4. 2015年12月08日 14:55:59
: OO6Zlan35k
: ScYwLWGZkzE[63]
大荒れの「軽減税率」導入論議 本当の望ましい形とは何か? 2015/12/8 2017年4月の消費増税に伴い、軽減税率の導入について議論されています。対象品目には生鮮食品だけにするか、加工食品(酒、外食、菓子、飲料は除く)も含めるかなどの議論がされていますが、まだ決着しているわけではありません。 私は、軽減税率自体は必要だと考えていますが、その具体的なやり方についてはもう少し検討すべきだと思います。今回は、軽減税率の導入について私の意見を述べます。 >> なぜ軽減税率が必要なのか なぜ軽減税率が必要なのか 軽減税率とは、生鮮食品などの生活必需品に限定して、標準税率より低く抑えられた税率のことを言います。消費増税に伴う軽減税率の導入は、基本的に必要なことだと私は考えています。なぜならば、消費税率の引き上げは、低所得であるほど相対的な負担が増える「逆累進性」があるからです。 ところが、軽減税率を導入すると、高所得者層も減税されることになってしまいます。ここで軽減税率は本来どのような姿であるべきか、ということを考えなければなりません。 私は、一定以下の所得の人たちには所得に応じて還元するという方法が最も適切ではないかと思います。基本的に確定申告を義務づけ、税金を戻すか、あるいは、収入に応じてある一定額を政府が支払うというものです。このようにすれば、不平等感が少なくなります。 ただし、私たちはもう一歩踏み込んで考えなければなりません。そもそも、なぜ、軽減税率を導入しなければならないのでしょうか。 理由は、所得の二極化です。厚生労働省が2014年7月にまとめた「国民生活基本調査」によると、相対的貧困率は16.1%。およそ6人に1人が貧困層に分類されています。 所得格差があるほど、軽減税率の導入が必要となるのです。日本は今も二極化が進んでいますが、将来はさらに格差が大きくなっていくでしょう。根本的な原因は、ここにあるのです。 >> 格差の小さいデンマークから見えるもの 格差の小さいデンマークから見えるもの ちなみに、デンマークには軽減税率がありません。同国の相対的貧困率は5%程度しかないからです。 なぜ、デンマークでは平等な社会を築けているのでしょうか。同国は、ある意味「大きな政府」で、税金が総じて高くなっています。私が2010年にデンマークを訪れた際には、所得税は40%、50%、60%の3段階に分かれており、消費税は一律25%となっていました。 税金は高いですが、教育は無料ですし、医療も薬剤費以外はほとんど無料です。なおかつ、老後も年金で十分暮らせるような仕組みになっています。格差はほとんどありません。 なぜ、そのような社会が成立するのでしょうか。結論から先にいいますと、「国からお金を出さない仕組み」を徹底してつくり、財政を黒字化させているからです。 こんなエピソードがありました。私たちがデンマークを訪れ、バスを降りようとしたとき、最初に「自転車に注意してください」と言われました。デンマークでは、日本と違って自転車専用道路と自動車用道路がしっかり分離されています。歩道から自動車用の道路に行く際には、自転車専用道路を横切ることになるのですが、自転車と人との接触事故が多いので、気をつけてくださいということでした。 デンマークには、自動車に消費税180%という非常に高い税率がかかっています。200万円の車を買ったら、560万円するのです。自動車は超贅沢品というわけです。 なぜかといいますと、デンマークには自動車産業がありませんし、ガソリンの原料となる石油もとれません。自動車の利用者が増えると、自動車も原油も海外から輸入するしかないわけです。すると、貿易収支が悪化するということです。お金が海外に出て行ってしまうのです。 そこで自動車に高い消費税率をかけ、自動車の利用を極力抑えて自転車の利用率を上げることで、外貨の流出を抑えようとしているのです。その結果、寒い北欧の国であるにも関わらず、コペンハーゲンでは約3分の1の国民が自転車通勤をしているそうです。そのために、自転車専用道路が整備されているのです。 >> 徹底した貿易収支の改善策から税を考える 徹底した貿易収支の改善策から税を考える もう一つ、こんなエピソードもありました。デンマークの首都・コペンハーゲンの繁華街では、ブランド品販売店をあまり見かけません。普通、北欧でしたらよくあるお店ですが、この国にはほとんどないのです。あるのは自国ブランドの高級陶磁器メーカーの「ロイヤルコペンハーゲン」や「ジョルグ・ジェンセン」くらいです。 つまり、貿易収支を黒字化するために「輸入品を買わせないようにする=輸入しないようにする」という考え方が根付いているのです。 風力発電の技術が非常に進んでいる理由も同様です。エネルギーを輸入したくないために、風力発電に力を入れているのです。さらには、風力発電の技術自体を輸出産業にしています。 また、デンマークの一番の輸出産品である農産物の産出を伸ばすために、農地などの集約化を徹底的に進め、利益効率を向上させています。 このように徹底した貿易収支の改善策を行っているから、国にお金が残る。そのお金を使って、国民が豊かな生活を送れるような政策を進めているのです。 デンマークの一人あたりのGDPは高く、約8万6500ドルで世界6位となっています(2014年時点)。しかし、物価も税金も高い。つまり、みんなで稼いで出し合う、という社会が成立しているのです。 ある意味、社会主義に近い国とも言えるかもしれません。もちろん思想的には自由主義国ですが、生活は規律のある社会主義国に近いと言えます。そういった基盤があるからこそ、平等な社会を実現できているのです。 日本も同じことをできるというわけではありませんが、デンマークから見習えるところはあるのではないでしょうか(ただ、お客さまとコペンハーゲンなどを訪れたのですが、その後に行ったチェコのプラハでは、デンマークよりは所得は低いものの、高級車が走り、昼から街頭で大きなビールのジョッキを傾ける人たちもいて、そちらのほうが良いというお客さまも少なくありませんでした)。 >> 対象品目は加工食品まで広げるべき 対象品目は加工食品まで広げるべき もう一度、軽減税率の話に戻しましょう。例えば、フランスでは、フォアグラの税率は低くなっていますが、これは自国の産業を守るためです。 食品と言っても一緒くたにしないで、自国の産業をどのように守っていくのか、ということも考えているのです。 日本が導入しようとしている本来の目的は、低所得者層を保護するためであり、自国の産業を守るためではありませんが、持続的な経済成長を目指すためには、こういった工夫も必要ではないでしょうか。 もう一つ、冒頭でも説明しましたが、できる限り不平等感を抑えるために、軽減税率は還付方式にすべきではないかと思います。 今、自民党は、財源の上限を4000億円とするために軽減税率の対象品目は生鮮食品のみとし、加工食品は含まないと主張していますが、低所得者層が主に購入しているのは、米と加工食品だと言われています。その点を考えると、加工食品も対象品目に含めるべきです。 もちろん、財源の確保は必要でしょうが、新国立競技場の問題が浮上したとき、2520億円もの建設費が問題となり、1000億円単位の無駄なお金を使おうとしていたわけですから、歳出の見直しをすれば、財源の確保は十分に可能なのではないでしょうか。 >> 「持続的な経済成長」が必須条件に 「持続的な経済成長」が必須条件に 高齢者に対する負担も考えなければなりません。デンマークのように年金だけで十分暮らせる社会をつくり出せば、安心して暮らせるでしょうが、超高齢化社会の入り口にあり、また巨額の財政赤字の日本がそれを実現するのは現状では非常に難しいでしょう。ほぼ不可能です。 かといって、低負担・低福祉を前提としている米国のようにもなれません。米国は、自分で年金を積み増しましょうという方針を打ち出しています。それによって格差も大きくなりますが、移民の受け入れ等によって人口が増えていますから、経済の持続的な成長が国民の負担を和らげている部分もあるのです。 ところが、日本は持続的な成長もこのままでは望めません。その中で、格差がどんどん広がり、税負担も増えていくのです。このような社会をどのように乗り越えていくのでしょうか。 こういった背景もあり、政府は現状約500兆円の名目GDPを、2020年までに600兆円を目指すと表明しました。これはもちろん大切なことですが、「一億総活躍社会」「新・3本の矢」と言っても、今のところ具体性があまりありませんから実現はかなり難しいでしょう。 税の公平感だけでなく、同時に「持続的な経済成長」を実現するための方策も考えていかなければ、最終的に豊かな社会をつくることはできないのです。軽減税率の導入は、そういった議論をする契機の一つになってほしいと心より願っています。 (構成=森脇早絵) >> 本連載は、BizCOLLEGEのコンテンツを転載したものです ◇ ◇ ◇ 小宮一慶(こみや・かずよし) 経営コンサルタント。小宮コンサルタンツ代表。十数社の非常勤取締役や監査役も務める。1957年、大阪府堺市生まれ。81年京都大学法学部卒業。東京銀行に入行。84年から2年間、米国ダートマス大学エイモスタック経営大学院に留学。MBA取得。主な著書に、『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』(以上、ディスカバー21)、『日経新聞の「本当の読み方」がわかる本』、『日経新聞の数字がわかる本』(日経BP社)他多数。最新刊『ハニカム式 日経新聞1週間ワークブック』(日経BP社)――絶賛発売中!
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