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大阪ダブル選挙のややこしい民意を読み解くー(田中良紹氏)
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23rd Nov 2015 市村 悦延 · @hellotomhanks
大阪府知事と市長のダブル選挙は共に大阪維新の会が大差で勝利した。
今年5月の住民投票で「大阪都構想」が否決されてから半年、
大阪の民意は一転して「大阪都構想」への再挑戦を掲げる候補を選択したのである。
このややこしい民意をどう読むか、単純に割り切れる回答は出て来ないが、フーテンなりの解釈を開陳する。
2年前の堺市長選挙で「大阪都構想」に反対する現職が当選した時、
フーテンは「大阪都構想の挫折」というブログで
「大阪都構想は大阪人の東京コンプレックスをくすぐるだけで
この国の統治構造の改革にはならない」と書いた。
かつて大阪は「東京が政治の中心」であるのに対し、
「商人の町=経済の中心」としての誇りを持っていた。
しかし官僚が大きな力を持つ中央集権体制は戦後の高度経済成長と共に
「東京への一極集中」を加速させる。
その結果、大阪を本拠とした銀行や総合商社が80年代から90年代にかけて
軒並み東京に本社機能を移した。
新聞の全国紙もテレビのキー局もすべて東京にあり大阪はただのローカルに過ぎない。
大阪のお笑い芸人はテレビで売れるようになると東京に住んで大阪に住まない。
みんなが大阪から出ていく。大阪人はその悲哀を味わってきた。
「民」の心を持つ大阪商人は「官」の支配する東京への反骨精神がある。
自民党と社会党が対立した55年体制の時代、
大阪だけは選挙で他の地域より共産党や公明党に多くの票が入り、
政権を担う自民党が最も気を遣わなければならない土地柄だった。
その大阪が「公務員の不祥事」にまみれる。
1960年代に就任した社会党系の大阪市長が労働組合や部落解放同盟との癒着を深め、
それが市職員のカラ残業、ヤミ手当、裏金の流用などを生み出す。
大阪府警も「赴任した本部長は必ず部下のために処分される」と言われるほど
不祥事が連続する。大阪には余人に分からぬ「闇」が存在すると言われた。
そこに登場したのが橋下徹大阪府知事である。
従って橋下氏には「東京一極集中の是正」と「公務員不祥事の廃絶」という二つの課題があった。
それらを実現するために打ち出されたのが「大阪都構想」である。
目的は大阪市をなくして大阪府が統治する体制を作る事である。
それを「二重行政の無駄をなくす」と言い、
また市と府を統合した自治体を「都」にすると言えば、
大阪人の東京コンプレックスをくすぐることが出来る。うまい事を考えるとフーテンは思った。
しかし橋下氏がこの構想の先に道州制を考え、
それを日本の「統治構造の改革」と言いだした時、フーテンには違和感が湧いた。
フーテンはかつて関西に本拠を置く「日本道州制研究会」に参加して
道州制の実現を考えた事がある。
道州制は中央政府が外交、防衛、マクロ経済だけを担当し、
その他の省庁の任務は「県」よりも広い「道」と「州」を作ってそれに委ねる構想である。
しかしフーテンはその構想に疑問を抱くようになった。
まず日本はこれまで都道府県より広い単位で政治を行った経験がない。
そして明治政府が「廃藩置県」で300藩を47都道府県に作り替えても、
地方には今でも愛知県内が「尾張」と「三河」に分かれるように江戸時代の藩の意識が残っている。
江戸時代の藩は徳川幕府に忠誠を誓ってはいるが、
独自の徴税権と教育権と軍隊を持っていた。
今の地方自治体とは違う「10割自治」である。
それはアメリカの連邦政府と州の関係と良く似ている。
アメリカの州も徴税権と教育権と軍隊を持ち、対外関係を代表する連邦政府に隷属している訳ではない。
そして米国ではワシントン、ニューヨーク、ボストンが
それぞれ政治、経済、教育・文化の中心地になっていて、
日本のような東京一極集中とは異なる。
しかし江戸時代には日本も江戸と大阪と京都がそれぞれ政治と経済と文化の中心地であった。
問題は明治政府が進めた官僚主導の中央集権化が東京一極集中をもたらし、
その弊害が今や日本社会を窒息させているのである。
そこで日本の統治構造を江戸時代に戻す「廃県置藩」を行えば、
大阪がニューヨークになる可能性もある。
しかも明治4年の「廃藩置県」を元に戻すだけだから未知のリスクはない。
橋下氏の「大阪都構想」は有権者に未知のリスクを感じさせ、
それが選挙で否決される結果になった。
しかし橋下氏のもう一つの課題である「公務員不祥事の廃絶」は一定の評価を受け、
それが今回の選挙結果に表れたとフーテンは見ている。
従って今回の選挙で維新は「大阪都構想」を修正し再度実現させると主張したが、
その実現のハードルは高いとフーテンは見る。
ただ選挙に大差で勝利した以上、それに固執するしかない事情もある。
下手をするとそれが大阪の政治を停滞させる可能性もある。
一方で自民党候補の敗因は、
大阪の有権者が感じている凋落観をはねのける具体的なプランを示せなかった事にある。
有権者は「大阪都構想」を支持して維新に投票したのではなく、
維新を批判するだけでそれに代わる構想を出さない既成政党に魅力を感じなかったのだ。
現在はこの選挙結果を過大に評価して国政への影響を論ずるメディアが多い。
しかし年が明けて国会が始まれば、政治の風景はまたガラリと変わる。
当選した知事と市長がよほど目を引く事をやらない限り、
大阪だけの話題になっていく可能性が高い。
ただ「維新の党」と「おおさか維新の党」との分裂劇がどのような展開をたどるかは国政に直結する。
そこに橋下氏が関与する事になると大阪のややこしい民意が国政をもややこしくする。
ただし橋下氏の発信力は大阪ローカルであるからこそのもので、
国際政治や国政レベルの課題で政治力を発揮できるかについてフーテンはかなり疑問を持つ。
現在アメリカでは、共和党の大統領候補争いでドナルド・トランプ氏の刺激的発言が
人気を集めているが、それは共和党支持者の中の予備選挙での話であり、
これが一般の国民を対象とする本選挙になればまた別の話が始まる。
それと同じように日本の国政選挙は安倍政権のこれまでの政治を審判するもので、
大阪ローカルでの発信力がどれほどの影響力を持つかについてはまた別の話だと考える。
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