13. 2015年10月11日 17:18:47
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南京の登録、日本「無念」 日中関係に火種か 記憶遺産 2015年10月11日15時49分 朝日新聞 「平和」を設立理念に掲げるユネスコ(国連教育科学文化機関)が、日中の戦争の記憶をめぐる摩擦の舞台となった。南京事件に関する「南京大虐殺の記録」の世界記憶遺産登録について、中国は自らの歴史観を国際社会に認めさせることを狙い、日本は阻止しようと再三働きかけた。今回の登録が、回復基調にある日中関係の新たな火種となる可能性もある。 「無念だ」 「南京」の登録が決まった直後の10日未明、外務省幹部は天を仰いだ。 中国の登録申請が明らかになった昨年6月以降、外務省はユネスコに、南京事件は日中間で様々な見解の違いがあると指摘。申請資料は中国の一方的な主張に基づいており、ユネスコの選考基準である完全性や真正性を満たさないとして懸念を伝えてきた。 日本政府は、日中戦争のさなかに日本軍が起こした南京事件について「(1937年の)日本軍の南京入城後、非戦闘員の殺害や略奪行為等があったことは否定できない」としつつ、犠牲者数については「政府として認定することは困難」との立場だ。中国の国営新華社通信によれば、中国が申請した資料には、犠牲者数を30万人以上と記した南京軍事法廷の判決書が含まれている。登録されれば、中国が、ユネスコのお墨付きを得たとして政治利用すると懸念した。 しかし、記憶遺産の審査制度が「壁」となった。世界遺産の場合、政府代表が参加する公開の場で審査され、関係国が意見表明する機会もある。一方、記憶遺産はユネスコ事務局長が任命した専門家が非公開で審査し、その結果を事務局長が事実上追認し、発表する。日本政府関係者は「そもそもユネスコには政治利用されることの問題意識が希薄だ」と指摘する。 ログイン前の続き「南京」の登録発表後、外務省は間髪を入れずに「中立・公平であるべき国際機関として問題であり、極めて遺憾」「政治利用されることがないよう制度改革を求めていく」との外務報道官談話を発表した。 外務省首脳は「南京」の登録申請段階で、「日本はユネスコの分担金がトップクラス。日本からの申し入れに真剣に耳を傾けてくれることを期待する」と言及していた。自民党には2014年度で約37億円の分担金(分担率約10・8%)を凍結すべきだと牽制(けんせい)する意見もある。ただ、外務省の中国担当者は「ユネスコの件とは別に、中国との必要な外交案件はきちんと進めていくべきだ」と話す。(武田肇) ■中国「歴史の勝利」 「南京」の登録について中国外務省は10日、「申請資料は、世界記憶遺産の真実性と完全性の審査基準に完全に合致する」との副報道局長名の談話を発表した。国営新華社通信は「歴史の真相の勝利であり、平和の理念の勝利。国際社会が共通認識に達したことを示した」と伝えた。 同通信によると、中国の申請資料は、旧日本軍が撮ったとされる写真や米国の牧師が撮影したフィルム、生存者の証言や外国人の日記など11種類に及ぶ。この中に、南京軍事法廷で日本人を戦犯として裁いた判決書が含まれていた。中国はこの判決などをもとに犠牲者数を「30万人以上」と主張している。 申請を主に担ったのは、共産党中央宣伝部とその監督下にある中央檔案(とうあん)館。同館幹部は昨年7月の会見で、同年3月に申請したとし、態勢づくりは1995年から中国政府内で進めていたと述べた。 その説明通りなら、一連の動きは「愛国主義教育」を掲げ、歴史をめぐり対日圧力を強めた江沢民元国家主席の下で始まったことになる。対日関係への影響を計りながら申請の機会をうかがっていたとみられ、13年末の安倍晋三首相による靖国神社参拝を踏まえて申請を決めた可能性がある。 同通信によると、14年9月の国連人権理事会で、中国代表団は「日本のある指導者はA級戦犯をまつる靖国神社に公然と参拝した」と批判。記憶遺産の申請は「歴史を銘記し、人類の尊厳と歴史の正義を守るための措置だ」と訴えた。 申請の動きは、両国関係が国交正常化以来「最悪」といわれた中で進んだ。だが、日中関係は昨年11月の首脳会談を機に修復に向けた流れが生まれ、習近平(シーチンピン)指導部も経済や民間レベルで日本との交流を広げる動きに転じつつある。9月3日の抗日戦勝70年の記念式典でも、習国家主席は対日批判のトーンを抑えた。 そのため、「今回の登録が、関係修復の流れを止めるとは考えにくい」(日中関係筋)との見方が強い。ただ日中関係が再び動揺すれば、記憶遺産登録という「成果」を盾に、対日批判を強める可能性がある。(上海=金順姫、北京=林望) ■記憶遺産、日本は5件に ユネスコ(国連教育科学文化機関)が10日発表した「世界記憶遺産」の新たな登録案件に、日本から、シベリア抑留・引き揚げなどに関する記録「舞鶴への生還」と、京都の東寺に伝わる「東寺百合文書(とうじひゃくごうもんじょ)」の登録が決定。中国が申請していた旧日本軍による「南京大虐殺の記録」も登録された。 今回は約90件の候補から47件を登録。バッハの「ミサ曲ロ短調」の自筆楽譜(ドイツ)、ウィンストン・チャーチルの文書(英国)なども加わり、総数は計348件となった。 記憶遺産は1992年に始まった。世界遺産と違って国際条約には基づかず、個人や団体も申請できる。日本からは2011年に「山本作兵衛炭坑記録画・記録文書」、13年に藤原道長の日記「御堂関白記」と「慶長遣欧使節関係資料」が登録されており、今回で計5件となる。 審査は2年に1回で、次回は2017年。日本からは、群馬県の特別史跡「上野三碑(こうずけさんぴ)」と、第2次大戦中に外交官の故杉原千畝(ちうね)氏がユダヤ人に発給した「命のビザ」などの関係資料が申請される。(佐々波幸子) ◇ 〈世界記憶遺産〉 歴史的な文書や絵画、音楽や映画などを保存し、後世に伝えることを目的にユネスコ(国連教育科学文化機関)が1992年から始めた。政府機関のほか地方自治体や個人も申請でき、2年に1度選考される。今回新たに登録された47件を合わせ、遺産数は計348件。「アンネの日記」や英国のマグナ・カルタ(大憲章)、ベートーベンの「第九」の楽譜、映画「オズの魔法使(まほうつかい)」などが登録されている。 http://www.asahi.com/articles/ASHB66QS0HB6UHBI02Y.html |