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[時事解析]「第2期」安倍政権を読む
(1)安保から経済へ回帰 「戦後脱却」足踏み
安倍晋三首相は自民党総裁に再選し、「第2期」政権を始動させた。安全保障法制の成立の難航で政権の体力は消耗。経済最優先に回帰し、「一億総活躍社会」を旗印に態勢を立て直す戦略だ。
1960年、首相の祖父である当時の岸信介首相は国論を二分した日米安保条約の改定を実現し、その直後に退陣した。次の池田勇人首相は経済成長重視で「所得倍増」路線に転換し、自民党政権を安定軌道に乗せた。
安倍首相は一人二役で池田氏の役回りも演じようというわけだ。60年にはもう一つ路線転換があった。岸内閣は憲法調査会を設置し、憲法改正の地ならしを狙ったが、憲法学者らが反発。池田内閣は改憲を棚上げした。
岸氏の遺志を継ぐ首相は「戦後レジームからの脱却」に改憲が必須と主張。安保法制ではまず憲法解釈を変更して集団的自衛権を認めた。ところが、国会で長谷部恭男・早大教授ら憲法学者が次々に「違憲」と指摘し、世論の理解が思うように得られない主因となった。
このあおりで、改憲論議も減速している。長谷部氏は自民党の改憲草案も「近代立憲主義の意義を強調する側からして違和感がある」(「論究ジュリスト」2014年春号)などとかねて批判している。
首相は戦後70年談話で、先の大戦を巡り「侵略」「おわび」に言及。談話の前提となる歴史認識を討議した「21世紀構想懇談会」を主導した北岡伸一・前国際大学長は「できれば『侵略』は一人称で言ってほしかったが、ほぼ満足だ」と評価した。戦後レジーム脱却は足踏みしそうだ。
(編集委員 清水真人)
[日経新聞10月19日朝刊P.17]
(2)1強体制の権力構造 受け皿なき与野党
自民党総裁選で無投票再選を果たした安倍晋三首相。安保法制を巡って国会前で大規模デモも起きたとはいえ、内閣支持率は改造人事で回復し、永田町では「安倍1強」がなお続くのはなぜか。
自民党の無風状態を、御厨貴・放送大教授は「いずれ政権交代するとしても、できる限り長く与党でいられるよう、内輪もめはできる限り避ける力学が働くため」とみる。
確かに党内には、民主党政権への有権者の失望は与党の内紛や分裂が主因だったとし、それを戒める空気がなお根強い。
かつてのような党内抗争が起きにくい構造変化もある。衆院選が1選挙区で1人しか当選できない小選挙区中心になってから、公認権や政党交付金の配分権を握る総裁・執行部の力が強まった。
派閥は求心力を失い、総裁選すら時の世論の風向きに流されがちだ。石破茂地方創生相はポスト安倍をにらんで新派閥を旗揚げしたが、権力奪取の道筋はみえてこない。
自民党が政権を独占した中選挙区時代は総裁選で首相が決まり、疑似政権交代の効果も持った。
与野党間で政権交代しやすくなり、有権者が政権を選ぶようになった今、党首の任期を衆院選と関係なく区切るのをやめて、「総選挙から総選挙までを基本にすべき」(野中尚人著「さらばガラパゴス政治」)との提言もある。
今の衆院選では、政権の座を現与党と競う野党勢力の受け皿が存在して、初めて政治に緊張感が生まれる。「安倍1強」の先行きを左右するのは自民党のポスト安倍論議に加えて、現与党と対峙する野党再編の行方だ。
(編集委員 清水真人)
[日経新聞10月20日朝刊P.28]
(3)参院選と消費増税の壁 くすぶる同日選論
自民党の党則では総裁任期は2期6年まで。安倍晋三首相がこれをまっとうすれば、3年後の2018年9月で退任となる。20年夏の東京五輪・パラリンピックを視野にさらに続投を狙うか否かも今後の焦点となる。
当面の政治日程では、16年5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)を乗り切ったうえで、夏の参院選がハードルだ。
待鳥聡史・京大教授は「有権者が通常、選挙で最も重視するのは経済政策。参院選の争点も常識的には経済だ」と読む。参院選単独より衆参同日選の方が集票力をフル稼働でき、負けにくいとの声も自民党内にくすぶる。
17年4月に消費税率の10%への引き上げが法定されている。首相はリーマン・ショック級の経済危機が来ない限り法律通り増税するとの立場だ。再延期するなら、前回並みに衆院選で信を問うのが筋ともいえ、同日選論を後押ししうる材料だ。
予定通り増税するなら、その後しばらくは衆院選に打って出づらくなる事情もある。次の衆院選時期は、18年9月の総裁任期満了や続投問題をにらみながらカレンダーを逆算することになる。
忘れてならないのが、衆院議長の下に置かれた選挙制度調査会で進む1票の格差是正などの改革。座長の佐々木毅・東大名誉教授は「現行の小選挙区比例代表並立制をベースに個々の制度に関する議論を詰める」と16年の早期に答申をまとめる構えだ。
与野党は答申をどう受け止め、いつ法制化するのか。16年の通常国会から参院選にかけ、これが首相の解散権を政治的に制約する可能性もある。
(編集委員 清水真人)
[日経新聞10月21日朝刊P.28]
(4)首相主導と有識者会議 決断演出する道具
安倍晋三首相が政策決定で縦割りの各府省頼みにならず、首相官邸主導で事を運ぶために多用するのが有識者会議だ。
集団的自衛権容認を巡る憲法解釈の変更を巡っては「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)を動かし、地ならしをした。
戦後70年談話づくりでも「21世紀構想懇談会」を設置。先の大戦に至る歴史認識を巡って「満州事変以後、大陸への侵略を拡大」したなどとする報告書を大筋で重んじた。
三谷太一郎・東大名誉教授は「世界」10月号で「安倍政権が『専門家支配』に傾いている」と指摘。戦前も「議会に代わるべき権威ある少数の委員から成る会議体」を中核とする統治が「立憲的独裁」として提唱され、政党政治を掘り崩した歴史があると警鐘を鳴らす。
ただ、安倍官邸の有識者会議の使い方は一筋縄ではいかない。安保法制懇の報告書の基調は、集団的自衛権の全面解禁だったのに、首相は「採用できない」と却下した。
2014年の消費税増税の延期決定時は「経済財政動向等についての点検会合」で延べ45人の有識者を招請。30人超が増税実施論だったが、首相は先に延期を決めていた。「幅広く意見を聞く『納得のプロセス』の信頼性を損なった」(鶴光太郎・慶大教授)との批判すらある。
自ら委嘱した有識者の提言も、時に切り捨てを辞さない。官邸会議は首相が政策の選択肢を広げ、決断を際立たせるための道具だ。内閣改造を受け、「一億総活躍社会」を議論する国民会議や設備投資を巡る官民対話も相次いで始動している。
(編集委員 清水真人)
[日経新聞10月22日朝刊P.27]
(5)官僚に人事でにらみ 「政治化」リスク潜む
安倍晋三首相は縦割り行政を打破し、各府省に首相官邸の意向を浸透させるため、事務次官、局長ら幹部人事でにらみを利かせようと腐心する。
2014年に成立した国家公務員制度改革関連法で、部長・審議官級以上の幹部の任免権は大臣に残すが、首相、官房長官との事前協議を法制化。新設の内閣人事局に幹部候補者の適格性審査や名簿づくりなどの実務を一元的に担当させている。
今夏、財務省で1979年入省組から異例の3人目の次官を誕生させた。第1次安倍内閣の首相秘書官経験者だ。経済産業省の筆頭局長にも前首相秘書官を抜てき。女性の積極的な幹部登用など安倍色がにじむ。
幹部人事の官邸一元化は自民党から民主党へ、再び自民党へと政権交代を繰り返す中で、超党派合意で法制化が進んだ。
「与党による官僚への統制力強化に野党が合意したことを意味し、与党がどの党であれ官僚との関係については、一定の型が共有されていく」(牧原出著「権力移行」)という政治主導の流れだ。
ただ、次官、局長ら幹部にも政治的中立を求め、能力や専門性を基準に任用する国家公務員法の大原則は変わっていない。官邸一元化は官僚を内閣全体の方針に従わせる域を超え、時の首相との距離が人事を左右する「政治化」を招くリスクもはらむ。
出雲明子・東海大准教授は著書「公務員制度改革と政治主導」で、事実上の政治任用を運用で広げていく弊害を危ぶんで「必要な政治任用者は設けたうえでそのルールを明確化する」改革を促す。
(編集委員 清水真人)
=この項おわり
[日経新聞10月23日朝刊P.27]
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