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ISに共鳴する若者は世界中にいる〔PHOTO〕gettyimages
日本でもテロは必ず起こる! 〜私たちはもう覚悟を決めるしかない 【特別対談】橋爪大三郎×島田裕巳
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46709
2015年12月13日(日) 週刊現代
■テロリストをあなどるな
島田 テロの実行犯には、若者が多いんですね。'01年のニューヨーク同時多発テロは、主犯格のモハメド・アタが33歳だった。パリのテロも主犯格のアブデルハミド・アバウドが28歳と若いので、おそらく実行犯は皆、活動歴が浅い。だから、彼らが住んでいる下町の周辺、やりやすいところでやった、ということではないでしょうか。公的機関や権力の中枢でテロをするには、より高い組織性と戦略性が必要ですから。
橋爪 でも、精巧な自爆装置付きジャケットが提供されているのをみると、技術も資金も経験もある組織が必ずバックについている。若いテロリストは前衛の下っ端で、もっと大きな背後組織があるのは間違いありません。
また、今回カフェやコンサート会場が標的になったのは、「文化的な場所」だからといわれますが、私がIS(イスラム国)の幹部だったら、イスラム教徒がなるべくいなそうなところを選ぶに決まっています。ロックコンサートにムスリムはいないでしょう。あとは、人が集まるところならどこでもいい。そういう視点で、テロの標的が選ばれているのではないでしょうか。
島田 今回のテロの原因を、格差や貧困に求める向きもありますが、そんな次元の話ではないでしょうね。テロの実行犯は、オウム真理教のときもそうでしたが、決して貧しくないし無学でもない。人的・物的・金銭的な基盤と能力がないとできないわけですから。それよりも、今の世の中の状況が、彼らの目にどう映っているのか、ということを知るのが重要です。
橋爪 '13年4月にボストンマラソン爆破事件を起こした兄弟も、アメリカで普通に生活していました。彼らは故郷のチェチェンでロシアに圧迫され、アメリカへ逃れてきた家族の子供たちです。本来はロシアを恨んで当然ですが、それがいつの間にか「アメリカ憎し」の感情に変わっていった。マイノリティの感受性豊かな若者が、急に過激化するというパターンが、世界中で増えています。
■アメリカは正義なのか?
島田 そうした中で、つい最近まで古めかしい宗教だと思われていたイスラム教が、「宗教の最前線」として彼らの心を捉えている。イスラム教の原理はシンプルなんですよね。
六信五行といって、5つの行いと6つの信仰対象への信仰を守るのが基本です。また、「預言者ムハンマドが生きていた時代が一番いい時代だ」と考える。大昔の世の中のほうが優れている、という考え方が根っこにあるので、欧米の近代主義や進歩主義とは、正反対の方向を向いているわけです。
難しいのは、イスラム教には仏教やキリスト教のような、確固たる権力構造がない点です。教えの根源はコーランにあるわけですが、コーランの解釈のしかたも一つに定まっているわけではない。だから、たとえ過激派が現れても破門できないところに、イスラムの大きなジレンマがある。
橋爪 圧倒的多数の穏健なイスラム教徒が、過激派に「お前らはけしからん」と言えばいいじゃないか、と思うかもしれませんが、それが言えないのがイスラムの原則ですからね。
人々を導くのは、神アッラーと使徒ムハンマドと、その後継者であるカリフかイマームだけ。それ以外のふつうの人間が、別な誰かに、「間違っている」と言う権限はない。正しさの規準はあくまでも、アッラーなんです。だから、世界中のあっちの王様もこっちの政権も、イスラム的に言えば、「正当性の怪しい専制的独裁政権」でしかないのです。
島田 現在、イスラム教徒は世界中で約16億人といわれますが、将来的にはもっと増えて、約22億人いるキリスト教徒に匹敵するようになるといわれています。
さらに欧米ではキリスト教離れが進行している一方で、イスラムの移民が急激に増えている。スペインには、イスラム教徒が人口の40%を占める街も出ているそうです。
橋爪 欧米では、イスラムへの根拠のない恐怖が独り歩きしています。
1920年代にアメリカは移民法を改正し、日本人移民を締め出しました。これに対して日本の世論は「差別だ」と硬化し、のちに針路を誤る大きな原因になります。これを教訓にするなら、テロの警戒が行き過ぎて「イスラム敵視政策」と受け取られれば、今後イスラム世界の世論が硬化して、緊張が高まり、世界情勢がさらに険悪になっていくおそれがあります。
島田 確かに、今のフランスは政教分離を徹底していますが、ではフランス人の理屈が世界中で通るかというと、むしろ彼らのほうが極端な考え方をしているわけです。フランス社会にイスラム教徒を同化させようとするなんて、上手くいかないのは分かっていたはずですが、フランスの人たちは一体どこまでちゃんと考えていたのか、とも思います。
橋爪 フランス政府は、ISを叩かなければ「何をしている」と国民になじられるので、空爆するしかない。でも、空爆の効果は限定的です。
これまでアメリカは、テロ組織をやっつけるために、別の武装勢力に資金を提供して、つぶし合いをさせてきました。悪の組織と戦っている組織はよい組織、という理屈です。でもこれは、テロ組織を順番に育成しているようなもの。そもそも「敵の敵は味方、だから善」というのは、アメリカの短絡的な理屈です。武装ゲリラに、誰が善で誰が悪もないはずです。
■いずれ必ず起きること
島田 やっぱり今までの欧米中心の考え方や固定観念をいったん取り払わないと、なかなか解決は難しいでしょうね。
橋爪 それに「主権国家」の制度は、中東はむろん、アフリカやインド、中国でも実状に合っていません。なんとかなっているのは、欧米と日本ぐらいではないか。私たちが当たり前だと思っている国のありかたも、世界中で機能しているわけではないし、副作用もある。それを踏まえて、「イスラム世界に欧米のやり方を押し付けたのは、本当によかったのか」と反省してみなければならない。
日本でもテロは必ず起こる、と覚悟したほうがいい。テロは少人数でも起こせるので、完全に防ぐのは不可能です。だから、テロは「受忍すべきリスク」だと考えるしかない。自動車事故と同じようなものだと受け止め、たじろがないことが、テロにくじけないということだと思います。
島田 今でも日本では交通事故で年間4000人以上が亡くなっていますが、だからといって自動車を無くすと社会が成り立たない。テロによる犠牲も、私たちの生活を成り立たせるために必要な犠牲だと考えるしかない、ということですね。
橋爪 今の世界は、アメリカの軍事力が強大で、「アメリカは、世界中どの国と戦争しても負けない」ということが秩序の根源になっています。すると、「弱者の側が政治的な主張を通すには、テロ以外に方法がない」と思い詰める人々が出てくる。それを先進国の人びとが恐れれば恐れるほど、テロは政治的な効果を持ってしまう。
これは少数者が暴力を背景に大きな発言権をもつという、不正です。だからこそ、テロの影響を最小限に食い止めるためにも、私たちは覚悟を決めるしかない。そして同時に、「テロに頼らずとも公正は実現する」という希望を育てねばなりません。
島田 日本でもテロが頻発した1970年代のことを思い出すと、当時は「テロは受忍せざるを得ない」という感覚が日本人にもあったように思います。もちろん怖くないわけではないけれど、目の前の現実を「今はそういう時代なんだ」と覚悟して受け止める。そういうタフさを、私たちは取り戻す必要があるのかもしれませんね。
はしづめ・だいさぶろう/'48年生まれ。東京工業大学名誉教授。宗教社会学をはじめ広範に活躍する。『ほんとうの法華経』(共著)他著書多数
しまだ・ひろみ/'53年生まれ。宗教学者として日本女子大学教授などを歴任。NPO法人「葬送の自由をすすめる会」会長。『八紘一宇』他多数
「週刊現代」2015年12月12日より
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