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「TPP大筋合意」という「虚報」の正体! 〜「大筋合意と完全合意は決定的に違う。オバマ政権下でのTPPは成立しない。“合意した詐欺”に騙されるな!」(ジャーナリスト・横田一)
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/269722
2015.10.09 IWJ Independent Web Journal
2015年10月6日、「TPP合意 環太平洋巨大経済圏」(同日付朝日新聞)などと銘打った一面記事が五大新聞に載った。環太平洋経済連携協定(TPP)が5日、米国アトランタでの閣僚会合で大筋合意に至ったことを受け、「巨大経済圏がアジア太平洋地域に生まれる道筋がついた」(同)と報じたのだが、現地で交渉を監視したTPP阻止国民会議事務局長の首藤信彦・元衆院議員の見方は全く違う。「オバマ政権下でのTPPは成立しない」と言い切ったのだ。
民主党議員時代からTPP問題に5年間にわたって取り組む首藤氏は9月29日、「“龍頭蛇尾に終わるかTPP?”――アトランタ(最終?)閣僚会合監視に出発の前に――」というリポートを出している。
【リポートのURLはこちら】 http://blog.goo.ne.jp/sutoband
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▲首藤信彦氏
「菅官房長官が『不退転の決意』で大筋合意を目指すと記者会見で述べているが、それは実は、オバマ政権下でTPPは成立しないと言っているに等しい」「『大筋合意』程度では、TPP協定案までさらにこれから最低でも半年かけて協定文策定に必要な『完全合意』をめざして一層の努力を傾注することになろう」と指摘していた。
しかし朝日新聞をはじめマスメディアは大筋合意と完全合意の違いを説明しないまま、「大筋合意=発効(成立)確実」という印象を与える記事を垂れ流した。アトランタから帰国した首藤氏に6日、状況の変化があったのかを聞いてみた。
■安倍政権の“合意したした詐欺”を垂れ流した大本営化した マスメデイア
――今回の大筋合意でTPPが最終決着したかのような報道を垂れ流しています。単なる“政治ショー”なのに、完全合意に至ってオバマ政権下でTPPが成立するかのような印象を与えています」
首藤「(9月29日のリポートで指摘したように)『大筋合意』と『完全合意』は全く違います。来年夏に参議院選挙を控える日本の政治日程から逆算すると、もう時間がないので『大筋合意をした』ということでしょう。大筋合意のテキストを見ると、抜けたところもあるし、留保のところもあります。米国議会に諮ることができる『完全合意』には程遠いのです。
しかも、最後の共同記者会見に12 人ずらりと並びましたが、そのうち3人は閣僚ではありません。“インチキ閣僚”といえます。シンガポールやブルネイやマレーシアは閣僚を送り込んでいなかった。閣僚より格下の主席(交渉官)だったのです。『もちろん権限を委譲されている』ということでしょうが。
そもそも完全合意に至ることができる閣僚会合ではなかった。だから時間がないから大筋合意ということで、みんなにこやかに笑っているのではないですか」
――確認ですが、今回、大筋合意に至りましたが、「オバマ政権下でTPP成立しない」という状況に変わりはないですか。
首藤「過去の報道を見ていただくと分かりますが、「五月末がリミット」と言われていたのです。今は、本来なら完全合意で署名をする時期なのです。だけれども今は「大筋合意」で、その次に「完全合意」があるのです。完全合意がいつになるのかまだ分かりません。
完全合意に至ったら協定文書を作成し、オバマ大統領は議会に通知をすると思うのですが、(通知から審議開始まで90日を置くという90日ルールによって)そこから90日が必要なわけです。仮に半年間程度かかると見られる「大筋合意から完全合意」までが1ヶ月で終わったとしても、4ヶ月はかかる。そうすると、来年2月の初めに(オバマ大統領の)署名ということになります。大統領選に突入したところで、オバマ大統領がのこのこと署名できるのかは分かりません。
しかも仮に署名できたとしても、それから米国議会で議論になるのです。それはもう延々とやるわけです。そうすると、すぐ夏休みになるでしょう。だからオバマの在任中にはTPPは成立しないのは確実です」
――日本のメデイアは、「大筋合意」という“花火”を打ち上げましたが、9月29日のリポートで指摘した状況は全く変わっていないと?
首藤「議会通告が90日前というルールがあるので、いま完全合意でも来年一月になります。来年になったら大統領選で米国議会はTPPどころではありません」
――来年になったら米国議会は動かないということですね。
首藤「みんながTPPを批判するわけですから。「TPPを進める」と言ったものなら票が集まらないのだから」
――たしかにTPP推進だったヒラリーさんですら、労組票を意識したでしょうが、批判的な発言をし始めました。
首藤「そんな状況の中で、米国議会がTPPを認めるはずがありません。しかも医薬品の特許保護期間が12年から8年になりましたが、これを米国製薬会社が認めるはずがない。大統領選では、米国製薬会社が莫大な資金を出すわけですから、12年が4年も短くなってしまったら数兆円オーダーで損することになります」
――それで米国議会の重鎮で製薬会社とも近いとされるハッチ上院議員が「医薬品のデータ保護期間を12年から短くするな」と前回のハワイの閣僚会合では言っていたと。ところがアトランタでは、これをUSTR(米国通商代表部)が無視した。
首藤「(交渉に当たった)USTRが無視したから、すぐに再交渉の要請が出たと聞いています。「もう一回、交渉をやり直せ」というわけです」
――日本の報道だと、「大筋合意でTPP決定で万々歳」という雰囲気になっていますが、実態と全く違うわけですね。
首藤「それはご存じの通り、あたかも決まったかのようなことにして、『TPP対策予算をばら撒いてばら撒いて来年の参院選を勝とう』という自民党の戦略です。農業関係者対策ということです。私や日本の評論家だけがこのことを言うのではなくて、アトランタに行ったら海外の報道関係者はみんなそう言っていました。『ハワイで閣僚会合をした後、たったニケ月で開けるはずがないのに開いたのは、日本が「今じゃないといけない」と開催を求めて、アトランタで閣僚会合が始まった』と。日本向けの茶番劇であることは分かっていたのです。
『日本のために付き合っているのだから、日本が譲歩するのは当たり前だ』という雰囲気でもありました。日本は自動車の分野だって、あっと言う間に要求を飲んでしまって、他の分野でも恐らく譲歩に譲歩を重ねたでしょう。
――ほとんど日本の国益のために要求をすることなしに、他国がギリギリ国益をめぐって交渉をしている時に、一人白旗を早々と上げて“行司役”と称する役をしていたピエロのような存在が甘利明大臣だったわけですね。
首藤「そうです。今回、日本は交渉しなかったのです。他国の交渉官からすれば、『この人たちは何しに来ているのか』と冷笑されていたことでしょう」
――海外の報道関係者は大筋合意と完全合意の違いはもちろん知っているから、「日本は何を浮かれているのか」と呆れていたというわけですね。
首藤「そういうことです」
■「臨時国会はTPP国会」 野党は安倍政権を一斉追及へ
今回の大筋合意に対しては、TPP反対の共産党や社民党や生活だけでなく、自由貿易推進の立場の民主党や維新の党も追及の姿勢を示している。
民主党の枝野幸男幹事長は7日の会見で、首藤氏の見方についてこう答えた。
――(横田)TPPの大筋合意についてですが、メデイアの報道を見ると、すぐにTPP締結・成立になるという印象を受けるのですが、現地(アトランタ)に行った人の話を聞くと、「大筋合意と完全合意は違う。90日ルールもあるし、来年、米国議会が批准とは思えない」という見方だったのですが、そのへんについてはどうご覧になっているのでしょうか。「合意したした詐欺」という言葉も流れているのですが。
枝野「私も英語がよく分からないので、英語の原文の話を聞かせていただいてもよく分からないのですが、少なくとも大筋合意と直訳されるものではないというのは、はっきりしています。そういうふうに思っておりますし、ですから本当に合意が出来ているのか、かなり懐疑的に見ておりますので、そうしたことを含めて臨時国会で説明をしていただかないといけないと思います」
▲枝野幸男氏
――(横田)自民党はすでにTPP成立確実だと、オバマ政権の下でスタートするかのような前提で国内対策を進めようとしていますが、これは時期尚早と言いますか、数年オーダーで漂流する可能性も残されていると思うのですが、そういう自民党の姿勢についてはどうお考えでしょうか。
枝野「とにかく説明をしていただかないと、われわれ国民は分からないわけですから。そもそも、日本以上にアメリカ議会で批准されるのか。アメリカ議会が批准しなければ、ほとんど意味のない話になるので、そういったことを含めて、とにかく説明をしていただかないと現状ではある意味、評価のしようがない。しっかりと説明をしていただきたいと思います」。
また別の記者の関連質問に対して枝野氏はこう答えた。
枝野「私自身が経済産業大臣として(TPPについて)最大限の努力をした当事者です。ですから包括的な経済連携が進むこと自体は望ましいことですが、今回の合意は国益に反するものだと思います。
自由貿易を進めて行く時には当然のことながら、第一次産業でいろいろなデメリットがあることは当然のことです。しかしながら、第二次産業を中心として、それを上回るメリットがあるならば、そのメリットによって得たものによって、第一次産業対策が打たれて全体としては国益に資する。そういうことを我々は目指しています。
しかし今回の合意、少なくとも今伝えられている合意内容からは、製造業におけるメリットがそれほど大きなものではない。製造業の攻めの部分で取れていないのに、農業や畜産業でこれだけ多くの譲歩をしていれば、結局、そこにTPP対策と称してばらまくでしょうから、ばらまく分だけの二次産業関連のメリットがない。トータルとして国益にはならないと思っています」
同じく自由貿易推進の立場の維新の党・今井雅人幹事長も6日の会見でこう答えた。
――(横田)TPPの国会決議で重要五品目を守ることが前提だったが、例えば、牛肉の関税が36%から9%に4分の1になる。これで(国会決議は)守られていると考えているのか。
今井「今の点は非常に重要でありまして、与党が選挙公約であげたこと、その他において『聖域を壊すようなTPPには参加しない』とか、非常にどちらでも取れることを与党は続けてきた。
国会決議についても農業関係者に配慮した表現になっていますけれども、果たして今回のこと(大筋合意)がそれに適っているのかどうかは非常に議論が分かれるところだと思いますし、私自身も遵守できているのか疑問を感じます。ですから、そこのところも踏まえて議論をしていきたいと思います」。
▲今井雅人氏
今井氏は冒頭で臨時国会で徹底議論をすることも求めた。臨時国会を開かないと言い出した自民党を牽制したのだ。
今井氏「(TPP大筋合意について)松野代表もおっしゃった通り、我々も自由貿易推進には賛成ですから方向はいいと思いますが、『中身が全く国会に報告されていない』ということで、『国会決議を遵守しているのか』といろいろな観点があると思います。
自民党が野党の時に『TPPに関する特別委員会を開け』と要求していた記憶がありますので、『それぐらい重要なことだ』と与党も認識していると思いますので、ぜひ閉会中審議も含めて(臨時)国会で徹底議論をする場を作っていただきたい。その上で、是非を判断したいと思います」。
また民主党の細野豪志政調会長も6日の会見でTPP関係部門合同会議を8日に開くことを予告、徹底的に検証する姿勢を明らかにした。私の質問に対してはこう答えた。
――TPPに関して「国益を損ねたのではないか」「国会決議を遵守していないのではないか」という指摘もあるのですが、例えば、牛肉の関税が36%から4分の1の9%になったのですが、これで国会決議を守ったことになるのでしょうか。
(TPPの)著作権の非親告罪化も重要な問題で、福井健策弁護士は「日本のアニメ文化・二次創作文化に悪影響を与える」とおっしゃっていますが。
細野「衆議院と参議院の農林水産委員会の決議には明確に違反をしていると思います。これは決して野党側が要求したのではなくて、与党も含めた全体として国会はチェックをしていく姿勢があるはずなのです。そのことを自民党の皆さんもこれまで主張して来られたし、選挙では『TPP反対』と言われたわけです。そこはしっかりと確認をする必要があると思います。
(TPP交渉における)著作権の非親告罪化については、交渉過程をつぶさに見ないといけないと思うのですが、こうしたことに対して日本政府が深くコミットしたのかどうか。そこが見えない。本来重要な論点であるにもかかわらず、日本政府としてどれだけものを言ったのかを解明する必要があると思います。アニメの問題を含めて日本の著作権のあり方、さまざまなリスクを背負う可能性がありますので、重要な論点だと思います」。
▲細野豪志氏
野党が足並みをそろえて安倍政権との対決姿勢を取る中で、安倍政権は臨時国会を開かず、閉会中審議でお茶を濁そうとしている。「今回の大筋合意がオバマ政権下での成立を意味するのか」「TPP国内対策は参院選向けのバラマキではないのか」「今回合意内容は国益を損ねないのか」など安倍政権が国民に説明すべきことは多い。
安保法制に続いてTPPが大きな政治課題に急浮上、臨時国会が開催されるのかを含め与野党の攻防が激化するのは確実だ。8日には民主党がTPP関係部門合同会議を開催、政府側からヒアリングを皮切りに徹底検証をしていくとみられる。
■関連情報;首藤氏の最新リポート(転載)
アタランタ閣僚会議での「大筋合意」を受けて 2015年10月6日
TPP阻止国民会議事務局長 首藤信彦
9月30日よりアトランタで二日間の予定で開催されたTPP閣僚会合は、延長を繰り返し、10月5日朝(現地)閣僚共同記者会見を開き、「TPP大筋合意」が声明された。
しかしながら、連日のごとく報道機関を通じて断片的に報道されたバイオ製剤パテント期間をめぐる争いや、合意形成の障害として取り上げられた自動車・部品原産地問題さらにニュージーランドの強く主張する酪農産品市場開放などについて、どのような合意が12か国で形成されたのか言及なく、交渉結果については公開されなかった。
前回のハワイ会議よりわずか2か月後という、各国調整が進展していない状況での会議開催は日程的に無理があり、会場では「会議は日本が国内的都合で求めたもので、秋に臨時国会を開き農業支援などを予算化して来年の選挙に備えるため」という批判の声が圧倒的に多く、さらに「だから日本が譲歩して当然」「こんなに譲歩して日本にTPP参加のメリットあるのか」などという突き放した意見もあった。
共同記者会見直後に日本記者へのブリーフィングが行われたが、そこで配布された内閣府および農水省資料はほぼ同時にホームページに掲載されており、日本政府はアトランタにおいてはTPP交渉ではなく、これまでのアメリカとの二国間協議の追認を目論んでいたことがよくわかる。
5日深夜の記者会見を経て、6日朝より、用意周到に準備された大量の祝賀記事が流され、TPPへの架空・過剰の期待をあおり、一方で反対していた側には無力感が漂っているが、それは両方とも間違っている。今回たとえ本当に合意が成立したと仮定しても、それはあくまで「大筋合意」「原則合意」にすぎず、これから数か月をかけて短期の会議が積み残した国営企業問題、環境、国内制度改編、ISDS問題など深刻な課題の処理が急務となる。さらに現実に署名までの発効条件や法的整合性チェックなどが加わると、協定文をまとめる「最終合意」までは幾多の紆余曲折が予定される。
最大の難関は言うまでもなく、アメリカ議会の審議であるが、すでに多くの議員から「通貨操作禁止条項」の欠落が糾弾され、人権問題などに加えて、議会による承認(certification)プロセスの確立などの困難な関門が待ち構えている。すでにUSTRに対し、再交渉を求める声も上がり始めた。
そして実は皮肉なことに、アトランタ会議でUSTRフロマン代表が合意形成を強引にもとめたため、アメリカ自体が多くの妥協を迫られ(バイオ製剤のパテント期間を8年に縮小など)、結果的に、このTPP協定は一層、議会承認を得にくくなっている。
本来、5月末がオバマ政権下でのTPP条約発効期限と言われたが、すでに4か月を経過し、次期大統領選を経て、オバマ大統領任期中にTPP協定が発効するのは事実上不可能に近い。問題はそれにも拘わらず、安倍政権はTPPの旗の下で、日本社会に深刻な影響を与える二国間交渉を秘密裏に進め、さらに「大筋合意」を根拠にこの秋にはTPP関連補正予算を組んで、来夏に予定される参議院選挙を有利に展開しようとしていることである。
これは国民に対する二重の裏切り行為としか言いようがない。今後も引き続きTPP協定の署名・発効までのプロセスを監視すると同時に、日本におけるそうしたTPPの名前を利用した政治の暴走と利権行為の広がりを阻止していかなければならない。
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