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古舘伊知郎が惜しまれるテレビ報道番組の惨状
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/172494
2015年12月26日 日刊ゲンダイ 文字お越し
3月末で「報道ステーション」を降板する古舘伊知郎(C)日刊ゲンダイ
言論弾圧政府によって、この程度のキャスターをありがたがる恐るべき大メディアの劣化。放送法を拡大解釈させているのは党の放送局である
「報道ステーション」の古舘伊知郎キャスターが24日、来年3月末で辞めることを発表した。このニュースが注目されたのは、古舘といえば、一応、反権力、反安倍で「戦ってきたキャスター」というイメージがあったからだ。
「放送レポート」編集長の岩崎貞明氏は日刊スポーツで「圧力、逆風がある中で正面に立って体を張ったと思う」とコメントしていたが、そういう部分は確かにあった。とはいえ、こんな声もあるにはある。元NHKの政治記者の川崎泰資氏である。
「前任者の久米宏氏は『与党とマスコミが衝突するのは当たり前だ』と語り、腹が据わっていた。彼に比べると、古舘氏は底の浅さを感じましたね。口先だけでごまかしているイメージで、だから、最後はケンカにならなかったのでしょう」
“ケンカ”とは、こういうことだ。
「今年3月、報ステのコメンテーターだった元経産官僚の古賀茂明氏が『I am not ABE』発言で官邸からバッシングを受けて降板することを暴露しましたが、実はそのころから、古舘氏もセットで辞めさせろ、というムードができていたんです。官邸が政権に批判的な報ステを快く思っていなくて、それが上層部にも伝わっていたからでしょう。古賀氏の前に辛口コメンテーターだった朝日新聞の恵村順一郎論説委員が外され、古賀氏と同時期にこれまた『戦う』女性プロデューサーが異動になった。そのころから外堀が埋まっていて、来春の契約更新時の降板は“既定路線”だったのです。これに対して、古舘氏は『俺が頑張るからな』と直前まで周囲に語っていた。会見では自分の意思でやめるような言い方でしたが、現場にしてみれば、青天の霹靂で、そうは見えない。事実上のケンカ別れ、安倍官邸の顔色ばかりを気にしている上層部にバッサリ切られたということでしょう」(テレビ朝日関係者)
だったら、古舘も古賀氏のようにケツをまくればいい。暴露でも何でもすりゃいいのに、そうはしなかった。わずかに「12年間のうっぷんがたまっている」とジャブを放った程度だ。
かくて、安倍官邸の圧力にやたらと敏感な報道機関の自粛によって、また一人、キャスターが葬り去られたわけである。
古舘のニュースキャスターとしての評価について、前出の川崎泰資氏は「それなりだったと思う」とこう言う。
「政治権力による言論弾圧の風潮が強まっているように感じる昨今ですから、よく頑張っているように見えたし、それなりに頑張っていたとは思います。でも、あれくらいは当たり前で、もっとやってもいい。古舘氏を惜しむ声があるのは、いかに日本のテレビ局のキャスターが牙を抜かれているのかの裏返し。そこに注目すべきですよ」
いつのまにか、古舘が「最後の砦」のようになってしまった。そこが問題なのである。
かつて、TBSには「JNNニュースコープ」という番組があった。初代メーンキャスターは後に政治家に転身する田英夫氏。しかし、ベトナム戦争報道で切られた。表向きの理由は「北ベトナムをめぐる真実でない報道」だったが、反米的な報道姿勢に政府・与党が怒り、TBSに圧力をかけたからとされている。構図は古賀、古舘騒動ソックリだ。TBSでは今、これまた政権に批判的な「ニュース23」の岸井成格キャスターがやり玉に挙がっている。こちらも3月降板が確実視されている。
「田氏の例があるように政治がTV局に圧力をかけることはよくある。そのたびに誰かが更迭される。でも次にまた戦う人が控えていればいいんです。しかし、今はどのTV局も政権ベッタリでマトモな次がいなくなってしまった。そこがショックだし、由々しきことなのです」とは武蔵大教授の永田浩三氏。NHKで従軍慰安婦の問題を真正面から取り上げた元プロデューサーである。
ちなみに田氏はクビになったあと、自民党の三木武夫らが「励ます会」を開いた。そこに自民党の良識があったが、今や、安倍の言論封鎖に誰も声を上げず、それどころか若手議員らが「もっと懲らしめろ」「広告を断てばいい」などと騒いだ。さすがに批判されたが、その首謀者がいつのまにか役職停止処分を解かれ復活している。それでも、TVはまったく批判しないのだから、なめられるわけである。なるほど、古舘“程度”でも「惜しまれる人材」になるのだろう。
報道バラエティーが与党のPR役をやっている
もうひとつ、古舘降板劇の記者会見で気になったのは、古舘が報道番組と娯楽番組を分けて、報道番組は制約が多いことなどを指摘したことだ。
そうか、今のテレビに報道番組があったのか。全部バラエティーかと思った。こんな皮肉も言いたくなる。見渡せば、報道バラエティー番組ばかりじゃないか。そうした番組ではもちろん、政権批判はしない。しないどころか、進んで政府与党のPR役を買って出る。
安保法制の審議がたけなわだった今年9月、安倍は国会の特別委員会をサボって大阪へ直行。読売テレビの情報番組「そこまで言って委員会NP」の収録と「情報ライブ ミヤネ屋」の生放送に出演した。「そこまで」の司会は辛坊治郎、ミヤネ屋はもちろん、宮根誠司だ。
当然、野党は問題視、自民党の鴻池祥肇・参院特別委委員長も「一国の首相としてどうか」と怒ったが、テレビ局はもみ手で安倍を迎え、一方的にしゃべらせた。今のテレビなんて、この程度なのである。TV局側は「あれは報道番組じゃない」などと言い訳するのだろうが、そんなのはTV側の理屈で、見ている方は区別がつかない。早い話、報道番組もバラエティーも一緒に見える。芸能人やお笑い芸人があふれ、ニュースもバラエティーもあったもんじゃないのだが、そこで素朴な疑問である。
なぜ、テレビの報道番組はここまでフニャフニャになり骨抜きにされたのか。安倍の暴政といったって、放送法を変えられたわけじゃない。昔だって、政治の圧力はあったのだ。
「そもそも、政治的公平を定めた放送法4条はNHKの内規でした。選挙の際の政見放送をするときのルールで、それを放送法をつくるときに参考にしてもってきた。つまり、選挙の時の自主ルールなんですよ。それを権力側が振りかざし、気に入らない番組に圧力をかけたり、幹部を呼び出し事情聴取するなんて、ありえないことなのです。そんなことを許せば、TV局は自分で自分の首を絞めることになる。権力の横暴をチェックできずに暴走させれば、国民の不利益になるからです。はねのけなければウソなのです」(永田浩三氏=前出)
それができないのは「それぞれの志の問題だろう」と前出の川崎泰資氏は言った。テレビ朝日では古賀騒動の後、福田俊男専務が自民党の情報通信戦略調査会に呼び出されたが、停波をチラつかせて脅した自民党に反発するどころか、「誤解が生じたら困るので、いい機会と捉えて出席した」なんて媚びていた。古舘報ステに対し、現場の政治記者の間には「あの番組のせいで取材がしにくい」なんて声もあったというから、オシマイだ。
古舘を最後の骨太キャスターと呼ぶならそれで結構。とことん劣化したテレビ局にふさわしい話である。
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