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岐路に立つ宇宙戦略
(上)有人開発、中国台頭に危機感 ISSで途上国と連携
日本の宇宙開発戦略が転換点を迎えている。中国が台頭する中、国際宇宙ステーション(ISS)への参加は米国と協調し中国に対抗する狙いが強まってきた。これまで官需が大半を占めていた日本のロケットや衛星への民需を掘り起こす動きも加速している。宇宙開発の役割が変わる中、巨額の税金を投じる意味が改めて問われている。
「日米は50年以上にわたり宇宙における重要なパートナー。その中でもISSでの協力は重要。今後もさらに連携を加速させたい」。今月11日、外務省で開かれた日米の宇宙政策に関する会合で、キャロライン・ケネディ駐日米大使はこう発言した。ISSの運用計画は2020年まで。米国は24年までの延長を目指しており、改めて日本の協力を求めた形だ。
くすぶる撤退論
政府は応じる考えだが、疑問視する声も多い。内閣府の宇宙政策委員会の山川宏京都大教授は6月、ISS利用を検討する専門家会合で「(費用に)見合った効果が得られているとは納得しがたい」と指摘した。
日本は1987年度以降、ISSに約9000億円を投じてきた。2008年に日本の実験棟「きぼう」の運用を開始し、これまで105件の実験を実施。だが実用化に結びついた成果は見当たらず、巨額を投じることへの批判がくすぶる。今年1月に見直された宇宙基本計画は延長への参加を「検討する」として、撤退の可能性を残した。
そんな中、政府に宇宙政策を提言する宇宙政策委は8月、ISS運用延長への参加の条件として「宇宙分野でのアジアへの貢献」を盛り込んだ。背景には、急速に台頭してきた中国の存在がある。
宇宙開発におけるアジア各国の力学は大きく変わりつつある。かつては日本がリードしていたが、近年は中国が有人宇宙開発を急ピッチで進めている。20年には独自の宇宙ステーションを建設する計画で途上国への技術供与にも積極的だ。
日本は自前の有人宇宙開発を進める計画はなく、放置すれば存在感の低下は避けられない。米国の有人宇宙開発への協力を通して、アジアにおけるリーダーの立場を守りたいとの思惑がある。
こうした政府の考えを受け、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は今月、途上国の宇宙開発を支援する新たな枠組みを発表した。途上国がISSの「きぼう」から超小型衛星を放出する場合、費用を無償とする。JAXAの奥村直樹理事長は「(政府の)アジアに対する貢献路線と整合するもの」と説明する。
日米協調を維持
衛星観測などの宇宙技術による安全保障の強化を進める政府にとって、米国との協調路線は崩せない。衛星の無償放出を皮切りに、ISSに搭乗する宇宙飛行士の枠をアジアの途上国に分与することを検討。運用費用を削減し途上国との関係を深める道を模索する。
ISS参加の目的は、科学研究だけではなくなっている。和歌山大学宇宙教育研究所長の秋山演亮教授は「単純に科学の成果を求めるのは違和感がある」と指摘。今後は「外務省の後ろ盾を得て、本格的な国際協力で進めるべきだ」とする。
搭乗枠の変更はISS参加の枠組みにかかわるため、実現には今後、米国と具体的な交渉を進める必要がある。外務省はこれまで様子見の構えだったが、今後は交渉の主力を担う。内閣府宇宙戦略室の小宮義則室長は「日本の外交力が問われる」と話す。
コストを削減しつつ日米協調を維持し、アジアのリーダーの地位を守る。日本はそんな難しい舵取りを迫られている。
[日経新聞9月28日朝刊P.13]
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(下) 民間の海外開拓進まず 小型衛星シフトが出遅れ
「宇宙産業の海外競争は民間単独では厳しい。政府開発援助(ODA)などの後ろ盾が必要だ」。海外からのロケット打ち上げや衛星などの受注を目指して官民で組織した「宇宙システム海外展開タスクフォース」の初会合が今年8月に東京・霞が関で開かれ、メーカーなど宇宙産業関係者から悲痛な声が上がった。
海外市場では、早くから商業打ち上げに取り組む欧州のアリアンスペースや、低価格路線を走る米宇宙開発ベンチャーのスペースXなどが、世界の打ち上げ受注を取り込んでいる。人工衛星では、米ボーイングやロッキード・マーチン、欧州のエアバス・グループなどが約7割を占める。
大型が99%以上
日本の宇宙産業は官需だけで大型人工衛星とロケットの受注が転がり込む。一般社団法人の日本航空宇宙工業会によると、2013年度の国内顧客への売上高の99%以上を宇宙航空研究開発機構(JAXA)など政府機関向けの大型人工衛星とロケットが占めた。日本政府は海外からの受注拡大でこうした状況を打開し、宇宙産業育成を狙うが、官民の会合の出だしからその難しさを実感させられた形だ。
海外では近年、重さ1トン以下の小型人工衛星の利用が急速に進む。米調査会社によると、16〜20年の間に世界で40基の小型衛星の需要が見込まれている。1トン以上の中・大型衛星は計16基にとどまる見通しだ。6月には、世界的な衛星通信網の整備を目指す米ワンウェブの小型通信衛星約700基の打ち上げをアリアンスペースが請け負った。ロシアのソユーズロケット計21機を使う予定だ。
そうした中、JAXAも海外から受注した人工衛星の打ち上げ機会増大に備え基幹ロケット「H2A」を改良し、搭載した衛星の寿命を長期化できるようにする取り組みを始める。JAXAは小型ロケット「イプシロン」の活用も模索するが、まだ時間がかかりそうだ。小型市場の開拓が世界の宇宙産業での生き残りに不可欠になりつつある中で、日本の出遅れ感は強い。
日本政府はまた、アジアの新興国などの宇宙機関に対して打ち上げや運用などのシステムの提供も目指しているが、議論を始めた段階だ。一方、国内の小型衛星メーカーも、東京大学発ベンチャーのアクセルスペース(東京・千代田)などが目立つ程度だ。
日本が得意とする科学探査でも新興国が勢いづいている。9月、インドが本格的な天文衛星を初めて打ち上げた。小型衛星輸送の実績も豊富で、今回初めて米の小型衛星が相乗りした。
画像管理に懸念
さらに、重要な宇宙産業の一つである人工衛星で撮影した画像の利用拡大でも、業界関係者が懸念を強める事態が起きている。原因は、政府が来年の通常国会に提出予定の「衛星リモートセンシング法案」だ。
「厳しい規制だけでは、事業をやっていくのはつらい」。9月に自民党本部で開かれた勉強会で、衛星画像の販売などを手掛ける一般財団法人リモート・センシング技術センターの池田要理事長はこう訴えた。
法案は安全保障上の観点から、国内の民間企業が扱う人工衛星が撮影した画像の活用を管理する内容だ。これに対し、気象情報会社ウェザーニューズの山本雅也執行役員は「衛星産業が成熟していない中で、法規制は時期尚早だ」と話す。
今年1月に政府が策定した宇宙基本計画は、安全保障利用の成果を「産業振興につなげる」と記した。戦略がちぐはぐなまま進めば日本の宇宙産業を大きく伸ばすのは一層難しくなる。
矢野摂士が担当しました。
[日経新聞10月5日朝刊P.13]
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