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[大機小機]日本版「国家資本主義」でいいのか
官民協調といえば聞こえは良いが、これでは日本版「国家資本主義」である。賃上げだけかと思えば、設備投資の積み上げまで求められる。なかには値下げを要求されるところもある。企業経営の根幹を政府に握られるようなものだ。
政府が開いた官民対話は市場経済のもとにあるこの国では信じがたい光景だった。経団連の榊原定征会長は設備投資を3年間で10兆円増やし、来年は今年を上回る賃上げを期待すると表明した。安倍晋三政権の強い要請に抗しきれなかった。これを受けて、政府は法人税の実効税率を20%台にする方針を打ち出した。政府の「強制」による官民協調は、戦前の大政翼賛会や産業報国会を思わせる。
デフレ脱却のために賃上げを実現し、経済の好循環につなげようという試みはわかる。横並び主義の日本の企業社会では「逆所得政策」の採用は避けられない選択だったといえる。
しかし、個別企業の投資判断にまで政府が介入するのは筋違いだ。経団連会長が民間企業の設備投資の見通しを政府に約束できるのか。経営者は需要やコストを綿密に分析し、企業の将来をかけて投資を判断する。判断を誤れば企業の存続に響き責任を問われる。経団連会長が各企業の責任を担えるわけではない。
少なくとも石坂泰三、土光敏夫といった経団連会長だったら、政府の要請を断り政府がやるべきことは何かを諭していただろう。
まずは抜本的な税制改革だ。高すぎる法人税と低すぎる消費税といういびつな税制が失われた時代を長引かせた。法人税下げは前進だが、やっとアジアや欧州の水準に近づいただけだ。
先進国最悪の財政の改革は待ったなしだ。税収の伸びに頼るだけでは財政危機を克服できない。起業家を育てベンチャー企業を生み出すため徹底した規制改革が必要だ。第4次産業革命では米独に出遅れている。
大事なのはグローバル戦略だ。「一億総活躍社会」はナショナリズムの色合いが濃い。外資導入や外国人の活用を積極化すべきだ。環太平洋経済連携協定(TPP)と東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の結合は日本の使命である。
政府が企業の活力をそぐ介入を続けるようでは、国家資本主義の本場である中国に、改革を求められなくなる。
(無垢)
[日経新聞12月8日朝刊P.17]
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