1. 2015年12月19日 10:12:19
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(インタビュー)知日派が見る日本外交 米コロンビア大学教授、ジェラルド・カーティスさん 2015年12月19日05時00分 朝日新聞 米国随一の日本政治研究者であるコロンビア大学教授のジェラルド・カーティス氏が8日、最終講義を終えた。年内で教授を退任する。それを機に、半世紀におよぶ日本とのつきあいを振り返りつつ、日本政治、日米関係、アジア太平洋地域の国際関係など、幅広く意見を聞いた。 ――9月に成立した日本の安全保障法制の評ログイン前の続き価は。 「日本の戦後の安全保障政策の進化を示すものであって、大きく逸脱するものではない。安倍晋三首相はその変化を加速したが、政策の方向を変えたわけではない」 「しかし、安倍氏が今年4月に訪米して語った内容と、帰国後の国会答弁とでは論調にだいぶ違いがあった。米議会での演説では『日本は世界の平和と安定のため、これまで以上に責任を果たしていく』と語った。これはその2日前、ジョン・ケリー米国務長官が記者会見で述べた『日本は自国の領土だけでなく、必要に応じて米国やその他のパートナー国も防衛できるようになる』という米側の期待を、裏書きするものと受け止められた」 「ところが安倍氏は帰国後、批判を浴びると『専守防衛が基本方針であることにいささかの変更もない』『用い得る武力の行使は、あくまで自衛の措置であって、他国の防衛を目的とする集団的自衛権の行使を認めるものでもない』などと軌道修正した」 「法案の審議は予想を超えて長期化したが、安全保障環境の変化に関する議論は深まらなかった。野党が時間切れを狙って審議を長引かせる作戦をとる一方、政府の方は、国際情勢の変化について一般国民が理解できるような説明をしなかったからだ。10本の法案を一本化するというやり方も、個々の法案を十分に議論することを難しくした。日本国民が不安と懸念を感じたのも無理はなかった」 ――かねて日本の平和主義は「奇妙だ」と指摘しています。今回さらに変質したのでしょうか。 「日本の平和主義が消滅したとは思わないが、英語のpacifismと意味が一致しているとも思わない。pacifismは本来、国家の防衛のために武力を使うことを認めないという考えだ。日本は軍事力の必要性を否定していない。そうでなければ、米国が通常兵器にとどまらず核兵器の使用まで保障する日米安保条約に、国民の広い支持が集まるわけはない」 「要するに日本の平和主義とは、自衛隊の役割を自国領土の防衛だけに限定し、外交政策の目的達成のための手段として使うことは許さないということだ。安保法制に対する国民の反応をみると、平和主義は依然として、日本の軍事力行使に対する重要な制約要件になっていることが分かる」 ■ ■ ――日本の外交政策は「対応型」とも述べています。 「明治維新以降の日本外交は、基本的に『対応型』だと思っている。自ら国際政治のアジェンダ(協議事項)を決めようとしないし、国際関係のルールを定めることもない。まして、特定のイデオロギーを広めたりはしない。むしろ、存在する世界秩序を所与のものとして受け止め、そのなかでリスクを最小化し、利益を最大化するにはどう対応したらよいか。その分析に集中するのだ」 「この手法は世界秩序が明確で安定している時には成功を収めることができる。明治時代の富国強兵や、第2次大戦後の米国との同盟重視がその例だ。しかし国際情勢が流動化すると窮地に陥る恐れがある。日本の外交用語では『時流に乗る』が昔からよく使われてきたが、1930年代には『時流』の見極めを誤った。ナチスドイツと手を結び、大東亜共栄圏を構築しようとして失敗した」 「今また世界秩序は流動化している。安保法制は、米国との同盟を強化することで、今まで数十年にわたり日本の安全を確保してきた安全保障体制を、さらに強化しようとしている。一種の『対応型』戦略の表れだ」 ――安倍首相は「対応型」から脱却しようとしているのでは。 「東アジアで指導的な役割を得ようとする願望ものぞく。近隣諸国との緊張を悪化させずに達成できるかどうかが課題だ」 ――その日中関係の現状は。 「1年前に比べれば改善している。安倍首相が、中国や韓国の神経を逆なでするような発言や、靖国参拝を控えているのはその理由の一つだ。中国の指導層が、行き過ぎた反日キャンペーンは日本からの直接投資の急減や対中意識の悪化、さらに日米同盟の強化を招くと気づいたこともある」 「しかし、今年に入ってから明らかになっている関係改善の流れは、あくまで戦術的な決定の結果に過ぎない。今後、さらに国力を強め野心も深める中国と、良好な関係をどう保っていくか。日本が直面する長期的、戦略的な課題は変わらない」 ――韓国との関係は。 「韓国が日本の誠意の欠如を批判するのに対し、日本は韓国が関係改善に向けて求めるものがはっきりしないと不満を抱く。その違いを克服するには感情の要素が最大の障害となっている。しかし、私は日韓関係が近いうちに好転するのではないかと期待している。朴槿恵(パククネ)大統領と安倍首相は関係悪化を食い止めることの重要性を理解しているからだ。二人が慰安婦問題を解決する政治的勇気を示せば、歴史問題をめぐる感情的な議論ではなく、国益に対する合理的な配慮が今後の両国関係を導いていくようになると信じている」 ――東シナ海や南シナ海での行動を見ると、中国は覇権的になっているとも言えます。対応は。 「中国が東アジアで覇権の確立をめざしていると判断するのは、まだ早い。経済的影響力や政治的重みに応じた形で、国際関係で指導的役割を果たしたいと思うのは当然だ。中国に覇権を求めないよう思いとどまらせるには、米国の強固なプレゼンス(存在)を示すとともに、中国に国際システムの管理でより大きな役割を与えるという両輪の戦略が必要だ。その意味で、アジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を拒否した日米の反応は、目先のことにとらわれた誤りであった」 ■ ■ ――日米関係の現状は。 「非常に良好だと思う。同盟が強固だということにとどまらず、両国関係は相当な深さと広さを持っている。米国民の間で日本は人気が高く尊敬もされている。大学生の間でも関心は高い。高校でアニメや漫画、コスプレといった日本のポップカルチャーに魅了され、コロンビア大学に来て、日本の政治、経済、社会、文学などの授業を取る学生が多数いる」 ――しかし、沖縄の米軍普天間飛行場移設問題は、返還合意から20年近くたつのに解決しません。 「そもそも県内に新たな基地をつくろうとしたのが間違いだった。米国政府内で国防総省に対し、嘉手納空軍基地内への移設を強く求めるか、日本政府が、反発を覚悟のうえで他県への移設を進めればよかったと思う」 ――今後の進め方は。 「日米ではなく、日本政府と沖縄の問題だ。安倍首相は最終的に勝つかも知れないが、沖縄県民の間に強い反発を残す。沖縄の基地問題は時限爆弾のようなものだ」 ■ ■ ――米国の力が相対的に低下する一方、中国の台頭は続くとの見方をお持ちです。米国はリーダーシップをどう維持するのですか。 「米国の東アジア戦略は力の均衡を維持することがその中核だ。しかし均衡と封じ込めは異なる。中国を封じ込めるのではなく、既存の国際システムの中でより大きな役割を担い、ルールや規範を尊重するよう促すべきだ。それが日米中3国の国益にも資する」 ――中国は従いますか。 「それが最も重大で、かつまだ答えの出ていない問題だ。もし中国が従わず、国際秩序に挑戦すれば、周辺国は米国との安全保障関係強化に傾斜していく。南シナ海での中国の威嚇的、攻撃的行動に対する東南アジア諸国の反応として、すでに見られることだ」 ――そもそも米国は優位を維持できるのでしょうか。 「米国の軍事力は今後とも他のどの国より強いに違いないが、米ソ2極構造の世界秩序のもとで、米国が圧倒的な優位性を誇った時代は終わった。これから米国は、より不安定で複雑な多極構造のアジア、そして世界で指導的役割を果たさなければならない。我々は潜在的な危険を等閑視してはならない。だから、日本や地域諸国は、『時流』への対応に、慎重を期さなければならないのだ」 * Gerald Curtis 1940年生まれ。専門は政治学。衆院選の実証研究「代議士の誕生」で一躍有名に。今年限りで47年間の教職に終止符を打つ。 ■取材を終えて 「時流に乗る」ことを旨とする日本外交は、国際情勢が流動化すると危うい――。これが、カーティス氏の指摘だ。世界は今まさに揺れ動いている。「時流」を正しく読み切れるか。核心は中国の見極めだ。日本政治の専門家ではあるが、インタビューは中国に収斂(しゅうれん)していった。日本の将来に一抹の不安を感じつつの引退と見えた。(編集委員・加藤洋一) http://www.asahi.com/articles/DA3S12124086.html |