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安全保障関連法案の強行採決で下がった政権支持率を、経済政策で持ち上げたいところ(撮影:尾形文繁)
新・三本の矢は政権の軌道修正を示している 安保で支持率低下、景気の先行きも厳しい
http://toyokeizai.net/articles/-/86833
2015年10月11日 山田 徹也 :週刊東洋経済 副編集長
「本日からアベノミクスは『第2ステージ』へと移ります」
9月24日、自民党総裁に再任された後の記者会見で、安倍晋三首相はGDP(国内総生産)600兆円を目指すとブチ上げ、「新・三本の矢」(強い経済、子育て支援、社会保障)を打ち出した。
が、肝心の600兆円目標は達成時期や具体的手段が示されず、一言で言うと中身のないスローガンにすぎない。SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「600兆円は象徴的数字にすぎないが、新・三本の矢はアベノミクスの軌道修正を示したものだ」と指摘する。
旧・三本の矢は、前例のない金融緩和策や財政出動によって、デフレ脱却や円高是正を促すもの。足元の物価上昇率はゼロ%近傍で推移、「2年で2%」の目標は達成できなかったが、物価の基調は変化し、デフレから脱却しつつあることは事実だろう。
■このままではまずい、という焦りの表れ
問題は「デフレから脱却しさえすればすべてがうまくいく」という当初のもくろみどおりに事態が進んでいないことだ。消費や輸出、企業の設備投資は勢いを欠き、今年4〜6月期の実質GDP成長率は年率マイナス1.2%に沈んだ。いったん上向いた実質賃金上昇率は、物価上昇が響き、2013年半ば以降、マイナス領域で推移している。7〜9月期成長率のコンセンサス予想は1.67%だが、下方修正リスクが高い。
宮前氏は「円安になっても輸出が増えにくい構造に変化しているうえ、7〜9月期の消費はシルバーウイークの好天により何とか前年比プラスという実力。景気は思ったよりも厳しい」と見通す。
家計を意識した新・三本の矢は、このままではまずいという政権の焦りの表れだ。11日の経済財政諮問会議では安倍首相が「携帯料金などの家計負担の軽減は大きな課題」と、軌道修正を象徴するような指示を発した。
25日には日本銀行の黒田東彦総裁と安倍首相が首相官邸で会談、市場は「すわ追加緩和か」と色めき立った。
しかし、携帯料金に関する指示に見るように、官邸サイドは「追加緩和は円安、輸入インフレを促進し、家計を痛めつけるだけ」という判断に変わった可能性がある。もしそうなら、これまで「躊躇なく」と言っていた黒田総裁は追加緩和に動きにくい。
600兆円目標の具体策以上に議論を呼びそうなのが、17年4月に予定されている10%への消費税率引き上げへの対応だ。現在、自民・公明両党間で、軽減税率について検討が進められている。
しかし、9月に入って財務省が提案した「日本型軽減税率」には、批判が集中。特に公明党は「これは軽減税率とまったく違う」と拒否。議論は暗礁に乗り上げている。
公明党の斉藤鉄夫・税制調査会長は「過去3回、選挙の公約に掲げたのに、軽減税率を達成できないとなると、公約違反。参院選はこのままでは戦えない」と強調する。
内閣改造・両党役員人事後の10月中旬以降、両党の議論は再開される見通し。だが、軽減税率の落としどころが見えないうえ、足元の景気停滞や株式市場の乱高下を受け、消費増税再延期のシナリオも浮上している。
2016年7月の参院選まで1年足らず。アベノミクス第2ステージは波乱の幕開けだ。
(「週刊東洋経済」2015年10月10日号<5日発売>「核心リポート05」を転載)
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