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[政策ズームイン]北方領土、プーチン氏の策
落としどころは2島返還? 「大戦の結果」妥協促す
日ロ関係の最大の懸案、北方領土問題をめぐり、ロシア側が強硬な姿勢を明確にしている。9月下旬の首脳会談で対話を通じて解決策を探ることで一致したが、プーチン大統領は交渉の中身で歩み寄る構えをまったくみせていない。訪日の計画もあるプーチン氏の胸の内はどこにあるのか。(モスクワ=田中孝幸)
「第2次大戦の結果としてロシアの領土になった。なぜ理解しないのか」。8日にモスクワで再開した領土問題の事務レベル協議。モルグロフ外務次官は杉山晋輔外務審議官に北方四島の帰属問題で譲らない考えを繰り返した。
杉山氏は「ロシアは日ロ交渉の歴史や首脳間合意を勝手に変えようとしている」と抗議した。ただ、モルグロフ氏は「70年前に(領土問題は)解決済みだ」と語った9月の発言を撤回しようとはしなかった。
プーチン政権の高官が最近、そろって口にするのが「大戦の結果」という言葉だ。ロシアにおいては、世界で最も悲惨な人的犠牲を払って勝ち取った国際的な立場や領土を意味する。
第2次大戦での旧ソ連の犠牲者は民間人と兵士を合わせて当時の人口の約16%にあたる2700万人とされる。敗戦国だった日本の9倍の水準で、人口比でも約4倍とみられる。いまも親類を大戦で亡くしている人は社会の多数を占める。
プーチン氏自身、1941〜44年のドイツ軍によるレニングラード(現サンクトペテルブルク)包囲戦のさなかに兄を亡くした「遺族」の一人。昨年来の経済低迷に対する国民の不満が高まる中で「数千万に及ぶ遺族人口に着目し、愛国主義カードを前面に打ち出す戦略に出た」(元閣僚)。
5月は対独戦の終結70年にあたり、過去最大級の軍事パレードをモスクワの赤の広場で開いた。その後、自ら父の遺影を手に約50万人の市民とともに「不滅の連隊」と名付けた大行進に参加。クレムリンに近い外交筋は「大統領はいわば世界最大の遺族団体をつくり、自らの支持基盤に取り入れた」と語る。戦勝国としての大戦の結果に関する見直しの議論は社会の強いタブーになりつつある。
プーチン氏が自らの歴史的評価を高めようと領土に執着しているとの見方もある。ロシアはイワン雷帝やエカテリーナ2世など版図拡張をもたらした指導者が名君と評価される傾向が根強い。数百万人の国民を粛清したソ連の指導者、スターリンでさえ再評価が進む。
世界で非難を浴びるクリミア半島編入も、国内ではプーチン氏の支持率を跳ね上げた。それだけに「歴史的評価を下げかねない領土返還は難しい」(ロシア高等経済学院のセルゲイ・グリエフ前学長)という。
ロシアの領土へのこだわりは、外敵の侵略への過剰な不安の裏返しでもある。世界最大の国土と最長の国境線を抱え、19〜20世紀に2回にわたり内奥まで侵略された反省から、安全保障を高めようと膨張策を繰り返してきた。北方領土は最大の仮想敵、米国からの最前線に位置し、軍事的な重要性も大きい。
では、今後も強硬姿勢を堅持するのか。交渉経緯に詳しい米ロ外交筋は「プーチン氏は米中との勢力争いや経済的な観点から日本の有用性が高まったタイミングで2島返還のカードを切る可能性がある」と言う。
色丹島と歯舞群島の2島は、56年の日ソ共同宣言で平和条約締結後に日本に引き渡すと定めた。プーチン氏は2000年、当時の森喜朗首相に「これまでの両国の合意を尊重する」と明言。01年のイルクーツク声明で、公式文書で初めて共同宣言の有効性を確認した。両国国会が宣言を批准した事実を重く見ていると幾度も日本側に伝えている。
一方で日本の政府高官が一時言及した「面積等分案」など2島を超える返還案に一切応じない構え。ロシアは08年に中国との領土問題、10年にはノルウェーとの境界紛争をそれぞれ面積等分で決着させたが「第2次大戦の結果を巡る争いではなく(北方領土問題の)参考にはならない」(大統領府幹部)。
日本が国後、択捉両島を諦めた形の2島返還にすら、実現に多くの条件を付けるようだ。ドミトリー・ストレリツォフ・モスクワ国立国際関係大教授は2島返還を促進する要因として(1)プーチン政権が重視するロシア極東開発への協力(2)安全保障面の協力拡大(3)ウクライナ問題を巡る日本の対ロ制裁緩和――を挙げる。
ロシアは2島返還も容認しない世論が強まっている。政府系調査機関「世論調査基金」の調べでは99年に47%だった日本返還への反対意見は09年に80%まで上昇。現在は「さらに増えている」(元閣僚)という。
プーチン氏はアジアで急速に台頭する中国の軍事力に対し勢力均衡を図る必要性があるとの考えを安倍晋三首相と共有し、日本の経済協力も重視する。政権維持のため自ら強めたタブーに踏み込むほどの価値が対日関係にあるか。時期の定まらない訪日を踏まえ、見定めることになりそうだ。
日本の立場は…4島は「不法占拠」状態
北方四島は一度も他国の領土となったことがない固有の領土――。外務省のホームページにある北方領土問題の説明はこんな文言で始まる。
ソ連軍がポツダム宣言受諾後も千島列島などへの攻撃を続け、4島の不法占拠状態が続いているというのが日本の主張だ。サンフランシスコ平和条約で千島列島などを放棄したが、過去の日ロ間の条約を踏まえ、北方四島を含まないのは明白との立場を示す。
1956年の日ソ共同宣言で国交回復し、平和条約締結後の歯舞群島、色丹島の日本への引き渡しを明記。ロシアのエリツィン大統領は93年、4島の名前を列挙し領土問題はこれらの帰属に関する問題だと位置づけた。98年、橋本龍太郎首相がエリツィン氏に4島の北側に国境線を画定し返還は別途協議すると非公式に提案。エリツィン氏は「実質的な前進」としたが、小渕恵三首相に代わると拒んだ。
2012年、当時のプーチン首相が「引き分け」による解決に言及。13年の日ロ共同声明は「双方に受け入れ可能な形で最終的に解決」を目指すとした。過去に妥協案で「2島先行返還論」「面積等分論」などが浮かんだこともある。政府に最近のロシアの強硬姿勢を「優位な立場を維持するため高めのボールを投げている」とみるむきもある。」
(黒沼晋)
■識者はこう見る
立場棚上げし議論を
下斗米伸夫・法政大教授 日ロとも従来の立場を棚上げして議論しなければいけない。北方四島を舞台にしたある種の「しかけ」が必要だ。中ロが領土紛争を解決したときは、双方の大使経験者に解決策を命じた。有識者会議をつくって、アイデアを出させるやり方もある。問題は双方にとって米国との関係をうまく突破できるかにある。ウクライナ情勢との連関性も強い。日本人は日本、ロシア人はロシアの法律に従う「共同主権」という解決方法もある。
当面進展見込めない
ビクトル・パブリャテンコ・ロシア科学アカデミー極東研究所主任研究員 日本が4島返還を求め、ロシアが幾分強硬な立場になった現在、当面、進展が見込めない。プーチン大統領の年内訪日も現段階で準備が整っておらず、実現のメドはたっていない。日本の対ロ制裁解除や、関係強化など日ロ関係に好材料がそろっても、ロシアが最大限譲れるのは1956年の共同宣言で盛り込まれた2島返還だけ。プーチン氏にとって、現在の状況下で2島返還すら実行に大きな困難が伴うのが実情だ。
[日経新聞10月11日朝刊P.12]
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