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安保法制が露にした日本の国防の根本的矛盾
http://www.videonews.com/marugeki-talk/761/
2015年11月7日 マル激トーク・オン・ディマンド 第761回 ビデオニュース・ドットコム
【ダイジェスト】伊勢崎賢治氏:安保法制が露にした日本の国防の根本的矛盾
ゲスト 伊勢崎賢治氏(東京外国語大学大学院教授)
安保法制の成立によって日本の戦後の安全保障政策の大転換が図られたとの見方がある。限定的とはいえ長年にわたり憲法で禁じられてると解されてきた集団的自衛権の行使を可能にしたという意味で、政策的には大きな飛躍があったことはまちがいない。
しかし、国際紛争や武装解除が専門の伊勢崎賢治・東京外国語大学大学院教授は、安保法制に大きな問題があったことを認めた上で、日本の国防政策には安保法制以前に根本的な矛盾があり、一連の安保法制をめぐる国会審議や論争でも、その根本的な問題が顧みられることはなかったと残念がる。
戦後、日本の国防は日米同盟を基軸としながら、専守防衛に徹する自衛隊がその任に当たってきた。しかし、日本国憲法が一切の武力の保持を禁じているため自衛隊はあくまで軍隊ではないと解釈され、現在に至っている。また、同じく日本国憲法は明確に国の交戦権を否定しているので、自衛隊は軍隊ではない上に、交戦もできない。
伊勢崎氏は専守防衛であろうが何であろうが、国を守るためには軍事力の行使は不可欠で、また、そこでは必ず交戦状態が生じる。しかし、日本ではそれは禁止されていると解され続けているため、その矛盾をすべて自衛隊が引き受けることになっていると伊勢崎氏は言う。
今回、安保法制によって自衛隊の役割がさらに大きくなったが、依然として自衛隊は軍隊ではなく、交戦権も持たないままだ。当然のことながら、その矛盾はさらに大きくなってしまった。いい加減にそのような子供でも分かる、詭弁と呼んでもいいような明確な矛盾を抱えたままの国防政策とは決別しなければ、自衛隊へのしわ寄せは大きくなるばかりだ。それを見て、政治も国民もメディアも平気でいられるのかと、伊勢崎氏は怒りを隠さない。
安保法制以前から、自衛隊は国連PKO(平和維持活動)などで海外に派遣されてきた。実際、規律を守り真面目に仕事をする自衛隊は国連PKOを通じて海外からも高い評価を受けている。しかし、あくまで軍隊ではなく、交戦権も持たない自衛隊は他国の軍隊とは異なり、本来紛争地帯に派遣される軍隊や兵士が当然持っていなければならないような基本的な権利や権限が与えられていない。そのため、例えば自衛隊員が現地で人を殺傷してしまったり、自衛隊員自体がとらえられてしまった場合、彼らには本来、正規軍やその兵士が与えられている権限がないため、例えば刑事罰の対象になってしまったり、ジュネーブ条約で認められている捕虜の権利などが主張できないと伊勢崎氏は言う。
要するに、明らかに軍事力を持った軍隊を憲法上の理由からあくまで軍隊ではないと言い続けてきたことに、本質的な矛盾があった。それはとうの昔に限界に来ていたが、国連PKOなどで自衛隊が海外に派遣されるようになると、その矛盾はさらに拡大し、自国が攻撃されていないにもかかわらず同盟国と共同で軍事行動を実施する権限を認めた今回の安保法制で、その矛盾はいよいよ決定的なものとなってしまったということだ。
今回の安保法制では、自衛隊の武器使用権限などが拡大され、自衛隊員のリスクも格段に高まっている。しかし、依然として自衛隊は軍隊ではなく、交戦権は持たないという憲法上の建前は有効なため、リスクの拡大に伴う自衛隊員の法的地位の保護は全くといっていいほど、整備されていない。
安保法制で政治や国民の目が国防に向けられことで、この日本の国防政策の根本的な欺瞞にもようやく目が向けられるかとの期待もあったが、結局、推進する政府・与党と反対する野党の間の大論争で、この問題に焦点が当たることはなかった。
伊勢崎氏は、日本の国防政策の根本的な矛盾であり欺瞞でもある、自衛隊は軍隊ではなく、よって交戦権も持たないとする詭弁を卒業するための方策として、私案で憲法9条に代わる「新9条」を提案している。それは自衛隊を軍隊と認め、交戦権も認める一方で、専守防衛に徹し、その軍事力は自国を防衛するための個別的自衛権を行使する目的でしか使えないことを明記するというものだ。
安倍政権が安保法制という政策転換を強行してくれたおかげで、これまで護憲の名の下に覆い隠されてきた自衛隊と憲法9条との間にある深い矛盾が、逆に一気に露呈することとなった。そもそも軍隊でもない自衛隊が、他国の正規軍と一緒になって日本国外で軍事行動を実施することなど、あり得ないからだ。
安保法制が露にした日本の国防政策の根本的な矛盾と、それが自衛隊や一人ひとりの自衛官に与えている大きなしわ寄せの中身について、ゲストの伊勢崎賢治氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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