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『大人の機動戦士ガンダム大図鑑』(マガジンハウス)
「ガンダムが『戦争はかっこいい』という誤解を生んでしまった」生みの親が語る“ガンダムと戦争”
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2015.12.11. リテラ
ガンダムが「戦争はかっこいい」と宣伝した──。
今夏、国民の大多数の反対を無視して強行された安保法制では、多くの文化人が激しい懸念の声をあげた。漫画家・アニメーターの安彦良和氏も、そのひとりだ。
「止められないと思えるものを、どう止めるかが日本人にとって大きな課題」
「国立(競技場建て替え問題)も、安保も止められず、戦争も止められない…ではいけない。法案が通ってしまった後のことも考えなくてはいけない」(「スポニチANNEX」2015年7月16日)
安彦氏といえば、テレビアニメ『機動戦士ガンダム』(1979)のキャラクターデザインと作画監督を務めるなど、富野由悠季氏(監督)、大河原邦男氏(メカニックデザイン)と並んで“ガンダムの生みの親”と呼ばれるが、90年代には昭和初期の満州を舞台にした『虹色のトロツキー』や、日清戦争など明治時代を題材とする『王道の狗』を発表するなど、東アジアの近代史をマンガで表現してきた作家である。
そんな安彦氏が最新のインタビューでガンダムと戦争について語っているのだが、なんとそれは“アニメの罪”を示唆するものだった。
「戦争には必ず前段がある。ガンダムは舞台がいきなり戦争なので、『戦争はかっこいい』とか『弱者の抵抗として戦争は正しいんじゃないか』とかいう誤解を招いてしまった」(朝日新聞デジタル11月8日付)
たしかにガンダムは、ヴァーチャルな「戦争」を娯楽として人々に提供したとも言えるだろう。その意味で今回、その生みの親である安彦氏自身が、ガンダムが戦争賛美の風潮に影響を与えたのではないかと危惧しているというのは非常に興味深い。
そもそも『機動戦士ガンダム』は、それまでのロボットアニメにありがちだった勧善懲悪の原理を廃し、それぞれの陣営、個々の人々の理想と信念がぶつかりあう群像劇だった。それはのちのガンダムシリーズはもちろん、他のアニメにも多大な影響を与えた。もちろん、以降のアニメのすべてが右翼的で戦争賛美的だということではなく、当然『ガンダム』シリーズ作品のなかにも反戦的な要素は存在する。OVA『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』などはまさにそうだろう。
一方で、劇中の「戦争」からどんどん血なまぐささや悲惨さが抜けていき、しまいには“キャラクター萌え”に転じていったのが、『ガンダム』以降のアニメがたどった道であることもまた事実だ。
たとえば、近年の萌え系美少女戦車アニメ『ガールズ&パンツァー』や、旧日本軍の戦艦を萌え擬人化したゲーム『艦隊これくしょん─艦これ』のアニメ版の大ヒットも「戦争」を欲望のはけ口にする傾向を象徴してはいまいか。ネット上で隣国や外国人に対する憎悪を吐き、「国交を断絶せよ!」「殺せ!」とがなりたてる人々も同様だ。そこには戦争に対するリアリティがまったく存在しない。
今回の朝日新聞のインタビューでも、安彦氏は「基本的には誰でも『平和がいい』と思っている。しかし、戦争にはある種の魔力があって『戦争だ、戦争だ』とメンタルの部分が高揚する。戦争を繰り返してきた歴史からも分かるように人間の性みたいなもので、これは消せない」と語っているが、実は、彼は前々からこうした状況に対する危険性を指摘していた。
「僕たちはタッチの差で戦争を知らずに育ち、物知り顔で『戦争はいけない』というのはウソっぽい。だけど、若い世代のような、戦争をサブカルチャーの素材にして好戦的にも反戦的にもなれるような器用さも危うい。戦争を単純に肯定も否定もせず、リアルに見つめる目を持たなくてはなりません」(毎日新聞07年12月22日付夕刊「池田知隆の『団塊』探見」より)
そして、なにより安彦氏自身、「ガンダム」で戦争を語ることに強い警戒心を示してきた。小説家・福井晴敏氏との対談のなかではこう語っている(読売新聞2006年1月4日付)。
「『ガンダムは戦争を描いている』と言い始めたのは、僕らより少し下の、いわゆるシラケ世代以後の連中ですよ」
「オタク世代にとって、戦争とは『面白い対象』でしかないわけで、ガンダムなんかで戦争を語らないでくれと思う。実際の戦争というのは、自分の彼女がレイプされたり、家族が死んだり、家を焼かれたりするもの。アニメで戦争なんか見たって、そういった感性は摩耗するだけ。反戦がテーマだなんて合理化しちゃいけない」
実際の戦争世代ではない自分が「反戦」を言えば、どこか嘘らしさがでてしまう。それでも、好戦的な時代の空気に流されないためにはどうすればいいのか。このアンビバレントな感覚には、安彦氏がかつて新左翼運動や反戦運動に没入し、絶望的に挫折した経験が影を落としていることは想像に難くない。
「僕は北海道の田舎育ちで、『学生運動をやる』なんて意気込んで青森の大学に行った。でも全共闘もダメで退学になって、たまたま虫プロのアニメーターになった。『転向左翼がアニメ業界に逃げ込んだ』なんて言われるけれど、転向なんてカッコいいものじゃなかった。左翼も政治も消えちゃったんだから。しかもその体験から何も生み出せなかった、ダメな世代だと思っているんです」(前述の福井晴敏氏との対談より)
だが、そんな安彦氏が、今回の朝日新聞のインタビューでは「今の若者」に向けて、こんなメッセージを送っているのだ。
「だまされないでほしい。安保法制の反対デモを見ていると、学生運動をしていた我々みたいに跳ね返ったことをしないで粛々とデモをしているので見直した。一方、『9条守れ』『平和国家守れ』で思考停止してしまっては残念だ。例えば、イスラム過激派組織『イスラム国』(IS)みたいなものにどう対応するのかなど、この先、自分の頭でよく考えていってほしい」
安彦氏も評価する安保法制反対デモでは、SEALDsなどの若者が全国で声を上げた。それは、既存の左翼による動員の結果でも過激派のオルグでもなければ、実のところイデオロギー闘争ですらなかった。憲法を無視し、国民主権を破壊しようとする安倍政権への疑義が、彼らの行動の理由だ。むしろ、SEALDsを見ていると「9条」や「反戦」によって「思考停止」するような時代は、すでに終わっているように思えてならない。
「止められないと思えるものを、どう止めるかが日本人にとって大きな課題」と、安彦氏は言う。そのためには、まず“止められないと思う”自分自身の殻を打ち破るほかないのではなかろうか。
(宮島みつや)
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