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[核心]気心と戦略の安倍体制
「蚊柱」の均衡に危うさも
論説委員長 芹川洋一
人事をやると権力の姿がくっきり浮かんでくるものだ。第3次安倍改造内閣の顔ぶれは代わりばえがしないものの、首相主導の人事はすっかり定着した。
自民党五役の1人は「細かいところまで首相が自分で人事をしているのが伝わってきた。今や権力政治家になっている」と評する。
安倍人事の特徴は、気心と戦略だ。政権の中枢を気心の知れたメンバーでかためる。政権の基盤がゆるがないよう戦略的な陣立てにする。そして「次」をうかがう面々をからめとる。
ただ政権が微妙な均衡のうえに成り立っているのは確かだ。政治権力の均衡は存外もろいものでもある。
2012年12月の第2次内閣の発足、14年9月の改造、そしてこんど。3回の人事の共通項のひとつである気心は3つの結合からなる。同志、思想、友人だ。
同志的結合は、政権をつくった立役者たちである。菅義偉官房長官、麻生太郎副総理・財務相、甘利明経済財政相の3人だ。安倍晋三首相をふくめ名前の頭文字をとって3A+Sといわれる枢軸ラインである。
なかでも首相経験者で政治家としても先輩の麻生氏と首相の関係はどこかぎくしゃくしたところがあるとみられがちだが、どうもそうでもないらしい。
懇談の席などでも麻生氏は決して昔のように晋三とは呼ばない。総理という。官邸の首相執務室に入るとき必ず一礼する。退席するときも一礼する。首相というポストに敬意を払う。ここが2人の関係の肝だ。
2つ目の思想的結合は、保守派の議員である。別の呼び方をすると8月15日などに靖国神社を参拝する靖国の人たちだ。新藤義孝、古屋圭司、山谷えり子の各氏、高市早苗総務相、稲田朋美政調会長らである。
07年の退陣後、首相に手のひら返しをしなかった人々といいかえてもいい。
3つ目の友人的結合は、しばしばいわれるお友達である。塩崎恭久厚労相とは若いころのNAISの会の仲間だ。総裁特別補佐や官房副長官のこんどの人事もそうみられている。
岸田文雄外相とも似たところがある。1993年の初当選同期で、2人がともに語るエピソードがある。自民党青年局で一緒に台湾をおとずれた際、乾杯の酒を岸田氏が下戸の安倍氏に代わって受けて飲みつぶれたという思い出話だが、若いころの共通体験は不思議と人の結びつきを強める。
もうひとつの共通項である戦略人事は、互恵と緊張の2つからなる。
二階俊博総務会長とは首相自身が認めるように戦略的互恵関係そのものだ。権謀術数とみられがちな二階氏について「情の人」と気配りを欠かさない。二階氏もこれに応じて無投票再選の流れをつくった。
谷垣禎一幹事長とは信頼に近い関係になっているようだ。
昨年秋の消費税引き上げ先送りのとき――。
首相「15年の再増税はむずかしい。衆院を解散するしかありません」
谷垣氏「それなら引き上げの時期を明示すべきでしょう。選挙になっても党の金庫は大丈夫です」
先の国会会期の大幅延長で総裁選の日程が重なる際も「総理に迷惑がかかるようなことにはしませんから」と伝えた。首相は「谷垣さんは手堅いねぇ」と周辺に漏らしたという。
戦略的緊張関係なのが石破茂地方創生相だ。7月の石破氏の自民党についての「いやな感じ」発言や、派閥の旗揚げも快く思っていないらしい。
「ポスト安倍」の封じ込め戦略は、内閣と党の枢要なポストを政治キャリア豊かなシニアで固め、安倍応援団のジュニアで包囲する。まるで安倍首相の皮でからめられた「安倍川餅」のような状態だ。
長い間、日本政治をみてきた米コロンビア大のジェラルド・カーティス教授に聞いてみた。
「中選挙区のころの自民党内には緊張感があった。派閥を運営するためリーダーも訓練された。そのシステムが崩れた。緊張感がないからみんな一緒になる。しかし何のために一緒になっているのか分からない」
「官邸が強くなりすぎた。政府と与党が別々で調整をして政策をつくっていたが、党の反対ができない。野党も弱いから選択肢が見えない。日本政治のダイナミズムがなくなった」
安倍自民党をみていると「不均衡動学」を唱える岩井克人東大名誉教授の蚊柱理論にどこか似ている。
蚊の1匹1匹が勝手気ままに動いていても、蚊柱は全体としてひとつのかたちを保っている。蚊柱のマクロ的な均衡は、無数の蚊のミクロ的な不均衡のバランスのうえに成り立っている(『経済学の宇宙』)。
国会議員を蚊にたとえて申し訳ないが、派閥の連合体から、今や議員の集合体になった自民党。個々の動きはバラバラだが一見、派閥の時代よりまとまって動いているかのような印象さえ与える。まさに蚊柱だ。
その真ん中にはもちろん首相がいる。それを裏打ちするのが政権党の総理総裁としての権力だ。
だが権力に絶対はない。常に求心力を高めておく必要がある。それには、はっきりした目標の設定が欠かせない。政権が何をやるのかの明示である。一億総活躍社会の実現がそれにあたるのだろうか。蚊柱が単に群れて漂うだけのものになってしまっては困る。
[日経新聞10月19日朝刊P.4]
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