1. 2015年11月29日 16:17:21
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(耕論)一票の不平等 竹内行夫さん、坂井豊貴さん、川人貞史さん 2015年11月28日05時00分 朝日新聞 最高裁が「違憲状態」と3回連続で突きつけた衆院議員の選び方。国を方向づける重要な決定をする大義が、今の国会にあるのか。あるべき代表の決め方が、いよいよ問われている。 ■国政の正当性が問われる 竹内行夫さん(元最高裁判事) 最高裁判事だった当時、「一票の格差」が最大2・30倍だった2009年ログイン前の続きの衆院選を「違憲状態」とした11年の大法廷判決の多数意見に、私は賛同しました。 この裁判も含めて、議員定数の問題は従来、法の下の平等にもとづく投票価値の平等という国民の権利の視点から議論や報道がされてきました。しかし今や、国権の最高機関である国会の立法行為などについての正当性(レジティマシー)にかかわる重大な問題として、もっと議論されるべき状況になっています。 この種の訴訟は1962年以来提起され、近年では国政選挙の後に必ず選挙無効を訴える訴訟が起こされています。このような提訴が常態化していること自体、世界でも他の例を見ない異常な状態です。だが、提訴を受けている選挙によって選出された議員で構成された国会や、その国会で選ばれた内閣が、なんの支障もなく重要な国政を続けられているということに、多くの人が違和感を覚えていないというのも、なんとも鈍感ではないでしょうか。 具体的に考えてみましょう。例えば、先の国会で最も議論が紛糾し、国民の間でも意見が分かれた安全保障関連法です。 憲法9条についての長年の解釈を変更して、限定的とはいえ集団的自衛権の行使が可能であるとした閣議決定は、最高裁で違憲状態にあるとの判決が下された衆院選の結果成立した政権が行ったものです。重大な憲法解釈の変更を行ったのが、「違憲状態」とされた選挙の結果成立した政権だったことに、ブラックジョークのような感じがするのは私だけでしょうか。 集団的自衛権の行使を可能にし、さらに日米間の防衛協力を現行安保条約の目的から拡大するという事実上の安保条約の改定などを含んだ法律を一会期で承認・成立させた国会はどうか。今回の最高裁判決で「違憲状態」とされた選挙で選ばれた議員からなる衆院と、2012年と14年の最高裁判決で「違憲状態」とされた10年と13年の参院選の選挙区で選出された議員が半数以上を占める参院でした。 最高裁が「違憲状態」とした選挙で選出された議員が大半を占める国会が、このような重要な憲法解釈の変更や安全保障政策の基本にかかわる法律改正を行うことに、何らの問題もないと考えてよいのでしょうか。 問われているのは、国会が行う立法などの正当性の問題です。「一票の格差」訴訟の最高裁判決が、投票価値の問題に加えて、我が国の議会制民主主義の根幹にかかわる憲政史上の重大問題を提起しているということについて、法律家のみならず国会もメディアも国民も、もっと認識を深めるべきだと思います。 (聞き手・山口栄二) * たけうちゆきお 1943年生まれ。67年外務省入省。総合外交政策局長、外務事務次官などを経て、08〜13年最高裁判事。 ■大量の死票、減らす工夫を 坂井豊貴さん(慶応大学教授) 最高裁は、違憲なのか合憲なのか、明確な判断を示すべきだったと思います。 これまで日本の司法は「消極的司法」とされてきました。それでもそれなりに大丈夫だったのは、違憲の疑いがあるような法律は、めったに立法されなかったためです。 具体的には違憲・合憲の判断は、内閣法制局による「事前審査」によっていた側面が強かった。それが、安倍政権の解釈改憲や安保法制をめぐる動きを見れば分かるように、政権が自らの判断を通すため、内閣法制局の長官人事にまで手をつけました。官僚機構による「事前審査」が機能しなくなり、最高裁による「事後審査」へと重心を移す必要性が高まっています。 従って、最高裁には、積極的に判断する役割が求められています。高度に政治性を有することの判断を控えるという「統治行為論」にも終止符を打つべき時です。そうでないと、三権分立のバランスが崩れてしまいます。 小選挙区制度という「無限の格差」を抱える制度にも注目したいです。現行制度は、あまりにも死票が多すぎます。 仮に一票の格差がなくなっても、小選挙区で落選した候補に投じられた死票は投票に行かなかったのと同じです。候補者の数にもよりますが、大量の死票が出ます。ここが最大の問題で、事実上の少数派支配が横行しています。 衆院を考えれば明らかで、40%台の得票率しか得ていないにもかかわらず、70%を超す議席を与えられるという事態が頻発しています。違憲との指摘を受けた安保法案を可決した衆院議員が選ばれた昨年12月の総選挙で、自民党が全小選挙区の4分の3にあたる222議席を獲得しました。戦後最低の52・66%の投票率だったこともあり、小選挙区全体で全有権者から自民党が得たのは、わずか24%にすぎません。7割以上の有権者は小選挙区で自民党の候補者に投票していないのです。 選挙は、票をインプットして、議員をアウトプットする、巨大な計算箱です。しかし低投票率と死票とで、インプットの実質的な量があまりに少ない。あのアウトプットは「民意」と呼べるのでしょうか。 一票の格差是正を真剣に重視するのであれば、日本全体を一つの選挙区にして、比例代表制による選挙を行うべきです。理屈をつきつめれば、それが唯一の正解です。 小選挙区制のままでの制度改善も可能です。上位2候補の決選投票を行うとか、有権者が単純に一票を候補者に投じるのではなく、例えば1位に3点、2位に2点、3位に1点といったボルダルールなど、世界で採用されている方式で、死票を減らすことを真剣に工夫しなければならないでしょう。 (聞き手・池田伸壹) * さかいとよたか 1975年生まれ。経済学者。社会的選択理論、メカニズムデザインを専攻。著書に「多数決を疑う」など。 ■政治介入させない制度に 川人貞史さん(東京大学教授) 全国を一つの比例区にするといった制度にすれば、一票の格差の問題は発生しませんが、小選挙区制度を採用する限り、工夫が必要です。 米国が先進例とされます。10年に一度、国勢調査に基づいて、各州に割り当てられた連邦下院議員定数を、市町村どころか地区を分断する区割りをして、州内の一票の格差を厳密に少なくしています。しかし、州の間での平等は難しく、ロードアイランド州は人口106万で定数2、モンタナ州は人口99万で定数1と2倍近い格差が出ています。 カナダは州や準州に割り振る連邦下院の議席を、少数民族などに配慮し、格差をつける仕組みになっています。 日本の一票の格差も国全体から考えることが重要です。日本の総人口1億2806万を小選挙区の定数295で割ると、43万4千です。東京都の人口1316万を議席数25で割ると52万6千ですから、一票の価値は全国基準の82%。神奈川86%、大阪93%、愛知88%、埼玉91%と人口の多い都府県の一票の価値も全国基準に比べ極端に小さいということはありません。 東京都の有権者が、日本全体の平均から見て、半分の票しか行使できないわけではありません。鳥取県など一部の人口の少ない県への議席配分を、どの程度まで許容するかが問われているのです。 高裁、最高裁の定数訴訟の「違憲」や「違憲状態」の判決で、短期的には混乱が広がってしまいました。日本の裁判所は「違憲だ」という判断はしますが、「こうしなさい」とは言わず、国会による立法をまつという立場です。 本来は小選挙区比例代表並立制という制度について見直すため、選挙制度審議会をつくらなければなりません。しかしそれはせず、政治家は「選挙制度のことはすべて自分たちが決めていいのだ」と言わんばかりに各党がいろいろな方式を提案しました。 現在、衆院議長の諮問機関として「衆議院選挙制度に関する調査会」(座長=佐々木毅・元東大総長)が議論を進めています。明文の規定はありませんが、旧自治省以来、「ヘア式最大剰余法」という方法で議席が配分されてきました。その偏りが指摘され、配分方法の研究が進んだ結果、これから人口が減る県が出てくる日本で一票の格差をなるべく縮小させるには、アダムズ方式という方法が非常に有効だということがここ数年で分かってきました。 佐々木調査会はこの方式を採り入れた答申をするでしょう。国民の理解が進み、それをもとに法改正ができれば、10年ごとに政治の介入なしに選挙区の見直しができる制度が確立するはずです。そうなれば、一連の訴訟の果たした役割が大きかった、ということになると期待しています。 (聞き手・池田伸壹) * かわとさだふみ 1952年生まれ。政治学者。「シリーズ日本の政治」(11巻)の編著者。著書に「議院内閣制」など。 http://www.asahi.com/articles/DA3S12090161.html |