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「TPP協定交渉の大筋合意に関する説明会」に行ってまいりました
http://nobuyoyagi.blog16.fc2.com/blog-entry-741.html
八木啓代のひとりごと
TPP協定交渉の大筋合意に関する説明会に行ってまいりました。
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2015/11/151013_setsumeikai_annai.pdf
平日の昼。交通の便が良いとは言えない世田谷区民会館。しかも応募は電子メールのみ。
TPPを注視しているのは、地方の高齢の第一次産業従事の方が多いのではないかということを考えれば、13日にWeb上で告知して16日締切という非常に短い応募期間といい、霞ヶ関周辺の交通アクセスの良い場所はいくらでもあるでしょうに、まるで、たくさんの「一般の方」には来てほしくなかったかのような感じです。
それでも会場に着きますと、三点の資料と内閣官房の封筒を渡され、すみやかに座席に。1000人の会場に700人ぐらいの入りです。
渡された資料は、「環太平洋パートナーシップ(TPP)交渉の大筋合意について」というパワーポイント資料をプリントアウトしたと思われるもの。さらに、「TPPにおける関税交渉の結果」、「農林水産省作成資料1」「我が国の工業製品関税(経済産業省関連分)に関する大筋合意結果の概要」という4点。
これらはすべて、今日の段階で、内閣官房のサイトで公開されているので、ぜひ、ダウンロードされることをおすすめする。
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/dantai.html#osujigoui-setsumeikai
今回のTPPにより我が国のFTAカバー率は22.3%から37.2%に、政府はさらに、今後、そのカバー率を高める予定と説明される。物品関税だけではなく、サービス・投資の自由化を進め、知的財産・電子商取引などで新しいルールを構築するものであり、その範囲は、21分野30セクションに及ぶ。
渋谷審議官によると、TPPによって、日本の高級農産物や今治タオルなどのブランド製品が海外に積極的に輸出できるということだ。しかし、高級農産物やブランド商品というのは、日本の農業や中小企業生産品の中の、成功したごく一部にしかすぎないわけで、それ以外の産品はどうなるのかというのは、多くの人が突っ込みたいと思った点だろう。
さらに、日本の農業が「輸出産業である」という前提でのSPS衛生植物検疫処置の説明。
しかし、実際には、日本の農産品の価格に強い国際競争力があるとは思われないからこそ、日本の農業が大きな打撃を受けることになるであろうというのが、日本の農業団体の懸念であることを考えると、微妙である。
ここで、渋谷内閣審議官は、ベトナムやマレーシアでの外資進出規制の撤廃などをあげ、こういった国々に進出しようとする中小企業にメリットがあることを強調。さらにテレビで見た話として、TPPに期待する中小企業があったことを話されたが、ここで「テレビで見た話」を例に出すかなあ。
個人的には、日本からベトナムやマレーシアに進出できるスーパーやコンビニというのは、どう考えても、渋谷審議官の言う「中小企業」ではなく、大手資本である気が。
となると、日本の大手資本のチェーンがベトナムやマレーシアの小売店に大打撃を与える可能性があるわけで、その場合、大手日本企業には確かにメリットがあるけれど、ベトナムやマレーシアの国民にとって果たして良いことなのか。日本が、弱い国の産業に大打撃を与える「加害者」になる可能性もきわめて高いわけですね。
一方で、TPPは政府調達分野にも開かれているので、日本の政府調達分野に、今後、アメリカの企業が進出できるというわけです。
現在の工業生品は、部品調達地と組立地が違うことはままあるわけだが、そういった生産品は累積ルールが適用される。つまり、部品調達地での割合が30%、組立地での付加価値を20%とすれば、累積で50%を超えるので、TPP域内では特恵税率を受けられる。
さらにTPPによって、税関手続きの簡略化が説明された。現状では、貿易相手国の怠慢や嫌がらせなどで税関手続きが遅れることがあるのだそうだ。
一方で、テレビでは間違った情報が多いと渋谷審議官。
たとえば、ISDS条項。
日本に進出しようとする外資企業が、日本政府を訴えられると誤解されているが、実際には、「その国ですでに投資を行っている企業が、その国の政策や法令によって損害を被った場合に、訴えることができる」ということにすぎない、と。
いやいや、それが問題なんですが。
とはいえ、外国の保険会社の進出により日本の医療が脅かされる可能性については否定。今ある規制については留保されるので安全弁になるとのことです。
この問題については、その質疑応答でも出たが、渋谷審議官は、「みなさん、NAFTAの例を見て、ISDS条項を心配されているが、濫訴を抑制する項目も含まれているし、今回のTPPのISDS条項はNAFTAのISDS条項とは違うので、大丈夫です」と主張。
しかし、今回のTPPのISDS条項はNAFTAのISDS条項と、具体的にどこがどう違うのか、という肝心の点についての説明はなかった。(資料にもない)
確かに、濫訴を抑制するという項目として、被申立国の異議を申し立てられるとか、すべての事業の判断内容を原則として公開する、という規定はあるようだが、たとえば、メキシコでの産廃施設建設が地域住民の反対で中止になったときに、この産廃施設建設企業からメキシコ政府が訴えられて負けたなんていう例があるわけで、なにが大丈夫なのかは、いまひとつ説明不足でよくわからない。
この他、締結国は、国有企業および指定独占企業が、物品またはサービスの売買を行う際、他の締結国企業に対しても、無差別の待遇を与えること、国有企業への非商業的な援助によって、他の締結国の利益に悪影響を及ぼしてはならない、などという項目もあります。
また、知的財産権については、医薬品の知的財産保護が強化。特許期間が延長され、新薬のデータ保護期間に関わるルールが構築されます。製薬会社が劇的に有利になる制度なんですね。ジェネリック医薬品業界は打撃を受けることになると思いますし、保険診療にも影響してきますね。
著作権も延長され、70年になります。
(渋谷参事官は、ディズニーの権益を守るためではないかというネット世論は一蹴されました)
この中に、問題になっている、著作権法違反の非親告罪化が含まれるわけですが、市場における原著作物の収益性に大きな影響を与えない場合はこの限りではない、ということで、コミケは保護されるようです。ただ、市場における原著作物の収益性に大きな影響を与えるかどうか、というのは恣意的な判断は可能なので、いったん、日本で法改正が行われてしまうと、一部の方が心配しておられるように、「転び公妨」的な運用をされる可能性がまったくないかどうか、というのは、まだわからないところです。
TPPは少なくとも6カ国の国内法上の手続きが完了した場合、署名後2年の期間満了後60日で発効。年内に総合的なTPP関連政策大綱を発表とのことです。
次いで、農林水産省からの説明。
関税については、農林水産物の関税については9018品目中約8575品目で関税撤廃。即時撤廃は51.3%。
しかし、牛肉・豚肉・林産物などには、輸入急増などの場合には、セーフガードを発動して関税を引き上げることできる枠を確保とのこと。
ただし、セーフガードは、同一産品については二回以上のセーフガード発動が禁止されていることは要チェックです。
その他、具体的な合意内容の概要は、公開資料をごらんください。
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/dantai.html#osujigoui-setsumeikai
全体的に、強調されていたのは、「中小企業の海外進出」「ブランド産品の輸出促進」。
美しい言葉です。
ただ、実際問題として、明らかに中小企業ではなく大手企業に圧倒的に有利な制度のように見え、また、ブランド価値のある産品はごく一部でしかないわけなので、それ以外の産品の受けうる打撃については、セーフガードの発動(ただし、同一産品1回こっきり)しかないというのでは、生産者が不安を募らせるのはやむを得ないのではないかという印象を受けました。
これを補助金で補うということだと、結局、ツケは国民にということにしかなりませんので、今後、注意したい点です。
ISDS条項についても、日本政府が外国企業に訴えられることはないということが繰り返し強調されていましたが、実際には、すでに各国FTAで、すでに数百件のISDS条項に基づく訴訟というのが起こっているのに、どういう根拠で日本が訴えられることがないと主張されるのかも、まるで、原発事故は絶対に起こらない的な、楽天的に過ぎる見通しのような気がいたしました。まあ、原発事故と同じで、実際に大きなトラブルになったとして、責任取る人はきっと誰もいないんでしょうね。
質疑応答のあと、終会となりましたが、広い会場の中、拍手をしたのが一人だけだったというのが、ある意味象徴的な説明会でした。
この会場で出会った石川公彌子さんと、お茶でもいかがとロビーに出た途端、人目を惹く美女二人「見るからに一般参加者」という風情だったのが珍しかったのか、テレビ東京、毎日新聞、NHK、読売新聞の取材を受ける。あんまり変な切り取り方をされてなければいいんだけど。
お仕事聞かれて、最初、「自由業です」と言っていたのですが、途中で、「音楽家です」と具体的に言ったら、たいへん驚かれてしまいました。
音楽家が、国の行く末に関心を持つって、めずらしいことなんでしょうかね。
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