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軽減税率・自民と公明「大モメ」の全真相! 〜自民党に激怒した山口代表と、ホンネがちらつく安倍首相
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46783
2015年12月09日(水) 鈴木哲夫 現代ビジネス
■公明党の幹部はカンカン
消費税10%引き上げに伴う「軽減税率」の問題で対立していた自民党と公明党。この稿を執筆中の12月7日時点ではまだ合意していないが、いいよ大詰めの段に入った。自民党は「公明党に歩み寄った」(党税調幹部)と話すが、公明党にしてみれば「うちが折れた」(公明党幹部)と言い張る。
どちらの言い分が正しいのか。私は後者だと思う。公明党にとって、この「軽減税率」は絶対に譲れないものだったからだ。
10%への引き上げは再来年4月に予定されている。ただ、消費増税は低所得者への負担が大きいため、生活必需品などについては除外して税率を下げる、というのが「軽減税率」だ。では、どこまでをその対象にするか、という点で、自民党と公明党の間には溝ができていた。
公明党は一貫して「生活者のため」として、生鮮食料品や加工品など幅広く対象にすべきだと主張。これに対して自民党は「税収減を招くから適用範囲を最小限にとどめるべきだ」という考えだった。
両党は今月まとめる来年度税制改正大綱に検討結果を盛り込むため協議を続けてきたが、両者の意見の隔たりが大きく混乱を極めたというわけだ。
また、議論は税収減の「額」をめぐる攻防にもなった。公明党案で行くと税収減は1兆3千億円。これに対して自民党は「対象を生鮮食料品のみにして税収減を4000億円程度に留める」と主張。
特に宮沢洋一・自民党税制調査会長や谷垣禎一・幹事長が「財務省の強い意向も受けている」(前出公明幹部)との見方もある中で4000億円を公言したために、公明党の反発は一層強まった。
対する公明党は一歩も引かなかった。幹部や党税調関係者は自民党幹部らに「気持ちよく来年の参院選を一緒に戦えるようにしたいよねえ」と盛んに口にした。つまり、「軽減税率で公明党に譲歩してくれなければ、選挙で協力しませんよという意味だ。選挙協力カードを切るということは、この軽減税率では一歩も引かないという意思表示」(同党幹部)ということだ。
■温厚な山口代表が激怒した!
また、先月、公明党の山口那津男代表が、親しい議員らとの会合の席で珍しく語気を荒げ「ほどほどにしろ、だ」と自民党の姿勢を批判したという。普段は冷静で論理的な山口氏。その場にいた公明党議員は「代表は自民党の恩を仇で返すような行為に激怒している」と解説した。
それにしても、公明党がこの「軽減税率」についてここまでこだわる背景にはなにがあるのか。別の公明党幹部は、「3年越しの怨讐がある」と事情を解説する。
「3年前というのは、民主党政権の末期のころの出来事を指している。当時、民自公の3党で税と社会保障の一体改革に合意して、『話し合い解散』に向けて環境整備することになったが、このとき公明党は、創価学会員など支援者への説得に大変な骨を折った。
なぜ増税のために選挙をやるのかという不満の声に対して、議員が手分けして全国を回り、解散のために仕方ない、そして必ず『軽減税率』をやると約束して納得してもらった。あのときから『軽減税率』は支援者との固い約束になっているんだ」
公明党にはもうひとつ言い分がある。それは、自民党が政権に復帰して以降、公明党が安倍政権に対して数々の政策的な譲歩を行ってきたことだ。公明党中堅議員が振り返る。
「去年7月の集団的自衛権の閣議決定、そして今年9月の安保法制は、『平和の党』公明党としては苦悩の連続だった。支援者に対しては、我が党は安倍首相や自民党のブレーキ役になると説明してきました。
これも消費税のときと同じように地方議員まで総動員して支援者のところを説明して回りましたが、私が説明に行った九州では特に年配の方々の反発は凄かった。『自民党について行く下駄の雪か!』と言われたのもこのとき。『この調子じゃ軽減税率も言いなりか』と。私は『軽減税率は絶対やる』と断言しました」
前出幹部は、「消費税も安保も『生活者の党』『平和の党』という看板を安倍首相に譲ってばかり。ここで『軽減税率』をやれなかったら支援者が見放す」と言う。
自民党内にも公明党への理解を示して、佐藤勉国対委員長のように「安保法制の借りを返しここは公明の主張を聞き入れるべき」と谷垣幹事長らにこっそり進言する動きもあったことは、付記しておきたい。
■安倍首相のホンネ
さて、肝心の安倍首相は、この「軽減税率」に対してはどんな姿勢で臨んできたのか。実は関係者などの証言から、首相は早い段階から「軽減税率の導入」と「公明党に譲る」という政治決断をしていたようだ。
まずは今年6月。当時まだ自民党の税調会長だった野田毅氏と、軽減税率に慎重な姿勢の財務省、それに公明党の北側一雄副代表らが、「一旦すべての品目で消費税を徴取した後、一定額だけ還付する方式」を検討。
事務方がこれを安倍首相に報告したが、このとき首相が真っ先に聞いたのが、方式の中身ではなく「公明党はそれでいいと言ってるの?」ということだったという。
事務方は、北側氏も参加していたことなどから「OKです」と答え、首相も「それならいい」と一旦この案が了承された。ところがのちに公明党の組織全体がOKを出していないことが分かり、新聞報道でもこの方式の問題点が指摘されたこともあって、結局還付案は潰れた。
ただ、首相側近は「あのとき、いの一番に公明党の反応を聞いたということは、首相は軽減税率では全面的に譲るハラをすでに固めていたのではないか」という。
次は内閣改造前日の10月6日。安倍首相はある公明党幹部と短時間ながら話す機会を持った。この場で公明党幹部は「軽減税率をやらなければ大変なことになる」と話しかけたところ、首相はそれを遮るように「軽減税率はやります」と断言したのだ。これを受け、数日後、菅義偉官房長官がテレビで「軽減税率は公約。やる」と発言している。
さらに11月初旬。安倍首相は公明党幹部に密かに「13日から外遊なので12日に谷垣幹事長に軽減税率をまとめるように言う」と伝えてきた。
ところがここでひと騒動起きる。谷垣氏が、その1週間後に早くも公明党の井上義久幹事長と会談したのだ。
■センスのない政治家が邪魔をする
首相側近がこの対応の問題点を指摘する。
「幹事長が現場にあまりにも早く入り過ぎた。話をまとめるというのは現場で議論をもっとガンガンやって煮詰めて最後の最後に幹事長会談で決着させるという手法。まだ現場でもめているときに幹事長会談やってもまとまらないし、すると最後は党首会談でということになり、首相や代表を引っ張り出してしまう。
なぜ谷垣さんに預けたかというと、安倍首相が細かな金額や品目に言及すると、それが今後、政局で『首相の言質』として利用されかねないからだ。谷垣幹事長は、まとめてくれと言われたから責任感ですぐに出て行ったのだろうが、その辺り政局センスが足りない」
そんな中で、安倍首相がもう一度仕切り直しせざるをえなくなった。11月27日、約40分に渡って首相と公明党の太田昭宏前国交大臣の会談が持たれたが、これが一つのポイントと見る向きは多い。
「党首会談で決めるなどという事態になれば、与党のガバナンスが欠けているという失態を晒してしまう。そこで、首相周辺や公明党幹部らが推す形で調整役の太田さんが出てきた。実は安倍首相にとって太田さんは、公明党では本音で話ができる数少ない議員。ここで、方向性や落としどころ、財務省とのすり合わせなども含めて話し合われたと見ていい」
注目は、この会談のあとだ。税収減の猶予を「8000億円〜1兆円程度」まで広げるとの情報が、官邸などからメディアにリークされ始めた。この数字は「首相・太田会談」の意向を汲んだ菅官房長官が、財務省にも睨みを利かしながら数字を出したとも言われている。
財務省も当初は「4000億円」の範囲内にこだわっていたが、最近「安倍首相が政権基盤をさらに固め憲法改正にも着手するために、消費税10%再凍結を掲げて衆参ダブル選挙をやる」といった憶測が首相周辺から流れていることに反応したという見方もある。
「財務省にとっては、『解散して消費増税の再凍結を国民に問う』などとやられてはたまらない。ここは安倍首相の『公明党に譲れ』という指示を聞いて怒らせないほうがいいという判断も省内にはあるのかもしれない」(前出自民政調幹部)
このように見ていくと、今回の「軽減税率」をめぐる自公の混乱は、公明党の「選挙協力をちらつかせてまで譲れない事情」があり、首相も「安保法制での借り」を返し、「来年の参院選を見据えて、戦略上公明党に花を持たせるのがベスト」と判断している構図と言えそうだ。
■金額の議論ばかりでいいのか
だが、今回「軽減税率」が何らかの決着をしたところで、私は大いなる不満と疑問を抱く。それは、目先の税収減がいくらになるかという金額に議論が矮小化され、本来「軽減税率」とはどんな考え方であるべきか、何が適用されるべきかという国民を巻き込んだ議論がまったく足りなかったことだ。
今後も社会保障費を消費税でまかなうとすれば、税率はますます上がって行くことが予想される。すべて社会保障をカバーするためには「消費税率25%」などという試算もある。しかも、将来は少子高齢化が進み生活様式も幸福感も価値観もすべて変わってくる。そう遠い話ではない。向こう10年で日本社会は変わる。
そうした中で、軽減税率の対象が食品関係だけでいいわけがない。たとえば少子高齢化に伴って必要な生活用品も出てくるだろう。一人暮らしのお年寄りは劇的に増え外食する。では外食を加えなくていいのか。交通費などはどうなのか。
10年先の社会を見据えた、もっと深い議論が与党の使命だったのではないか。「軽減税率」が単なる政党支持のための道具や、政局の駆け引きに扱われてしまったことに、自公には反省が求められはしないか。
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