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前NHK経営委員長代行上村達男うえむら・たつお/早稲田大学法学部教授。専門は会社法、資本市場法。2012年3月から15年2月までNHK経営委員を務める。近著に、元経営委員の視点からNHKの内情を明かした『NHKはなぜ、反知性主義に乗っ取られたのか』(東洋経済新報社) (c)朝日新聞社
前NHK経営委員長代行・上村達男早大教授が激白「政権はまず、籾井会長の“放送法違反”を問うべき」〈週刊朝日〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151119-00000003-sasahi-soci
週刊朝日 2015年11月27日号より抜粋
「BPO(放送倫理・番組向上機構)の指摘はもっともだと思います。確かにNHKの独自調査には、腰が定まっていないところがあった。世間からは、経営側は政権に批判的なNHKの『クローズアップ現代』(以下、クロ現)をやめさせたいのではないかと見られているため、厳しく調べれば調べるほど、疑念の目で見られてしまう状態でした。視聴者から『公正さ』に疑問を持たれている籾井体制自体が、NHKが抱える最大の問題です。高市早苗総務相はクロ現のやらせ問題でNHKを行政指導しましたが、まずは放送法の原則に違反する行為を次々と行う籾井会長をこそ行政指導すべきでした」
今年2月末までNHK経営委員長代行を務めた早稲田大学法学部の上村達男教授(会社法・資本市場法)が籾井NHKの病巣をこう明かした。
BPOは11月6日、昨年5月放送のクロ現の「出家詐欺」報道に“やらせ疑惑”が指摘された問題についての意見書を発表。番組について<重大な放送倫理違反があった>と断言した。過剰演出はあったが「やらせ」はなかったという今年4月のNHK内部の調査委員会による報告書については、そもそもNHKのガイドラインによる「やらせ」の概念と視聴者の一般的な感覚に距離があると指摘。その上で、<放送倫理の観点からの検証が不十分であるとの印象をぬぐえなかった>と批判した。
だが、上村氏は問題の本質はクロ現やらせ疑惑ではなく、籾井体制の体質そのものだと主張する。
問題は昨年1月の籾井会長の就任時にさかのぼる。籾井会長は就任会見で「政府が右と言っているものを、我々が左と言うわけにはいかない」と発言。成立したばかりの特定秘密保護法については「まあ一応、通っちゃったんでですね、もう言ってもしょうがない」などと述べた。こうした発言が報道され“炎上”すると、籾井会長は「記者会見の場で個人的見解を発言したことは不適切でした」と釈明したが、見過ごせない重大な問題だという。
「一連の発言は記者会見の場で言ったことが問題なのではなく、中身そのものが放送法が定めるNHKの政治的中立に反している。私が14年3月の経営委員会でそのように指摘すると、籾井氏は次の経営委に反論の文章を書いたペーパーを持参してきました。ところがそれを読み上げる際、『オフレコにしてくれ』と言う。私が絶対に認められないと強く主張すると、読むのをやめてしまいました。公表するとマスコミの餌食になると言っていましたので、すごい非難が書いてあったのだと思います」
籾井会長との対決は、これで終わらなかった。15年1月、上村氏は経営委員会の記者へのブリーフィングで籾井氏が発言を取り消していないことを再度批判。これに怒った籾井氏は浜田健一郎経営委員長を通じ「ブリーフィングは個人的意見を言う場ではない」と注意してきたという。
「NHKは業務の執行について会長の権限が非常に強い体制ですが、重要な事項の決定権限は経営委にある。つまり、経営委は会長を監視する立場です。会長が経営委の発言に対してとやかく言うということ自体、本来あり得ない。籾井会長はガバナンスの意味がまったくわかっていないのです。理屈が理解できないから、議論になると大声で怒鳴ったり、席を立って出ていってしまったりする。『この年では考え方は変わらない』と言って、議論を逃げてしまうんです。まさに『反知性主義』的な人物なのです」
15年春には、籾井会長が私的なゴルフで使ったハイヤーの料金がNHKに請求されていたことが発覚。国会で“炎上”したのは記憶に新しい。
「これだけ不祥事が続くのに局内から批判の声が上がらないのは、籾井会長が人事による露骨な“報復”を行ってきたからでしょう。籾井会長は就任早々、秘書室長を異動させていますし、自分が『敵』とみなした理事の担務も、勝手に変えてしまう。例えば就任時、唯一自分に同調した板野裕爾理事を専務理事に昇格させ、放送関係トップの放送総局長に据えた。前任の石田研一専務理事(当時)はコンプライアンス担当にしました。事実上の降格人事です」
さらに露骨だったのが、籾井氏が塚田祐之氏、吉国浩二氏の2人の専務理事の担当分野を変えた人事だという。2人は、籾井氏が就任時に理事全員に日付の入っていない辞表の提出を求めていたことが国会で問題視されたとき、「辞表を提出した」と国会で最初に証言し、残りの理事全員が辞表の提出を認めるきっかけをつくっていた。
「籾井会長は国会で口裏を合わせるよう理事らに圧力をかけていたと聞いていますが、国会でウソをつけば証人なら偽証罪に問われる。両氏の行動は当然です。2人はその後、籾井会長に辞任を迫られたと聞いていますが、拒否すると事実上、閑職と言っていい営業部門の補佐役に追いやられた。意趣返しとしか思えません。そもそも放送法上、理事の人事には経営委員会の同意が必要。会長に勝手に担当を変える権限がないのに、籾井会長にはその理解がないのです。高額報酬の理事を、勝手につくった閑職に追いやっているのですから、民間なら、株主代表訴訟を起こされてもおかしくありません」
(本誌・小泉耕平/今西憲之)
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