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シベリア行き列車髣髴させるTPPという列車ー(植草一秀氏)
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18th Nov 2015 市村 悦延 · @hellotomhanks
11月16日午後2時半に東京地方裁判所103号法廷において開かれた、
TPP交渉差止・違憲訴訟第2回口頭弁論
に、多数の市民が参集した。
ご多忙のなか、お運びくださった主権者に心から敬意を表したい。
第2回口頭弁論の内容については、
ジャーナリストの高橋清隆氏が早速記事を公開くださっているのでご高覧賜りたい。
高橋清隆の文書館
「原告の意見陳述認められず=TPP訴訟第2回口頭弁論」
この訴訟は本年5月に原告1063人によって提訴されたものである。
私も原告の一人に加わっており、第一回、第二回の口頭弁論期日には原告席に座らせていただいた。
8月には527人による第2次提訴も行われ、現在、第3次提訴の準備が進められている。
原告は10月30日現在で国会議員8人を含む1891人である。
訴えは、TPP交渉が憲法の保障する生存権(憲法25条)や幸福追求権(同13条),
立法権(同41条)などを侵害しているとして
1.TPP交渉の差し止め
2.TPP交渉の違憲確認
3.国家賠償
の3点を求めるものである。
11月16日の第2回口頭弁論では、現行側が原告による意見陳述を求めたが、
松本利幸裁判長がこれを認めなかった。
原告側は、原告による意見陳述を予定し、
原告席に孫崎享氏(元外務省国際情報局長)、
赤城智子(NPOアトピッ子地球の子ネットワーク事務局長)の2人が着席した。
ところが、松本裁判長はこれを頑なに拒絶した。
これに対して、原告代理人弁護士の一人である辻恵元衆院議員が厳しく反論を展開した。
日本国憲法は
第32条で、国民の裁判を受ける権利を定めている。
また、
第82条で、裁判を公開法廷で行うことを定めている。
さらに、
第99条で、裁判官その他の公務員が憲法を尊重し擁護する義務を負うことを定めている。
他方、この憲法の下に定められている民事訴訟法は
第87条で、当事者は、訴訟について、裁判所において口頭弁論をしなければならないと定めている。
さらに、
第249条で、判決は、その基本となる口頭弁論に関与した裁判官がすることを定めている。
第87条の規定は「口頭主義」、第249条は「直接主義」と呼ばれている。
国民は裁判を受ける権利を憲法によって保障されている。
そして、民事訴訟の手続きについて、民事訴訟法は、口頭主義、直接主義の定めを置いている。
これらの法規定に従えば、裁判所は原告が法廷において意見陳述を行うことを保障するべきである。
辻弁護士がこの点を厳しく指摘したのである。
しかし、松本裁判長は事前協議で原告の意見陳述はしないことになっていたはずだとの主張を盾に、
原告による意見陳述を認めなかった。
結局、代理人が準備書面について陳述したかたちで第2回口頭弁論が終了した。
このやり取りを通じて、第4回期日が定められたことで、一定の成果を得た形にはなったが、
裁判所の偏向した姿勢は鮮明である。
日本の統治機構においては、内閣の力が突出している。
内閣総理大臣が、三権分立などに対する正しい理解を有し、
自己抑制できる人物である限り、権力の暴走は回避されるが、
内閣総理大臣に教養がなく、非知性主義を基軸にする場合には、
日本の民主主義制度は形骸化する危険を内包していると言える。
現在の状況は、この危険が完全に表出したものである。
TPPの危険について、少しづつ、一般の理解が深まりつつある。
この日の法廷にも、TPP参加に反対する多数の主権者が足を運んだ。
こうした草の根民主主義の力が権力の暴走を阻止する防波堤の役割を果たすのである。
TPPの危険を広く主権者に知らせるためには、TPPの本質を示す
「言葉の選択」
が大事になる。
そこで、TPPを阻止する考えを持つ有志が集まった際に、
「いのちよりカネ条約」
という呼称を提案した。
この呼称を広く流布することにするのか、まだ最終確定はしていないが、
こうした情報伝達の方法も工夫してゆく必要がある。
原発、戦争法と比較すると、TPPについての一般的な理解はあまり進んでいない。
しかし、TPPこそ、日本破壊の最終兵器であると言ってよいだろう。
TPPは日本の諸制度、諸規制を改変する強制力を有することになる。
この
「強制力」
というところに、TPPの決定的な重要性、致命的な欠陥がある。
「強制力」
をもたらす源泉は、言うまでもない。
ISD条項
である。
ISD条項に基づく決定は、国家の権力を超える。
国家権力による決定の効力が及ばない。
これがISD条項の意味である。
そして、TPPが問題である本質は、TPPが目指す方向が、
主権者の利益ではなく、グローバル強欲巨大資本の利益拡大に向いている点にある。
主権者の利益のためにTPPが推進されているのではない。
グローバルに活動する強欲巨大資本の利益拡大のためにTPPが推進されているのである。
この点が重要なのだ。
自由貿易そのものは否定されるべき考え方ではない。
自由貿易は主権者に利益をもたらす。
したがって、原理原則として自由貿易を否定する考えを持たない。
しかし、自由貿易がすべてということにはならない。
自由貿易には例外や制限が設けられてよいのである。
主権者の利益を守るためには、自由貿易に制限が設けられることは正当化される。
代表的な理由としては、
経済的な安全保障
国民の生命、自由、幸福を追求する権利を守ること
である。
農業を守る目的は農家を守ることにあるのではない。
農業を守る目的は、主権者の利益を守ることにあるのだ。
この点を認識しない言説がはびこっている。
どの主権国家も、農業を守っている。
それは、農業を守ることが、国民を守ることと同義であるからだ。
農家を守るために農業を守るのではない。
主権者を守るために農業を守るのだ。
この基本を見落としてはならない。
食の安心、安全、環境問題、各問題。
これらの重要問題についての意思決定権は主権者国民にある。
しかし、ISD条項が盛り込まれたTPPに入ると、この決定権限を主権者が失う。
主権者が自分たちの生存、生命、幸福追求のための権利を守れなくなるのだ。
これが、主権喪失の問題である。
ISD条項はもともと、途上国との経済連携協定の際に、
途上国の法体系が不備であることを前提とした制度である。
当該国の法体系に委ねていては、
不当に外国資本の権利が侵害される危険があるとして、ISD条項が創設されたのである。
そのISD条項を日本に適用するということは、日本の法体系に不備があることを認めることなのだ。
日本が日本の法体系に不備があると認めないのであれば、ISD条項は毅然として拒絶するべきなのだ。
米国上院議員のエリザベス・ウォーレン女史が、本年2月25日付ワシントン・ポスト紙に論文を寄稿した。
ウォーレン女史は、TPPに盛り込まれるISD条項の問題点を的確に指摘している。
マレーシアのマハティール元首相も、まったく同じようにISD条項の問題を厳しく指摘している。
ウォーレン女史はマサチューセッツ州選出の上院議員で民主党に所属し、
かつてはハーバード大学ロースクールで教鞭ととっていた消費者問題のエキスパートである。
彼女は次のように指摘している。
「誰がTPPから恩恵をこうむるのか?
その答えを考えるうえでのもっとも説得力のあるヒントは、
しっかりと守秘されているTPP草案の小さな活字の中に隠されている。
そのヒントは『国対投資家の紛争解決』すなわちISDSと呼ばれる条項で、
それはますます貿易協定の共通の特徴となりつつある条項だ。
その名前はマイルドに響く。が、騙されてはいけない。
この大ボリュームのTPP協定の条文の中のISDSに同意してしまったら、
そのことによって、アメリカの対外国企業紛争解決の場は
巨大多国籍企業に有利なはるかに遠い場へと突き出されてしまうだろう。
更に悪いことには、それに同意することによって、アメリカの国家主権は蝕まれるだろう。
ISDSは、海外の企業がアメリカ法に異議を申し立てることを許し、
それらの企業がアメリカの法廷を全く関与させることなく、
アメリカの納税者から多額のお金をせしめることを可能にする。」
「ISDSは次のように機能する。
アメリカ政府がしばしばガソリンに添加物として混ぜられている有害科学物質を、
それが健康や環境に有害な結果をもたらすという理由で法律を作って禁止するケースを想像して欲しい。
その有害科学物質を作っている海外の企業がその法律に反対した場合、
通常はアメリカの裁判所でその法律に反対しなければならない。
しかし、ISDSに基づくならば、その企業はアメリカの法廷をスキップして、
国際仲裁機関に訴えることができる。
そこでその企業が勝てば、
アメリカ政府はその仲裁機関の裁定についてアメリカの法廷で争うことはできない。
そして、その仲裁機関はアメリカの納税者に対して、
数百万ドル、あるいは数十億ドルも、損害賠償金として、不本意でも支払わせることができる。」
そして、もうひとつ。
主権者を不幸の奈落に突き落とす最大の変化が、医療分野での格差拡大である。
安倍政権は医療のGDPを拡大する方針を示すが、公的医療支出を拡大する意思を持たない。
つまり、公的医療支出によらない医療費支出の拡大が目指されている。
端的に言うと、金持ちが民間医療保険に加入して高度な医療を受けることを想定している。
金持ち以外の一般庶民は貧疎な公的保険医療しか受けることができなくなる。
TPPの先にある、地獄絵図のような社会を誰も描かない。
第二次大戦終結を満州で迎えた日本人は、侵攻してきたソ連軍によって列車に乗せられた。
日本への船が出る港に向かう列車
日本に帰還するための列車だと思って乗車した。
しかし、その列車が向かったのはシベリアの荒れ果てた原野だった。
このシベリアの原野には地獄の生活が待ち構えていた。
バラ色の夢が語られるTPPという列車の正体は、シベリアに向かう列車なのである。
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