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「王様は裸だと言える人がいない」と指摘(C)日刊ゲンダイ
吉田照美氏「常識を判断する尺度が安倍政権に壊されている」
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/168637
2015年11月9日 日刊ゲンダイ
■「1億総」はひどく嫌なセンス
3.11を契機に腹をくくったというフリーアナウンサーの吉田照美氏。原発事故直後、大手メディアが正しい情報を伝えているとは思えない状況にイラ立ちを覚える中、「自分にウソをつきたくない」と。以来、時の権力や時代の風潮に臆することなく、自分の思いをリスナーに伝える。そんな“ラジオマン”には、安倍政権の「コトバ」の先に何が見えるのか。
――安倍政権がブチ上げた「1億総活躍」という言葉のセンスをどう思いますか。
スゴイ言葉を選び出してきましたよね。ひどく嫌なセンスだと思います。安保関連法を巡って、多くの人が安倍政権の「戦前回帰」を危惧した矢先です。どうしても「一億火の玉」や「国家総動員」など、先の大戦のスローガンを想起させます。僕の生まれは昭和26年。両親や親戚から戦争体験を聞かされた身にとっては、逆なでされている気がしますね。
――敗戦後、まだ10年ほどの東京を知っていらっしゃるんですものね。
少年時代を過ごしたのは江戸川区の小岩で、近くの公園には防空壕があって。当時は子供の遊び場でしたけど、戦争の「傷痕」が至るところにありました。僕の父親は少年兵として海軍に志願し、職工みたいなことをやっていました。実は人間魚雷「回天」の製造にも関わっていたんです。
――そうなんですか。
父親は胸を患い、軍隊から戻って敗戦を迎えたので、事なきを得ましたけど。人間魚雷なんてホント、非人間的ですよね。人間自体が武器となり、命中しなくとも上からネジを締められているから脱出できない。どの道、死んでしまうんです。それこそ洗脳されるって、おかしいけど、当時は支配階級が絶対で、親や学校の教えとか、社会全体がヒトを非人間的に仕向ける流れをつくっていた。そんな話を聞かされた世代ですから、「1億総」なんて誰が好きこのんで思いついたのか。最初に安倍さんに提案した人の顔を見てみたいです。
――1億総活躍をブチ上げた直後、菅官房長官が福山雅治さんの結婚を機に「産んで国家に貢献を」と言いました。
皆、安倍さんの機嫌をおもんぱかるような言葉を選んでいるのかも知れません。もはや政権全体が安倍さんにおもねる人ばかりだから。安倍さんに重用されたいってだけで右翼組織の「日本会議」に慌てて入る政治家も多いみたいだし。
――「なんちゃって極右」ですか。
それって非常に国民をナメ切った話でね。安倍さんだけを意識して国民は度外視という政治家ばかりじゃあ、どうしようもない。組織としてもダメですね。安倍さんの周囲にはイエスマンしかいないんですから。「王様は裸だ」と言える人が、ひとりもいない。
――意味不明なスローガンに飽き足らず、1億総活躍相まで新設する発想には、もうついていけません。
「ホントかよ、そのセンス!」と言いたくなります。ハッキリ言って、見ているコチラ側が恥ずかしくって、演じている側はちっとも恥ずかしがらないのが今の政権担当の皆さん。「そんなことをしたら、笑われちゃうよ」という感覚が欠落してしまった集団にしか、僕には見えません。
――国民のセンスとは相当にズレています。
物凄くズレていますよ。軽減税率についても、財務相の麻生さんは「面倒くさい」と言いました。オイオイ、国民のためのことが面倒なら「政治家を辞めろ!」って話ですよ。よくもまあ、恥ずかしげもなく言えるな、と思う。最近は僕らの常識や物事を判断する尺度が、安倍政権の手によって壊されている感じさえします。要は「ルールなんて守らなくてOK」と、安倍政権が体現しているんです。
――日本全体に「何でもアリ」のムードが漂いかねません。
安保法案だって誰がどう見ても参院特別委で採決できていない。議事録も当初は「聴取不能」としか書いていなかった。後から委員長判断で「可決すべきものと決定した」と追記するような“イカサマ”までやる。
――NHKの中継を通じて、多くの人が大混乱を目の当たりにしたにもかかわらずです。
採決できていない証拠は山ほど残っています。それでも、政治家たちが何食わぬ顔ならば、普通の会社員だって「俺たちも何やったって、いいじゃん」という意識になりますよ。だから“やり逃げ感覚”とでも言うのかな。「悪いことでもバレなきゃOK、逃げちゃえばいい」というムードが、もう世に蔓延していると思います。
■「民」の字の成り立ちでこの国の正体がわかる
「できる限り発信を続けたい」と吉田照美氏(C)日刊ゲンダイ
――横浜の傾斜マンションの問題なんて、その典型ですね。
原発事故から、もう4年半も経ちますけど、誰ひとりとして責任を取らない。検証は形ばかりで「えいやっ」と再稼働でしょう。五輪の不始末もそう。最高責任者は何を指摘されてもカエルのツラに小便で、相も変わらず重要な地位に居座っていられる感覚は、不思議でなりません。
――つくづく「何でもアリ」の国になってきていますね。
今の政権は中国や北朝鮮を批判してきたのに、だんだんソッチ側に近づいている気がします。戦後日本は民主主義で立憲主義の国となって「お上が絶対」なんて体制は崩れたかと思ってきましたけど。近頃は国民サイドも「お上意識」が呼び覚まされている気がします。原発再稼働に対し「あんな大事故が起きたのにダメだ」と訴えると、すぐ「左がかっている」と誰彼となくレッテルを貼りたがる。政府に異を唱えると、昔ながらの“アカ”のイメージを今でも植えつけ、言論を封じ込めようとする。その圧力ってこの国では相変わらず強いと思う。
――確かに原発事故直後から小出裕章さん(元京大原子炉実験所助教)が原子炉内部の状態について最も真実を語っていたのに、彼の意見は今なお中央から押しやられている印象があります。
いくら本当のことを語っても、多くの人にとっては内容は二の次。レッテル貼りによって皆、真実に気付かない状況さえ起きている気がします。国民一人一人に考えさせることをやめさせ、真相にたどりつかせない仕組みがデキ上がっているのではないか。それって凄くおかしな話だし、とても怖いですよね。ところで、漢字の「民」の成り立ちって、分かります?
――いや、考えたこともありません。
僕も最近、知ってビックリしたんですけどね。「民」は象形文字で、上の四角い部分は人の頭部、縦棒は体を表します。横棒は手ですけど、じゃあ、最後にはねている斜めの棒は何か? 実は「民」の目を針で刺して見えなくするサマを描いているんです。「国『民』主権」「『民』主主義」と、ありがたがって使っていますけど、もともとは目を潰され、物事を知ることを許されない奴隷を表し、情報を与えられず支配下に置かれる人々を意味しているんです。
――恐ろしいですね。
今や自「民」党も「民」主党も、本来の「民」を意味してませんか。僕は「自己責任」って言葉が本当に嫌い。上からの押しつけ、支配する側の「逃げ」の表現です。国はどんな状況であれ、困っている国民がいれば、手を差し伸べなきゃいけないと思う。国民が平和に暮らせるのが、国家の基本の役目なのに今は逆行していませんか。
――お国のために国民は奉仕せよ、という方向に向かっていますね。
原発事故で福島から避難している人々や基地問題に悩まされる沖縄の人々。現実に困っている国民は大勢いるのに、国は優しい手を差し伸べようとしない。何のための国家だと僕は思う。誰だって国を愛していますよ、自分の故郷とか。それ以上の“愛国心”を国民に強要し、守れない国民には手を差し出さない雰囲気は間違っています。
――国民は目を潰しにかかる勢力と、どう対峙すべきですか。
もっと“上から目線”で発言すべきです。政治家は別に偉いわけでもないし、むしろ国民のシモベであるべき。ずっと見上げていたら、何も変わりません。生きていくうえで、自分の思いを声に上げることは何の遠慮もいらないこと。芸能界の人々も声を上げ始めています。石田純一さんや笑福亭鶴瓶さん、吉永小百合さんは昔からですけど。日本人の悪い点は「すべてが他人事」という感覚に侵されているところ。それは「無関心」につながります。我が身に降りかかって初めて事の重大さに気づいても遅いのです。東京に住む人が我が身に置きかえて、沖縄や福島の人々に思いを巡らせられるかどうか。そういう想像力を持てない限り、お上に目を潰される状況は続くのでしょう。みんなが、そのことに気付くまで、僕もできる限り発信を続けたいと思っています。
▽よしだ・てるみ 1951年、東京生まれ。74年に文化放送入社。4年後、深夜の看板番組「セイ!ヤング」のパーソナリティーに抜擢され、一躍注目を集める。85年のフリー転身以降はテレビでも活躍。現在は「吉田照美 飛べ!サルバドール」のメーンパーソナリティーなど。
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