04. 2015年2月17日 14:44:43
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基本はオウムなどと同じ構図 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42846 希望を失った若者の心の隙間を埋める“宗教” テロを生む温床はどこに〜パリのテロ事件があらわにしたフランス社会の課題(後編) 2015年02月17日(Tue) 吉田 彩子 フランス全体を恐怖に陥れた1月のテロ事件から1カ月余。現在も依然としてテロの可能性は高いままである。一方でこの事件はフランスが解決しなければならない多数の課題をあらわにした。
本稿の前篇では、フランスで再び提起されたイスラム教とユダヤ教の対立を取り上げたが、一連のイスラム過激派テロ事件では「イマーム」についても焦点が当てられた。モスクで説教をするイマームはイスラム教において重要なポジションである。 イスラム教指導者「イマーム」の問題 シャルリ・エブド襲撃事件で殺害された風刺画家ベルナール・ベルラック氏の棺 ©AFP/BERTRAND GUAY [AFPBB News] しかしフランスのイマーム自体の教育・指導にはまだまだ足りない部分があるとされ、これから力を入れるべき問題となっている。
たとえば、フランスのモスクで説教をするイマームの中には、アラブ語しか話さない者がいるという。そのため、こうしたモスクに来る人の中で、アラブ語ができない人は、“自称イマーム”1とされる人物に話を聞くことになる場合がある。 これらの“自称イマーム”は、イスラム教をきちんと学んだわけでもなく、過激な思考に偏っている者も多いと言われ、彼らを介してサラフィー・ジハード主義が広まっていったとする見方もある。 また、刑務所におけるイスラム過激化防止対策は早急に対処するべき課題の一つとなっている。実際、今回のテロ事件の容疑者であるシェリフ・クアシやアメディ・クリバリは刑務所で服役していた際に過激化しており、刑務所でのイマームの不足などが指摘されている。 フランスには200ほどの刑務所があり、各刑務所にはオモニエ(aumônier:教誨師)2がいるが、なかでもイマームの数が特に少ないとされる。 あるイマームによると 、2000年頃から、フランスの刑務所において最も信仰・実践されている宗教がイスラム教になったと言う3。しかし、カトリックのオモニエが約700人存在するのに対してイスラム教のオモニエは182人しかいない。 1 シャルリ・エブド事件では、以前の記事「パリのテロ容疑者は仏メディアに何を語ったか」の中で述べたファリッド・ベンイェトゥは“自称イマーム”であり、容疑者シェリフ・クアシのメンター的存在であった。 2 各受刑者が精神的支えとなる信仰のためにオモニエの話を聞いたりする。カトリック、プロテスタント、ギリシャ正教、イスラム、ユダヤなど各宗教のオモニエがいる。 3 参考:「Aumônier musulman, je visite les prisons depuis 15 ans : la situation est inquiétante」(Le Plus de L'OBS) 事件後、フランスのバルス首相は「刑務所でのイマームの数を60人増やす」と述べている。しかし、数の問題だけではなく、イマームがどういったイデオロギーの持ち主なのかが問題であり、フランスの価値観を理解した“ライック”(世俗的、政教分離)な考えを持ったイマームの必要性が議論されている。 教育面の問題と必要とされる改革 「君は一人で死ぬだろう」、仏政府が過激派希望者にメッセージ 1月28日、インターネットサイト「ストップジハーディズム」でイスラム過激派プロパガンダに対抗するキャンペーンが開始された〔AFPBB News〕 教育面では1月22日、ナジャ・ヴァロー-ベルカセム(Najat Vallaud-Belkacem)教育相が具体的対策案を発表した。 パリのテロ事件により、教育面において、フランス共和国としての価値観である「自由、平等、博愛(Liberté・Egalité・Fraternité)」の位置づけを考え直すことになったと言える。 フランスのモットーとなっている「自由、平等、博愛」だが、もとは17世紀に、ノール県カンブレー(Cambrai)の大司教であったフェヌロン(Fénelon)が3つを組み合わせて作った概念である。 そして、その後17世紀から18世紀の啓蒙時代において大きく広がっていった。フランス革命の際にもよく使われていたが、帝政時代には廃れてしまい、その後は1848年の革命(二月革命)の際に復活し、1848年憲法では、このモットーがフランスの基本方針の一つであると定義された。1946年憲法、1958年憲法にも明記されている。 また、フランスの憲法第1条には「フランスはライック(世俗的、政教分離)で、民主的、社会的、そして分割し得ない共和国である。フランスは、生まれ、人種、宗教の区別なしに、すべての市民に対して法の下での平等を保障する」とある。 連続テロ事件後、こういったフランスの基本的な価値観がフランス国籍を持つ若者たちに伝わっていない、ということに政府側が気づいたと言える。過激化防止対策の一つは教育改革から、ということだ。 教育相の具体的対策案では、特に「ライシテ(laïcité)」(政教分離、世俗性、などを意味するフランス特有の概念。学校など公共機関が宗教から独立すること)をキーワードに、若者たちにまず道徳・礼儀を教えることの必要性を訴え、宗教が違っても共存することがフランスの強さでもあることを示す重要性を述べている。 2月9日には、教育分野における過激化防止対策として、各学区にライシテ小冊子が配られた。この中では、例を挙げながら「過激化とは何か」を説明しており、教師らには、「生徒に過激化のサインを見つけた場合は、同僚や学長と話し合い、関係機関に速やかに警告するように」と注意を呼びかけている。12月9日4を”ライシテの日”とする案もあるそうだ。 4 1905年の12月9日には教会と国の分離に関する法律が成立している。 経済的、精神的に不安定さを抱えたイスラム系の若者たち 今回の一連のテロ事件により、グローバルテロリズムに関わるセキュリティー問題、イスラム過激派問題だけではなく、社会的な問題である郊外のゲットー化、失業や貧困による犯罪増加、また過大な武器の流通、そして教育問題なども表面化したと言える。 また、これらに関連する問題として、経済回復の兆しが見えない中、将来の夢が描けない若者が多いことも挙げられるだろう。学業で失敗し、希望も持てず、社会に対する不満が増す中、犯罪を繰り返し、刑務所行きとなる。 そこで出会うサラフィー・ジハード主義はこういった精神的に不安定ともいえる若者にとって、魅力的であり人生の目的となってしまうのだろう。 そういう中には、旧仏植民地出身の両親を持つ、イスラム系移民2世や3世のフランス国籍の若者が多いという指摘もあり、「フランス人とは?」というアイデンティティーの問題が存在することも否定できない。 フランスは歴史を見てもわかるように植民地を多数持っていた国であり、それらの国からのイスラム教徒を中心とした移民が多くいる。彼らの大半はフランス国籍を持ち(2重国籍もある)、2世、3世の世代になると、親や祖父母の出身国をほとんど知らずに育つ人もいる。 ソーシャルメディアなどインターネットを巧みに活用するIS ©AFP/HO/AL-FURQAN MEDIA [AFPBB News] 一口に“イスラム系”といってもアラブ語すら十分に理解しない人も多く、複雑な環境の中で育ち、生活が不安定な状態に陥った時などに、精神的支えとなる宗教=イスラム教に「生きる目的」を見つけるのである。
しかし、そこで出会うイスラム教が、穏健派イスラム教でなく、現在至る所に入り込んでいるサラフィー・ジハード主義であった場合、イスラム教の間違った解釈を学び、過激派イデオロギーを植え付けられ、そこから既に存在するネットワークを使ってアフガニスタンやイエメンなどに訓練へ行く、という若者が増えているのが現実である。 これは最近始まったことではない。ここ数年は、それがイラク−シリアへのジハードへの参加という形になっており、影響の受け方もモスクだけでなく、IS(いわゆるイスラム国、またはアラブ語でDaesh [ダーイシュ] )の巧みなコミュニケーション術に見られるように、インターネットを介して実に簡単に行なわれるのだ。 自由とセキュリティーの狭間で揺れるフランス また、過激化する人々のプロフィールは複雑だ。いわゆる「移民系の複雑な家族で育った学業もできない失業中の若者」ばかりではない。 むしろ、インターネットを通して行なわれる洗脳によるジハードリクルートが多くなり、中級階級の両親を持つフランス人や、ある程度の給料をもらい、結婚し子供も持ち、一見幸せそうなキリスト教徒のフランス人がイスラム教に改宗し過激化するケースも少なくない。 2月3日、南仏ニースでテロの警戒にあたっていた兵士3人がナイフを持った男に襲われた ©AFP/VALERY HACHE [AFPBB News] こうして、現在フランスは、簡単な解決策が見つからない複雑な課題をいくつも抱えていると言える。
1月の連続テロ事件後も、2月3日にはフランス南部ニースで、ユダヤ系施設を警備していた兵士2人が30歳のマリ系フランス人にナイフで切り付けられて負傷する事件が発生した。 この容疑者も犯罪歴があり、犯行前の1月末に、アジャクシオ(コルシカ島)でトルコ行きの片道チケットを購入したことにより、シリア入国を試みたと見られている5。 犯行後には、男が滞在していたとされるニースのホテルの一室から、トルコ通貨、現金1000ユーロ、飛行機チケット、そして男がアラーに向けて書いたとされるテキストなどが発見された。 一方、各地でジハードネットワークの解体も次々と行なわれており、治安機関の強硬な姿勢も伺える6。 こうしてフランスでは今、イスラム過激派との戦いやテロリズムとの戦争により、治安維持のために警備・監視体制が強化され、「自由」と「セキュリティー」のバランスを考えさせられることになっている。 また、14日にデンマーク・コペンハーゲンで起きたテロ7にも見られるように、これからはこうしたテロが欧州各国を襲うことになると思われる。そして、テロリズム対策は各国の問題にとどまらず、ヨーロッパ全体における問題でもあり、EUレベルでの対策もさらに重要になってきていると言える。 5 チケット購入の際、フランスの治安機関がトルコ関係当局に通報、この男はトルコへの入国を拒否され、フランスへ送り返されている。 6 1月末にはエロー県リュネル(Lunel)で5人が逮捕され、2月3日にはセーヌサンドゥニ県(Seine-Saint-Denis)とリオン(Lyon)において8人が逮捕された。さらに2月8日にはオート・ガロンヌ県トゥールーズ(Toulouse:オート・ガロンヌ県)とタルヌ県アルビ(Albi)において6人が逮捕されている。いずれもシリア−イラクのジハードに関係するグループとされる。 7 パリ連続テロに似た事件とも言われており、一夜で2件の事件が起きている。スウェーデンの風刺画家が出席していた"表現の自由”をテーマとしたディベートが行なわれていた文化センターとシナゴーグ(ユダヤ教礼拝堂)の2カ所で銃撃事件が起こり、2人が死亡、5人が負傷している。
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