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きょう、辺野古基地の建設承認取り消しを発表 翁長知事は、なぜ「勝ち目のない戦い」に挑むのか 特別リポート
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45685
2015年10月13日(火) 新垣洋 現代ビジネス
■支持基盤は「一枚岩」ではない
翁長知事が、辺野古基地埋め立て承認の取り消しを発表する。国を相手に、本気で「一戦を交える」つもりだ。無謀ともいえる戦いに、なぜ挑むのか。基地問題を取材するジャーナリスト・新垣洋氏が特別寄稿。
沖縄県の翁長雄志知事が、13日午前10時から沖縄県庁内で記者会見を開き、仲井眞弘多前知事による辺野古埋め立ての承認を正式に取り消すと発表する。これによって、現在、政府(沖縄防衛局)が辺野古で進めている建設作業は法的根拠を失うことになる。
沖縄防衛局はただちに取り消しの無効化にむけた処置に入る姿勢をみせているため、普天間移設問題は、国と県の「全面対決」という重要な局面に突入する。
翁長氏は昨年の知事選で「あらゆる手段で新基地建設を阻止する」ことを公約に掲げていた。そのため、この承認取り消しは当然のこと、という見方もできる。しかし、昨年12月に知事に就任して以来、今回の取り消し判断に至るまでの翁長氏の道のりは、実に苦渋に満ちたものだった。
まず、支持基盤への配慮が必要だった。
地元のマスコミは、翁長氏の言動を高く評価する記事を掲載し続けている。実際、昨年の知事選で翁長氏に票を投じた県民の多くは、新基地建設を強行する日本政府に毅然と立ち向かってほしいと願っている。
ただ、翁長氏を支える「オール沖縄」勢力は、決して一枚岩ではない。共産党、社民党、社会大衆党といった革新系や、琉球民族として独立・自治を目指す民族系だけでなく、元自民党議員など保守層も含まれている。
だからこそ、翁長氏は知事就任以来、一方だけが喜ぶような判断、発言は極力避けようと努めてきた。「腹八分、腹六分でまとまることが大事だ」とくりかえし呼びかけてきたのはそのためだ。
ところが、辺野古移設に反対する「オール沖縄」のなかでも、革新系・民族系(琉球民族の先住民としての権利を主張する人々)は、翁長氏の言動に「煮え切らなさ」を感じてきた。特に、革新系反対派の不満は日ごとに高まっている。
8月上旬、工事を一ヶ月中断し、その間は取り消し判断を知事はしないという方針が示されると、反対派の不審は一気に高じた。振興策も協議の議題になることが伝わると、不満の矛先は、かねてから菅義偉官房長官との密な関係が取りざたされていた安慶田光男副知事にも向けられた。
8月17日には、県内外49の市民団体が翁長知事宛に要請文を提出。「いらぬ疑念や誤解を招くことのないよう、また、政府の都合の良い宣伝材料として利用されることがないよう…」と、県首脳の姿勢に釘を刺したのだった。
9月に入ると、記者の耳にも様々な“懸念”の声が入ってくるようになった。
「翁長さんの煮え切らない態度に、反対派市民の不満は頂点に達している。なんとかガス抜きできないものか」(知事選で翁長選対にいたスタッフの一人)
「共産党系の人たちがしびれをきらしているから、翁長は身動きできなくなりつつあるよ。彼らを喜ばせるようなパフォーマンスをそろそろやらなくちゃならないだろうね」(防衛省関係者)
新基地建設の阻止は選挙公約だが、その手法を決めるのは知事である。にもかかわらず現状は、革新系の強硬な姿勢に、翁長氏が押しに押されている。このプレッシャーが、翁長氏が想像していた以上に重くなっているとみていい。
■国連演説は「失敗」に終わった!?
翁長氏は、9月21日・22日の両日、スイスのジュネーブで開かれた国連人権理事会に出席し、基地建設反対を訴える演説を行った。翁長陣営からすれば、これは国際社会に沖縄の苦悩を訴える最大のチャンスであり、「見せ場」でもあった。
しかし残念ながら、その狙いが成功したとは言えないだろう。
翁長氏はこの演説で、「沖縄の人々の自己決定権がないがしろにされている辺野古の状況を世界中から関心を持って見てください」と訴えた。
ところが、反翁長勢力は、この演説を「失敗」ととらえたのだ。なぜか。
翁長氏の国連演説を主導してきたのは、知事誕生の屋台骨となった「沖縄『建白書』を実現し未来を拓く島ぐるみ会議」。演説の草稿を書いたのも、同会議の「国連部会長」を務める島袋純・琉球大学教授だ。
島袋氏は『沖縄タイムス』(9月21日付)のインタビュー記事上で、「沖縄の人々の権利とは?」という質問に、こう答えている。
「国際法に基づく自己決定権を持つ。憲法を制定したり統治機構を作ったりすることが可能だ。先住民として土地や資源を保全し、利用する権利もある」
この島袋氏の主張と翁長氏の政治信条には、浅からぬ乖離がある。自民党県連幹事長まで経験している翁長氏は自他共に認める愛国者であり、日米安保条約、日米同盟を重んじる保守政治家だ。だからこそ、「日本の安全保障は日本国全体で考えるべきだ」と知事就任前から訴えてきた。
そんな翁長氏のデリケートな立ち位置を、革新系や「島ぐるみ会議」はどこまで考慮していただろうか。
関係者によると、翁長氏は島袋氏が書いた国連演説の草稿に難色を示し、みずから朱入れをして文言調整をしたという。ここにも、翁長氏の苦悩、葛藤が現れている。
■「強烈な右派」の勝利
翁長氏の国連演説は戦略的に失敗だったのではないか、という見方はまだある。会場にいた外務省職員は帰国後、番記者たちにこんな話を漏らした。
「欧州に押し寄せるシリア難民の問題が今回の国連理事会のメインテーマだったにもかかわらず、会場の隅っこの方にいた翁長知事と我那覇真子さんを、日本のマスコミがカメラでバシャバシャ撮っている。こんな光景を各国の代表は、『いったいこの大事なときに何をやっているんだ』という目で見ていましたよ」
我那覇真子は、名護市出身の26歳で、文化放送チャンネル桜の沖縄支部キャスターをつとめている。8月に発足した「琉球新報、沖縄タイムスを正す県民・国民の会」の代表運営委員も務めるなど強硬な右派として知られる彼女は、「基地移設賛成派」代表の一人として国連人権理事会に参加していた。
そして、翁長氏の訴えについて、こう反論したのだ。
「日本とその地域への安全保障に対する脅威である中国が、選挙で選ばれた公人やその支援者に『自分たちは先住民族である』と述べさせ沖縄の独立運動を扇動しているのです」
ほとんど根も葉もない内容だが、彼女は国連人権理事会の場で、堂々と翁長氏への反論演説をやってのけたのだ。辺野古移設に反対する県内のある保守系議員はこうぼやく。
「これで翁長知事が我那覇のような人物と“同格”に扱われてしまった。もう少し別のやりかたはなかったのか」
そして、こう続けた。
「この『国連演説対決』の“勝利者”は、『先住民族』を主張する一部の民族派と、一部の強烈な右翼だけだ」
■県庁内の不満
もう一つ、県内メディアでは報じられないが、触れておかなくてはならない事実がある。知事のお膝元、沖縄県庁内でくすぶる翁長体制に対する不満の高まりだ。
翁長氏は昨年12月に知事に就任すると、手足となる副知事に安慶田光男氏を起用した。安慶田氏は、翁長氏が那覇市長を務めたときの那覇市議会議長であり、知事選では選対本部長をつとめるなど、翁長氏の側近中の側近だ。
しかしこの安慶田氏の県庁職員に対する態度やメディアへの対応などについて、記者は良い評判を聞いたことがない。
その最たるものが、又吉進・前知事公室長の早期退職の一件だ。
■県庁内の情報がダダ漏れに
過去に広報課長や基地対策課長をつとめ、県庁内では「基地問題のエキスパート」と呼ばれていた又吉氏。家族を顧みぬほど献身的に沖縄県に尽くす人として知られた彼は、翁長氏を支えるキーパーソンになりうる存在だった。
しかし仲井眞・前知事時代に埋め立て承認をめぐる対応にもあたっていたことが、安慶田氏の目に障った。事情通はこう話す。
「仲井眞さんを支える立場だった又吉さんを、安慶田さんは会議などの場で、大声で怒鳴ったりしていたこともあるそうです」
これで県庁内にいづらくなったか、今年3月31日に、又吉氏は沖縄県庁を去った(早期退職)。と同時に、4月1日付で外務省参与に就任したのだ。
「意気消沈していた又吉さんに官邸が目をつけ、引っ張ったということでしょう」(先の事情通)
防衛省や外務省、官邸とも太いパイプを持つ又吉氏を失った痛手は、翁長氏にとって決して小さくない。地元でもあまり知られていないが、又吉氏はこのかん頻繁に訪米している。どんな目的で、だれと会っているのかまでは記者もつかめていないが、官邸が又吉氏をうまく使おうとしていることは間違いない。
さらに、翁長体制への不満を鬱積させている一派がある。県庁の土木建築部(末吉幸満部長)だ。やはり、仲井眞・前知事の承認を法的な面から支えた部署である。
翁長氏は今年に入ると、前知事の承認過程を検証する第三者委員会を発足させ、計13回の会合を開いてきた。
7月16日に「承認には法的瑕疵がある」という結論を下したのだが、その過程で、県庁職員とりわけ土木建築部への聞き取りを重ねた。関係者によれば、「瑕疵があるという認識はあったのか」と強い態度で職員を問い詰めることもあったという。
県庁職員は時の知事の指示のもとでしか仕事ができない。「それ以上」の判断や措置は法的に許されないのだ。
仲井眞時代に彼の指示のもとで仕事をした土木建築部の行為が、次の知事のもとで「法的瑕疵がある」と指摘されれば、当事者たちが不満を募らせるのは必至だろう。土木建築部の部署から、『読売新聞』など保守系メディアに県庁内の情報がタレ流されているという話すら記者の耳に入ってきているのだ。
■法的闘争になったら勝ち目はない
翁長氏が埋め立て承認を取り消したことで、県と国は先の見えない法廷闘争に入る。「法廷闘争になったらまず県に勝ち目はない」というのが、記者を含め、地元メディアの記者、弁護士、識者らのほぼ一致した見方である。
であるからこそ、大きな疑問が浮上する。「翁長知事はなぜそこまでして国と闘うのか」ということだ。官邸や防衛省、外務省は、この疑問に対して確たる「回答」をもっていない。
翁長氏は知事就任以来、くりかえし沖縄問題の全体像を政府に伝えてきた。沖縄戦で4人に1人が命を落としたこと。戦後27年間ものあいだ無国籍状態に置かれ、ようやく1972年に祖国復帰を果たしたのに、基地負担が残ったことなどだ。国連演説でも、本当はこうした沖縄問題の「原点」を訴えたかったのだ。
しかしその翁長氏の気持ちを踏みにじるかのように、政府と沖縄県の集中協議の中で、菅官房長官はこう言った。
「私は戦後生まれなので(沖縄の戦後史は)なかなか分からない。19年前の辺野古合意がすべてだ」
勝ち目のない法廷闘争に、なぜ翁長知事は突き進むのか――。この疑問への回答を持たない、持とうともしない政府の姿勢そのものが、複雑な内部事情を抱えながらも、孤独な闘いに突き進む翁長氏の先端を拓いていると記者は考えている。
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