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理念なき安倍サマ支配 政治クーデターが起きない不思議
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/171694
2015年12月14日 日刊ゲンダイ P1、P2文字起こし
密室の茶番劇(自民・谷垣(右)、公明・井上の両幹事長)(C)日刊ゲンダイ
軽減税率をめぐる自公の茶番劇を見ていると、ウンザリした気分になってくる。コイツらは国民生活や、国の将来のことなどナーンも考えちゃいないからだ。選挙で自分たちが勝ち残ることしか頭にない。そのために税制をも愚弄しているのである。
当初、自民党税調は、軽減税率の適用は「生鮮食品のみ」で、財源規模は4000億円が限度と言い張っていた。自公の協議主体が幹事長に移っても、財政規律派の谷垣幹事長は4000億円という額を譲ろうとしなかった。それが一転、酒類と外食を除く「食品全般」に拡大することで決着。金額にして1兆円規模だ。
その財源のメドはないというが、官邸が主導し、党の頭越しに財務省と話をつけたとされる。コケにされた税調幹部も谷垣も、なぜケツをまくって辞任しないのか。軽減税率に反対していた前税調会長を更迭して、軽量の会長に差し替えた安倍サマの強権ぶりに恐れをなして黙っているのか。
谷垣氏は「ポスト安倍」の禅譲狙いでおとなしくしているという話もあるが、こういう局面で、本気で国や国民のことを考えて筋を通すならまだしも、独裁首相の顔色をうかがって、おこぼれを待っているようでは話にならないのだ。永遠にお鉢は回ってこない。いっそクーデターでも起こす気概はないのか。このデタラメ政治決着に誰も文句を言わないのだから情けない。
■選挙目当ての政治決着
今回の決着を、まるで官邸の英断のように持てはやすメディアもあるがだまされてはいけない。安倍首相や菅官房長官がやっているのは、選挙のために税制を私物化する暴挙だ。公明党の選挙協力が欲しいから、公明案を丸のみする。負担軽減といえば、国民への直接アピールにもなる。税金1兆円のバラマキで票を買おうということだ。
「選挙に勝つためなら何でもやる。この政権の悪辣さは今に始まったことではありませんが、あまりにエゲツない。しかも、軽減税率の穴埋めは、医療や介護などの自己負担を抑える総合合算制度の見送りで4000億円を確保するという。社会保障のために使うと言って消費税を上げたのに、富裕層にも恩恵がある軽減税率の財源捻出で、低所得者対策の社会保障を削るなんて本末転倒です。そもそも、社会保障費の不足を、収入の低い人ほど負担が重くなる逆進性が激しい消費税増税で賄うという設計に無理がある。この不公平感は軽減税率で解消されるものではないし、それで社会保障費が減らされるなら、消費税を10%に上げる意味がありません」(政治ジャーナリスト・山田厚俊氏)
連日、メディアに「軽減税率」の言葉が躍ると、まるで税負担が軽くなるように錯覚しそうになるが、食料品は現行8%に据え置くというだけの話だ。税率を引き下げたり、非課税にしたりするわけではない。何もないよりマシといっても、1000円の食料品を買って、支払いが1100円か1080円かで大した差はないだろう。この程度で痛税感の緩和とは片腹痛いわけで、要は公明党が支持者に「公約を守りました」と成果を見せたいだけのアリバイづくりだ。
ただでさえアベノミクスの大失敗で景気が低迷しているのに、消費税10%になれば、ますます消費が落ち込むのは確実。景気への影響は深刻なのだが、そういう配慮は置き去りで、軽減税率の範囲に終始している。この一点だけでも、その場しのぎの迷走ぶりがよく分かる。
政権のバラマキ選対費が国民にツケ回される
原子力協定も見切り発車(C)AP
消費税2%分の税収は約5.4兆円とされる。軽減税率で約1兆円分が減税になるといっても、4.4兆円の増税が国民生活にのしかかるのだ。1世帯当たり年間4万〜5万円の負担増である。しかも、軽減税率による税収減の穴埋めに他のサービスが削られ、結局は社会的弱者にシワ寄せが行く。食品の税率据え置きなんて朝三暮四の故事みたいなもので、喜んでいる場合ではない。国民はサル扱いか。「馬鹿にするな」と怒らなければおかしいのだ。
「たばこ増税の話も出てきていますが、軽減税率の財源問題は参院選後まで封印でしょう。安倍官邸は衆参ダブル選に持ち込んで圧勝したいという思惑があるから、選挙前に不人気メニューを並べたくない。公明党はダブル選を嫌がっていますが、軽減税率で公明党の要求を丸のみしたのは、ダブル選とのバーターともいわれている。選挙に勝ちさえすれば、財源なんてどうでもよくて、後は野となれ山となれと言わんばかりです。不足分は、また増税するのか、赤字国債で賄うのか。いずれにせよ、現政権の選挙対策のバラマキ費が現役世代の負担増や将来世代にツケ回しされるのです」(山田厚俊氏=前出)
マグナ・カルタの時代から、税は国家の根幹であり、政治の役割とは、究極的には、国民から集めた税をどう分配するかに尽きる。しかし、税制をオモチャにする安倍政権には、理念も、長期的なスキームもない。ボロ儲けしている大企業に減税し、防衛費は拡大の一途、公務員の月給とボーナスは2年連続アップ。消費税増税の前提である議員定数削減にも手を付けようとしない。
経済学者のスティーブン・ランズバーグは「政府が新たな歳入を再分配せず、無益なプロジェクトに支出すれば、社会はそれだけ貧しくなる」と指摘したが、この政権の限界は、もはや誰が見たって明らかだ。何もかも場当たりで、目先の利益に走り、根本的な問題は先送りする。だから混乱を招く一方なのである。
■金儲けのために倫理を捨てた安倍外交
見切り発車でいえば、インドとの原子力協定もそうだ。さらに安倍は、インド西部の高速鉄道計画に日本の新幹線方式を導入する事業費のうち約1兆円規模の円借款を供与することも表明した。
日本唯一のインド、南アジア地域研究機関である岐阜女子大学南アジア研究センターのセンター長補佐・福永正明氏が言う。
「安倍政権は原発輸出を推進していますが、これまで協定を結んだトルコやベトナムと今回の協定は大きな違いがあります。ついに一線を越えてしまったと言っていい。それは、インドが核拡散防止条約(NPT)に加盟していないことです。日本の技術が軍事転用される懸念があるし、NPTの査察の対象にならない核施設が存在するインドを6番目の核兵器国として認めることになる。ヒロシマ・ナガサキの経験から核廃絶運動を主導してきた日本が、NPTにも加盟しないインドに原発を売るだけでなく、核兵器の増産を許すことになるのです。悲劇的な災禍をもたらした福島原発事故も収束していないのに、『その日本がなぜ原発を売るのか?』とインド国民は驚いているし、国際社会もこの協定に反対しています」
倫理にもとる安倍首相の破廉恥外交には、インド人もビックリなのである。
「原発輸出は新幹線とパッケージで、日本からの武器輸出などでも合意しました。目先の金儲けや中国封じ込めに躍起になって、一線を越え、戦後日本の核不拡散政策をあっさり捨て去ったのです。これは、核廃絶に向けて努力してきた国際社会の取り組みを踏みにじる行為でもある。そのために日本が失うものは計り知れません」(福永正明氏=前出)
今さえよければいい。自分さえよければいい。将来どうなろうが知ったこっちゃない。安倍政権の政策に通底しているのは、こうした刹那主義だ。よこしまな税制改正もそうだし、出口の見えない異次元緩和も同じこと。そのツケを払わされるのが国民であることを忘れてはならない。
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