26. 2015年11月11日 08:00:23
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アメリカの核抑止力が失われた1950年代から60年代にかけて、地球上のあらゆる人々を恐怖に陥れた核戦争の危機が、再び世界に襲いかかろうとしている。第2次世界大戦後70年にわたって、核戦争の脅威を閉じ込めてきたアメリカの核抑止力が喪失してしまったためである。 2015年9月末、アメリカ政府高官が次のような声明を出した。 「中国が南シナ海の岩礁を埋め立てて不法に建設した島を、中国の領土とは認めない。したがってアメリカの航空機は周辺の海域や上空を自由に航行する」 これに対して中国政府は猛然と反発し「中国固有の領土とその周辺で不法行動をとるならば断固とした措置をとる」 ワシントンの有力者や専門家たちは、オバマ政権が声明どおり中国の不法な行動に対抗できるかどうか疑問に思っているが、南シナ海の岩礁地帯で、中国が勝手に埋め立て工事を行い、人工島だけでなく軍事基地まで建設した問題は、アメリカの力を試す、いわば歴史的な試金石になりつつある。 オバマ政権が国際法に則り、中国に対して正しい対抗措置をとるのが難しいことは、2015年9月末に行われた米中首脳会談ではっきりと示された。習近平国家主席がワシントンに来る前、オバマ米大統領は次のように公言している。 「中国が不法なサイバー攻撃をアメリカに仕掛けるのを止めなければ、経済封鎖を含めて厳しい措置をとる」 2015年夏、中国の上海にあるサイバー攻撃部隊が、アメリカの政府関係者の履歴、住所、社会保障番号などを数万人分、盗み取ったことに対して、共和党だけでなく一般の国民の間に反発の声が上がっていたからである。 ところが現実にはオバマ米大統領は、習近平国家主席に完全に妥協してしまい、「アメリカと中国はともに相手にサイバー攻撃をかけない」という、実行不可能な取り決めを行っただけだった。南シナ海の岩礁埋め立て問題については、オバマ米大統領が懸念を表明しただけで、習近平国家主席は「島々は中国の領土だ」と鋭く反発し、埋め立てを続行する意志を明らかにした。 オバマ米大統領の中国に対する弱腰の姿勢は、中国との経済関係のみに重点を置く政策に基づいていると批判されている。だが基本的には、オバマ米大統領が、中国に対して強い姿勢を取れないのは、第2次世界大戦後の70年間に世界の戦略的な構造が大きく変わり、アメリカが世界の指導国として、自らの意志を通すことが極めて難しくなっているからである。 2015年5月、アメリカ国防総省でアメリカの危機について研究調査を行っている担当者が、次のような発表を行った。 「アメリカは、極東では中国、ヨーロッパではロシア、中東ではイランの脅威に直面している。戦略体制を根本的に変えない限り、アメリカは安全ではなくなる。特に中国は、核戦力を強化してアメリカに挑戦しているだけでなく、日本やインドなどに危険を及ぼしている。アメリカはこうした危機状況に対処するために即刻、戦略体制を作り直す必要がある」 その翌月の6月には、アメリカ国防総省のロバート・ワーク副長官が、アメリカの海軍大学で講演し、アメリカの戦略防衛体制が崩壊しつつあると、次のように警告した。 「中国の東シナ海や南シナ海における挑発的な行動を抑止するためにもアメリカは、国際秩序を維持するための力を維持していることを世界に示さなければならない。だが世界におけるアメリカの力はあまりにも伸びきってしまった。このままでは世界を動かしていく力を失う危険がある」 そして8月、アメリカ核戦略の総責任者ともいえるアメリカ空軍のマーク・ウエルシュ総司令官が、次のように述べたのである。 「アメリカは、中国やロシアの核戦力の強化に対抗して、新しい核戦略を持たなければならない。そのためには新しい核兵器を保有し、その核兵器を使うための機能的な命令系統を明確にする必要がある。アメリカは直ちに、有効な核戦力を維持するための教育を軍人達に施さねばならない」 以上のようなアメリカの国防担当者たちの発言は、戦後70年を経てアメリカが、世界最強と言われる力によってすら、世界の秩序を維持することが難しくなっていることを示している。 中国が国際ルールを無視して南シナ海に人工島を作り、領土であると宣言しても、その歴史的な暴挙をアメリカは力で阻止することが出来ない。第2次世界大戦後、アメリカが、日本をはじめとする同盟諸国に提供してきた核の傘の有効性が危ぶまれる事態になっているのである。 核兵器の技術は向上している アメリカが依然として、世界で最も優れた核戦力を維持していることは紛れもない事実である。2015年8月、アメリカ核戦略の総責任者とも言えるアメリカ空軍のマーク・ウエルシュ総司令官は、米国防総省で記者団と特別会見を行い、アメリカの核戦力の柱の1つである戦略爆撃機B2の能力が飛躍的に向上したと述べた。具体的な内容は軍事機密ということで明らかにしなかったが、アメリカ空軍が核兵器の運搬手段である戦略航空機の充実を図っていることは確かである。 B2戦略爆撃機は、アメリカが維持している3つの戦略兵器体系の1つである。すでに一般にも知られているように、アメリカの核戦力はミニットマンミサイルを中心とする大陸間弾道ミサイル、14隻からなるミサイル原子力潜水艦隊に搭載されているトライデントミサイル、それに空軍の戦略爆撃機からなっている。 「トライアド」と呼ばれるこの3つの核戦力のうち、機能的、戦術的にみて最も使いやすいのが戦略爆撃機である。アメリカ空軍は、地球規模攻撃軍団と呼ばれる組織のもとに、合わせて159機の戦略爆撃機を保有している。最新鋭のB2、それより型は古いが、最先端の機器を搭載しているB1、それに製造が始まってすでに半世紀になるが、改造されて最新鋭の戦力を持つようになったB52で、このうち中国やロシアのあらゆる防空体制を突き抜けて核攻撃を行うことが出来るのが、B2である。戦略航空機の中で最も高価なステルス性爆撃機で、建造費は7億ドルを超えると言われている。アメリカ空軍はこの世界最強の兵器を現在、20機保有しており、ミズーリ州にあるホワイトマン空軍基地を拠点として展開しているが、このほどその主力がグアム島に進出することになった。 黒色で尻尾のないエイのような異様な形のB2を、私はホワイトマン空軍基地とグアム島で取材したことがあるが、アメリカの最も重要な戦略攻撃力であるB2の撮影は厳重な規制のもとにあった。グアム島では、格納庫の扉を開いてB2の姿をほんの数分、見せてくれただけであった。 軍事機密になるため、飛躍的に向上したB2の能力についてウエルシュ空軍総司令官は、具体的な説明をしなかったと述べたが、米国防総省の専門家は次のように述べている。 「B2戦略爆撃機の攻撃力がアップグレードされた。ステルス性がさらに優れたものになってレーダーに殆ど映らない。通信体系も改善された。交信には低周波の通信波が使えるようになった。低周波の通信波は、海中に長期間に潜む原子力ミサイル潜水艦や、地中深くに作られているミニットマンミサイルの電波指令に使われているが、敵に探知される危険が殆どない。B2にはさらに、新しい戦略命令装置が備えられ、敵の防衛力の弱い地点をたどって攻撃する性能を持つようになった。コンピュータはじめ通信機器が一新され、2人の乗組員が瞬時に反応できる機能を備えている」 アメリカは159機の戦略爆撃機を持っていると述べたが、ロシアとの新しいSALT、戦略兵器制限交渉によって、そのうち60機が核兵器を搭載する能力を持つことを認められている。アメリカはこれからB2にかわる新しい戦略爆撃機の開発をすすめ、さらに能率的に中国やロシア、イランの戦略拠点を攻撃する能力を持とうとしている。 2014年2月アメリカ空軍は抜き打ちで、ミサイル戦略部隊の調査や兵器の点検を行いその結果を、海軍の原子力ミサイル潜水艦の調査とあわせて、発表した。それによれば、ミサイル攻撃部隊基地のうち最も重要なワイオミング州のマルモストローム空軍基地や、ノースダコタ州のミノット空軍基地に幾つかの重大な問題があると指摘されている。アメリカ空軍はこうした問題の解決に着手するとともに、1億6千万ドル以上の経費をかけて、ミニットマンミサイルの攻撃体制の強化を始めている。 アメリカの戦略体制の強化は、戦略爆撃機だけにとどまらず、ミサイル原子力潜水艦隊でも行われている。アメリカ海軍は、トライデント核ミサイルを搭載しているミサイル原子力潜水艦の戦力の向上をはかっているが、すでに海中における通信能力の強化に成功した。潜水艦は海中に深く潜ると、司令部からの命令を受信することが困難だったが、アメリカ海軍は新しい通信技術によってこの問題を克服したと発表している。私はミサイル原子力潜水艦の実践パトロールに数回、同乗したことがあるが、日常の行動がアメリカ空軍の戦略爆撃機部隊と全く同じであることに気がついた。アメリカは冷戦後も24時間体制で厳しい軍事パトロールを続けているのである。 アメリカはこのように、B2にかわる新しい戦略爆撃機を開発するだけでなく、戦略兵器の根幹となっているミニットマンミサイル部隊や、ミサイル原子力潜水艦隊の戦力向上を図って、アメリカの強力な核の傘を維持しようとしている。だがIT技術の革命的な進歩で急速に変わりつつある21世紀の世界で、これまでに経験したことのない新たな挑戦を受けているのである。 アジアは核兵器が溢れている ロシアが開発した最新鋭のボーレイ型ミサイル原子力潜水艦が、2015年はじめ実戦配備につき、ロシアの核戦力は飛躍的に向上した。ロシアの軍事専門家やアメリカ海軍の情報によると、ボーレイ型を中心とするロシアの新しい原子力潜水艦隊は性能の上で、旧ソビエトの潜水艦隊とは比べものにならないほど強力になっている。 ロシアの潜水艦隊は、基本的に北極に近いムルマンスクを基地にしている。冷戦中アメリカ海軍は、ムルマンスクを出港する全てのソビエト潜水艦を衛星で追跡し、海中ではアメリカ海軍の攻撃型潜水艦が追尾する体制を作り上げていた。イギリスからグリーンランドに至る大西洋の海底には、潜水艦が通ると感応する電子ラインを敷設し、旧ソビエト艦隊の動きをほぼ完全に抑えていた。 「冷戦が終わった現在もアメリカは、ロシアの潜水艦隊の動きを追尾する仕組みを取り続けている。だがロシアの対応手段が巧妙になっているので、冷戦時代のように全てを抑え切っているとは言い難い」 アメリカ海軍の潜水艦専門家がこう述べている。 ロシアの最新鋭のボーレイ型ミサイル原子力潜水艦は、すでに10隻程度が実戦配備されていると見られている。アメリカ海軍の情報によれば、このうち3隻以上が、極東のウラジオストックに配備され、さらに3隻ないし4隻が、キューバを基地としてアメリカ周辺海域のパトロールを行っている。 ロシアのボーレイ型ミサイル原子力潜水艦は、これまでのソビエトのタイフーン型ミサイル潜水艦の性能を向上させ、やや小型にしたもので、16基の水中発射型ミサイルを装備している。 「ウラジオストックを基地とするボーレイ型ミサイル原子力潜水艦は、日本周辺の軍事情勢に大きな影響を与えようとしている。アメリカ第7艦隊の行動にも深刻な影響を与えることになるだろう」 ワシントンの軍事専門家がこう指摘している。 キューバを基地としているボーレイ型ミサイル原子力潜水艦は、すでにカリブ海から大西洋にかけてアメリカ近海をパトロールしているが、ワシントンに流れている軍事情報によると、常時、ホワイトハウスを攻撃する能力を持っている。 このような状況はまさに、絶対的と言われてきたアメリカの核の傘に、大きな歪が生じていることを示している。しかもこうした情勢を背景に、ロシアのプーチン大統領は、核兵器を使える兵器であると主張するようになっている。ハドソン研究所の軍事専門家が次のように述べている。 「プーチンは、ウクライナのクリミア半島に侵攻した時、大きな抵抗にあったら核兵器を使うことも考えていたと、後にロシアの記者に語った」 新しいSALTの協定によるとロシアはアメリカと同じように、強力な戦略核兵器を1550発所有する権利を持っているが、戦術核兵器は、SALTによる核兵器制限の取り決めの中に含まれていない。アメリカ側の推定によると、ロシアは、1キロトン級という超小型から数十キロトンの大型まで、合わせて5000発の戦術核兵器をロシア国内の基地に貯蔵している。 ロシアはまた、戦術核兵器の運搬手段となるミサイルの改善に力を入れている。一般に公表されたものだけでも、KH15、KH14といった通常のクルージングミサイルとほぼ同じ大きさで、取り扱いも同じ程度のミサイルを実戦配備している。モスクワからの情報によるとプーチン大統領はこういった戦術核兵器を侵略したウクライナ、さらには軍事行動を開始したシリアにも置くことを考えている。 こうしたロシアの核戦力の強化に対抗して、飛躍的に核戦力を強化しているのが中国である。中国は2008年、最新鋭のジンクラスのミサイル原子力潜水艦を実戦配備し、西太平洋のパトロールを始めたと発表したが、海中発射型のJL2核ミサイルの発射にも成功し、アメリカの首都ワシントンやニューヨークを核攻撃できる体制を整えつつある。 中国が核弾頭の増強に力を入れていることは公然の秘密である。中国政府は正式には発表していないものの、今や1000発以上の核弾頭を中国各地の地下基地に配備していると言われている。 「中国は、核戦力については全く発表していない。アメリカの関係者も口を閉ざしているが、中国が核兵器の材料である濃縮ウランを、全力をあげて製造しているのは事実である。中国がアメリカとロシアに対抗する核戦力を維持していることは間違いない」 アメリカ国防総省の専門家はこう指摘している。中国の核戦力のうちアメリカが最も恐れているのは、核弾頭を装備した衛星破壊ミサイルである。中国は数年前、すでに衛星攻撃ミサイルの実験に成功しているが、このミサイルに核兵器を装備し、アメリカの通信衛星やスパイ衛星を破壊して、アメリカの軍事体制に大きな損害を与えようと計画している。 2015年7月、アメリカ国防総省のロバート・ワーク副長官は、中国の宇宙兵器対策として、むこう5年間に50億ドルの特別経費を計上していることを明らかにした。最近、アメリカ国防総省内部では、中国の衛星攻撃能力に対する警戒の念が強く、対策会議が頻繁に開かれている。アメリカ国防総省の幹部は最近の研究会の席上で、次のように警告している。 「中国は、アメリカが衛星網を駆使して軍事行動を行っていることに注目している。アメリカの通信衛星やスパイ衛星を直接、破壊しなくても、他の衛星を破壊して破片を軌道上にばら撒くことで、アメリカの軍事活動を著しく阻害することが可能である」 中国は核兵器を増強し、アメリカとロシアに挑戦する姿勢を日増しに強めているが、それに次いで、北朝鮮も核戦力の充実に力を入れ、間もなく4度目の核実験を実施すると予測されている。北朝鮮の核実験は、核兵器の小型化を目指したもので、アメリカ国防総省は、北朝鮮の核兵器の実戦化が近いと見ている。 北朝鮮の核兵器についてオバマ政権は否定的な見方をしており、北朝鮮を核兵器保有国家としては認めないという姿勢を崩していない。しかしながら、アメリカ国防総省筋の情報によると在韓米軍はすでに、核戦争に備えた戦略の検討や、装備の点検を始めている。 サイバー戦が核の脅威を拡大する アメリカの絶対的な抑止力というタガがはずれてしまった世界とくにアジアでは、核戦争の脅威が日増しに現実味を帯びて来ている。アメリカが強力な軍事力を持ちながら、中国の侵略的な行動を押さえつけることが出来ないという状況は、今後ますます顕著になって来ると思われる。そうした中で、日本、韓国、台湾および東南アジアの国々は独自の軍事力を持つ必要に迫られてくる。 現在、技術的にみて最も確実で、しかも製造費が安いのが核兵器である。核兵器は1945年、アメリカがロスアラモスで最初の実験に成功して以来、小型化が進み、性能も驚くほど向上している。1954年にアメリカが開発したMK12Aは2メートル弱、300キログラムもあったが、徐々に小型化されて現在のミサイルの弾頭になっている。 1956年には、原爆よりもさらに強力な水爆が開発された。ソビエトがアメリカの技術を盗み、原子爆弾の開発と製造を急速に進めていたからである。私は「水爆の父」と呼ばれたエドワード・テイラー博士から直接、アメリカがいかに努力して水爆を開発したかという話を聞いたことがある。 アメリカとソビエトが強力な核兵器の製造を続けたことで、冷戦の対決が厳しくなるとともに、世界中に核戦争に対する恐怖が広がって行った。アメリカでは、10メガトン、広島に落とされた1000倍の威力を持つ水爆が落とされれば、地球の角度がずれてしまうとか、太陽光線が遮られて、地球が凍ってしまうといった話が流れた。 アメリカの各地に核爆弾の攻撃を逃れるためのシェルターが作られ、同時に核兵器に対する反対運動が世界に広がっていった。冷戦後も核兵器に対する恐怖が消えることはなく、2008年に登場したオバマ米大統領は、「核のない世界」を作ることを提唱してノーベル平和賞を受賞した。しかしながら現実の世界では、そういった反対の声とは関わりなく核兵器の開発が続き、小型化と高性能化が進んでいる。 核兵器を保有する国の数も増え続けた。アメリカ、ソビエトに続いて1958年にはイギリス、1967年に中国、1968年にフランス、1989年にはインドとパキスタンといった具合に増え、2014年には北朝鮮も加わった。イスラエルもすでに、100発程度の核爆弾を保有していると言われている。 核戦争の脅威をさらに高めているのが、急速に激化するサイバー戦争である。核兵器に関わる高度な技術が開発されるや否や、中国、ロシア、北朝鮮といった国が、サイバー攻撃を仕掛けそれを盗み取る。スパイを潜り込ませることなく、簡単にアメリカの先端技術を盗むことができる時代になっているのである。 アメリカの軍事専門家は、サイバー空間を使って実際には発射されていない核ミサイルが発射されたかのように操作し、核戦争を起こさせることも可能であると警告している。日本は70年にわたって核兵器のない世界の実現を祈り続けているが、近隣の中国、ロシア、北朝鮮は核戦力を増強し続けている。日本の人々は、祈っているだけでは核戦争の危機に対処できないことを認識するべきである。
[32削除理由]:削除人:関連が薄い長文 |