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2015年10月06日 (火) 午前0:00〜[NHK総合]
時論公論 「TPP交渉 薄氷の大筋合意」
合瀬 宏毅 解説委員
TPP環太平洋パートナーシップ協定交渉の参加12か国は、医薬品の開発データの保護期間など、難航していた分野で各国が折り合い、先ほど大筋合意に至ったことを発表しました。
これにより、世界の経済規模の4割を占める巨大な自由貿易圏が、アジア太平洋地域に誕生することになります。
今夜は、纏まったTPP大筋合意の意味と今後の課題について考えます。
アメリカ・アトランタで行われていたTPPの閣僚会合は、参加各国の主張が激しく対立し、当初の予定を4日間延長し、徹夜で交渉が続く異例の会議となりました。
難航していたのは、自動車分野の原産地規制、乳製品の輸入拡大、それにバイオ医薬品の、開発データの保護期間でした。
このうち、自動車分野の原産地規制では、TPP域外から部品を多く調達している日本が、域内での調達率が低くても、関税撤廃の対象とするよう主張。
一方で、工場を多く抱えるメキシコやカナダは、高い調達率を主張し、対立していました。ただこれは日本が譲歩する形で決着しました。
また、ニュージーランドが強く要求していた、乳製品の輸入拡大は、日米やカナダなどがこれまで以上に輸入することで合意が出来ました。
最後まで残ったのが、バイオ医薬品の開発データの保護期間です。医薬品メーカーを多く抱えるアメリカが、長い12年を主張していたのに対し、オーストラリアなどは5年以下と対立し、これが交渉を停滞させていました。
しかしアメリカが保護期間5年に、延長を認める「実質8年」の譲歩案で歩み寄り、オーストラリアなどもこれを受け入れたと言うことです。
時間切れで合意見送りの意見もでていた交渉でした。しかし最も対立が大きかったアメリカとオーストラリアが難航する分野で合意し、着地点が見えたことで、交渉が一気に収束に向かったようです。
多国間交渉は良く、最後が、最も難しいと言われます。経済規模も国内状況も異なる12ヵ国が、21分野、31項目で駆け引きを行うわけですから、当然のことです。
ただアメリカでは来年秋に大統領選が控え、交渉が長引けばオバマ政権の任期中にTPPを成立させることは難しくなります。
またカナダでも今月、議会の選挙が予定されていて、万が一政権が変わるようなことがあれば、交渉は見直しが避けられません。
TPPを成長戦略の柱と位置づける日本としても、状況は同じです。12ヵ国にとって今回が、決着を年単位で長引かせない、まさに崖っぷちの大筋合意で、そうした危機感が、参加国の背中を押したとも言えます。
さて今回の大筋合意で、アジア太平洋地域には、世界のGDPの4割。貿易量の3分の1を占める巨大な自由貿易圏が出現します。
そこで日本はどうすれば良いのでしょうか。
TPPが目指したのは、関税を撤廃したり大幅に引き下げるなどの野心的な目標を掲げ、人、モノ、資金の流れを加速することです。そして規制を撤廃したり、投資ルールを幅広く統一することで、工場進出や店舗の出店などのビジネス展開を、自由に行える21世紀型の経済連携協定を作ることでした。
合意によると、域内の多くの関税が即時又は、20年以内に撤廃されるほか、これまで制限されていた途上国での出店の規制緩和や、公共事業などの外国企業への入札の開放。それに自国の国有企業への、優遇策の見直しなどを行い、民間企業が自由に経済活動できるような内容となっています。
しかもTPPが位置するアジア太平洋諸国は今後高い成長が望める地域です。TPPの合意内容は域内の参加国にしか適用されません。
日本としては、まずはこうした合意内容を企業に利用してもらい、企業の成長力を高めることが必要でしょう。
一方で国内はどう変わるのでしょうか?
交渉で大きく譲歩したのは、農産物の関税です。TPP交渉に当たって、安倍総理は攻めるところは攻め、守ることは守ると、繰り返し訴えてきました。
ところが今回、安倍総理は多くの品目で、関税を引き下げるなどして市場を開放しました。
牛肉は現在38.5%の関税を15年かけて9%にまで引き下げ。豚肉については現在の関税制度は守りつつも、安い肉に掛けている関税を大幅に引き下げます。
またコメについては関税は据え置いたものの、アメリカや、オーストラリアなど向けに新たに7万トンの特別輸入枠を設定しました。
バターなどの乳製品についても同じで、ニュージーランドなど輸出国向けに生乳換算で7万トンの輸入枠を設けました。
これにより、協定が発効すれば、牛肉や乳製品、一定量のコメなど海外産の農産物が安く入ってくることは確実です。消費者にとって大きなメリットですが、生産者は大変です。
ただでさえ余り気味のコメですから、ほかの作物への転換が必要ですし、また安い乳製品や、牛肉が輸入されれば、減少が続く酪農家の経営をさらに圧迫しかねません。
農家には、TPPを利用した輸出など、新たな時代に対応した取り組みを進める必要がありますし、安倍政権にはそうした取り組みを支える対策が求められてくると思います。
以上、見てきたように、今回、大筋合意としたことで、国内の企業や農業を巡る状況は大きく変わりそうです。問題は発効の時期です。
TPPが発効するためには、交渉合意後に参加各国で議会による批准など国内手続きをとる必要があります。
アメリカでは、大統領が条約に署名するためには、議会に90日前に通告。その後、専門機関の評価を付けた上で議会に批准してもらう必要があります。
しかし議会の中には、TPPそのものに反対する議員が少なくありません。審議が大統領選に巻き込まれれば、批准は政治問題化します。
もちろん今回アメリカはオバマ政権に強力な交渉権限を与える、TPA大統領貿易促進権限法を成立させてはいます。しかし以前、アメリカが韓国とFTAを締結した際も、TPAがあっても結局、アメリカ議会は交渉内容の見直しを迫り、アメリカは韓国と再交渉を行い、発効までに5年という期間を費やしました。
バイオ新薬のデータ保護期間や自動車の関税引き下げなど、交渉内容に対するアメリカ国内の不満が多いことを考えると、発効までには、まだいくつもの障害があることは覚悟しておかなくてはならないでしょう。
二国間や多国間での、自由貿易圏作りが、世界で進む中、韓国や中国などに遅れをとった日本が、アジア太平洋地域での、新たな貿易ルール作りを目指して参加したのがTPPでした。
世界のGDPの4割を占めるTPPは今後、他の国からの参加も期待でき、そこでのルールはアジア全体の標準となる可能性があります。
それはアメリカにとっても大きなメリットになります。
TPPを成長戦略とする安倍政権にとって、早期の批准をアメリカに働きかけることも、今後の課題になっていくと思います。
(合瀬宏毅 解説委員)
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/228779.html
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