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いま、国民平和連合に「浅沼稲次郎」的存在を求む!
http://mainichibooks.com/sundaymainichi/column/2015/10/18/post-374.html
サンデー毎日 2015年10月18日号
牧太郎の青い空白い雲 連載541
当時、高校1年生だったが、55年前の浅沼稲次郎暗殺事件は鮮明に覚えている。
日本を争乱の渦に巻き込んだ60年安保。岸信介内閣が倒れ、1960年7月、池田勇人内閣が誕生した。国民の怒りを一身に集めた前内閣からイメージチェンジを図ろうと、池田首相は低姿勢路線。「寛容と忍耐」というキャッチで、中山マサ女史を厚生大臣に起用、日本初の女性閣僚を誕生させてみせた。論争となりそうな課題は極力避け、ただただ「所得倍増」。経済重視を打ち出した。
55年後の2015年、安倍晋三内閣が、安保法案を強行採決した後「名目GDPを600兆円にする」と大見得(おおみえ)を切ったのと似ている。安倍さんは「論争」を避けるため、秋の臨時国会を取りやめる!という噂(うわさ)まである。まさに「手本は池田勇人」である。
× × ×
池田内閣が誕生してから3カ月。10月12日、日比谷公会堂で自民党・社会党・民社党3党首の立会演説会。午後3時ごろ、社会党委員長の浅沼稲次郎が「議会主義の擁護」を訴える演説を始めた。今、反安倍陣営が「立憲主義を守れ!」と叫んでいるのとまったく同じ構図だったのだろう。
浅沼委員長が「選挙のさいは国民に評判の悪いものは全部捨てておいて、選挙で多数を占むると......」と話した瞬間、一人の若者が壇上に駆け登り、刃渡り33センチの銃剣で浅沼の胸を2度突き刺した。
よろめきながら二、三歩動いたところで彼は倒れた。出血はなかったが、巨漢で傷口が脂肪で塞がれていたのだろう、一撃目の左側胸部に受けた刺し傷が、大動脈を切断。内出血で、ほぼ即死状態だった。
浅沼の眼鏡が宙に浮く瞬間を毎日新聞社のカメラマンが写していた。テロリスト、山口二矢(おとや)はその場で逮捕されたが、11月2日夜、東京少年鑑別所の独房の壁に、白い歯磨き粉を溶いた液で「七生報国 天皇陛下万才」と書き、自殺した。
× × ×
浅沼は筋金入りの社会主義者だった。早稲田大学の学生だった時も官憲と闘い続けた。「私の履歴書」(日本経済新聞社)でこう書く。
〈大隈侯銅像前で学生大会が開かれ、私が「自由の学府早稲田大学が軍閥官僚に利用されてはいけない」との決議文を朗読したまではよかったが、雄弁会幹事戸叶武君が演説を始めようとすると、突如、相撲部、柔道部の部員が襲いかかってきたので、会場は一大修羅場と化した。また校外より「縦横クラブ」一派の壮士も侵入し、打つ、ける、なぐるの乱暴の限りをつくした。この間、暴力学生側では糞尿を入れたビンを投げ、会場は徹底的に蹂躙(じゆうりん)された。われらは悲憤の涙にくれ、五月十二日を忘れるなと叫び、この日を"流血の金曜日"と名づけたものである〉(青空文庫参照)
まさに"筋金入り"だった。
戦後は貧乏政治家として人気者だった。 東京下町・深川のアパートに住み、いつもヨレヨレの背広。声はガラガラだが、「人間機関車」と言われるほどエネルギッシュ。実は、早稲田の私の同級生が浅沼の娘さんと結婚した関係で、その人となりを聞いたが、カツ丼をいつも二つ食べる大食漢。革命のスターにふさわしい個性だった。彼を追悼するデモは60年安保デモを上回る40万人にも達した。
× × ×
今年も10月1日、「浅沼稲次郎さんを追悼し未来を語る集会―日本の民主主義の危機を考える」が暗殺現場、日比谷公会堂で行われた。当時の事件映像が上映された。
なぜ、浅沼さんは暗殺されたのか?が話題になった。当時、国交のなかった中国を訪問し「アメリカ帝国主義は日中共同の敵」と発言したことが原因と言われるが、真相は分からない。ただ言えることは、浅沼稲次郎を失ったことで、反安保の運動は力を失ったことだ。
来年の参院選で反安倍勢力が勝たなければ、安保法を廃止にすることはできない。そのためには、国民的規模の平和連合の結集が必要だろう。
最近、一部メディアが「小沢一郎が動く」と書いているが、これは陰謀としか思えない。小沢一郎と聞いただけで、ソッポを向く人がたくさんいる。
手あかのついた政治家では......今こそ、清廉な「人間機関車」を探さなければなるまい。
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