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軽減税率の対象になったぐらいで「新聞の凋落」は止められない そもそも経営努力をしてきたのか?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47073
2015年12月23日(水) 幸田泉 現代ビジネス
消費税率10%への引き上げに伴って議論されてきた「軽減税率」が、食品以外では新聞にも適用されることになった。2017年4月に消費税率が10%になっても、新聞の消費税率は8%に据え置かれるため、定期購読料は現在と変わらない。
これに対し、ネット上では「なぜ新聞だけ特別扱いなのか」と批判が起こっている。購読料を支払う読者にとっては値上げが回避されたのだから不利益にはならないし、諸外国を見れば新聞の税率を低く抑えている国はたくさんある。それにもかからず、今回のような批判が起こる原因を「新聞の値段」から考えてみた。
文/幸田泉
■なぜ月100円の値上げにピリピリするのか
消費税率が上がり続ける中で、新聞業界は新聞を軽減税率の対象とするよう訴えてきた。「ニュースや知識を得るための消費者の負担を軽くする」という理由だが、購読料が上がることで定期購読者が減るのを恐れているのが新聞社の本音である。
私は2014年3月まで全国紙の新聞社に勤務していたが、その年の4月に消費税率が5%から8%に上がるのを目前に控え、読者がどっと減るのではないかと社内は戦々恐々とした空気が漂っていた。
全国紙が朝刊と夕刊を発行している「セット地域」では、1ヵ月の定期購読料はギリギリ3000円代だったところ、消費税率が8%になると月4000円を超える。新聞販売は、家計に負担感のある「4000円の壁」を乗り越えなくてはならなかった。
販売店主らの会合では「消費税を乗り切ろう」が合言葉だったし、読者訪問や読者サービスなどで販売店と読者とのつながりを強め、購読料アップに理解を得ることに心血を注いでいた。
消費税率が5%から8%になった時に行われた定期購読料の「定価改定」は、消費税率が3%から5%に上がった1997年4月以来、17年ぶりだった。そのため読者の反応が読めないことも不安を膨らませていた。
実際に消費税率が8%になってから読者が急に減るという事態は起こらなかったので、新聞社も胸をなでおろしたのだが、新聞販売現場からすれば「やっと8%を乗り切ったのに、またすぐに10%の定価改定ではたまらん」というのが正直なところだ。
1ヵ月の購読料でわずか100円前後の値上げに新聞業界が神経質になるのは、戦後の新聞の歴史が「値上げの歴史」だったことと密接に関連している。
■家計に占める新聞代の割合が上昇
戦後の日本の新聞は、数年ごとに定価を引き上げ、バブル景気の時に全国紙のセット地域で1ヵ月の定期購読料は3000円代に突入した。ただ、この頃までは、社会全体の経済成長もあったし、ページ数を増やしたりカラー化したりするなど商品力も向上していた。
しかし、バブル景気が終り、不況の波に襲われた中でも新聞は値上げを続けた。
1989年に3%の消費税が導入され、1997年に税率が5%になったのに伴う値上げもあったが、税率アップとは関係ない値上げも実行している。景気が悪くなって読者が減ったり、広告が減った減収を、新聞社は購読料を値上げすることで補ってきたのだ。
さすがに1997年以降は、不況下でこれ以上、購読料を高くすると読者が減ってかえって減収になるとの懸念から、消費税率が8%になるまでの17年間、定価改定は行われなかった。
つまり、新聞の値段は国民の家庭生活にとって、もう十分、高いものになっていると言える。デフレ経済で食べ物の値段が下がり、衣料品は格安ブランドが人気を集めているのに、新聞社は新聞の定価を下げるどころか上げてきたことによって、家計の支出に占める新聞代の割合が高くなってしまったのだ。
新聞社もそれを自覚しているからこそ「これ以上、値段を上げると部数に影響する」と月100円前後の値上げにピリピリするのだが、それは自らの販売戦略が招いた結果に他ならない。
■業界横並びで値上げを繰り返す経営体質
軽減税率とは生活必需品の値上げが家計を直撃する低所得者向けの政策であり、新聞業界もこの点から軽減税率を求めてきた。それが、めでたく対象となったのに、ネット上で批判の声が上がるのは、低所得者の負担を考慮するのが遅きに失したためではないかと思う。
値上げを繰り返す中で、新聞社には「低所得の読者の負担を増大させている」という認識が果たしてあったのだろうか。
貧しい人々にもきちんと情報を伝え、民主主義や活字文化を支える重要な公共財としての理念を、新聞社が自社の経営や販売戦略に反映させていれば、そもそも新聞代はここまで高くならなかったのではないかと思う。
「知識への課税は抑えるべき」「民主主義と文化の発展のため」と新聞を軽減税率の対象とする必要性を訴えても、新聞社自身がなるべく低価格で商品を提供する努力をしてこなかったので、「本当は業界を守るために軽減税率を主張しているんだろう」と世間が受け取るのも無理からぬことである。
約半世紀前にテレビが普及し始めて、「新聞はもう終わる」とも言われたが、新聞は家庭に映像を届けるこの驚くべき新媒体に負けなかった。社会のリーダー的立場にいる「インテリ」と呼ばれる購読者層の殻を打ち破り、庶民の家庭にどんどん入り込んだ。
インテリでもないし裕福でもない家庭にも「新聞ぐらいは読まなきゃ」という意識が広がり、販売店員が新聞代の集金に行ったら「ごめん、お金ないから代わりにこれでも持ってって」と台所の野菜を渡されたという笑い話もある。
昭和の時代にそういう庶民の「貧しさ」を飲み込みながら新聞は拡大、発展したのに、社会的地位を得た新聞社はいつしか庶民に寄り添うことを忘れ、業界横並びで値上げを繰り返す経営体質になってしまった。
「年金生活になって家計が苦しいので新聞購読を止める」と何十年来の読者から購読打ち切りを告げられるのがつらいという話を新聞社の販売担当者から聞いたことがある。長年の読者が離れていくのは、新聞社にとって身を切られるような思いだ。
しかし、年金生活者の家計を圧迫するような新聞代にしてしまったのは、新聞社自身でもある。
■購読料の値上げは時間の問題?
新聞業界は今、部数の落ち込みが止まらず苦境に陥っている。
売り上げが落ちる定価の値下げは到底できないし、かといって値上げすればさらに読者が離れてこれまた売り上げが落ちる可能性もある。にっちもさっちも行かないところにまで来ており、消費税率が10%に上がることしても、軽減税率の対象になったから一安心とは決して言えない。
新聞紙の用紙代、印刷代、輸送費など新聞を製作して読者の元に届ける経費には消費税率10%が適用される。軽減税率の対象になったことは、新聞代の値上げが原因で読者が減るのは避けられたというだけで、新聞発行のコストが膨らむのはどうしようもない。
拙著『小説 新聞社販売局』の中で、私は新聞社が読者数を大きく超える新聞を発行し、公称部数を膨らませているという新聞販売の構造的問題を取り上げた。読者のいない新聞を山ほど生産して販売店に買わせる、いわゆる「押し紙」と批判されている問題である。
余分な新聞を印刷したり販売店に輸送するのだって経費はかかっているし、読者のいない新聞をどっさり買わされる新聞販売店は、新聞社から「補助金」をもらわなければ経営が立ち行かない。余分な生産コストや販売店への補助金で、新聞社は部数の偽装に膨大な経費を使っており、それは新聞の購読料にも影響しているはずだ。
こんな悪しき伝統は廃止して正常なビジネスにし、その上で正常な購読料はいくらなのかを導き出すという業界の自浄作用が働かないまま、新聞は黄金期が過ぎ去って斜陽の時代を迎えた。
水道や電気が軽減税率の適用外となったにもかかわらず、新聞は食品と同等の「生活必需品」として軽減税率が認められたのだから、新聞社は今一度、生活必需品として定価を含めた新聞のあり方を考え直さなくてはならないと思う。
公称部数の水増しに莫大な経費をつぎ込んでいる歪んだ経営構造を健全化しなくては、せっかく軽減税率の対象となったのに、またしばらくして購読料を値上げしなくてはならない状況に追い込まれることだって十分ありうる。
幸田 泉(こうだ いずみ)大学卒業後、1989年某全国紙に入社。支局勤務後、大阪本社社会部では大阪府警、大阪地検、大阪地高裁、東京本社社会部では警察庁などを担当。その後、大阪本社社会部デスク、同販売局などを経て、2014年退社。編集局から販売局に左遷された元社会部記者が、複数の新聞販売店を束ねる「担当員」となり、やがて新聞業界の暗部に足を踏み入れていくさまを描いたノンフィクションノベル『小説 新聞社販売局』が好評発売中。
- 部数の凋落が止められないからこそ、「軽減税率」適用で税を通じて利益を得る手法に執着・熱望 あっしら 2015/12/24 02:14:51
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