとビビってしまう。恐怖心を取り払うために、麻薬が投与されているんです。私がシリアのコバニという街で見たのは、コカインと思われる白い粉でした」
こうして、自爆テロをも厭(いと)わない「狂気の兵士」が作り出されていくのだ。
仲間にも、またおそらく人質にも薬物を投与するイスラム国。我々が向き合っている相手の異常性を、改めて思い知らされる。
「特集 日本に宣戦布告! 『イスラム国』狂気の残響」より
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