1. 2015年11月05日 11:03:06
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JBPressprint close TOP??? ライフ??? 映画の中の世界 芸術文化 決して架空ではない、善人が罰せられる世界 公開中『裁かれるは善人のみ』が示す政治と宗教の物語 2015.11.5(木) 竹野 敏貴 アフガンで米軍が病院を誤爆か、死傷者多数 通知後も空爆続く 今年10月、米軍はアフガニスタン・クンドゥズにある国際医療支援団体「国境なき医師団」の病院を空爆、病院は大破した。写真は空爆前の5月に治療を受ける少年〔AFPBB News〕 ?シリア、イラク、アフガン、パレスチナ、イエメン、リビア、ソマリア・・・。?戦争、テロ、誤爆、抑圧、貧困、生死を分ける運命さえ自ら決められない人々、それを助長するばかりの政治と無力な国際社会、弁護と非難の応酬に終始する政治家たち、扇動し扇動される「知識人」そして「普通の人々」。それは非紛争地帯にも及ぶ。歴史にも及ぶ。 ?そんな様子を伝え感情を刺激するテレビのニュースワイドショーは、突然、菓子、IT機器、ブランド品、自動車、家、投資・・・、様々な欲望をかきたてる騒がしいコマーシャルに切り替わる。 ?人は本来平等であり、自己保存のためあらゆることを行う自由を持つ。しかし、皆がそんな自然権を無制限に求めれば、「万人の万人に対する闘争状態」となる。 ?だから、理性に基づく契約を結び、自然権を保障する絶対的主権にそれを譲渡しなければならない。17世紀、トマス・ホッブスは、海の怪物「リヴァイアサン」のごとき国家との「社会契約」をこう記した。 権力の横暴に苦しむ男の物語 ?先週末から劇場公開中のロシア映画『裁かれるは善人のみ』(2014)の原題は「レヴィアファン」、英語で「Leviathan」。 ?今年のアカデミー外国語映画賞候補となったメタファーに満ちたこの映画の着想を、アンドレイ・ズビャギンツェフ監督はこのホッブスの著作「リヴァイアサン」からも得たという。 ?荒涼とした大地。鯨と思しき生物の巨大な骨が横たわる海岸。バレンツ海を望むロシアの小さな町で、自動車修理工コーリャは、祖父の代から暮らしている。 ?その地を不当に安く収用しようとする市と係争中だが、再開発を推し進めたい市長は高圧的だ。結局、敗訴するが、友人である弁護士が過去の悪事をネタに、市長にコーリャの希望額をのませた。それでも、警察にも司法関係者にも「力を持つ」市長は・・・。 ?この権力の横暴に苦しむ男の物語は、2004年6月、米国コロラド州で自動車修理工マーヴィン・ヒーメイヤーが起こした「キルドーザー事件」もベースにしているという。 ?市が計画した隣接地への工場建設に反対するヒーメイヤーは訴訟を起こした。同調する市民もいたが敗訴。 ?地元紙の非難もあり反対運動は萎み、修理工場も業務停止、市の計画は進められた。家庭も崩壊、ブルドーザーを改造した「キルドーザー」で、工場、市役所、新聞社などを破壊したのち、ヒーメイヤーは自殺。他の人的被害なく事件は終わった。 ?2003年の米国映画『砂と霧の家』の主人公も、冒頭、行政とトラブルとなっている。支払う必要もない税金の未払いを理由に、父親が30年かけて支払いようやく手に入れた家を差し押さえられたのである。 ?やがて行政の手違いは判明するが、家はすでに競売の末、イラン革命からの亡命者のものとなっている。返還要求にも聞く耳持たないその男は、格安物件の転売で息子の学費などを捻出しようと考えていた・・・。 ?融通の利かない行政、カネがモノ言う格差社会、イラン革命の要因たる国際政治など、庶民には酷な「民主主義国家」米国の現実が見える。 映画が暗示していたソ連崩壊 ?そんな米国にも「Leviathan」という1989年公開の映画がある。邦題は『リバイアサン』。 ?海底資源掘削のさなか、見つかったその名を冠した沈没ソ連艦から持ち出された「ウォッカ」を飲んだクルーが急死、怪物が現れるホラーは、ソ連艦がかつて遺伝子工学による人間改造実験の場だったという設定。 ?思想改造のメタファーとも取れ冷戦の匂いが強いが、地中海の小国マルタでロケされたこの作品は、当時流行のエイリアンもののパクリと位置づけられ、さしたる評価も受けずにいた。 ?ところが、ゴルバチョフソ連が改革を進めるなか、12月にマルタで行われた米ソ首脳会談をもって冷戦は終結、ソ連も崩壊へと向かうのである。 ?『裁かれるは善人のみ』には、そんなゴルバチョフやレーニン、ブレジネフなど歴代ソ連指導者の肖像写真が登場する。コーリャと射撃を楽しむ友人が、標的となる瓶を撃ち尽くしたあと、新たな標的として持ちこむのである。 ?さらに「最新のものは、歴史的評価がもう少しはっきりしてから」と語る一方で、市長室にはその人物の肖像写真がドンと構えている。 ?苦境に陥るばかりのコーリャは、ロシア正教司祭に、神の存在への疑問を投げかける。司祭はリヴァイアサンについて語り始める。 ?旧約聖書ヨブ記に、人がどんな武器で戦いを挑んでも勝てない最強の生物、そして、それさえも神が創ったもの、と書かれているのである。 ?さらにヨブについても語る。その正しい者に悪いことが起こる「義人の苦難」は、コーリャの物語とも重なるが、結末については、公開直後で順次全国公開されるようなので、ここには書かない。 ?聖書と同じなのか、司祭の言葉を聞き、最後の風景までしっかり見て、ズビャギンツェフ監督の主張をかみしめてほしい。 人間が犯す7つの大罪 ?そんなヨブ記の言葉に始まる2012年のドキュメンタリー映画の題名も「Leviathan」。こちらの邦題は『リヴァイアサン』である。 ?11台の超小型カメラで巨大底引網漁船の数週間にわたる漁を撮った作品だが、ハーバード大学「感覚人類学研究所」の人類学者でもあるルーシァン・キャステーヌ=テイラー、ヴェレナ・パラヴェル、2人の監督が作り出す映像も音もとにかく斬新。 ?カメラは水面下をも行き来し、対象までの距離、角度、重力を無視したような人間とは違う視線は、海の怪物のものにも感じる。 ?リヴァイアサンは、「7つの大罪(Seven Deadly Sins)」の1つ「嫉妬」を象徴する悪魔でもある。 ?「7つの大罪」は、人を罪へと導く感情、欲望で、カトリックを中心としたキリスト教が戒める道徳観だが、聖書に示されているわけではない。 ?4世紀、エジプトの修道院で、1人の修道士が8つの誘惑を挙げたものを、6世紀になって、ローマ教皇グレゴリウス1世が7つの罪へとまとめ直したのである。 ?サスペンス映画の傑作『セブン』(1995)の題名が示すのが、その「7つの大罪」。 ?「暴食(gluttony)」に始まり、「貪欲(greed)」「怠惰(sloth)」「色欲(lust)」「高慢(pride)」と、それに沿うように殺人を重ねていくシリアルキラーと、残った「嫉妬(envy)」「憤怒(wrath)」をめぐり、刑事たちが織りなすラストが衝撃的である。 ?そして、そこで彼らが見せる行為も、人間の欲望や感情が簡単に抑えられるものではないことを示すことになる。 ?立場も心も弱い「普通の人間」なら、そうした感情や欲望をたいていは我慢し、時に爆発させることで何とか平衡を保っている。 本国で興行収入第1位 ?そんな「普通だった」7つの大罪まみれの被害者と加害者が、感情の暴発で立場を逆転させる姿を集めた6話のオムニバス・ブラックコメディ『人生スイッチ』(2014)は、アカデミー外国語映画賞候補ともなり、本国アルゼンチンでは歴代興収第1位の大ヒットとなった。それも、誰もが自ら暴発する勇気を持てないからだろう。 ?「リヴァイアサン」でのホッブスの記述は、個人の自由が法の沈黙するところに限定、国家権力への抵抗権も否定しており、結局は、専制政治擁護となってしまった。 ?もちろん、現代世界はずっと民主的だが、国家は最強の生物「リヴァイアサン」でこそないが、市民の自然権を抑え込む傾向は年々強まり、怪物は膨張しつつあるようだ。 ?そこには、データによる監視の強化があるが、その一方で、誹謗中傷が暴走する「万人の万人に対する闘争状態」にもあるデジタル世界には、曖昧模糊とした不安がつきまとう。 ?そんな正体不明の新たなる怪物に立ち向かうにはあまりにも無力で、コマーシャルを見ればすぐ物欲に駆られる7つの大罪から逃れられない凡人にとって、『人生スイッチ』の主人公たちのようにキレる勇気も持たない小心者なら、映画を見て発散するしかないか・・・。 (本文おわり、次ページ以降は本文で紹介した映画についての紹介。映画の番号は第1回からの通し番号) (1101) 裁かれるは善人のみ (1102) 砂と霧の家 (475) (再)リバイアサン (1103) リヴァイアサン (474) (再)セブン (1104) 人生スイッチ 裁かれるは善人のみ 1101.裁かれるは善人のみ?ЛевиаФан(英題?Leviathan)?2014年ロシア映画 (監督)アンドレイ・ズビャギンツェフ (出演)アレクセイ・セレブリャコフ、エレナ・リャドワ、ウラディミール・ヴドヴィチェンコフ、ロマン・マディアノフ (音楽)フィリップ・グラス ?バレンツ海を望むロシアの小さな町で、妻リリアと先妻との息子ロマと暮らす自動車修理工コーリャ。祖父の代から住む土地を不当に安く収用しようとする市と係争中である。 ?弁護のため、軍隊時代からの友人である弁護士ディーマがモスクワからやって来た。コーリャの訴えは通らなかったが、再開発計画を推し進めるべく強硬に立ち退きを要求し続ける市長に対し、ディーマは過去の悪事の証拠をつきつけ、コーリャの希望額をのませる。 ?思いのまま動く警察官や司法関係者に対し、1年後、自分が選挙に勝てなければお前たちの今の暮らしもなくなる、と恫喝する市長。微妙にすれ違うコーリャとリリア。そして、ディーマは・・・。 ?劇場用長編映画第1作『父、帰る』(2003)でヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞、その後も『ヴェラの祈り』『エレナの惑い』など寡作ながら、高い評価を受け続けているアレクセイ・セレブリャコフ監督が描く善人の苦難。 ?ロシア映画としては『戦争と平和』以来となるゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞、アカデミー賞外国語映画賞候補ともなり、2014年のベストテンの1本にも数える批評家も多い秀作である。 砂と霧の家 1102.砂と霧の家?House of sand and fog?2004年米国映画 (監督)ヴァディム・パールマン (出演)ジェニファー・コネリー、ベン・キングスレー、ショーレ・アグダシュルー (音楽)ジェームズ・ホーナー ?サンフランシスコ。夫に去られ海辺の一軒家で独り暮らすキャシーは、税金未払いを理由に、郡に家を差し押さえられてしまう。 ?モーテル暮らしとなり、亡父が30年かけて手に入れた家を自分はたった8か月で失ったと嘆くキャシー。やがて行政の手違いが判明するが、既に、家は競売の末、イラン革命からの亡命者ベラーニのものとなっていた。 ?イランでは高い地位にある軍人だったベラーニも、米国では道路工事やガソリンスタンドの店番などをする日々。カスピ海を望むかつての別荘に似るこの家で、人生を取り戻そうというのである。 ?キャシーの返還要求にも聞く耳を持たないベラーニ。そこには、格安で入手した家を転売、息子の学費などを捻出しようと考えがあった・・・。 ?アンドレ・デビュース三世のベストセラー小説の映画化。多くの賞を獲得、アカデミー賞でも主演男優賞、助演女優賞、音楽賞にノミネートされた。 リバイアサン (再)475.リバイアサン?Leviathan?1989年米国・イタリア映画 (監督)ジョルジ・パン・コスマトス (出演)ピーター・ウェラー、リチャード・クレンナ (音楽)ジェリー・ゴールドスミス ?近未来のフロリダ沖。資源採掘のため海底に滞在するクルーたちは、ソ連の沈没艦「レヴィアファン(英語名Leviathan)」を発見する。 ?艦内を探索、発見した金庫を持ち帰るが、そこには多くの死亡者ファイルが残されていた。 ?密かに金庫からウォッカを盗み飲んだクルーの1人が、翌朝、皮膚異常を見せたのち急死。非常事態に、地上への脱出を考えても、ハリケーンが近づいており不可能である。そんななか、遺体は異様な姿に変形、海中処理しようとすると、動き出し・・・。 ?『ザ・デプス』(1988)『アビス』(1989)など、当時次々と作られた深海ものの一作。 リヴァイアサン 1103.リヴァイアサン?Leviathan?2012年米国映画 (監督)ルーシァン・キャステーヌ=テイラー、ヴェレナ・パラヴェル ?漁船の上に打ち上げられ、処理されていく魚たちのアップ。大空を覆う鴎の大群、そして海面をつつく水中からの映像。 ?大きくうねり、飛沫を上げる船上の重力を無視したような傾いた映像とけたたましい音。 ?巨大底引網漁船アテーナ号の数週間にわたる漁の様子を、11台の超小型カメラで追ったドキュメンタリー。 ?その鮮烈な色彩と音響は、人間にはない視線で、整然たるストーリーも整えられた構図もなく、これまでのものとは全く異質。ハーバード大学「感覚人類学研究所」の人類学者でもあるルーシァン・キャステーヌ=テイラー、ヴェレナ・パラヴェルが作り出す独自の世界である。 セブン (再)474.セブン?Se7en?1995年米国映画 (監督)デヴィッド・フィンチャー (出演)ブラッド・ピット、モーガン・フリーマン、グウィネス・パルトロー ?雨に煙る喧騒の大都会。新たに着任してきたミルズ、退任間近のベテラン、サマセット、2人の刑事が現場で見たのは、汚物と食べものにまみれた極度に肥満した男の死体。 ?そこには「Gluttony(暴食)」の文字が残されていた。次いで高名な弁護士の死体が発見された高級オフィスビルの床には、血で「Greed(強欲)」との文字が。 ?「7つの大罪」に基づく殺人と考えたサマセットは、ダンテの「神曲」やチョーサーの「カンタベリー物語」を読むようミルズに指示する。 ?そして起こる「Sloth(怠惰)」の殺人。図書館の「7つの大罪」関連書の貸出記録から「ジョン・ドウ」なる人物が捜査線上に浮かび上がり、2人はそのアパートに向かうが・・・。 ?「7つの大罪」に沿い次々と発生する猟奇殺人事件を描くサイコサスペンス映画の傑作。綿密に計算された脚本、小道具の色彩にまでこだわる鮮烈な映像美や音響効果が出色。『エイリアン3』(1992)に続くデヴィッド・フィンチャー監督作である。 人生スイッチ 1104.人生スイッチ?Relatos salvajes(英題?Wild tales)?2014年アルゼンチン・スペイン映画 (監督)ダミアン・ジフロン (出演)リカルド・ダリン、レオナルド・スバラグリア、エリカ・リバス、フリエタ・ジルベルベルグ (音楽)グスターヴォ・サンタオラヤ ?飛行機に乗り合わせた誰もが同じ男と知り合いであることが分かるが、その飛行機は・・・。 ?レストランにやって来た男はかつてウェイトレスの父親を自殺に追いやった高利貸し。調理担当の女性は食事に猫いらずをいれようと言うが・・・。 ?追い越しを邪魔するような運転をするボロ車を罵声を浴びせ抜き去った男の新車のタイヤがバースト。タイヤ交換をしているとボロ車がやって来て・・・。 ?駐車禁止でないはずなのにレッカー移動されたビル爆破のプロは抗議が受け入れられず大暴れ、その姿がメディアに載り会社はクビで家庭も崩壊。またもレッカー移動され・・・。 ?飲酒運転の末ひき逃げして帰って来た息子の身代わりをカネで使用人にさせようとする両親。しかし、顧問弁護士、検察官までもが多額のカネを要求し・・・。 ?結婚式のさなか、新郎の不実を知ってしまった新婦は、復讐に走り、式は大荒れ・・・。 ?キレてしまった人々の常軌を逸した行動を描く6話のブラックコメディ・オムニバスは、アカデミー外国語映画賞候補ともなり、本国アルゼンチンでは歴代興収第1位の大ヒットを記録した。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45173
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